レトロ風フリーゲームRPG『ユトレピアの伝説』にみる「積極的な沈黙」

RPG,フリーゲーム

今回は、レトロ風RPG『ユトレピアの伝説』を紹介する。このゲームは、「ゲーム製作ツール「WOLF RPGエディター」の開発者であるSmokingWOLF氏の主催するゲームコンテストである「WOLF RPGエディターコンテスト」(通称:ウディコン)の第6回にて上位ランクイン(その他部門・1位/総合部門・7位)を果たしたフリーゲームだ。
本作の魅力としては、往年のゲームプレイヤーをニヤリとさせずにはおかない懐かしい8bit風のグラフィックと音楽一見王道をなぞりつつも懐かしいだけに留まらない不思議な浮遊感のあるシナリオ。そしてなんと言っても、独特な言語感覚により紡がれる、味わい深いテキストが挙げられるだろう。
システム面の随所にも工夫が凝らされており、「懐かしさ」だけに留まらない見事な仕上がりとなっている。早速紹介していきたい。

「やる気のない王様」と「投げやり」な旅立ち。その真意は…。

まずは、プレイヤーが操作することになるキャラクターのメイキングから始まる。力と体力に長けた「せんし」、武器を装備できないぶん攻撃力の上昇が大きい「りきし」、敵からの逃走に成功しやすい「とうぞく」、命中率が高く、飛行する敵に倍ダメージを与えられる「かりうど」、回復魔法を扱う「さらさまどう」、攻撃・状態異常魔法を扱う「まだらまどう」、攻撃・回復の両魔法を扱える(ただし扱える魔法のレベルはさらさまどう・まだらまどうに劣る)「まろんまどう」という、それぞれ得意・不得意分野の異なった7種類の職業のなかから、プレイヤーは好みの4人を選びだし、パーティを編成することになる。

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まるでファミコンのような8bitマシンを彷彿させるグラフィック。どのキャラクターも懐かしく愛らしい見た目だ。

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投げやりな王様。にわか勇者に任命された主人公一行は、頼りない言葉で出立をうながされる事に。

本作の物語については、なぜだかわからないまま「勇者」という得体の知れない肩書きを割り振られてしまった主人公たちが、やはり得体の知れない「魔王」というものの征伐に、とりあえず赴くことになる……。
旅立ちのいきさつについて、説明を試みるならそういうことになる。今まで、何人も「勇者」とよばれた人間はいたようだ。だが、だれも血筋や才能のような、特別な何かがあるわけでもなかったようだ。「勇者=英雄=かけがえのない存在」、というものではないらしい。

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城外に出るなり墓石の群れ。かつて旅立った「勇者」たちの、成れの果てだろう。

王は「人類は終わった種族だ」と言うが、それがなにを意味しているのか、「魔王」を討てばなにかが解決するのか、解決すべき「なにか」とはなんなのか、プレイヤーにはまだ、なにもわからない。

初見でも安心。親切で馴染み深いゲームデザイン

とは言え、前述した情報量の(意図されたと思しき)少なさは、物語内容にかぎってのことで、ゲームをすすめていくために必要なシステムやガイドラインについては、城下町の住人たちが、こちらが尋ねさえすれば丁寧に教えてくれるので、行先を見失ったり、プレイに行き詰ったりすることはないだろう。

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こちらが耳を傾けさえすれば、得られる情報は多い。

そして、王様の住んでいる町からフィールドに出てみれば一目瞭然、けわしい山脈を隔てた北側に、魔王城と思しきオブジェが。ゆくゆくあそこに辿りつけばいいのだろうと、「ドラゴンクエスト」シリーズに馴染みぶかい往年のプレイヤーなら特に見当はつくだろう。

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見えているのに行けない、もどかしい距離感。まるで『ドラゴンクエストⅠ』の竜王の城のようだ。

本作の戦闘システムは、「ファイナルファンタジーⅡ」や、「サガ」シリーズを思わせるものとなっており、「レベル」の概念が存在しない。そのため、バトル中の行動に応じたパラメーターが個別に上がっていく仕組みだ。

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魔法に関しても同様で、使えば使った分だけ「熟練度」が上がっていく。熟練度が上がれば、魔法の威力や成功率が上がる。

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画面中央に並んでいる魔法名の右側の数字が、熟練度だ。

逆に言えば、魔法は使わなければ弱いままなのだが、むずかしく考える必要はない。ゲームバランスは程よく調整されているので、それなりに戦闘をこなし、行く先々の町で装備を買いそろえていけば、挫折の心配はないだろう。

また、戦闘で倒した魔物は、「えもの」としてストックすることができる。
「えもの」は、「えものや」に持ち込んで換金することもできるし、「かじや」に持って行けば、「えもの」を素材にした強力なアイテムを合成してもらうこともできる。「えもの」を売ったお金で装備を買うもよし、「えもの」を売らずに、装備を作るもよし。それはプレイヤーの裁量に委ねられている。

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「かじや」。通常の店では買えない強力なアイテムが揃う。

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「えものや」。強敵ほど、高値で売れる。中にはケタちがいの高額で取引きされる、レアモンスターも存在する。

「懐かしい」だけじゃない。不思議に浮遊感のある物語

最初の町から見えた魔王城らしき建物を目指すあいだ、勇者一行は訪れる先々でさまざまな事件の解決を頼まれることになる。このあたりはRPGの「お約束」だろう。
しかし、「魔王」の存在はまことしやかな語り草として、一応話題に上りもするものの、人々はそれを真に受けているようではない。あるいは各々なりに差し迫った生活の心配事、眼前の雑事にかかりきりで、後述する「せかいのおわり」などといった、身に余るほどの大きなスケールの出来事を気にする暇もない様子だ。

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「魔王」に対する村人たちの反応。のん気なのか、それとも……。

たとえば、最初に訪れることになる町・カーニュでは、「人喰いらっこ」の出没が、人々を悩ませていると言う。
水門を越え、海を渡らなければならない主人公たちだが、水門を超えるために必要な鍵を持つ「すいもんばん」もまた、「らっこ」にさらわれてしまったのだった。そこで、救出のため「らっこ」の住処である「らっこのす」に向かうことになる。

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カーニュの人々にとって脅威となっている「らっこ」。しかし、魔王の差し金ではないらしい。

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「らっこ」恐るべし。

また学問の町・ミキモトでは、得体の知れない病におかされた町長の娘が眠りつづけている。船を手に入れなければならない「勇者」一行は、船の所有者である町長の依頼で、「まぼろしの ねったいのくすり」を求めて、熱砂の洞窟へ赴くことになる。

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船を出そうにも、娘の病気のせいで気分が乗らないと言う町長。

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病のために眠りつづけている娘。

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勇者一行が訪れる少し前、「せかいのおわり」について考えるため、「てつがくしゃ」たちが大挙して船旅に出たらしい。町長の娘が病気になったのは、そのせいではないかと突飛な推理をする者もいる。

世界中で起こっているこれらの事件は、べつに「魔王」のせいではない。正確に言えば、「魔王」のせいなのかどうかすら、わからない。そのため、誰も「魔王」を恨んではない。前述のとおり、王様までも。だとすれば、「魔王」とは。「せかいのおわり」とは……?

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「せかい」は「おわる」らしいが……。

選ばれた「勇者」が、いくつものイベントをこなしながら、ついには「魔王」との戦いに挑む。という、「RPG」的物語の定型。そしてその定型どおりのゲームが主流だったころの8bitマシンを彷彿させるレトロなゲームデザイン。
「これぞRPG」とうなずかせる作りとなっている本作が、懐古趣味に終わらない理由は、そうした定型からだんだん物語内容が離陸していくような、ふしぎな浮遊感にある。
本作のストーリーテリングは、寡黙だ。分かりやすく饒舌だとは言えない。むしろ分りづらく寡黙だろう。
それは、1980年代、ファミリーコンピューター期の多くのRPGが、予算や容量のせいで寡黙たらざるを得なかったのとは、別の意味においてだ。1980年代頃のRPGは全くノーヒントとは言わないまでも、重箱のすみをつつかなければこなせないイベントもあり、削られきったセリフのためかちぐはぐになってしまったストーリー展開に置いてけぼりをくらったことも、筆者の体感としては多かった。マシンの性能が乏しく、言葉足らずになるほかなかったのだ。
そういった足らない言葉は、プレイヤーが想像力で補ってきた。それはある種の労役でもあったが、能動的に「ロール」を「プレイ」することの、語義どおりの楽しみでもあった。
昨今のゲームの、流麗なグラフィックや手取り足取りのチュートリアルといったユーザビリティ向上にもし功罪いずれもがあるとすれば、「罪」とは想像力の介入する余地を狭めたことだろう。見ればわかるものになどだれも目を凝らそうとはしないし、問わず語りの饒舌さは、多くの人間を辟易させがちだ。近づいてくるものにたいして、わざわざ身を乗りだすプレイヤーは、多くいそうにはない。

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とうとう「魔王の城」へ。何が待つのか……。

だから、本作の中で、謎が謎のまま、種あかしをされずに保たれたとしても、それはしゃべろうと思えばいくらでもしゃべられる時代に、あえて選ばれた積極的な沈黙と見るべきだろう。
タイトルに冠された「ユトレピア」は、「ユートピア」と「ゆとり」、どちらもの響きを合わせ持っている。トマス・モアの提唱した理想郷、どこにも存在しない想像力の産物としての「ユートピア」は、そのじつ想像力の介入を許さない「管理社会」の権化であり、「ユークロニア」(=時間のない場所)でもある。完成された理想郷に、このうえ変化の必要などないからだ。いっぽう、「ゆとり」という言葉も、成長=時間のながれを峻拒するかのような未成熟者を揶揄する俗語としてとくにインターネット上では流布している。

それこそ1980年代のまま、時間のながれが止まってしまったようなレトロな意匠に覆われた本作に、プレイヤーの想像力が入り込む時、どのような変化がもたらされるのだろうか。
考えてみれば、本作のようなゲーム(RPG)世界とは、それぞれがそれぞれに付与された役割(「勇者」、「王様」、「魔王」、「村人A」、……)を全うすることで秩序がたもたれている、一種の「管理社会」であるとも言える。「ゆとり」のうちに安らっていたその世界は、彼等は、プレイヤーの働きかけで、どのように目を醒ますのだろうか。
想像力をはたらかせながら、解答への性急さをいっとき忘れて、世界からの語りかけに、じっくり耳をかたむけてみてほしい。

[基本情報]
タイトル
 ユトレピアの伝説
制作者 k.imayui様(制作者様サイトはこちら
プレイ時間  5-6時間
対応OS WOLF RPGエディター(ver2.10)の動作環境に準拠
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://d.hatena.ne.jp/liberationfrom/

  • むらさき

    フリーライターと言うかフリーター。スーファミ~プレステ初期のRPGが好みです。『エストポリス伝記Ⅱ』、『天地創造』、『ヘラクレスの栄光Ⅳ』、『GRANDIA』など。