救いなきRPG“ループ”アドベンチャー『ギロニメ森の怪物』この森、悲劇しか生みません。救いはそこにいますか?

RPG,アドベンチャー,フリーゲーム

その日もまた、少女「マリカ」は自室から己の願いによって生まれた「森」へと降り立った。友人の少女「フィナ」と一緒に街を見下ろせる丘へと向かうために。

そして、丘から街の夜景を楽しんだ2人はそのまま帰路につく。だが、そこで凶器を手にした金髪の少女と遭遇し、殺されそうになる。少女の襲撃から逃れるべく、2人は懸命に逃げ延びるが、その途中で思いもしない悲劇に遭ってしまう。

この森には悲劇を生み出す「怪物」が住み着いており、その暗躍にマリカは苦しめられていたのだ。

悲劇に直面するたび、自室への帰還と森への降臨を何度も繰り返すマリカ。一体、彼女の求める「ハッピーエンド」はどこにあるのか……?

一連のストーリーの通り、本作『ギロニメ森の怪物』はループ要素を扱ったWindows、macOS、ブラウザ向けフリーゲームである。2024年12月下旬より「フリーゲーム夢現」「PLiCy」において配信中(公開中)となっている。

なお、重要な事柄ゆえ先にお伝えしておく。本作は非常に濃度の高い鬱要素を含む。

そのため、今後プレイされる方は、必ず自身の精神面と慎重に相談した上で判断いただきたい。もし、危うい場合は控えることを強く推奨する。

すべてを悲劇に変える「怪物」が住まう森でハッピーエンドを探せ

ジャンルは「RPGツクールMZ」製のロールプレイングゲーム(RPG)。プレイヤーは主人公の少女「マリカ」を操作し、怪物によって悲劇が繰り返される“森”を舞台に、ハッピーエンドとその手がかりを探し出すことが目的となる。

本編はループ構造を主軸に展開。マリカが森で体験する出来事を、最初から何度も繰り返すことがゲームの核となっている。つまるところオープニングも含めた、同じ一連の流れをやり直しながらストーリーを進めていく形だ。

ループ構造らしく、ストーリーには複数の分岐が用意されており、選択によって後の展開や登場人物の言動などが変化。中には、たった一つの選択が最悪の結末に繋がることもある。

そうしたバッドエンドに至ってしまうと本編は強制終了してマリカは自室に引き戻され、ストーリーは再び最初から始まる。

このループを繰り返しながら、プレイヤーは森に潜む悲劇の真相に近づき、解決への糸口を探っていくのである。本編はそのような構成でまとめられており、細かな試行錯誤と、根気が多少求められる作りとなっている。

最初に「RPG」と紹介したが、ここまで読み進めてきて疑問を抱いた人もいるかもしれない。事実、本作はRPGというよりは探索型アドベンチャーに近い。

とはいえ、RPGらしい要素もちゃんと存在。代表的なものとして経験値とレベルの概念があり、一定量を集めることでマリカは成長する。

戦闘システムも「RPGツクール」定番のターン制コマンドバトルが採用されており、戦闘イベントも用意されている。

ただし、戦闘によって経験値は得られない。経験値は、マップに設置された花や宝箱、アイテム「断章」を入手することで手に入る仕組み。

戦闘自体もストーリー進行上のイベント戦が中心で、いわゆる雑魚敵との戦いはない。

ただ、フィールド上の敵は存在し、ストーリー進行上にて挿入される「迷い路」(原文ママ)のマップにおいて出現。接触するとダメージを受けるトラップとしてマリカの前に立ちはだかる。倒す手段はなく、動きを見切って回避していくのがただひとつの対処法となる。

この場面に限り、体力ゲージも画面左上に表示され、ダメージを受けると減るようになっている。ゲージ自体は消費アイテム「薬草」を使うか、通常マップへと戻ると回復可能。後者の場合は基本、全回復するという親切な仕組みだったりする。

ちなみに消費アイテムはストック可能で、ループしても所持数が引き継がれる仕組み。また、消費型以外にも装備アイテムがあり、装着することでステータスの底上げを図ったり、特定のマップに限った特殊効果の発動ができたりする。

このように、本作はRPGの要素を備えながらも、探索やストーリー体験に重点を置いたアドベンチャー性が色濃く、ジャンルの枠に収まりきらない独自の個性を放っている。

あえて言うなら「RPGアドベンチャー」といったところだろうか。ループ構造のストーリーと、その選択に応じた変化の数々が強烈な個性を放つ一作である。

創り出された森に漂う創造主の思想に向き合え

本作の大きな魅力であり、同時に最も賛否が分かれるのがストーリーだ。

冒頭でも触れたように、物語の舞台である森は、主人公マリカの願いによって創り出された世界。つまり、マリカはこの森の創造主であり、彼女が森の中で出会うキャラクターたちも、すべて彼女自身が生み出した架空の存在である。

しかし、マリカの知らない“怪物”がこの森に入り込んでしまい、それ以降、登場人物たちは例外なく悲劇に見舞われるようになる。

マリカは、どうにかしてこの怪物の暴走を止められないか、森に平穏な結末をもたらすことはできないかと、何度も森へ足を踏み入れては“ハッピーエンド”を模索していく。これが本編の大まかな流れであり、ゲームにおけるプレイヤーの目的でもある。

言うなれば、このストーリーは、創作に関わる者の苦悩や葛藤をテーマに、傍観者としてそのすべてを見届けるメタフィクション的な構成を取っている。プレイヤーが物語に直接介入することはできず、基本的にはマリカという“作者”の視点をなぞりながら進行する、少し風変わりな仕掛けだ。

そして、このストーリーにはかなり重めの“鬱要素”が含まれている。特にマリカの思想や本音は非常に強烈で、人によっては拒絶反応を覚えるほどだ。

ストーリーの背景や真相は、「断章」と呼ばれるアイテムを通じて徐々に明かされる。その中で、彼女が生み出したキャラクターたちがなぜ皆「欠損」という設定を抱えているのか、そして怪物の正体と、それに対してマリカが取る“ある行動”についても明らかになっていく。

創作経験のある人であれば、彼女の苦悩に強く共感できるかもしれない。逆に、創作に馴染みがない人にとっては、何が起きているのか戸惑う展開も多いだろう。しかし、彼女の精神が蝕まれていく過程と、それに呼応して森の雰囲気がじわじわと不穏になっていく展開は、探索パートとも噛み合い、独特の不気味さを醸し出している。

やがてストーリーは“終わり”そのものに向かって進み、創作とは本当に尊い行為なのか、という問いを突きつけてくる。その暗さと重みは、強い印象を残すことだろう。

ただし、このストーリーは決して万人向けではない。精神的にダメージを受ける可能性があるほか、場合によってはマリカというキャラクターそのものに嫌悪感を抱くこともあるかもしれない。

それでも、作品の随所に思索を促す要素が散りばめられており、すべてを終えた後も「別の考え方はできなかったか」と何度も思い返してしまうほど、深く印象に残るストーリーになっている。

最初に警告した通り、覚悟は必要だ。しかし、その上で「どんなストーリーなのか知りたい」と感じたなら、ぜひダウンロードしてマリカとして森に降り立ってほしい。ここでしか味わえない体験と、心の奥に残る“闇”が、きっとあなたを待っている。

豊富なイベントと特殊マップのおかげで確かなやり応えも誇る怪作

ストーリー面に注目されがちな本作だが、ゲームとしての完成度も非常に高い。RPGと探索型アドベンチャーが交差する本編構成のおかげで、遊び応えのある体験が楽しめる。

そもそも、2つのジャンルにちなんだイベントが交差しながら繰り広げられていく特徴だけでも、起伏に富んだ内容であることは察せるだろう。実際、その期待を裏切らない密度の濃さがある。

特に注目したいのが戦闘イベントの作り込み。強化の手順がやや特殊であるため、単純にレベルを上げるだけでは太刀打ちできず、状況に応じた戦術が求められる。

しかも、キャラの強化に必要な要素は探索に深く結びついており、通常のフィールドや迷路マップで花や宝箱をくまなく探す必要があるのだ。このように各要素が密接に連携しているのも完成度の高さを象徴する部分である。

迷路マップもそれぞれに個性的な仕掛けが用意されており、バリエーションの豊富さが探索を飽きさせない。楽曲もビジュアル面から漂う薄気味悪さの軽減を狙ってか、盛り上がりを出すもの中心にチョイス。退屈しにくい雰囲気を構築しているのが素晴らしい。

また、ループが基本の内容を踏まえ、花、宝箱、断章を8割以上発見できればスキップが可能になるのも親切なうえ、ちゃんと取り組む動機づけにもなっている。

全体としてはストーリーの印象が強く残る作品だが、ゲーム部分の完成度もそれに負けていない。むしろ、戦術性や探索の面白さにハマったプレイヤーにとっては、ゲーム部分の方が印象に残るかもしれない。ある意味、RPGツクール製だからこそ実現できたゲームデザインにもなっているので要チェックだ。

ほかに本作はボリュームも大きく、進め方によっては10時間近くを要する。スムーズに行けば、2~3時間ほどで行けるが、それでも物足りなさは感じにくいどころか、ループを基本とした作りも相まって体感的に長く感じるだろう。とはいえ、同じことを繰り返すなりに水増しを感じる部分が多少ある点には注意が必要かもしれない。

一方で、ゲームバランスや仕様面でやや気になる点も。たとえば回復アイテム「薬草」は戦闘では使えず、迷路を含むフィールドマップに限り使える仕組みなのだが、肝心の使用機会があまりに少ない。

特に迷路に関しては、出口到達でHPが全回復するのに加え、敵から受けるダメージも軽微で、追跡してくるようなこともないため、よほど雑に動かない限り危機的状況に陥りにくいのだ。強いて言うなら、大ダメージを受ける特定のイベントで使うぐらいで、ワリとストックが溜まりやすいのである。この存在意義を薄くするような調整は、率直に疑問を覚えてしまった。

また、レベルアップ時の演出が存在せず、ステータスの変化はメニュー画面で確認するしかないのも惜しいポイント。テンポを重視した仕様かもしれないが、成長の実感を得にくく、やや味気なさが出てしまっているのは惜しいところだ。

いずれもゲーム進行に深刻な影響を及ぼすほどのものではないが、突き詰めればよりよいものになっていたように思う。とは言え、全体的には刺激と闇の強いストーリーと充実した探索パートで楽しませてくれる良作にして力作である。

繰り返しになるが、鬱要素が濃いめであるゆえ、プレイするに当たっては必ず心の準備を。精神的に疲れている場合のプレイは推奨しない。逆にそうでないのであれば、思い切って飛び込んでみていただきたい。そして、創作とは何かについて、考えを巡らせてみよう。

もしかすると、答えは出ないかもしれないが、本作をプレイした意義は得られるはずだ。

[基本情報]
タイトル:『ギロニメ森の怪物』
作者:tettoets/縁
クリア時間:2~10時間
対応プラットフォーム:Windows、macOS、ブラウザ
価格(税込):無料

◇ダウンロード・プレイはこちら
・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_13172.html

・PLiCy(ブラウザ版)
https://plicy.net/GamePlay/194599

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence