適当なことを書いた末に待つは地獄。嘘から出た実(まこと)な珍現象&怪現象追体験ノベル『じごくのインターネッツ』

ノベルゲーム,フリーゲーム

冴えないコタツ記事ライター兼ブロガーのきくらげ。彼は小遣い稼ぎ目的で始めたブログで、オカルトの話題を始め、大量かつ雑な記事を手当たり次第書き散らしていた。

執筆が一段落し、気分転換で街中を散歩していたきくらげは、ある一角を通り過ぎようとした際、声をかけられる。声の主はタブレットの液晶画面に映し出された占い師の少女。自らを「奈落ちゃん」と名乗るその少女は、きくらげに対してこう告げた。

「最近、インターネットにしっちゃかめっちゃか、あることないこと書き込みませんでしたか?」

さらに少女は続ける。

「あなたの運勢は最悪。明日は雨降り槍が降り、大変な1日となるでしょう~」と。

占いを信じないきくらげだったが、帰宅後に自宅でパソコンを開いて間もなく、自らが書いたでっち上げの記事がネット上で話題になっていることに気付く。それと同時に彼のスマートフォンに何者かからの通知が入る。

彼の数奇なる運命(?)はここから回り始めるのである。

『じごくのインターネッツ』は、その名の通りにインターネットという名の現世の地獄(?)を題材にした短編ノベルゲーム。
バーチャルYouTuber(VTuber)を題材にした短編ノベルゲーム『お前のスパチャで世界を救え』(紹介記事)の作者みそ(misosio)氏の新作で、2021年6月から「ノベルゲームコレクション」にてWindows PC、ブラウザ向けフリーゲームとして公開されている。

独自の分岐要素ありの珍現象・怪現象てんこ盛りノベルゲーム

基本的な内容は台詞などの文章を読み、時折現れる選択肢を決めながらストーリーを進めていく正統派ノベルゲームである。プレイヤーは主人公きくらげの視点から、インターネットにまつわる怪現象を追体験していく。

露骨に恐怖系の作品であることを示唆する概略だが、3割方事実である。本編はきくらげが様々な怪現象に襲われる模様に焦点を当てた展開が繰り広げられる。それも、自身が書き散らしたデタラメなオカルトの話題に基づく怪現象である。

どのようなデタラメな恐怖が襲い来るかは本編を遊んでのお楽しみということで割愛するが、そのような「嘘から出た実(まこと)」のことわざを体現するが如き展開が終始、繰り広げられていく内容になっている。
ただし、あくまでも3割。残りの7割を占めるのは珍現象である。

そもそも、占い師の少女がタブレットの液晶画面越しから話しかけ、主人公を振り回す時点で察していただきたい。少女の正式名称が「インスタント奈落ちゃん」である点でも察していただきたい。

VTuber「春樹花(はるきげ)にあ」が”ぬるり”と登場することからもお察しを。基本、ユーモアに振り切った作風である。

なお、ストーリーは全4章構成。全て読み終えるとエンディングを迎える。

ただ、章ごとに独自の分岐が存在する。厳密には2章以降にそのようなものが用意されていて、選んだ種類に応じて後の展開が変化する作りになっている。
中にはミニゲームもあり、実際にプレイヤーが挑戦することにもなる。もちろん、これも選択肢と同様、最終成績に応じて以降の展開が変わる仕掛け付きだ。

さらにエンディングも複数の種類を用意。ただし、本編全体のプレイヤーの行動に基づく分岐ではなく最後の4章に現れる選択肢だけに基づくもので、他の章での行動は何ら影響を及ぼさない。そのため、全ての結末を確かめるに当たって周回を重ねる必要も生じない。セーブ&ロード機能を活用すれば、1周の内に全容が把握できる設計である。

このようにノベルゲームとしての作りは正統派寄り。また、作者の前作『俺のスパチャで世界を救え!』のプレイ感を継承した仕上がりにもなっている。ただ、ミニゲームの存在など、ゲーム的な要素を幾つか押さえているのは本作特有のもの。ストーリーも怪現象から珍現象まで広範囲にフォロー(?)しており、怖くも楽しい内容にまとめられている。

インターネットの闇と光とギャラクシー(?)を知らしめるストーリー

そんな怖くも楽しいストーリーが本作屈指の魅力。恐怖心を煽ったり、笑いを誘ったり、ドン引きさせたりと、全編に渡ってプレイヤーの感情を様々な方向へと刺激する演出やイベント満載の仕上がりになっている。

特にそれらの要素が凝縮されているのが3章である。この章では不思議で”とっても可愛い”キャラクターがインターネット上で話題沸騰になるエピソードが描かれるのだが、まさに恐怖あり、笑いあり、ドン引きありの大変起伏の激しい内容にまとめられている。詳細については、再び”本編を遊んでのお楽しみ”という名の割愛措置を取らせていただくが、件のキャラクターを愛する人たちに恐怖し、それに対抗心を燃やす主人公きくらげの行動に笑いを誘われ、その末に訪れるオチにドン引きさせられるだろう。

筆者個人のイチオシな見所はオチである。少しだけネタバレしてしまうが、選択肢が登場し、これに応じて結末が変わるようになっている。実は最後のエンディング以外にもオチが変化する仕掛けが本作には設けられているのである。

その結末のひとつ、”オリジナル”はそれはもう凄いものになっている。どう凄いのかは某アイドルアニメの第4シリーズのごとく「ギャラクシー!」と口走ってしまうものだ、という例えで察していただきたい。そのアニメのことを抜きにしても本当にギャラクシーなのだ。「ちょっと何言っているか分からない」と物申したくなるかもしれないが……見れば分かる(力説)。ついでにそこに出てくる入力欄に自分の好きな単語やら、キャラクターの名前やら入れればドン引き度合い3割増しだ。他のオチもユニークなものになっていて必見なのだが、これはぜひとも確かめていただきたい。

おすすめは他のパターンを確認し終え、最後にこれを見るというものだ。きっとこのエピソードが忘れるに忘れられなくなるだろう。

また、ストーリーに関しては笑いを交えつつ、インターネットの光と闇を描いているのも秀逸な部分。自らが書いたデタラメな記事の情報が現実に存在するものとして広まったり、歯止めをかけようとした時にはもう手遅れで、コピーが量産されるほどの事態に陥ってしまう下りは、まさにインターネットの恐ろしさというものを痛感させられる。

前述にてピックアップした3章にもそんな描写はあり、主にかのキャラクターの愛好家たちの会話には、昨今のコロナ禍で問題視されるようになった”ある現象”が脳裏を過ぎること請け合い。会話の内容こそ笑いに振り切っているが、いざ現実に存在するという認識で読んでみると、180度印象が変わる。そして、ゾッとするような思いをするだろう。前述の手遅れの件もそうだが、過去に何らかの経験がある人ほど、この闇にまつわる描写には古傷を抉られるような気持ちになる。経験がない人もまた、インターネットというものには、いかなる”怪物”が潜んでいるのか、それを考えさせられるきっかけになるだろう。
逆にどのような”救い”という名の光があるのかも。

ラストの4章はその題材がクローズアップされており、複数あるエンディングも示唆に富むものになっている。何より、若干ネタバレになってしまうが、真の結末(トゥルーエンド)が用意されていないのが見事。「良いも悪いも使い手次第」というインターネットの真理に迫ったかのようなものになっているので、特に初回プレイではプレイヤーの思いに委ねた選択を決断し、その後の展開を楽しんでみて欲しい。筆者のお薦めはひとつ見たら他はあえて見ない……なのだが、ゲームの攻略的には見ておくとよい側面がある。ちゃんとやり切りたい思いがあるならば、流れに身を任せるがままがベストだ。

そんな具合に、基本はユーモアながらも、侮りがたいテーマ性が込められたストーリーに完成されている。あまり言及しなかったが、登場人物も主人公を振り回す奈落ちゃんを始め、個性の強いメンツ揃い。そのおかげでシリアスなテーマが背景にある場面でも重くなりにくいなど、調整役として機能している側面があるのも秀逸だ。

ただ、設定からして怪しさバリバリの奈落ちゃんは一体、何者であるのか、それについてはあまり期待しない方がいいかもしれない。どういうことかは最後のエンディングを見れば分かる。人によってはモヤッとする恐れがあるので念のためご注意(?)を。

ここは現世の地獄か、もしくは天国か。もしくは宇宙なのか。

全体のボリュームも全4章を読み終えておよそ1時間程度と、短編ゆえに早々とエンディングへと辿り着ける。1話単位のボリュームも大体10~12分程度なので進行もサクサク。ただ、エピソードごとに扱っているテーマと不意を突く展開などもあって、密度は相応にある。さらに章ごとに用意された分岐パターンの確認など、再プレイを促す要素もあるので、全てを確かめるとなれば、そこそこ長く楽しめるかもしれない。

演出面も音楽の切り替え、カットインの挿入共に場面ごとの雰囲気を盛り上げるための工夫が徹底されている。とりわけ最初の1章はその試みがよく発揮された仕上がりになっているので必見だ。真夜中、寝静まった時(※重要)にご覧あれ。

題材が面白いだけにあと1~2エピソードほどあっても……となる物足りなさがあったり、奈落ちゃん絡みの描写を踏まえると続きが欲しくなる気持ちが刺激されたりもするが、全体としてはソツなくまとまった仕上がり。恐怖あり、笑いあり、ドン引きありの起伏の激しいストーリー構成と、そこに込められたインターネットの光と闇の描写は、一度見れば強烈な印象を残すこと確実。これと言って手強いゲーム要素もなく気軽に楽しめる作りなので、少しでも興味を抱いた方はぜひ、この現代の”地獄”を覗いてみよう。

そして、光に隠されしギャラクシーを見届けるのだ……??

[基本情報]
タイトル:『じごくのインターネッツ』
作者:みそ(misosio)
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

※ダウンロード・プレイはこちら
https://novelgame.jp/games/show/5227

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