頼れるものは己の腕と命綱ひとつ。ワイヤーアクションメトロイドヴァニア『Rusted Moss』

アクション,インディーゲーム


「ワイヤーアクション」。元は映画などの撮影において文字通り俳優をワイヤーロープで宙に吊った状態で撮影して空中での人間の動きを映像に取り込む技法のことだが、ことコンピュータゲームの世界ではワイヤーを投射し地形に引っ掛けて振り子移動する動作の事を指す場合が多い。その独特の挙動から少なからず熱烈なファンを獲得する傾向があり、今回紹介する作品もそうしたワイヤーアクションゲームの系譜に連なる作品だ。

『Rusted Moss』はfaxdoc,happysquared,sunnydaze氏らが開発し、PLAYISMが販売を担当する探索型の横スクロール2Dアクションシューティングゲーム。2023年4月12日よりStaemにてWindows版が配信開始されている。

人間の時代が終わり、妖精の時代が始まる

鉄によって栄えた人間たちの繁栄が錆付き終わりゆく時代。人間たちに取って代わるべく、妖精たちが侵攻の準備を進めている。主人公である妖精族のスパイ“替わり子”のファーンと影の妖精パックは、人間たちの時代を終わらせるべく、バラバラにされてしまった妖精族の女王・ティターニアのかけらを集め、女王を復活させようと行動を開始する。

一方、人間側も滅亡を回避するべく、ティターニアのかけらから力を得た人間である魔女たちがファーンの行く手を阻むことになる。魔女の中にはファーンの妹分であるマヤの存在もあった。姉妹の確執と世界の行く末は果たしてどうなるのか?

物語の背景については、作中ではその多くが断片的にのみ語られる。また、ファーンの感性が「妖精寄り」であることなど、どこか超然とした独特の切り口をもつ。饒舌に感情をゆさぶってくるわけではないが、間隙を想像して補間していく楽しみ方ができるだろう。

しなるワイヤーでルートを開拓せよ

本作『Rusted Moss』は主人公のファーンを操作して迷宮を探索し、武器やパワーアップアイテムを探し出してその能力で更に探索範囲を広げていく、俗に言うメトロイドヴァニアスタイルのアクションゲームとなっている。中でも最大の特徴となるのが、最初のボスを倒した時点で解禁されるグラップリングフックだ。

このグラップリングフックはバンジージャンプのゴムロープのように反動が付くようになっている点が独特といえる。ジャンプ等からの落下中や銃火器の発砲・爆風などによって勢いを付けつつフックを投射し、その反動を利用することで高所へと跳ね上がることが可能となっている。

これらの機動はグラップリングフック入手直後のマップにて背景の形で示唆されるため、ここで本作ならではの挙動を頭に叩き込んでおくと良いだろう。また、一度のジャンプで放てるフックは一発限りであり、足場やジャンプ台に一度着地するか崖に捕まる等の接地を挟まなければフックの再発射は不可能。ミスをリカバリーするためにフックを使うことはできないため、操作には正確性が求められる。

プレイヤーには目標の地点へ辿り着くために必要なスウィングの軌道や中継点を想定する想像力と、それを実行に移すための的確な操作テクニックのふたつを問われることとなる。脳味噌も手先もフル稼働させることになるため非常にエネルギーを使うが、そのぶん自身で考え抜いた動きが綺麗にハマったときの感覚は格別だ。他方、マップを少し行き来するだけであっても常時ハイレベルなアクションを要求されるため、わずらわしさのほうが勝る面も少なくない。アクションの達成感それ自体に対して醍醐味を見出せるかどうかが本作を楽しむ上でのポイントと言えるだろう。

懐へと切り込み畳みかけろ

戦闘の面では、主人公が使う武器が銃火器ながら弾が画面の端から端まで届くようなものはほとんど無く、間合いを見切りながら戦うことが重要になる。アスレチックのみならずボスバトルでもフックが効果を発揮する局面が少なからずあり、中でも床一面に滴る毒液をワイヤー一本でぶら下がってしのぎながら戦うシチュエーションは白熱するものがある。

余談ではあるが、大量の刀剣を操るボス「エリシア」は、faxdoc氏が過去に手がけたフリーゲーム『Ecila』がモチーフと考えられる。氏の過去作を知る人は多くは無いだろうが、数々のアクション作品で魅せた激しいバトルの感触は『Rusted Moss』にも受け継がれており、いちファンとしては嬉しいポイントだ。


(※『Ecila』より)

本作ではアイテムの取得状況などに応じたマルチエンディング制が取られている。加えて寄り道できる箇所には到達高度を競う「クライムチャレンジ」が配されていたり、RTAモードやレベルエディタが用意されており、より突き詰めた挑戦も可能となっている。

良くも悪くもストイックさの強い作品であり、シビアなアクションが苦手な人には率直に言って薦め難い。しかし乗り越える楽しみを知る人にはこの上ない御馳走だとも言えるだろう。腕に覚えのある人は挑戦してみて欲しい作品だ。

[基本情報]
タイトル:『Rusted Moss』(ラスティッド・モス)
制作者:faxdoc, happysquared, sunnydaze
クリア時間:8時間~
対応OS:Windows
価格:¥1980

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  • 真野 崇(@tacashi

    フリーゲームと共に四半世紀を生きるフリゲ馬鹿一代。
    フリーゲームのレビューブログ「自由遊戯黙示録」を経て、自身のフリゲ人生を集約した、フリーゲーム・同人ゲーム・インディーズゲームの年代記「自主制作ゲーム史論」を執筆。