クトゥルフ神話のフリゲRPG『SAVE』。奪われた家族を取り戻す物語

RPG,フリーゲーム

今回は、昨今再び人気の高まっている「クトゥルフ神話」をモチーフにしたフリーゲームRPG『SAVE』を紹介する。本作は、クトゥルフ神話TRPGのリプレイ動画を多数制作している「あたりめ」氏の作品で、「ふりーむ!」週間ダウンロードランキングにも1位でランクインしているなど、話題のゲームとなっている。
そんな本作のポイントは、クトゥルフ神話をモチーフとした内容に加え、ゲームバランス
・グラフィック・演出…などのトータルなデザインが丁寧に作り込まれている
という点。
それに加え、奪われた家族を取り戻すという目的のため、人間のモノではない異形の力を自らの身体に取り込んでいくという内容が、物語面に留まらず、ゲームバランスとしても調和している部分だ。さっそく紹介していきたい。

異形の力を借りてでも、奪われた家族を取り戻せ。

本作は、ホラー小説家であるラブクラフトの作品を元にして作られた架空の神話「クトゥルフ神話」をモチーフとしたRPGとなっている。モチーフの度合いとしては、クトゥルフ神話に登場する神々をテーマとしたキャラクターなどが登場するといった具合で、そこまでクトゥルフ神話に詳しくない人でも安心してプレイできる。
物語としては、ある理由で重症を追っていた主人公の傷が治り、旅に出発する…といった場面からはじまる。なぜ旅に出るのかという目的は当初から明確にされているわけではないが、物語を進めて行くうちに、それはどうやら「家族」に関わるものだと少しずつ分かっていく。世界に存在する凶暴な生物や、神話上の神が立ちふさがる主人公の旅、果たしてその行く末とは…。

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包帯だらけの主人公。過去に一体何があったのだろうか?また、徐々に明らかになる旅の目的とは?ぜひプレイして確かめて欲しい

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旅立ちの時、一緒に暮らしていたおじいさんから授けられる言葉の意味とは…?

ゲームの開始時には主人公の性別を選ぶことが出来る。デフォルトの名前は、男性の場合は「ウズラ」、女性の場合は「メジロ」となる。基本的に、どちらの性別を選ぶかはプレイヤーの好みだろう。
このゲームの世界には、凶暴な野生生物、クトゥルフの神々を妄信する教徒、そして神話上の生物が存在する。旅の途中で主人公の仲間となる友好的な神話生物は、レベルアップをすると能力値が上昇するものの、人間である主人公は、基本的に能力は上昇しない。
そのため、主人公の能力の強化を行うには、旅先に現れる「黒服の男」の露店を利用する。
そこでは、能力値を上昇させるドーピングアイテムのほか、お金を払うことで主人公の身体に異形の身体を移植し、人間を超えた力を身につける行為も可能となっている。

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主人公の行き先に現れる「黒服の男」の露店。異形の敵に立ち向かうために、自らも次第に異形となっていく主人公…。

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「黒服の男」の提供する異形の力に頼る以外には、旅の先々で出会う武道家に教えを請う方法がある。これにより、人間の身体で繰り出せる技術を身につけることが出来る。

神話生物と共に、強大な敵に立ち向かえ!

本作のシステムとして、戦闘はオーソドックスなターン性RPGとなっている。しかし、主人公に立ちふさがる敵や、旅の途中で仲間となる神話生物にはそれぞれ能力値の傾向や技の癖があり、役割を考えて上手く行動を選ぶ必要がある。

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戦闘では敵・味方の特徴を考え、相手の弱点を突くことや、各個撃破といった戦い方が求められる

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とある事情で仲間となる、人間に友好的な神話生物「ビヤーキー」。羽が生えており、高い敏捷性で主人公のサポートを行う

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クトゥルフ神話の神々をデフォルメした、可愛らしさがありつつもどこか恐ろしさを感じさせるボスキャラクター。旅の途中にて主人公の前に立ちはだかる

なお、本作の公式ページは、攻略のためのヒントなどが載っているページも設置されている充実ぶり。ゲームの難易度としてはやや歯ごたえがあるので、もしも行き詰ったときには見てみるといいだろう。
クリアまでの時間は3~4時間ほどで、エンディングは全3パターン存在する。全てのエンディングを見るために攻略するのも楽しみとなっている。

「物語」と「ゲームシステム」の調和が印象に残る短編

本作は「旅の目的のため、自らの身体の一部を異形としていく」という要素が、「物語」としても「ゲームバランス」としても重要となっている部分が印象的だ。旅先で出会う「黒服の男」の露店にて身体を異形に改造することで、元々はただの人間であった主人公は、神話生物に匹敵する強大な能力を得ることが出来る。
そして、ゲームを進めるごとに、現れる敵は凶悪なものとなる。その度に主人公は身体の一部を「人間ならざるモノ」に置き換えなければならない。身体が異形となるにつれて、ゲーム上の能力も強くなっていく。

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もはや人ならざる力を使いこなす主人公の行く末とは…

こういった要素によって、まさに「身体を次々と異形化することも厭わずに、家族を取り戻すという旅の目的を達成しようとしている」という物語面での主人公の意志がプレイヤーにも伝わってくるだけでなく、実際のゲームバランス上でも、その意志に相応しい強靭な力を得て、異形の生物と渡り合える能力となっていく。この流れが、ゲームの演出として上手く機能していると筆者は感じた。
全体的なゲームバランスも良く練られている。「クトゥルフ=ホラー」と思われがちだが、本作は制作者の方も書かれているように「ホラーゲーム」というわけではなく、物語とゲームシステムが調和した、巧みなRPG作品だと感じる。クトゥルフ神話に詳しくない人でも、特に問題なくプレイでき、また本作でクトゥルフに興味を持った人は「作中に出てきたキャラは、実際はどういった存在なのだろう?」と調べることも出来るのではないかと感じた。
なお、「クトゥルフ神話」をモチーフとしたフリーゲームについては、本作の他にも『クトゥルフの弔詞~夢声慟哭~』などがある。クトゥルフ好きのプレイヤーは、合わせてプレイしてはいかがだろうか。

[基本情報]
タイトル SAVE
制作者 あたりめ(制作者様サイトはこちら
クリア時間 3~4時間程度
対応OS WinXP / Vista / 7 / 8 (RPGツクール2000の動作環境に準拠)
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://www.freem.ne.jp/win/game/8958

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。