独特なRPG『魔王物語物語』、その不気味さと魅力について

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はじめに

『魔王物語物語』は2007年に発表された、ゲーム制作サークル「カタテマ」のてつ氏によるRPGツクールXP製のRPGです。この作品の魅力には数多くのプレイヤーが惹きつけられ、フリーゲームの中でもかなり知名度が高く人気の作品です。最近ではなんとPHP文庫にて書籍化
されました。また、てつ氏は最近では『ムラサキ』という新作を発表しています。最新作の『ムラサキ』でも感じましたが、てつ氏の多くのゲームの設計には独特のスタイルが貫かれているように感じられます。もちろん、その一貫性は『魔王物語物語』においても例外ではありません。
『魔王物語物語』の内容については既に数多くの感想・レビューが書かれていますが、ここでは改めて、『魔王物語物語』の魅力について、タイトルは聴いた事があるがまだ遊んだことはないという方々に届けられるように、それから、既にプレイ済みの方々にも魅力を再発見してもらえるような記事を書きたいと思った次第です。

筆者の『魔王物語物語』に対する印象は、ざっと挙げると以下のようなものです。
・『魔王物語物語』は少し不気味で、謎めいた雰囲気の物語である(ややホラーでさえある)
・『魔王物語物語』は戦闘システムが革新的であり、通常戦に緊張感がある(探索と戦闘が融合している)
・『魔王物語物語』のボス戦・ラストバトルは通常戦とは別の意味で非常に熱い(ボス戦独自の演出)

また、『魔王物語物語』は列挙すればキリがない程の独自要素の塊のようなRPGです。しかしながら、全て網羅しようとするとただの解説記事(もしくは攻略記事)になりかねません。

攻略や解説は他のサイトで十分にされていると思いますので、ここではあえて内容を絞り、主に「物語の雰囲気」と、「戦闘システム」の2つの観点から、改めて『魔王物語物語』という作品についての紹介をしたいと思います。また、最後に本作の「ボス戦」について少しだけ触れたいと思います。

魔王物語物語の持つ不気味さとその魅力

まずはじめに、「物語の雰囲気」についてです。先に述べたように、『魔王物語物語』には独特の魅力があります。それは、本作が持つそこはかとない「不気味さ」、そして謎を残したまま進行する「シナリオ」に由来するものであると、筆者は考えています。

そこで、『魔王物語物語』における謎の一例について紹介したいと思います。まずは、次のスクリーンショットをご覧下さい。

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左上に見える、青い物体は何でしょうか?ゲームに慣れている人なら、その容姿、動きを一目見て、こう思うでしょう。「ゲーム中で最弱のモンスター、『スライム』かな」と。
しかし、実際にはこのゲームには「スライム」などという魔物は登場しません。というか、実はこれは敵ですらありません。中盤で類似した物体に接触することが可能にはなるのですが、その時点では近づいても話しかけても主人公はこの物体に対して何の反応もしません。まるで主人公にとって、この動く何かが見えてすらいないかのようです。ではこの物体は一体何なのか…?それは少なくとも終盤までは全く不明であり、非常に不気味です。

他にも、

・散見される「流行り病」と呼ばれる病気
・何故か悲しげな人形の姿をしている魔物
・終盤に仲間になる名前と顔のない存在

などなど、どことなく不気味で謎めいた要素が所々に散りばめられており、常にそこはかとない不安を感じさせられます。

また、このゲームの音楽には儚い、切ない、あるいは情感にあふれたBGMが多く使用されています。これらも合いまって、プレイしていて想像力を掻きたてられることになります。
 
もちろん本作は単に不気味なだけの物語ではありません。不気味なもの、謎めいたオブジェクト、不可解な台詞などには全て意味があり、理由があります(少なくとも、充分に考察可能です)。

それらを紐解いていく事が、本作の大きな醍醐味の1つであると言えるでしょう。

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「魔王城」をうろつく怪しい存在

『魔王物語物語』は(少なくとも最初の内は)「一体どういうストーリー、どういう世界観の話なのか?」が全くわからないと思います。公式の説明にも詳しい情報は何もありませんし、ゲーム内でも最初は特にイベントが発生するわけでもありません。ただ放置されるだけです。

試しにその辺を歩き回ってみても、人に話しかけてみても、誰も「○○をせよ」とか「○○へ行け」とは言ってくれません。台詞自体も非常に少なく、この世界がどういう場所なのか、そういう説明も一切ありません。

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仲間もあまり多くを語ってはくれない

そう、この世界の事を知るには、そしてこの物語の内容を知るには、プレイヤーが自分で歩きまわり、立ち塞がる強敵を倒し、少しづつ歩き回れる場所を拡大しながら、たまに手に入る断片的な情報を元に、一歩一歩想像を積み重ねていくしかないのです。

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この場所は…

本編に示される「謎」や物語の内容については、終盤までプレイをすればおおよその部分は明らかになります。最後の手段としては、インターネットで検索をしてwikiなどであらすじを読めば概要は把握できてしまえるでしょう。実際このゲームの物語は(本筋だけを取りだせば)実際非常にシンプルなものです。

しかし筆者は(他の多くのゲームにも言えることですが)、このゲームにおいて最も重要なのは、作者が用意した「物語(答え)」ではないと考えています。道中で、敵と戦う中で、あるいは断片的な台詞等から、プレイヤー1人1人が見聴きし、感じとり、想起する、いわば「プレイヤーその人自身の物語」を体験していく事こそが、『魔王物語物語』の醍醐味なのです。

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“出自も謎なら、結末も謎の物語。不思議な魅力を感じませんか。”
――アーロンアーロン

敵を集めて一気に倒す!アクションゲーム的RPG戦闘

さて、「物語の雰囲気」についての紹介を一通り終えたところで、次に「戦闘システム」の紹介に移ります。

『魔王物語物語』はRPGであり、このゲームのメインとなるのは当然「戦闘」です。この「戦闘」において、『魔王物語物語』は他のゲームにはない、非常にシンプルで極まったシステムを持っています。詳しい説明は後にするとして、筆者個人的の印象で端的に申し上げると、『魔王物語物語』の戦闘のプレイ感は、ある意味では初代『イース』に似ていると感じています。

初代『イース』の戦闘は非常にシンプルで、その戦い方は「ただ敵にぶつかるだけ(正確には半歩ずらしてぶつかるだけ)」です。エンカウントもなければ、剣を振るうアクションすら必要ありません。ある程度以上にレベルの高い敵には絶対に(ダメージが通らないので)勝てませんが、レベルの低い敵は瞬殺してどんどん先に進むことができます。また、半歩ずらしてさえいれば相手が強敵でもダメージを受けませんが、そのことで調子に乗って「位置取り」を間違えれば返り打ちに会い、死ぬこともあります。

『魔王物語物語』の戦闘システムにもこれと似たところがあります。勝てない敵には(瞬殺されるので)絶対勝てませんが、弱い敵は一瞬で倒すことができます。また、戦闘開始時の「位置取り」も非常に重要で、これがそのまま生死を分けることになります。以下でこのシステムについて詳しく説明します。

まず、『魔王物語物語』の戦闘はもちろん体当りだけで攻撃……という方式ではなく、俗に言う「シンボルエンカウント」方式のコマンド入力型RPG戦闘の体裁をとっています。すなわち、フィールドをうろついている敵のシンボルに接近すると、他の多くのRPGと同様に、敵との「エンカウント」となり、「戦闘画面」に移動し、「攻撃」「防御」「アイテム」などの「コマンド入力」を行います(ロマンシング・サガやマリオRPGをご存じの方にはお馴染みでしょう)。

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基本はオーソドックスなコマンド式RPG

ただし、『魔王物語物語』においては、この戦闘のテンポが異様に速いのです。公式サイトの説明にもある通り、勝つにせよ負けるにせよ、大抵の勝負は一瞬でケリがつきます。こちらの強さが十分である(相手が弱い敵である)場合、この「エンカウントが始まってから戦闘終了」までの時間は(決定キー押しっぱなしによる早送りを利用すれば)最速で5秒に満たない程度、実質の戦闘時間に至っては2秒もかかりません(擬音で表現するならチャチャチャッ!ザシュドォーン!で終了します)。しかも、このゲームでは画面に大量にうろうろしている敵シンボルを一体一体順番に倒していく…などという必要がまったくありません。このゲームの独自システム「おもしろエンカウントシステム(※)」により、その気になれば2体3体…どころか9体でも10体でも、フィールドをうろつく大量の敵を、たった1回の戦闘で全て始末することも可能なのです。

(※)「おもしろエンカウントシステム」とは、敵に接近し「エンカウント」が開始されると、そこから数秒間、戦闘開始までの間(「エンカウント時間」内)はフィールドを自由に歩き回ることができ、この時間中に他の敵に接近すると、その敵も同じ戦闘に巻き込んで同時に相手をすることが可能になるというシステムです(この「エンカウント時間」とは言わば「戦闘予告」とも言えるものであり、「数秒後には敵と戦う事は決定した、けれど、まだ”どれくらい多くの敵と戦うか”の選択の自由はプレイヤーにあるよ」という、戦闘のシチュエーションをコントロールするための独特な準備時間と言えます)。

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プレイヤーを囲む敵のうち、近い角度に密集した敵にはまとめて攻撃ができる

しかしながら、当然一度に相手をする敵が増えれば増えるほど戦闘は難しくなる(敵が2体、3体と増えれば1ターンに受けるダメージが単純に2倍、3倍になる)ため、相手が弱いからと言って欲を出し、判断を誤ると即、死に繋がります。この引き際の判断が、プレイ時の最大の肝と言えるでしょう。

故に、自分の強さと敵の強さ、リスクとリターンを天秤にかける必要が常に生じ、なおかつ狙い通りの数と強さの敵を巻き込むにはフィールド移動時における位置取り、プレイヤーの歩き方、敵の行動の癖の把握などが必須になります。また場合によっては、どうやって強い敵を避けて目的地に到達するかなど、どのように戦闘を回避した探索経路を考えるか、なども重要な要素となります。

また、余談ながら『魔王物語物語』ではとあるアイテムを装備することにより、この「エンカウント時間」中だけ移動速度が上昇する効果を得ることができます。このアイテムの存在により、もしプレイヤーが強さに自信がある状態であれば「ただ単純に歩く」よりも、「積極的に敵にぶつかっていく」方が素早くフィールドを移動できる、等と言ったテクニックを使う事なんかもできたりします(例えば、宝箱の取得漏れを回収しに再探索する際など非常に有用です)。

総括すると、まず、『魔王物語物語』の通常戦はテンポが速く、複数の敵を一度に相手にすることが出来ます。また勝負が長引くことはあまりないため、特に戦闘の「数」をこなすことについて、苦になる要素が最低限となるようなシステムになっています。

また、『魔王物語物語』におけるフィールドの探索は、特に強い敵の多い場所においては、単なる移動行為とはなりません。本作において、フィールドの探索は「戦略」であり、「戦闘」そのものなのです。敵の見えるフィールドに足を踏み入れたその時から、既に戦闘は始まっているのです。
以上が『魔王物語物語』の「戦闘システム」の説明です。『魔王物語物語』においては、単なる「シンボルエンカウント式のコマンド戦闘型RPG」とは全く違ったプレイ体験が得られることを約束いたします。

ボス戦について

最後に、『魔王物語物語』の盛り上がりどころとして欠かせない、「ボス戦」についても少しだけ触れたいと思います。前述の通り、本作の通常戦は、フィールドの「移動」「立ち回り」が戦闘結果を左右すること、また敵を倒すテンポの良さなどの観点から、ある意味非常にアクションゲーム的であると言えました。

一方で、イベントとして戦う(出現場所が決まっている)「ボス戦」については、全くこの限りではありません。戦闘開始前の位置どりや立ち回り、巻き込む敵の数などの要素はボス戦には一切なく、純粋に事前の装備・育成・準備と戦闘時のスキルの使い方によって勝敗が左右される、とてもRPG的な戦闘となります。アクションゲームのボス戦のようにせわしなく戦う必要はありません。じっくり腰を据えて戦いましょう。

なお、本作におけるボス戦は、「物語」と「戦闘」とが交わるポイントとしての重要な位置づけを担っていると筆者は考えています。本作のボス戦には、ボス戦ならではの特別な演出があります。また、戦いの1つ1つは、それら自体が物語を盛り上げる演出そのものであると言っても過言ではないでしょう。ただし、彼らは決して「(演出上の都合で)よくただ倒されるために」存在しているような適当な相手ではありません。油断をすれば一瞬で命取りになります。特に最終戦において現れる敵は、プレイヤーが全身全霊を持って挑むにふさわしい強敵であると感じられることでしょう。

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“最後の敵さえ打ち倒せば、ハッピーエンド。
そんな仕組みが存在したら、素晴らしいと思いませんか。”
―― エルオントナナ

おわりに

いかがでしたでしょうか。この記事では、『魔王物語物語』は「不気味で謎めいた独特な魅力のある雰囲気」を持つ物語であり、かつ、「アクションゲーム的な要素のある、遊びやすい独自の戦闘システム」を持つRPGである、という旨の紹介をさせていただきました。

ここでは語りきれませんでしたが、本作には他にも独特な装備システム、クリア後の絶望的難易度のダンジョン、隠しボスとの死闘、通常プレイでは見られない台詞、ところどころに光る小ネタ…などなど語りたい要素や魅力が山ほどあります。後は他の方の書かれた紹介記事を読んでいただくか、もしくは実際のゲームで是非確かめてみて欲しいと思います。

また、今回紹介した『魔王物語物語』のように、土台となる作りこまれたゲーム部分に謎めいた独特の魅力のある雰囲気の物語が添えられているというゲームのスタイルは、カタテマのてつ氏が制作した多くのゲームに共通して貫かれているものであると感じます。もし『魔王物語物語』が気に入られた方は、てつ氏の他のゲームについても是非手を伸ばしてみて下さい。

最後に、言葉足らずな点は多かったかと思いますが、この記事を通じて、未プレイの方に『魔王物語物語』について少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。また、プレイ済みの皆様にも、改めて本作の魅力について再確認いただけたとすれば幸いです。

[基本情報]
タイトル
『魔王物語物語』
制作者 カタテマ
対応OS win
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://members.jcom.home.ne.jp/wtetsu/maou/

VR体験施設の検索サイト「taiken.tv」
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    はしもと(Lv.28)(@HashimotoRST

    よくツクールのゲームを遊んだりツイッターで感想を垂れ流したりしてます。たまに自分でも作っていて、今のところ謎解き&探索が主体の和風RPG「怪奇瘴忌譚」、即死系カンタン脱出ゲーム「外にでよう!」を公開中。今回執筆&再プレイをしてみて、abc男氏のゲームには無意識のうちにかなり影響を受けているなと改めて実感しました。個人的にはゲーム音楽が好きなので普段遊ぶゲームはBGMの良さで選ぶ事が多いのですが、abc男氏のゲームでは本編にほとんどBGMらしいBGMが無くても楽しめるということを教えてもらいました。