重すぎる真実の数々にアナタは耐えられるか。ミステリー探索ノベル『幽体探偵 ~誰ガ私ヲ××シタの?~』

アドベンチャー,フリーゲーム

幽体離脱(ゆうたいりだつ)。当人の意識、霊魂が肉体から離されている状態のことを言う。地上に自分の肉体があり、自分自身の意識はフワフワと宙に浮き、透明な姿になっているのが最もイメージしやすいかもしれない。

このような幽体離脱は漫画、アニメ、映画などのエンターテインメント分野でも扱った作品は多く、大抵はその人物自身が何かしら重傷を負うといった事故を経て、そうなってしまうパターンが定番だ。
特殊な例では双子であることを活かし、それっぽい状況に見せるなんてのもある。おそらく独特なかけ声が脳内にこだましたかもしれないが……それはさておくとして。

本作『幽体探偵 ~誰ガ私ヲ××シタの?~』も、読んで字のごとく「幽体離脱」をテーマにしたノベルゲームである。2024年1月25日より「フリーゲーム夢現」、「ノベルゲームコレクション」にてブラウザおよびWindows向けフリーゲームとして配信されている。

幽体離脱の力を駆使し、自らを襲った犯人を追え

本作の主人公を務めるのは「黒崎まこと」という名の女性。

彼女は亡き父親で、探偵だった黒崎晃司への憧れから、高校卒業後に探偵の道を歩むことを決意。都心にある大手探偵事務所で経験を積んだ後、故郷である「室生(むろう)市」へと戻り、かつて父親がやっていた「黒崎探偵事務所」を復活させる形で独立した。

そして、営業再開の午前10時を迎えて間もなく、事務所にひとりの男性が来客。突然の来客に戸惑うまことは、男性を迎え入れるのだが、それから間もなく男性が隠し持っていたハンマーで頭部を強く殴られてしまう。

その衝撃の強さから、死んだと思ったまことだったが、しばらくすると失われたはずの視界と意識が戻る。そして自らを殴った男と、血を流して倒れている自分の姿が目の前に映る。さらに声を発しても相手には聞こえず、スマートフォンなどの物を持とうとしてもつかむことができず、身体がそれらをすり抜けてしまうようになっていた。

まことは幽体離脱してしまったのである。

その後、まことの肉体は倒れている自身を発見した通報者によって病院へと運ばれるも、なぜか遠い病院へと回され、担当医師が不可解な行動を見せる。一連の出来事に不信感を抱きつつ、「生きたい」と強く願うまこと。すると間もなくその意識は薄れ、気づいた頃には肉体へと戻っていた。

そして退院後、まことは自らを襲った犯人を捜し始め、その過程で幽体離脱のことを知る神社の老巫女と出会う。その老巫女との出会いを機に、まことは幽体離脱を自在にこなす能力を手に入れ、それを駆使して犯人の足取りを追う……というのが冒頭のストーリーとなる。

ノベルゲームとしては選択肢型の探索要素を持った作りになっており、エピソードごとのストーリーを追いつつ、舞台となる室生市の至る所へと移動しながら調査を行っていく形になる。

最大の特徴はオープニングでも語られた幽体離脱。室生市にある神社に訪れると幽体離脱するか否かが選択でき、通常の肉体では到底無理な調査が可能になる。

本来立ち入りできない部屋に入り込む、他人の会話を盗み聞きするといった感じだ。この肉体と幽体の2つをストーリー展開と調査の進展に応じて切り替えながら、現在の目的を達成していくのが大まかな流れとなっている。

ストーリーそのものは一部、分岐はあれど基本は1本道。ただ、特定の行動を取るとゲームオーバーになるなど、所々にトラップも仕込まれている。本編の最終的な目標は、自身を襲った犯人を特定すること。そのために主人公まことが、幽体離脱の力を駆使しながら情報を集め、真実へと迫っていくのがストーリー全体の見所となっている。

”異常”な故郷の空気と共に押し寄せる、重くてエグい真実の数々

ただ、ストーリーにおける本当の見所は、少しずつ明かされていく真実の重さとエグさである。

率直に言って、人間不信になるのも無理はないレベルのものが「これでもか!」と言わんばかりに押し寄せてくる。前述の通り、本編は主人公のまことを襲い、幽体離脱の力を得るきっかけになった犯人の男を探し出すことが主な目的になる。
しかし、この時点で不思議に思ったかもしれない。「それほどの事件に遭ったというのに、なぜ警察の存在が見えないんだ?」と。

詳細は本編で確かめていただきたいのだが、それには舞台となる「室生市」の”異常性”が大きく影響している。表向きはまことが高校生だった頃まで暮らしていた故郷だ。そこに上京して探偵の経験を積んだまことが戻り、父親が営んでいた探偵事務所を復活させるというのがオープニングで、どことなく親孝行的なものを思わせる展開となっている。

だが、この街はまことが上京していた間に”異常性”の増した街へと変貌してしまっていたのである。どう異常なのかは、警察のことで大体察せるだろう。そんな街の実態が犯人捜しと探偵としての仕事をこなす過程で少しずつ露わになっていくと同時に、大きな障害として立ちはだかるのである。中には、登場人物に対する印象を最悪な方向へと一変させる真実が判明することもあったりして、調査が進めば進むほど住民への不信感も高まっていく。

とりわけ強烈なのは、終盤の展開だ。正直、まことへの同情の念と、彼女を支えたくなるレベルの思いを抱いてしまうだろう。例によって、それも詳細は伏せるのだが、「おぞましい」の一言ですら生ぬるいものになっている。こんな真実、現実逃避したくなって当然だと納得してしまうほどだ。人によっては、生理的嫌悪感すら覚える可能性もある。それと並行し、幽体離脱は決して探偵にとっていい便利な力ではない、場合によっては人として壊れてしまう力であるという真理も知ることになるだろう。

一体、事件を追った末にまことは何にたどり着くのか。そこまで、まことに大きくのしかかってくる街の”異常性”とは何なのか。気になる方は”覚悟”を持って本編で確かめていただきたい。繰り返しになるが、”覚悟”を持ってである。きっと「こんな街、絶対に住みたくない!」「強く生きてくれ……!」との思いを持ってしまうことをお約束する。

ストーリーに関しては、最初から最後まで緊張感が持続するのも大きな見所だ。本作はエンディング到達までに要する時間は1時間と短めなのだが、ずっと緊迫した展開が続くので息つく暇がほとんどない。しかも、進めば進むほどに街の”異常性”が濃くなり、人への不信感、まことへの同情感も強くなるなど、とにかく色んな意味で慌ただしいのだ。それもあってか、ほんの少しでも結末への関心が生じれば、休憩を挟まずに一気に最後までやり通してしまうほど。全編「フック」だらけなのである。

それでいて、消化不良感もなく完結するので満足感も得られる。特にエンディングは、まさに幽体離脱をテーマにした本作ならではの力強さと、まことを応援したい気持ちを呼び起こす大変印象的なものになっている。
前述したように、かなりエグい真実と舞台設定の異常性が襲い来る内容で、その辺もエンディングで暗い影を落とすのだが、この締め方が辛うじてベストな形だと思えるはずである。ぜひ、耐え抜いて辿り着いてみていただきたいところだ。

真実に打ち勝てるか。全編、緊張続きの短編ノベル。

また、本作は探索要素を持ったノベルゲームだが、探索自体の難易度は高くなく、サクサクと進めていけるバランスになっている。そもそも、場所ごとに発生するイベントが露骨に次の場所、今やる必要のある行動を教えてくれるので、行き先が分からずに右往左往することがほとんどない。その辺りの手応えを求めると肩透かしかもしれないが、ゲームオーバーのトラップも仕掛けられているので、ある程度の緊張感を持ちながら楽しめるはずだ。

ある程度、前回のプレイから間が空いたり、現在置かれている状況が分からなくなった時に役立つ「あらすじ」が、マップ画面にて随時確認可能なのも嬉しいところ。ゲームオーバーに引っかかり、万が一、エピソードの始めからやり直しになったとしても、導入部分をスキップして探索から始められる機能もありがたい部分だ。

ただ、探索において、前回調査済みのエリアを再訪すると、既に確認したイベントと会話がまた繰り広げられるのは気になるところ。
こうした時に便利なスキップ(早送り)機能もなく、文章送りのボタンを連打しなくてはいけないのもちょっぴり不便だ。幸い、イベント自体は短いのでそこまで長い時間縛られる心配はない。ただ、調査済みの所では短い台詞を発するだけに留める、もしくはスキップ機能が解禁されるような工夫があって欲しかったところである。

ストーリーもちゃんと完結するが、一部、その後が描かれずフェードアウトしてしまう登場人物がいるのも気になる部分。一応、想像で補えるのだが、何かしら「あの人物はどうなったのか?」的なイベントが欲しかったと思った次第だ。

1時間ほどで終えられる短編とは言え、とにかく最初から最後まで緊張感が持続し、フックに次ぐフックが仕込まれたストーリー展開は大変魅力的。徐々に真実へと迫っていく流れもおぞましく、中でも舞台である街の”異常性”は人によってはゾッとしてしまうほどだ。他にどこかもの悲しく、不気味さを引き立てるオリジナルの音楽も、この一連の雰囲気作りに貢献している。

幽体離脱で真相を追う流れは定番とも言えるが、緊張感の持続するストーリー展開とエグくて重い真実によって、独自の個性とインパクトを持った本作。その題材と舞台設定に対する強い関心があるなら、ぜひプレイいただきたい一本だ。誰にも察知されることがない幽体離脱の強みを活かし、覚悟を持って真実に立ち向かおう。

そして、その果てに明らかになる”エグいもの”に打ち勝つのだ。

[基本情報]
タイトル:『幽体探偵 ~誰ガ私ヲ××シタの?~』
作者:だもあさ
クリア時間:50分~1時間半
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

◇ダウンロード・プレイはこちら
・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_11912.html

・ノベルゲームコレクション
https://novelgame.jp/games/show/9258

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