お金は何に使える?2年で完成しないとどうなる? 年間1000万円支給の「講談社ゲームクリエイターズラボ」で気になることを聞いてみた

インタビュー

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大手出版社である講談社が、インディーゲーム開発者に多額の開発資金を支給する——。9月14日に発表された「講談社ゲームクリエイターズラボ」(関連記事)には、個人ゲーム開発者を中心に大きな反響が寄せられた。

こうした資金援助は古今東西さまざまな形で行われてきたが、作品の権利や開発の自由度など、開発者が気になる点は色々とあるだろう。これらについて本プロジェクトの公式ページなどでは「成果物の権利は開発者に帰属する」「契約期間内に作品がリリースできなくても返金の必要はなし」といった点が明記されるなど、開発者の懸念に寄りそった補足が充実している印象だ。

それでもなお、「ここはどうなの?」という疑問はまだまだありそうだ。そこでもぐらゲームスでは、開発者から発信されていた疑問点などを弊誌なりにまとめて、ゲームクリエイターズラボ現場責任者である講談社の鈴木綾一氏にぶつけてみた。

同氏はヤングマガジン編集部編集次長と投稿サイト事業チーム長という肩書きで、長年漫画編集者をしつつ、編集者とのマッチングを特色とした漫画投稿サイトDAYS NEOの責任者も務めている。本プロジェクトの実施経緯やそこに込めた想いなども伺ったので、合わせて参考にしてほしい。

プロジェクトの実施経緯や今後の見通しについて

——まずは今回のプロジェクトの実施の経緯をお伺いできればと思います。

鈴木綾一氏(以下、鈴木):講談社は110年の歴史の中で小説家さん、ライターさん、漫画家さんらさまざまなクリエイターとタッグを組んでコンテンツをパッケージングして世界にお届けしてきましたが、ゲームについてもUnityやUnreal Engineといった開発ツールの普及によって同人ゲームやインディーゲームが身近になってきているのを感じていました。

Steamなどによって世界に配信できるのも大きいなと感じていて、そこで講談社にできる形で協力できないかというのがもともとの企画主旨です。

(投稿サイト事業チーム長として)漫画に限らずイラスト、小説とクリエイターの講談社への新しい入口の整備をしているのですが、「クリエイター」を広く捉えたときに、ゲーム開発者さんもそれに入るんじゃないか、ということですね。

——今回のプロジェクトは、開発されたゲームのメディアミックス等によるIP利用を目的としたものなのでしょうか。メディアミックスしやすい企画を求めているのか、あるいはゲーム自体が売れればという形なのか、どちらでしょう。

鈴木:両方ですね。とくにこだわりもなく。弊社は割と鷹揚とした企業なので(笑)、漫画も例えば「こういうものを求めている」とかあんまり言ったことないんですよ。「メディアミックスしやすい漫画を求む」みたいな募集の仕方をしたこともないですし。

ゲームで言えば、多くの人がやりたいな、面白いなと思うものであれば。講談社IPについても、許可しますという一文を入れましたが、これも企画発想の幅を広げるために入れただけで、講談社IPを使ったものでないと企画が通らないということはありません。

基本的には弊社がパブリッシング事業にも乗り出したいと思っています。変な話ですが出版社の儲け方ってすごく単純で、作家さんが一番儲かったときが講談社にも一番利益が入るんです。だからクリエイターさんに一番お金が入ることを考えて動いていくことが、最終的には我々の利益になると思い準備しています。

——今回の募集は第1期とありますが、2期以降の見込みは?

鈴木:全然やる気ですよ。もちろん確定はしていませんが。どちらかというとリクープできたかよりも、この企画がインディーゲームクリエイターさんにとって有用であったかどうかでの判断になると思います。リクープする気まんまんだったら「事業部」にしてますね(笑)。今回は「研究所(ラボ)」なので。割と言葉にはこだわる会社なんです。

漫画業界であるとか作家業界であるとか、あと我々は関連会社にキングレコードもあるのでアニメ、音楽と知見があるんですが、逆に言えば何でゲームクリエイターさんには接してこなかったのかという疑問点があって。ゲームクリエイターの皆さんのお役に立てることが講談社としてあるかどうかの研究という位置付けです。

開発者が気になりそうな点を聞いてみた!

——ここからは今回の発表に寄せられた反応からピックアップしたものも含め、応募を考えている開発者が気になりそうなことをお伺いしていきます。まず、今回の契約期間は2年以内とされていますが、2年でゲームが完成しなかった場合はどうなるのでしょうか?

鈴木:2年経って完成しなくても、開発者さんが続けたいと思っているなら、そこからは「相談して一緒に考えていきましょう」という感じですね。

——そこから先、個人で続けるのもありなのでしょうか。

鈴木:そうですね。でもこちらとしてはお金もお支払いしてるので、なるべくなら関わりたいなと思います。(漫画で言うなら)原稿料をお支払いしているのと一緒なので。

——念のための質問ですが、2年で完成しなかったからといって、プロジェクト破棄、お蔵入りになることはないのですね。

鈴木:もちろんです。

——担当編集者が付いてサポートが受けられますが、具体的にどういったことを想定しているのでしょうか。「ゲームの内容にはあまり干渉されたくない」という反応もありました。

鈴木:選考を通った企画に対して「この方が面白くなるんじゃないですか」といった口出しは、求められないかぎりこちらからするつもりはないです。気持ちのサポートや取材、宣伝のサポートをしていければと。「企画に口を出されたくない」っていう人ほどむしろ頼もしいなと思う部分もあって、「その代わり僕らは宣伝とか頑張りますね」という感じになるかもしれません。

僕ら担当編集の一番の強みって、「代わりに聞いてくる」ことなんです。例えば僕は競馬って全く詳しくないんですけど、漫画家さんに「競馬ってどうなってるんですか」って聞かれたら、1日あれば詳しい人を探してこられる。そういうツテが僕らは無限にあるんです。総合出版社で、科学から古典からファッションからアダルトから全部出してるところなんで、どんな方面にもあてがあるんですよね。なので個人のツテではなかなか会えない人にも取材してこられますし、技術的な面でもサポートの用意はしています。

あとこれは問い合わせもあったのですが、例えばイラストレーターさんやシナリオライターさんの紹介とかって、まさに我々の得意分野じゃないですか。「こういう系のイラストレーターに頼みたい」とか「このキャラクターをデザインしてくれる人いますか」とか、そういう作家さんの紹介とかは全然できますね。

——「成果物の権利は開発者に帰属する」とありますが、権利はあっても契約で運用が縛られるのではという懸念もありそうです。このあたりはいかがでしょう?

鈴木:従来の出版活動でやってきた契約をもとに、ゲームというコンテンツに寄りそった形での管理委託契約というものを考えてます。ただ(利益配分の)料率などに関しては、もちろん出版物とはメディアが違いますので、そこのパーセントまで同じということはないです。

企画に応じて柔軟に対応して十全に説明して、お互いに納得の上で契約したいと思っているので、手間でなければまずは応募してみてほしい、というのが僕の中では一番ですね。

——半年ごとの契約更新の判定では、どういった所が見られるのでしょうか?

鈴木:「この企画への熱意が冷めてないか」です。半年ごとの契約更新にしたのも、こちらが切るためというより、開発者さん側が辞められるようにという意味合いです。辞めるに辞められなかったら辛いじゃないですか。

その時は、辞めてしまう、挫折してしまうような企画を選んでしまった我々の方に責任があるととらえます。作家さんも漫画家さんも同じように、書いてくれなかったり断筆してしまうのはこっちのせいだと思ってるので。

そのため契約にあたっては面接での対話を重視していて、その際にマイルストーンを提出してもらおうと思っています。進捗については、開発に遅れが出ることも重々承知していますが、2年で100できますよとした中で、半年経っても1しかできてなかったら「流石に厳しくない?」ということにはなりますね。

——お金の使い道はどの程度細かく報告する必要があるのでしょうか?

鈴木:報告義務はないです。名目は研究費という形でお支払いするので。

——使い道について干渉しないという理解でOKでしょうか?

鈴木:はい。原稿料や印税の使い道を僕らが指示しないのと一緒です。

厳密に言えば開発費という観点ではないんです。お金は好きに使ってほしい。「生活の心配をせずに、一旦ゲーム作りに没頭してみてはどうでしょう?」という提案の面が大きいかもしれません。本当はゲーム制作に集中したいんだけどお金がネックになっているんだったら、そのソリューションにはなるんじゃないかなと。お金がスタック(停滞要因)で開発を諦めていた人が、今回の企画で諦めずに済むようになるのが一番の理想だと思っています。

取材を終えて

鈴木氏に話を伺う中で印象的だったのが、漫画家と出版社、漫画家と編集者の関係をモデルケースとした内容が多かったことだ。漫画編集者として15年のキャリアを持つという同氏を中心としたプロジェクトが、その知見をゲーム開発者のサポートにどう活かしていくのか。本プロジェクトを通じて生まれるゲームに期待しつつ、大手出版社による「研究」の行く末にも注目したい。

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。

  • 中村友次郎(@finalbeta

    RPGのプレイと紹介がライフワーク。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。商業で一番好きなゲームメーカーは日本ファルコム。運営型では原神にハマってます。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。