すべてを暴くなら、すべての視点から体験せよ―凄惨な描写と凝ったストーリーが光る短編ノベル『美しい断首』

ノベルゲーム,フリーゲーム

最初に忠告(注意)しておくと、本作『美しい断首』はその題名が物語るように、非常に残酷かつ不快感を催す表現を含む作品となっている。

多少ネタバレすると、登場人物の一部は、実際にこの言葉通りの行為を受ける場面が用意されている。直接的な過程は描写されないが、その際に流れる効果音は生々しい。

もし、その情報に拒否反応を覚えたり、精神的にもダメージを受けそうな不安や懸念を抱いたのならば無理は言わない。本作はプレイしない方がいいだろう。

逆になぜこんな題名なのか?なぜ、そのような事態になったのかとの興味・関心が勝ったのであれば、覚悟の上でプレイいただきたい。繰り返しになるが「覚悟の上で」だ。さすれば、色んな意味で脳裏に焼き付く体験をすることになるはずだ。

「すべては天使様のため」「蛮行を止めるため」「平穏のため」

作品紹介に入っていこう。

本作『美しい断首』は2023年8月8日より、「PLiCy」と「BOOTH」にて無料公開中のブラウザ&Windows PC向けミステリーホラーノベルゲームだ。

同年11月2日からはAndroid版も配信されている。なお、ダウンロード版は「BOOTH」のみで公開されていて、ダウンロードに当たっては「pixiv ID」が必須になる。

情報はこの辺にして、なぜ「断首」なのか?
そのオープニングストーリーを紹介する。

本作の世界では人間を無差別に襲い、その欲を満たそうとする「化け物」が大きな問題を引き起こしていた。そんな「化け物」を屠り、人間たちを守ってくれるのが「天使」。天使は選ばれし特定の人間にその並外れた力と勇気を授け、化け物を屠る存在にしてくれることから、人間たちからは力を授かった者も含めてヒーローとして崇め、讃えられていた。

そして、天使の力を授かった人間には、そのことを世間に公表する義務があった。
化け物が現れた際、すぐに人間たちが助けを求められるようにするためである。

だが先日、「清く、美しくあれ」を信条とする女学園で騒動を起こした化け物から生徒たちを救った「新しい天使」は、正体不明の存在だった。分かっているのは生徒と同じ学園の制服を着用し、首から上が存在しないこと。

「新しい天使」は天使にも関わらず、人間たちの命を軽視している。
そんな天使が学園に通う生徒として、どこかに潜伏している。
よって学園にいる私たちは「新しい天使」の正体を暴き、世間に公表する義務がある。

そのように大勢の生徒の前で話す学園長は続ける。
新しい天使は自らの首を切断し、変身するという。つまり、学園の生徒たちの首を切断していけば、いずれ新しい天使をあぶり出せる。ゆえに学園長は告げた。

「新しい天使様を探すため、明日以降から毎日2名ずつ、無作為に選出した2名の生徒の首を斬り落としていきます。これは化け物で溢れかえる世界から多くの命を救うためです。どうか天使様の発見に助力ください。」

まさに蛮行。だが、これに対し反旗を翻す生徒が居た。幸竹(こうたけ)、平坂(ひらさか)、清水(しみず)の3名である。

彼女たちは秘密裏に集まり、学園長の蛮行に対するひとつの作戦を立てる。それは新しい天使を自分たちが探し出し、その天使に学園長を殺してもらうというものだった。まさに「蛮行には蛮行を」である。そして3人は、この作戦を成功させるため、それぞれ行動を開始。その要でもある目標、新しい天使との接触を目指す。

以上がオープニングストーリーのあらましとなる。狂気としか他に表しようがない始まりで、世界観としても非常に歪んだものになっているのが察せたかと思う。そんな本作で、プレイヤーのすることは3人それぞれの視点から「新しい天使」を探し出すこと。

節目ごとに現れる人物選択で3人のうちのひとりを選び、その視点から調査を繰り広げていくのだ。ノベルゲームとしては選択肢に応じて個別のストーリーが展開され、それに応じた結末へと向かう分岐要素が濃いめの作りになっている。

作戦には期限も設けられており、それは開始から3日後。その日、学園長がひとりになる時間があるので、そこまでに「新しい天使」を見つけるのがひとつのゴールになっている。また、それぞれの日の終わりには3人が集まり、進捗を報告し合うイベントが決まって発生。

その時の内容を踏まえ、次の日には違う人物を選んだり、あるいは前回と同じ人物で進むかを選んでいくのだ。また、進捗時に報告される内容は、周回プレイ時において、1周目時点では選ばなかった人物のルートで発生する選択肢イベントのヒントにもなる。それを念頭に行動を決めたり、もしくはそれを無視してストーリーを進めたりしていくのだ。

この作りからも分かるように、分岐パターンは非常に豊富。また、ひとりの人物にフォーカスしていると明かされない謎もあるため、全ての真相を暴こうとなれば周回プレイは必須になる。

ただ、1周に要する時間は20分ぐらいと短め。全容の解明に要する時間も1時間半程度で、手軽に楽しめる設計だ。

「私はこうした」「自分はそうした」「それは真(まこと)か」

反面、ストーリーはゲームプレイの手軽さとは真逆のヘビーで、狂気に満ちた内容に仕上げられている。

そもそも、人間たちの救世主たる天使を探すため、学園の責任者が生徒たちを必要な犠牲としての殺害を繰り広げていく時点で正気の沙汰ではない。それに対し、反旗を翻した3人にも共感したくなるほど「異常な世界」が全編に渡って描かれている。

そして、肝心の内容も3人それぞれが独自の行動を取っていく仕組みを活かした描写と、違和感の表現が異彩を放つものに仕上げられている。特にそれらを引き立てているのが、一日の終わりに発生する進捗報告のイベントだ。

このイベントでは3人がその日、どんな行動を取ったのか、どんな情報を得られたのかを報告し合う。数日前の化け物騒ぎで「新しい天使」はどこから現れたのか?学園長はどのような日常を過ごしているのか?そして、必要な犠牲として選ばれた生徒たちの処遇はどうなっているのか?そんな気になる情報が3人それぞれ(※1人はプレイヤーなので、正確には2人)の口から発せられるのだ。

だが、本当に報告通りの情報を得たのか、出来事を見て経験したのかは分からない。話す形での報告であるがゆえ、事実か否かは当人の視点に立ってみないと分からないからだ。とは言え、相手は学園長の蛮行を止めるために志を共にした友人である。こちらを陥れるような真似をするはずがない……と、思いたいところなのだが。

あるタイミングから、ストーリー上で「本当に報告通りのことが起きたのか?」と疑問を抱かざるを得ない事態が起きる。しかも、詳しくは言えないが、選んだ人物の視点によっては報告そのものが真っ赤な嘘と確定される事態も起きる。

なぜ、志を共にしたはずなのにそのような行動を取ったのか。そもそも、3人は本当に今回の学園長の蛮行を止めたいと思っているのか?

そんな視点が違うからこその「何が真実か否かが分からない」面白さと不気味さ、疑念を深める仕組みが見事で、プレイヤーを作中の世界へと引き寄せるものに完成されているのだ。また、こうした「見えない部分」があるからこそ、他の人物のルートも辿りたくなりやすい。そしていざ、その人物のルートを選んで進めてみると、以前の報告は真実だったと明らかになることもあれば、実は意図的に隠していた情報と事実もあったと判明して、より厄介な状況になったりするのだ。

さらに注目はそれぞれのルートで迎えるエンディングである。そこでも、選んだ人物の視点に立たないと分からないイベントが展開される。それと共に新たな真実が浮かぶこともあれば、平穏無事に終わった……と見せかけて、予想だにしない結末を迎えたりなど、プレイヤーが全く思いもしなかった事態が起きたりする。

まさに「視点の違い」における”真理”を一貫して突き詰め、プレイヤーそれぞれを翻弄させると同時に、信じることの怖さを描き切っているのである。そうした特徴もあって、本作のストーリーは隅々まで掘りたくなる魅力に秀でている。そして、選択肢に応じた分岐が豊富な分、遊び方次第では早々に真実を知ってしまうこともある。そういった、プレイヤーごとに真実の解明順序まで変わる仕組みになっているのも、本作の面白い部分だ。

ある意味、「選択肢」というノベルゲームの仕組みをフル活用したストーリーとも言える。また、謎を解き明かす面白さも押さえられていて、ルートによっては探偵が主人公のミステリー作品ばりの興味深い展開も見せる。

そして、各人物の個性付け。正義感の強い平坂、真面目な幸竹、おしとやかで冷静な清水、それぞれのキャラクターは見事に立っていて、ルートごとのイベントを引き立てる。また、3人以外のキャラクターも非常にクセが強く、意外性も含んだ個性付けが図られている。とりわけ本編最大のキーパーソン「新しい天使」と、それを暴くための暴挙に出る学園長は、3人それぞれのルートにおいても強い印象を残すこと請け合いだ。

冒頭で言及したように、作中では「断首」のタイトル通りの展開や演出もあり、苦手なプレイヤーには心理的にも相当堪える表現がある。それゆえ、声高におすすめと言えないのがもどかしい。だが、乗り越えてでも見届けたい、事実を知りたいのなら覚悟を持って、3人それぞれの視点を追ってみていただきたいところだ。きっと、覚悟を決めたなりの体験というものを余すことなく得られるだろう。

しかし、そうなるか否かも結局は「視点」由来のものであることはお忘れなきよう。

「人を選ぶほど凄惨」「どんどん繰り返したくなる」「まさに怪作」

ここまでのスクリーンショットを見ての通り、モノクロで統一されたグラフィック、キャラクターデザイン周りも際立った個性を放っている。

特にキャラクターデザインは鮮烈。中でも「新しい天使」は、その特徴的すぎる容姿もあって、色んな意味でギョッとしてしまうはずだ。

音楽も全曲がオリジナルで、一連のストーリーと雰囲気にマッチした重苦しい楽曲主体で統一されている。また、台詞を始めとするテキストで用いられている漢字はすべて旧字体で、それも「清く、美しくあれ」を信条とする学園らしさを醸し出している。旧字体なりにやや読みにくさもあるのだが、雰囲気作りを考慮してとなれば、なかなかこだわりを感じさせられる部分だ。

とにかくタイトル通りの描写が強烈で、そこで極端に人を選びやすいのが短所でもあり長所でもある。冒頭の繰り返しになるが、直接的な表現こそないものの、生々しい音が流れることもあって、精神的に結構ダメージが来る。「新しい天使」の変身過程もかなりショッキング。ご丁寧に(?)その絵(差分)も用意されているので、本当にしつこいが、苦手な人は無理をしないことを声を大にして推奨する。

逆に言えば、その辺りの表現周りの残酷さを除けば際立った短所はない。視点にフォーカスしたストーリー展開と疑念を抱かせる仕掛け、モノクロで統一されたグラフィック、色んな意味で一度見たら忘れられなくなるキャラクターたちなど、プレイした者に強烈な記憶を刻み込ませる力を持ったノベルゲームになっている。そして、ノベルゲーム特有の選択肢の仕組みを活かしきったリプレイ性の高さ、ストーリーの表現方法も、真実を求めて周回を繰り返すほど、その作りの上手さを実感させられるはずだ。

かなり人を選ぶ作品であるのは言うまでもない。だが、プレイすれば確実に脳裏に”何か”が焼き付き、真実をすべて明かすために周回を繰り返したくなる。

改めて、ここに書こう。興味・関心が勝るのであれば、覚悟の上でプレイいただきたい。間違いなく本作は短編ノベルゲームの良作であり、怪作だ。狂気以外の何物でもない惨劇を阻止し、「新しい天使」に責任をはたしてもらうために奮闘しよう。

そして、自分の目で見ない限りは信用するな。それが全てだ。

[基本情報]
タイトル:『美しい断首』
作者:ウビーニ
クリア時間:20分(完全クリア時:1時間半~)
対応プラットフォーム:PC、ブラウザ、Android
価格:無料

◇ダウンロード・プレイはこちら
・PLiCy(ブラウザ版)
https://plicy.net/GamePlay/160965

・BOOTH(※要pixiv ID)
https://booth.pm/ja/items/4988572

・Google Play Store(Android版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.luxion.utsukushiidanshu