そんなに食べたければ、おいしくして見せよう。あの手この手で。和風な料理パズルRPG『割烹活法・神ノ七草』

RPG,フリーゲーム

妹の病気を治すため、薬草「神ノ七草」を採りに来た姉で料理人の「クサミ」。
だが、その途中で猛獣に襲われ、命からがら洞窟へと逃げ込む。

無事、猛獣を撒いたクサミは、洞窟の中にある不思議な石碑を発見。
突如聞こえてきた声に導かれるがままそれに触れると、ひとりの女性が現れる。

彼女の名は「シシクイ」。ちょっと食いしん坊な女神だった。

後にクサミより「神ノ七草」を探していることを聞いたシシクイは、実は自分もそれを探しているとのことで、その旅に同行。かくして、料理人と女神の珍道中が始まりを告げるのであった。

『割烹活法・神ノ七草』は2022年8月より、「フリーゲーム夢現」にて公開中のWindows PC向けフリーゲーム。和風RPGの制作を主に活動しているサークル「なごみやソフト」の新作で、「第14回 WOLF RPGエディターコンテスト(ウディコン)」の出展作品のひとつでもある。

薬草求めて7つのマップを巡り、食材調達に勤しむRPG

内容としてはフィールドマップの存在しない、ノンフィールド型RPGとなる。

「あれ?さっき移動可能なマップが見えたぞ……?」と思ったかもしれないが、これは「シシクイの祠」という導入マップに限った話。

本番マップは「前進」のコマンドを選択し、進んでいくノンフィールド型になっている。

本編の流れもノンフィールド型の定番、ステージクリア形式を採用。基本的に各マップ最後に登場するボスを倒せればクリアとなる。舞台となるマップの総数は作中のキーアイテム「神ノ七草」にちなんで7つ。
ただし7つの内、2~6マップはプレイヤーが任意で選択・決定していく形となる。

つまるところ、ステージセレクト形式である。
全体フィールド上でカーソルを動かし、攻略したいマップを選んで進めていくのだ。

なお、マップは全て「3エリア+ボス戦」の構成で統一されている。エリアの切り替わり(移動)は、画面左上に表示されたゲージが満タンに達した時に発生。主に「前進」した後に発生する敵との戦闘に勝利すると、ゲージが上昇する仕組みだ。また、エリア移動が実施されると突破した前のエリアへ引き返すことはできなくなる。

さらにマップ攻略中に「帰還」のコマンドを選ぶと、全体フィールドへと戻るのだが、この際に攻略していたマップへと戻ると、以前の続きから再開される。一度帰還すると「エリア1」からやり直し、みたいなことにはならないのだ。

このため、体力が減ってピンチになったら帰還を選び、全快ポイントが置かれた「シシクイの祠」に戻って準備を整え、再訪して続きを進めるという攻略法も実践可能。3エリア踏破まで進め終え、別のマップに移って3エリア踏破するのを繰り返して、全マップをそのようにしたら各々のボスを順番に仕留める、なんて攻略法もありだ。まさにプレイヤー好みのペースで進める設計となっている。

そんなマップごとに発生する戦闘は、制作ツール「WOLF RPGエディター」のデフォルトでもある、敏捷性の高いキャラクターから行動するターン制コマンド選択型となる。ただし、特徴的な仕様として、ひとつに雑魚敵と戦って勝利しても経験値は得られない。

そもそも、本作に経験値の概念自体がない。レベル(段位)こそあるが、上昇するのはマップクリア、ボスを倒した時のみ。よって、レベルを上げてステータスを強化させ、強敵との戦闘に挑む戦術はほぼ通用しない。

ふたつにクサミとシシクイとで選べるコマンドが異なる。
特に象徴的なのがクサミで、「調達」と「料理」というコマンドが表示される。「調達」は敵1体を攻撃し、「食材」を手に入れるというもの。「料理」はその得られた「食材」で特殊な効果を付与する料理を作るというコマンドになる。(ちなみに「食材」は必殺技こと「術技」の一部でも調達可能である。)

冒頭のストーリーで紹介した通り、主人公のクサミは料理人。それにちなんだ独自の行動ができるのだ。「食材」自体は回復アイテムでもあり、本作にはそれ以外の薬に当たるアイテムが用意されていない。そのため、調達は極めて重要。戦闘における生存率を左右するといっても過言ではないぐらいである。

また「料理」すれば、「食材」を特殊な効果を付与するものへと変化させられる。だが、特殊な効果と言ってもほとんどは状態異常。味方に対して使うと、返って弱体化を招く存在になっている。なぜそんな料理になるのかは「察して」とだけ。だったら、何のために「料理」のコマンドはあるんだと言われれば、ほぼボス戦のためである。

本作の魅力にして、ゲーム的に最も大きな特徴。
その全てはボス戦にあるのだ。

手間暇かけることが肝心!?試行錯誤必至の特殊過ぎるボス戦

ボス戦と言われても、普通に倒すのが目的だろうと思い描くところだ。

しかし、本作のボス戦における目的は倒すことではない。まあ、最終的には倒すことになるのだが……そのために必要なことが相手の体力が尽きるまで、様々な戦術を駆使して攻撃を展開し続けることではない。

ボスを最大限まで”おいしくする”のが目的なのである。

各マップの最後に現れるボスには、「旨味ゲージ」なるものが設定されている。このゲージは2本あり、いずれも何かしらの手順を踏むことによって上昇する仕組みとなっている。最終的に2つのゲージが満タンに達するとボスのおいしさが最大となり、シシクイが覚醒。併せて彼女の術技のひとつ、「大神ノ晩餐」が選択・使用可能になる。

あとはこの「大神ノ晩餐」を決めれば、シシクイがボスを食べて戦闘終了。

このような流れを基本に本作のボス戦は展開されるのだ。
一応、ボス当人には「旨味ゲージ」以外に当人の体力も設定されており、やろうと思えば倒すこともできなくはない。だが、多くのボスはすぐに立ち直ってしまうほど強力な回復手段を駆使してくるため、非常に大変。ましてや、本作ではレベルを上げ、そのステータスの力に頼ってねじ伏せる戦術もシステム的な都合もあって実践しにくい。

ゆえに、普通に倒すならば”おいしくする”しかない。
まさに料理を題材にしているなりのユニークな工夫を凝らした戦闘になっているのだ。

しかも、基本的にボスの旨味を上げる方法は手探りである。ヒントはほとんどない。また、実在の料理にも則り、少しでも手順を誤ったりすれば「旨味ゲージ」は減る!上昇すれば、もう一安心……という保証もないのだ。

それもあって、対処に当たってはとにかく色々な方法を試すしかない。そして、仮に旨味を上げる”答え”を見つけたとしても、誤って減少しないように神経を配らなければならない。
そして、忘れてはならないが、ボス戦である。言うまでもなくボス本人はこちらを攻撃してくる。相手によっては、護衛ともなる雑魚敵もけしかけてくる。当然、それらに押されてクサミ、シシクイの2人が力尽きてしまえば、戦闘は最初からやり直しだ。よって、体力などの管理はもちろん、相手の攻撃が激化しないための行動を判断していくことも大事。

まさに文字通りの一筋縄ではいかない展開の連続なのだ。これもあって、本作は(いい意味で)嫌になるぐらいにボス戦がプレイヤーに強烈な印象を与える。

そして、色々試す必要があるからこそ無事倒せた時の達成感も高めかつ、難しい料理を作り上げるに等しい体験が楽しめるのである。同時においしい料理を作り上げるには、手間暇かけることが大事という真理(?)も思い知らされる。そういった調整面でも料理という題材を活かすこだわりが現れており、唯一無二の戦闘を作り上げているのだ。

また、ヒント無しの試行錯誤前提とは言え、答え自体はそこまで複雑怪奇ではない。多くはマップごとに手に入る食材を使った料理をボスに使えば切り開けるので、ギリギリの域でストレスを与えない加減に設計されている。

そして、こうした工夫を凝らしたのもあって、ボスごとの個性付けも濃い。攻略法もそれぞれ異なるほか、攻撃も意外性に富んでいるので、何を仕掛けてくるのか読めない面白さがある。ボスそれぞれの風変わりなデザインにも注目。特に「ニコミ火山」のマップにて対決するボスは、「このような題材のゲームじゃなければあり得ない」と思い知らされる、強烈な容姿をしているので必見だ。人によっては、思わず笑ってしまうかもしれない。同時にどのボスも異なる攻略法が設定されているのもあってか、制作チームの苦労が滲み出てしまっている部分も……。具体的にどこで出ているのかは見てのお楽しみだが、とりあえずこの一言を伝えておきたい。本当にお疲れ様です……。

こうもボス戦を個性的にしたゆえ、反動で雑魚敵戦は地味だったり、マップごとの構成も基本的に前進と戦闘に徹するというワンパターンさが露わになっているところもある。だが、濃くすると返ってボス戦が霞んでしまう恐れすらあり得るので、この振り切り方は適切だったと言ってもいいだろう。

そんな具合に本作はボス戦のインパクトが傑出している。普通に戦術を駆使して倒すのとはひと味もふた味も違う展開が楽しめるので、少しでも興味を持ったのなら体験いただきたいところだ。きっと嫌になるほど印象に残ってしまうはず。

そして、腹の虫も目を覚ます……かどうかは人に寄るかも。
そもそも、料理自体は魔物を含めたものゆえ。

己の限界に挑むやり込みも備えた意欲的な一皿

ボス戦に関しては、最短ターン数や攻略時間を狙うやり込みが設けられているのも見所。実はボス戦に限って、終了までに要した時間とターン数が記録されるようになっている。そして、その記録された成績は……見てのお楽しみである。

恐らく、それを見た後はもっと縮めたいとの思いから2周目を始める気持ちを抱くかもしれない。本編もそれを狙ってか、大体2~3時間で決着できる規模なので、挑戦のハードルは低い。また、前述にて少し言及したが、一部のボスは正攻法でも倒せる余地がある。それを狙ってみるのもちょっとした面白さがあるので、興味があれば試してみていただきたい。

他に演出面も迫力重視でまとめられている。大きなボスが仰々しく暴れ回る様は言うまでもなく、そのような状況に適した戦闘曲が流れるなど、盛り上がり所を押さえているのが見事だ。ストーリーも珍道中なりに終始、明るいノリ。
とは言え、「妹の病気を治す」という目標は暗くないかと思うかもしれない。だが、それも……実態を知ればホッとするだろう。多分。

少し気になる部分としては、一部ボスの旨味を引き出す条件が不明瞭というのがある。ある程度、総当たりで旨味を引き出す答えにはたどり着けるが、多少とは言え、ヒントもあると良かったかもしれない。

全体的には力の注ぎどころと方針がはっきりしているのに加え、そこが極めて強く印象に残る作品に完成されている。料理を題材にしたなりの”おいしくする”難しさとスリルは独特にして唯一無二。どちらかというと、RPGよりもパズルに近い遊び心地があるが、個性的な内容であることに揺らぎはないので、RPG好きからパズル、具体的には謎解き好きなら遊んでみていただきたい1本だ。

おいしい料理を作るために手間暇かける難しさ、とくと味わおう。

[基本情報]
タイトル:『割烹活法・神ノ七草』
作者:なごみやソフト
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料

◇ダウンロードはこちら
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_10479.html

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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