カードゲーム『王宮のささやき』にシンプルで奥深いゲームデザインを見た

アナログゲーム,カードゲーム

今回はカードゲーム『王宮のささやき』について紹介してみたい。

『王宮のささやき(原題:Palastgeflüster)』はミヒャエル・リーネック氏の作品。日本語版としてローカライズしたのが本作だ。イラストなどもリメイクされているため、なんとなく日本人が作ったゲームかと思ってしまうが、れっきとしたドイツゲームである。

なお、リーネック氏は、アナログゲーム好きには非常に有名な賞である「ドイツゲーム大賞」を、2007年の『大聖堂(Die Säulen der Erde: das Kartenspiel)』という作品で受賞したボードゲーム作家である。この『王宮のささやき』も、受賞こそしていないものの、非常に面白いゲームに仕上がっている。

ドイツゲームの特徴のひとつとして、「シンプルだが奥深い、特徴的なゲームメカニクス」が挙げられる。ルール自体は短い時間で誰でも覚えられるものでありながら、それでいて実際にゲームに勝とうとしてみると、非常に多くのことを考えさせられる……という風に「状況が仕組まれている」のだ。例えば、ドイツのアナログゲーム作家として著名なライナー・クニツィア氏の作るゲームに仕組まれたジレンマは「クニツィア・ジレンマ」という異名を取る。ゲームのルールが規定され、考えさせられる「状況を仕組む、ゲームデザイン側がコントロールする」ということ自体を指して、ここでは「ゲームメカニクス」と呼んでいる。

本作も、ルール自体はかなりシンプルだ。5分も実際にゲームをやってみれば、ほぼルールの全容がつかめる。しかし、特徴あるいくつかのシステムによって、プレイヤー同士が拮抗しあう状況が生まれる。

『王宮のささやき』のルール

簡単にルールの説明をしよう。

1.プレイヤーはそれぞれ自分の色と、自分の「密談場」を持つ。

2.最初のカードは6枚。カードの種類は、「衛兵」「メイド」「道化師」「魔法使い」「執事」「会計士」「将軍」。これらのカードは、それぞれの職業について参加するプレイヤーに対応した色と、どの色にも属さない灰色カードのぶんだけ存在する。

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上のように、7種類の職業が存在する。秋津たいら氏のイラストもカワイイ。

例えば、4人の参加者がいれば、「衛兵」から「将軍」までは4色と灰色カードの計5枚ずつ存在する。なお、自分の色のカードを持つわけではなくランダムに配られるので、色とりどりのカードと職業が自分の手札となる。

3.自分のターンごとに手札から1枚のカードを自分の「密談場」に出し、その効果を発動する。その後、そのカードの色のプレイヤーが次の手番のプレイヤーとなる。

この、「出したカードの色が次の手番のプレイヤーとなる」というシステムは実はかなり画期的だ。後述するように、このゲームは自分の手番をなるべく少なくするほうが有利なゲームになるので、出す色によって他のプレイヤーへの妨害を意図的に行うことができる。

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例えばこのターンは赤の「会計士」を出した。「自分の手札を全員に見せる」という効果が発動し、次は赤プレイヤーのターンだ。

例えば「メイド」ならば、自分の手札のカードを1枚捨て、山札から1枚引く。「会計士」であれば、自分の手札を全員に見せる必要がある。「衛兵」は、自分の密談上からカード1枚を手札に戻す……などなど、様々な効果がある。

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ここに書かれていない「道化師」は何も起こらないカードだ。

4.「将軍」の効果は、国王カードを1枚めくるというものだ。

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国王カードには「沈黙>メイド」などと書かれており、国王カードで指定された職業のカードは、場に出せるもののその効果が発動しなくなる(ただし、「道化師」は禁止となり、出すこともできず、出すと負けになる)。この国王カードの効果は、次に将軍の効果が発動し、国王が上書きされるまで継続する。

5.手札から「密談場」にカードを出す際、既に自分の「密談場」に出ている職業のカードをもう一度出すことはできない。もし、どうしても「密談場」に出ているカードをもう一度出さざるを得ない状況になってしまった場合、そのプレイヤーが負けて1ラウンド終了。

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例えばこちらの例。うーん…メイドとメイドがダブってしまった

6.負けたプレイヤー以外に1ポイントずつ得点が入る。なお、もし6枚すべてのカードを出し切れれば、そのプレイヤーが勝利し、そのプレイヤーのみに1ポイント(またはハウスルール適用で2ポイント)。ラウンドを繰り返し、一定数のポイント(5人なら4点)を取ったプレイヤーが勝利する。

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こちらは珍しく6枚のカードをかぶりなく出しきったところ。6枚出すのは至難の業だ。

カードの効果を使った駆け引きがシンプルながら熱い

ルールを読んでお気づきの読者もいるかもしれないが、このゲームでは殆どの場合、6枚を出し切って勝つ前に、誰かのカードが被る

最初は「要するに、同じカードを二度と出さなければいいんでしょ、簡単簡単」などと思っているのだが、意外にラウンド終盤にかけてはかぶりが生じる。

手番が来れば来るほど、どこかで一度出したカードを出さざるを得なくなる局面が発生しやすいため、このゲームでは「自分の手番がなるべく来ない方が有利」というタイプのゲームといえる。
そこで、「あ……アイツ、さては手持ちのカードが被ってるな!?」と思ったら、積極的にそのプレイヤーの色のカードを出していったり、手札を交換できる「魔法使い」や、密談場に出ているカードを他のプレイヤーと交換できる「執事」などを積極的に使い、相手を追い詰めていこう。

また、自分の手札を公開しなければならないデメリットがある「会計士」だが、場に出ている国王カードの効果により、「沈黙>会計士」となっている場合に限り、会計士の効果を生じさせずに会計士を処理することができる。このあたり、国王と結託し不正を行う会計士……といったような「物語」を頭の中で作り上げてしまう。

シンプルなゲームながら、カードの効果を使った絶妙な駆け引きが短時間で楽しめるカードゲームだ。ルール説明に要する時間は数分で、すんなり理解できるルールにもかかわらず、実際にやってみるとかなり考えることが多く、奥深いドイツゲーム。この『王宮のささやき』もそんなゲームだ。さすがドイツゲーム大賞に選ばれた作家がデザインしたゲーム、といったところ。

[基本情報]
タイトル 王宮のささやき
制作者 ミヒャエル・リーネック(翻訳はグループSNE)
プレイ人数 3~5人
プレイ時間 45〜60分程度
価格 1,682円(Amazon)

  • Noah(@powerofgamesorg

    通称のあP。「もぐらゲームス」エグゼクティブプロデューサー&共同編集長。ゲームをする人。「ゲームのちからで世界を変えよう会議」の中の人。経営戦略(ゲーム産業)と金融が一応専門分野。 MMORPG「リネージュ」の元プレイヤー(8年ぐらい、10,000時間ほどプレイ)。長らく一つのゲームをやりこむ派でしたが、最近は雑食気味にいろんなゲームをプレイしています。思い出に残っているゲームはリネージュ、ティアリングサーガ、勇者のくせになまいきだ。or2など