先住民族と共に制作されたパズルアドベンチャー『Never Alone』の美しさ

アドベンチャー,インディーゲーム

※2015年1月15日、Xbox One版に関する記述を追加しました。記述に不足があり申し訳ございませんでした。

昨年12月、公開されたPCとPS4、Xbox One向けパズルアドベンチャー『Never Alone』。大規模な開発とは違う切り口の発想で制作される尖ったゲームが多いインディゲームの中でも、非常に興味深い作品だ。

この『Never Alone』は、アメリカのE-Lineがパブリッシングしたゲームだ。北極海沿岸に暮らす先住民族イヌピアットとの協力のもと制作されており、世界観・ストーリーを含めゲームを構成する全ての要素はその伝承民話に基づいている。



神話や伝説、童話などをモチーフにしたゲーム多々存在するが、この作品はさらにゲームの隅々に至るまで民話とガッチリ組み合わさっている。

それもそのはず、元々はイヌピアットの支援を行っていたNPOがその一環として、イヌピアットへの理解を深めてもらうためにゲームを利用しようと考えたことがゲーム制作の発端だからだ。ゲームを作ろうという目的がまずあったわけではなく、イヌピアットの支援という目的の下、手段としてゲームが選ばれたという経緯がある。ゲーム制作の段階では、ともにアイデアを出したり、制作チームも実際に現地に足を運んだり、実際にゲームをプレイしてもらったりといった、まさに「共に制作する」プロセスを踏んでいるようだ。

制作に関する話はファミ通.comに掲載の以下のインタビュー記事が詳しい。

『Never Alone』いかにして北極海沿岸の先住民族イヌピアットのゲームが作られることになったのか? その裏側を探る【Indiecade 2014】

その結果、どのようなゲームに仕上がっているのかを今回はレビューしていきたい。

口頭伝承からゲームへ。脈々と語り継がれてきた「おはなし」が持つ力

主人公のヌナは狩りを愛する女の子。ある日ホッキョクグマに襲われたヌナは1匹のホッキョクギツネと出会う。止まなくなった吹雪、そして村を襲う男の姿…。極寒のアラスカを舞台に美しも荒々しい自然とそこでたくましく生きる人間の姿が描かれている。

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一番の冒頭は語りから始まる。そして壁画調の絵が動き、ストーリーが語られていく。このゲームは全13章構成になっているが、各章の最初には必ずこうした語りが挿入される。

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シロクマに襲われる少女ヌナ

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現れるホッキョクギツネ。尻尾をもふもふしたくなるほどにかわいい。

第1章は少女とホッキョクギツネの出会いが描かれつつ、チュートリアルの役割を担っている。

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画面にいる白いキツネは精霊の使いだ。キツネの側には精霊が具現化して現れ、道を進む手伝いをしてくれる。精霊に乗ったり捕まったり、キツネを操作してうまく精霊を誘導していこう。

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精霊には色々な種類のものがいる。キツネが近くにいないと消えてしまうので気をつけよう。

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一方ヌナは「ポーラ」と呼ばれる飛び道具のようなものを使うことができる。衝撃を与えるとステージに変化が起きるかもしれない。

既に何枚SSをご覧になってお気づきかもしれない。実際に足を運んできたという制作チームが作り上げたグラフィック、そしてモーションが非常に美しいことに。自然の畏怖と美しさ、民話の世界、を見事なバランスでゲームとして昇華させている。全編を通して振り返ってみると、フィクションである民話とゲームの相性が非常に良いのではないかと思わずにはいられない。

例えば、ゲームをプレイしていると吹雪の中を進むシーンが何度も出てくる。吹雪は数秒おきに吹く設定になっており、吹雪いている間は身を守るコマンド(Bボタン)を押さなければ飛ばされてしまう。現実では吹雪が数秒おきにきっちりと定期的に吹くということはありえないが、吹雪の中で歩こうとすれば、次々と変わる風向に翻弄されるだろうということは用意に想像がつく。そういった吹雪という自然の猛威に翻弄される人間の姿の描写が、イヌピアットにとっての「吹雪」を追体験するゲームとしても成り立つという絶妙なデザインに感じられた。

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吹雪いている間は身を守るヌナとキツネ

2人を襲うのは吹雪だけではない。時には人間の男が、そしてホッキョクグマや悪霊といった様々なものが2人を襲う。

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村を襲う男。2人はこの男から逃げることになる。

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シロクマに追い詰められる2人。さあどうする?

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オーロラのゾーン。飛び回る緑色の「オーロラの子」たちに捕まらないようにしよう。

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中盤訪れるシーン。ヌナはなぜ泣いているのだろうか…?

アンロックされる「ドキュメンタリー映像」によるゲームと民話の融合

このゲームはパズルアドベンチャーなので、ストーリーを進めていけばクリアできるが、ゲーム内に寄り道要素的に散りばめられているものがある。それを取るとある要素がアンロックされていく。

普通のパズルアドベンチャーであれば、それはSteamのバッジだったり、PS4のトロフィーだったりするが、このゲームでは「ドキュメンタリー映像」がアンロックされ閲覧可能になる

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そのアンロックしたときのシーンや登場人物に実際イヌピアットはどのような意味があるのかが実際に彼らの口から語られる。ゲームと民話がつながる瞬間だ。

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それは制作秘話でもあり、ゲームの中に登場する様々なモチーフに込められた解説でもある。そして同時に、先住民族というややもするとマイノリティとして扱われかねない人々の生の声を収録した一大映像作品でもある。

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ドキュメンタリー映像も非常に美しい。そして動物が文句なしにかわいい。

至るところに息づく「意味」に感じる「民話」の持つ力

ちなみにこのゲームは2人までプレイできる。2人の場合もステージや仕掛けは変わらず、ヌナとホッキョクギツネをそれぞれ別のプレイヤーが操作していくことになる。

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さて、この協力モード。ゲーム中で語られることはないが、ここにも意味があるのではないかと考えられる。人間の少女ヌナとホッキョクギツネは寄り添いながら進んでいかなければならない。キツネが精霊を呼べるということもあるが、例えばシロクマのような敵に、どちらかが捕まってしまうだけでやり直しになる。

2人プレイの最中には、お互いにすぐ隣でコントローラーを握ってキャラクターを操作している。そして、ゲーム内でも寄り添い助けあっている。このような「実際にすぐ側にいるが、意識することはない。だが、いざというときに助け合う」、そんな距離感が、イヌピアットの感じているヌナとホッキョクギツネの距離感なのではないだろうか。

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そんなことを考えてしまうほどに、このゲームは至るところにイヌピアットが感じている自然と人間の関係に関する「意味」が込められ、それをゲームという体験を通して伝えてくる。

ゲームとしては非常に独特で、肝心のパズルを解く部分ではややヒントがなさすぎて難しい局面もあるかもしれない。だが、それはこのゲームを構成するほんの一部に過ぎない。世界観の構築という面でこれほどまでに完成度の高いゲームはあるだろうか。ゲームという媒体をつかった民話伝承という試み、ぜひ試してみてはいかがだろうか。

[基本情報]
タイトル
Never Alone
制作者 E-Line Media, LLC / Upper One Games LLC
クリア時間 2~3時間程度
対応OS等 Windows 7 以降(Mac版は開発中)/ PS4
価格 1500円(Steam版、PS4版)、1620円(Xbox One版)

※日本におけるPC版、PS4版の販売はユニティ・ゲームズ・ジャパン、Xbox One版の販売はE-Line Megiaが行っている。いずれも日本語版の文章の内容は同じだ。

PC版のダウンロード

PS4版のダウンロード
PS storeより
Xbox one版のダウンロードXbox Liveより

(いずれもNever Aloneのページに飛びます)

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか