寿司を愛する怪しい魚と愉快な仲間たちの(騒がしい)冒険活劇を描く中編RPG「ギョミネクエスト」

RPG,フリーゲーム

小さな魔王「ヘル」に守られた、不思議な生き物たちが楽しく平和に毎日を過ごす「ミネラルランド」。

寿司をこよなく愛するあまり、週5で食べねば禁断症状が出るようになった魚「ギョミネ」と、その相棒のてんとう虫ロボットの「てんと」は、いつものように魔王の城「ミネラル城」の警備に当たっていた。
しかし、元々魔王のおかげで平和が保たれている世界。警備しても何も起きないのもあり、2人は暇を持て余していた。そして、ギョミネはボヤいた。

「なんかこう……事件の一つや二つ起きないもんかギョね」
「なんか……爆発でも起きてとんでもない事が起きたりしないもんかギョ~……」

すると間もなく、待ってましたと言わんばかりに近くの山で爆発が発生!早すぎるフラグ回収に慌てた2人は急ぎ、爆発の起きた「ウララ山」へと向かう。

一体、何が爆発したのか?そして、そこで何が2人を待つのか?

そんな唐突にも程がある展開と謎めいた世界観と共に始まるRPGが『ギョミネクエスト』である。2021年8月25日より「ゲームアツマール」、「ふりーむ!」の2つのサイトで公開中のWindows PC及びブラウザ向けフリーゲームだ。

ストーリー性重視、システム面も極力の簡略化を施したRPG

ところで、主人公が魚なのに寿司好きとはどういうこっちゃねんと物申したくなったかもしれない。共食いではないか、と。その辺は聞き流していただきたく。そういう世界観なのだ。ついでにコヤツには手と足が生えている。あとは察してくれ。

そんなこんなで(?)ゲームの概略だが、ストーリー性強めのRPG。主人公ギョミネとその仲間たちを操作し、マップを探索したり、敵との戦闘を繰り広げながら進めていく正統派の内容である。

システム面も正統派、かつストーリー性重視なりの簡略化が施された設計。一例として、マップは舞台となる「ミネラルランド」全体を表したワールドマップ、個々に点在するエリアを表したエリアマップの2種類がある。ただ、ギョミネたちを直接動かせるのは後者のみ。前者は行きたいエリアを選んで決める、選択式の仕組みになっている。

エリアも明確に特徴付けされており、町や城では戦闘は非発生。それ以外の土地は「世紀末アウトローシステム」なる、なんだかめっちゃ物騒でヒャッハーな叫び声も聞こえてきそうな名前の特別ルールが敷かれている都合で敵が徘徊し、接触すれば戦闘が発生するようになっている。

接触の言葉が指す通り、戦闘はシンボルエンカウント形式で発生。ただし、接触した敵シンボルは戦闘勝利後もマップ上から消滅せず、その場に影として残って固定され、一定時間が経過すると復活して動き出す仕組みになっている。これも「世紀末アウトローシステム」の影響……かどうかは分からない(※本当にそんな設定解説はない)。ともあれ、そういった仕様から、接触場所によっては道を塞がれてしまう危険も伴うため、動きをよく見ながら触れ、時に回避していくのが試される構造になっている。

なお、戦闘は敏捷性の高い順から行動するターン制のコマンド選択型。紛うことなき正統派の作りで、属性相関によるダメージ量の変化、前衛と後衛といった要素も網羅している。
また「チェイン」なるシステムを搭載。味方が攻撃を連続して成功させると発動し、威力が上昇していく。攻撃が外れたり、チェインの最中に敵が行動すると解除。また、一定のチェインを達成すると威力がより上昇したり、特殊攻撃及び魔法攻撃を指す「スキル」の効果が変わる仕掛けも凝らされている。

基本は純粋にコマンドを選んで、攻撃などの行動を取っていくことに徹すればいいが、細かい要素を意識して戦うと、相応に戦術を練る楽しさを味わえる。そんな直感的な遊びやすさと、極める楽しさを適度なバランスで表現したシステムに完成されている。

他に本作では回復系のアイテム、装備類は素材アイテムの「合成」を実施して作り出すのが基本になっている。回復アイテムは販売する店も存在するが、ごく一部の街に限られており、大半は素材を販売する店。さらに素材は「世紀末アウトローシステム」が作動するエリアマップ内の光る地点を通過したり、岩を壊した時にも獲得可能。比較的テンポ良く集まっていくものの、装備の充実や回復アイテムが尽きかけている際の緊急時の補充を可能にするなら、こまめな探索とお金を貯め込んで店で素材を買い漁ることが必要だ。


▲回復アイテムの合成はメニュー画面からいつでも可能だ。

こんな具合に一部、特徴的な要素やシステムも実装。とは言え、根っ子は正統派のRPGで、仕組みの入念な理解が必要とされるシステムはほぼなく、直感的に遊べるストーリー重視ならではの作りになっている。

そのため、本作の魅力も例によってストーリーに集約される。

騒がしくて見所しかないストーリーとRPGとしての盤石な完成度

というか、どう考えてもこれはストーリーが売りのRPGだろうと、スクリーンショット諸々を見て確信したかもしれない。何せ、主人公は魚。それも手と足が生えた怪しさバリバリの魚。週5で寿司を食わねば禁断症状を起こすとんでもないヤツだ。そして、案の定というべきか語尾に「ギョ」と付けながら喋る。


▲主人公です。大事なことなのでもう一度言いますが、主人公です。

そんなヤツが主人公のストーリーとか、どんなものになるんだよと、嫌でも興味を持ってしまうだろう。実際、このキャラクターたちと世界観が醸し出す訴求力は強烈。先の展開知りたさにズンズンドコドコ進めていきたくなってしまう面白さがある。

ヘンテコなキャラクターたちはこれに限らず。ストーリーが進むとさらに濃いメンツが登場し、パーティメンバーとして参戦。混沌化に拍車をかけていく。

どんなメンツが出てくるのか、一端をあげるならばエビにバケツ、こけし、カステラ、たこ焼きのような何かといった具合である。「ちょっと何言っているのか分からない」と言われても、本当にそういう面々がストーリーに参加するのだから仕方がない。そもそも魚が寿司を食うような設定の時点で、真面目に考えてたら負けなのは分かるはずだ!

そんなヤツらが続々出てくるため、常に先の読めない展開が繰り返されていく。かと言って、大筋までカオスで狂気てんこ盛りという訳ではなく、基本はミネラルランドを襲う謎の侵略者たちに立ち向かう冒険活劇。様々な土地でギョミネたちが世界を守るため、魔王のため、そして寿司のため(?)に奮闘する王道の内容だ。

ただ、キャラクターたちのおかげで、どのイベントも大変騒がしく、ネジが外れたかのような勢いで描かれる。分かりやすいストーリーでありながら、妙な迫力と何が飛び出すか分からない面白さが詰まった仕上がりになっているのだ。

それもあって、本編は終始、強烈な印象を残す場面の連続。敵側の面々も大ボスの幹部たちは皆人間で、奇妙なキャラクターだらけの設定も相まってインパクトがある。彼らとギョミネたちとのやり取りもぶっ飛んでいるに加え、戦闘も専用のカットイン演出や掛け声ボイスも入る特別仕様なので、強烈な印象を残すこと請け合いだ。

キャラクターの描写に限らず、大筋も見応え十分。おかしくて騒がしいギョミネたちではあるものの、色々と敵側に翻弄されつつも、懸命に魔王ことヘルのために奮闘する姿はちょっぴり心打たれること間違いなし。終盤間近にはギョミネとヘルの信頼関係に迫る過去のエピソードも挟まれたり、敵側の複雑な事情も描かれるなどの凝った展開も見せる。

それらの出来事を経て、この怪しい魚はいかなる偉業を成し遂げるのか。ぜひ、一瞬たりとも見逃さず確かめいただきたい。色んな意味で彼らと、この不思議すぎる世界を股にかけた大冒険が忘れられない思い出のひとつとして刻み込まれる……かもしれない。

ストーリーのみならず、RPGとしての出来も盤石である。特に戦闘バランスは易しく力押しが効きやすそうに見えて、属性相関を踏まえた判断、チェインを発生させる戦術も試される侮りがたい調整。とりわけボス戦はそれが最も顕著に出ていて、対策が甘ければ全滅も十分にあり得る油断ならない手ごわさが表現されている。力押しで何とかなるだろうと思ったが最後。本作が決してRPGとしての矜持を忘れていない事実を思い知らされるだろう。

マップも構成が洗練されているに加え、謎解きが本格的、かつ頭をバリバリに使う作りになっているのが面白い。中にはメモが必要になる類のものまであるほどだ。これも戦闘同様、体験すれば(いい意味で)面食らってしまうだろう。

他に合成以外に入手手段が用意されていない消費アイテムの制約も面白く、事前準備の重要性と戦闘時のスリルを表現している。

また、前述の通りに本作には沢山のキャラクターが参戦するのだが、それぞれ独自の特技・弱点が設定されており、状況に応じてメンバーを切り替え活躍させる編成を組む楽しさがきちんとしているのも秀逸。レベルも参入時のギョミネたちのレベルに調節されるため、育てるための作業をする必要が生じないのも嬉しいところだ。

そういった工夫の数々もあって、総じて非常にバランスのよいRPGにまとまっている。確かに設定、キャラクターたちのインパクトの強さは飛び抜けているが、RPGとしての出来も決して負けてはいない。始めはギョミネたちのあれやこれやに圧倒されてしまうだろうが、諸々設定に慣れたらシステムやバランスなどの部分に目を向けて欲しい。

ここまで書いたことが誇張ではない事実を思い知るはずだ。

やたら凝ったタイトル画面も見逃せない、騒がしすぎる良作

ボリュームもエンディングまで大よそ5~6時間の中編規模で遊びやすい。しかも、クリア後のやり込み要素も複数収録されており、やり応えを求めるプレイヤーへのフォローも欠かしていない。全体の構成もイベント、マップ探索共に間延びが生じる場面はなく、最初から最後まで退屈せず、テンポよく進むまとめ方になっているのが見事。

一連のキャラクターたちが象徴するように、グラフィックや演出面も非常に気合の入った……というより、(いい意味で)うるさすぎる。

特にイベントシーンに用意された一枚絵(スチル)は豊富で、ただでさえ騒がしいストーリーを大いに盛り上げる。演出面も前述で触れたが、幹部キャラクターたちとの戦闘は専用カットインあり、ボイスありの非常に手の込んだものになっているので必見だ。また、彼らとの戦闘音楽もやたらテンションの高いものが選曲されている。中でも3人目の幹部との戦闘は色んな意味で強い印象を残す、かもしれない。

あと、タイトル画面にも複数のデザインが用意されているという点に注目だ。
(起動するたび、ランダムで変化します。)

総じてストーリー、RPGとしての遊び応えにも並々ならぬ力が注がれている本作。ただ、戦闘の勝利後でも敵シンボルが消滅しない仕様はいささか不便。何より当たり判定があるため、場合によっては進行ルート上の障害物になってしまうのがストレス。これ自体がマップを考えて動く面白さを表現しているのも事実なのだが、やはり煩わしさはある。際どい所だが復活時間を少し早めるか、すり抜けられるアイテムか何かを用意しても良かったように思えた。

また、各キャラクターには4つのアクセサリーが装備できるのだが、「最強装備」の機能を使うと同じ種類のものが偏って選出されてしまうのもちょっと厄介。さらに、もしかしたら筆者だけの可能性もあるが、Windows 10で遊ぶとプレイ時間のカウントが高速化する現象が起きるのが気になるところだ。(※何故かWindows 8.1の環境下だとこうはならない)

そういった粗もあるが、本作が唯一無二にして、強烈な個性を持ち合わせたストーリー重視型RPGである事実には変わらず。

多くは言わない。この異様な世界観とキャラクターたちに少しでも関心が湧いたのなら、今すぐにでもプレイしよう!王道なのに所々で常識外れな冒険活劇と、怪しい魚のような何かが貴方を待つ!全てにおいてインパクト絶大、騒がしすぎる良作だ。

なお、本作を遊ぶことによる副反応として、寿司を無性に食いたくなる衝動に駆られるというのがある。念のためご用心?

[基本情報]
タイトル:『ギョミネクエスト』
作者:魚峰m子
クリア時間:5~6時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/26411

※プレイはこちら(ゲームアツマール)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm21805

(UPDATE)
10/17 19:50 ― 回復アイテムに関する特徴紹介に誤りがあったため、該当箇所を修正

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence