中国のフリゲを日本に紹介したい。翻訳者悲しき魚さんが語る中国のフリゲ事情

インタビュー,フリーゲーム

もぐらゲームスでもレビューしたフリーゲーム、『第七号車』、『PRICE』。いずれもストーリーがしっかりしており、グラフィックの美しさにも見とれる非常にクオリティの高いフリーゲームだ。

フリーゲーム『第七号車』。列車で出会った少女の物語、心を癒やす旅路。

美しくも切ない兄と妹の悲劇。フリーホラーゲーム『PRICE』

この2つのゲームには共通点がある。
いずれも元は中国語で制作されたゲームを翻訳したものだ。面白いゲームに国境はない。
実際に日本の名作フリーゲームは数ヶ国語に訳されている。しかし、逆に輸入とでもいうべきだろうか、海外のフリーゲームが日本でプレイされることはあまりない。普段、日本でプレイされるフリーゲームは日本人が制作したものがほとんどだ。

どうしても言葉の壁が立ちはだかる。それをクリアするのが翻訳の役目。どちらのゲームも翻訳を手がけたのは香港出身で日本に留学中の悲しき魚さん(@gn00925585)だ。『月光妖怪』や『ミミクリーマン』の中国語訳も手がけている。

今回は、その悲しき魚さんにフリゲへの想いや中国のフリゲ事情について話を伺った。

中国のクオリティが高い作品をもっと広めたい

1人で1本のゲームを翻訳するのは、たとえ分量の少ないフリーゲームでも大変だ。フリーゲームの翻訳なだけにボランティアでやっているに違いない。そもそも彼はなぜ中国のゲームを翻訳しているのだろうか。

「一作目の『偶弦~人形の糸』(中国語版)をプレイして、すごく感動して、中国のゲームもこんなにクオリティーが高いんだと思いました。埋もれてしまうともったいない作品ですから、単純に広めたいと思っただけです。」

偶弦
『偶弦〜人形の糸〜』

「正直に言って、自分から見たら、ただの自己満足に過ぎなかったんですけどね。自分の好きなものをもっといろんな人に知ってほしかったんです。」

その想いが『偶弦〜人形の糸』、『第七号車』、『PRICE』の三作品の翻訳につながったという。彼は翻訳するゲームを自分の好みで選んでいる。

「今の3作はたぶん誰の目から見てもクオリティーが高いものなので、絶対受け入れられると思いました。今後は万人受けじゃない作品もやってみたいです。一度だけ作者の方から提案を受けたことがありますけど、好みではなかったので、丁重に断らせていただきました」

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『PRICE』

その選球眼に狂いはなかったということだろう。実際に実況者による実況も人気を博しており、公開直後はゲームをダウンロードできるふりーむ!の週間ランキングでも上位に位置していた。

中国語のゲームの日本訳はあまり前例もない中で、翻訳活動も苦にはならず、プレイヤーの反響を支えに楽しんで取り組んでいることがよく分かる。

「元々は自分の趣味のためにやっているものなので、そこまで苦になりませんでした。最初の偶弦を公開する時は『ちゃんと受け入れて貰えるかな」』と結構心配しました。第七号車の時は、ノベルゲームでしたから、日本語の文章としてきちんとしたものでないと全てが台無しになります。一度は諦めかけましたが、多くの方にプレイしていただいて公開してよかったと思ってます。結局、モチベーションは他人の評価ですね。」

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『第七号車』

中国語圏のフリゲ事情

ところで、日本では日本以外の地域でどのようにフリーゲーム(個人や小規模で制作されているゲームなど)が楽しまれているか、あまり情報がない。香港・アジアでは、個人制作者がRPGツクールなどのエディターで作ったゲームがどれくらい楽しまれているのか気になるところだ。とはいえ、全然一般的ではないと悲しき魚さんは言う。

「そもそもフリーゲームはかなり限られた一部の人たちにしか知られていません。もちろん作る人は作っていますけど、日本みたいに外部のサポート(ふりーむ!みたいな大型な投稿サイトや賞や素材)がないので、厳しい状況ですね。今はスマホアプリが簡単に作れるようになりましたから、作るとしても、もっぱらスマホアプリを作っているようです。」

このあたりは日本とも同じ状況だが、より一層スマホへの流れが強いのだろう。

「IBや青鬼みたいな人気作品は少しずつ浸透している感じです。それから、フリーではないけど、マインクラフトあたりですかね。STEAMに載っているゲームもわりと人気です。」

ふりーむ!のような大規模なポータルサイトもない中で、悲しき魚さんの知る限りでは「66RPG(橙光游戏中心)」という自作ゲームのコミュニティがあるようだ。

「投稿できるし、制作者の質問にも誰かが答えてくれます。しかも、ここはノベルゲーム専用ですけど自作のゲームエンジンも作っています。中国のフリゲについて言うと、やはりまだ盗作も多いんので・・・たまにすごい神作が出るんですけどね。」

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日本ではゲームの楽しみ方として定着しつつある実況もまだ一般的ではないようだ。

「日本の実況者が普通にイベントに出たり、まるでアイドルのようにもてはやされて、尋常ではない影響力を持っていることにびっくりしました。こちらも実況者はいますけど、そこまで人気にはなれません。台湾には”魯蛋”、中国には”嵐少”という実況者がいます。どちらも有名といえば有名だけど、やはりマニアックだと思われがちです。まだ実況というものが”一般的”になっていないということですかね。」


台湾の魯蛋氏

中国の嵐少氏の動画はこちらから(中国語のサイトへ飛びます)
http://www.bilibili.com/video/av414132/

これからも翻訳し続ける

そんな悲しき魚さんはそもそもどういうゲームが好きなのかというと、ギャルゲーが大好きで『シンフォニック=レイン』、そしてKeyのすべての作品がお気に入りだという。

「元々はネットゲーム三昧でした。ある日『シンフォニック=レイン』を遊んだら、すごい感動を受けたんですよね。BGMも絵もシナリオも全部組み合わさって、ただただすごかった。最近遊んだゲームで出てきたセリフですけど、『どこかに存在していそうで、決して、どこにもいない』。学園物のアニメを見て、身近にありそうだけど、自分にはない経験に対しての憧ることもあります。でも、私の場合は単純に物語を見たい。本を読む時と同じ、色々なストーリーを見て、楽しみたいですね。それがたまたまギャルゲーというジャンルです。本にない絵があって、映画にはない繊細な描写がありますから。その中心にあるものはただ『愛』だけ、単純明快でいいじゃないですか。」

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工画堂スタジオの『シンフォニック=レイン』

繊細な描写のストーリーを楽しむ、そのスタンスが、ストーリーが美しく描かれている3作の翻訳につながったのだろう。日本のフリゲも色々とやり込んでいる。

「始めたきっかけは、友人に『マッドファーザー』を薦められたときです。その後は『操』、『青鬼』、『Ib』、『魔女の家』とか色々やりました。元々ゲーマーだったから、フリーゲームがこんなにクォリティーが高いのを知った後はまりました。今のイチオシは真夜中の人形使いさんです。実況動画もすごくよく見てますよ。好きな実況者はアブさん、死神さん(Youtube)、YUuuuさん(Youtube)です。あとは自分の作品をチェックするために色々と。」

これからも積極的に翻訳活動を行っていくとのことで期待したい。

「とにかく自分の好きな作品からやっていきたいと思っています。皆さんに中国のゲームの魅力を知ってもらえると幸いです。」

※悲しき魚さんが翻訳したフリーゲーム3作のダウンロードはこちらから。
http://www.freem.ne.jp/brand/3974

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか