“怖がらせない”サバイバルホラー『Moonbase Lambda』この怪物は心をザワつかせはするけれど、とてもやさしい。

インディーゲーム,ホラーゲーム

かつて月面の安息所と言われたこの基地は生き地獄と化した。

基地内は電力系統の故障によって灯りはわずかとなり、ほとんどの区画が闇に覆われている。
機器類も動作するのは一部のみ。大半が動作不良および故障に伴う金属音を鳴り響かせている。

そして、鬼に金棒と言わんばかりに光に異様な反応を示す“怪物”が基地のあちこちを徘徊。
その正体は不明ながら、基地を現在の状態にした元凶であるのは間違いない。

こんな地獄同然の基地で、取り残されたひとりの人間が目を覚ます。明らかに異常な状況であることを察したその者は、ただちに基地から脱出するため、行動を開始する。怪物の脅威が迫りくるなかで、無事、脱出できるのか?

このいかにもホラーという感じの始まり方をするのが今回紹介する『Moonbase Lambda』である。
もちろん(?)、ジャンルはホラーゲーム。正確にはステルスサバイバルホラーゲームだ。

だが、実際は“怖がらせない”サバイバルホラーである。もしも「ホラーゲームは苦手だけど、ドッキリさせられることがあまりないのだったらやってみたい……」との思いを持っているならば、本作はうってつけの1本だ。

謎の怪物が徘徊する暗闇に覆われた月面基地を探索し、時に隠れたりしながら脱出を目指せ

色んな意味でなんのこっちゃだが、まずはゲームの概要を紹介しよう。

本作は1人称視点(主観視点)で展開されるサバイバルホラーゲームとなる。プレイヤーは月面基地で目覚めた主人公になり、内部を探索しながら基地からの脱出を目指す。

前述したように、基地内部は暗闇で覆われている。そのため、探索に当たっては装備のひとつ「フラッシュライト」で灯り(光)を確保しながら進んでいく形になる。だが、基地内にはそんなフラッシュライトを始めとする光を察知する謎の怪物が徘徊。

▲見た目は主人公と同じ人間だが、怪物である。襲われれば分かる。

この怪物に捕まってしまうと、問答無用でゲームオーバーになる。「だったら怪物を倒せばいい!」と考えるかもしれないが、残念ながら主人公は攻撃用の武器を持っていない。(若干ネタバレだが)基地内にも落ちていない。格闘技についてもからっきしである。よって、怪物に狙われてしまった時の選択肢はただひとつ。

全速力で逃げる!
もしくは、怪物が反応するフラッシュライトをOFFにし、暗闇に身を隠すか、机の下に隠れる!

この2つのステルスな対処法を活用し、やり過ごしていくのが基本になる。ちなみに探索の過程では「発煙筒」なるアイテムが手に入ることがあり、これを所持していると、怪物に捕まってもやり過ごすことができる(持っていない場合はお察し)。ただし、滅多に手に入らないレアアイテムなので、極力温存するのが望ましい感じだ。

最終的に怪物に襲われることなく、基地から脱出できればゲームクリアになる。

ただし、脱出方法は複数存在。とはいえ、どれかひとつを達成できれば普通にクリアとなる仕組みで、全部をこなす必要はない。達成できなかった脱出方法に関しては、2周目以降に試すか、あるいはそのままやらずに終えてもよし。

なお、改めて最初から再開すると基地内の構造がすべて様変わりすることにご注意。これはゲームオーバーになった時も同じ。

実は本作、途中経過をセーブすることができない。脱出は1度きりの1発勝負なのである。そのため、ゲームクリアもゲームオーバーも、再開すればまた最初からである。

▲基地内のマップ構造は特定区域にあるコンソールでしか確認できない上、表示される方角も変わる。

そして、基地内の構造(マップ)もランダム生成によって変わる。前回覚えた部屋の位置などの知識も役に立たなくなり、また1から探索して把握しなければならなくなるのである。もちろん、怪物の出現パターンにしても構造変化と共に変わるので、1から把握し直しである。

そんなローグライクを思わせる要素とペナルティも本作は備えているのだ。逆に言えばその分、1周に要する時間は短めであり、手軽に遊べる。だが、探索と怪物絡みのステルス要素は油断したら痛い目に合うバランス。サバイバルホラーを名乗るだけにある手ごわさとスリルを兼ね備えた作品に仕上げられている。

プレイヤーを全速力で追撃し、捕まえようとする怪物は危険極まりないが……実はワリとフレンドリー?

……が、実のところは凄くフレンドリーな作りというのが本作の魅力である。

「ウソつけ!」とツッコまれること承知の上で言おう。本作はそんなに怖くない。
プレイヤーを付け狙う怪物に襲われる危険は常にあるものの、怖さはそれほどではない。
もっと直接的に言うならば、心臓がドキッとすることが滅多にない作りをしているのである。

別の言い方をするなら、心臓にやさしいホラーゲームとなっているのだ。

なぜ心臓にやさしいのか?その理由はズバリ怪物にある。

前述で解説したように、存在そのものは危険極まりない。捕まれば即刻ゲームオーバーになるのに加えて、プレイヤーの姿を視認したら全速力でこちらに迫ってくる。武器もなければ、格闘技も使えないので、倒して無に帰すようなことも不可能だ。

紛うことなき脅威であるが、実はこの怪物、特筆すべき性質がある。それは不意打ちをしてこないことだ。

ホラーゲームと言えば、何の気なしに部屋に入ったら突如、怪異や生ける屍が「こんにちは(あるいは、こんばんは)」と目の前に現れ、ドッキリさせられるのが一種の定番である。本作と同じ、サバイバルホラーを名乗る著名なゲームにおいてもほぼ決まって存在し、ゲームをプレイしている最中の恐怖心を煽り立てる要素として本領を発揮している。

しかし、本作の怪物はそれをしてこない。必ずプレイヤー側に現れることの予兆を告げてくれるのである。具体的にはプレイヤーの近くに迫ってくると、画面内に表示された情報(※HUD、Head Up Display)にノイズが走り始める。

▲本来はハッキリ表示される画面内情報が急激に乱れ始めた。怪物が近い!

そして、怪物とプレイヤーの距離がより狭まるたびにノイズの強度が上昇。最終的にノイズが最大に達すると、至近距離に怪物が現れるのである。

これはどんな場面であっても必ず、である。こちらから近づいて行ったにしても、特定の区画に滞在している時であっても、必ずノイズが走る。急にノイズの強度が最大まで達して、気づいた時には後ろにいた、みたいなことはまず起きない。起きたとしたら、それはプレイヤーがノイズの発生を見落としたとの自己責任になる。

このような公平性すら感じさせる性質を怪物は持っており、脅威とは裏腹にそんなに怖くないのである。さすがに逃げる時、襲われた時は相応の怖さはあるものの、少なくとも心臓が過剰にドキッとすることはない。また、予兆を出してくれるから、出くわす前に対策をちゃんと取れば、アッサリ逃れることもできる。

それもあって、設定の割にはフレンドリーなのである。同じことは回避時の性質にも言え、基本、フラッシュライトをOFFにして暗闇に隠れていれば、よほどの至近距離じゃなければ見逃してくれる。執拗にしらみ潰しするみたいな行為はせず、安心(?)させてくれるのだ。

もっとも、時と場合によっては狭い範囲しか行動しなくなる警戒をされたりもするが。ただ、それもノイズで予兆を出してくれるため、不意打ちされることはない。色々とホラーゲームとしては親切すぎではと思うところもあるかもしれないが、これが本作の個性であると同時に強み。怖いけれども怖くない。そんな不思議なやさしさがにじみ出た存在として描かれているのである。

これもあって、本作はホラーゲームに苦手意識のある人にも取っつきやすい、フレンドリーな作りになっている。ほかにもフレンドリーたるゆえんはあり、脱出方法はひとつを達成すれば十分、1周当たりに要する時間は最短で15分、最長で1時間ほどとスキマ時間にも遊びやすい。

かと言って、薄味な内容じゃないのも素晴らしいところ。脱出方法は、経由しなければならない区画、必要なアイテムが別々なのでそれぞれ違った攻略が試されるし、フィールドの規模もそんなに狭くない。また、脱出方法の中には、ちょっとしたシューティングの技量が試されるものもあり、プレイヤーによっては思わぬ苦戦を強いられたりもする。

各種、脱出方法をすべて成し遂げようとした時も周回が必須になるうえ、前述したように毎回、内部構造が変わるに加えてゲームオーバーになれば問答無用で最初からやり直しになるので、歯ごたえも抜群だ。

フレンドリーだからといって、決してカンタンではないことにご注意あれ。そのようなゲームとしての一筋縄ではいかないやり応えにも、本作はこだわり抜いていて、短くも確かな満足感を得られる内容になっているのだ。

そのため、ホラーゲームが好き、もしくは苦手意識のない人でも十分に楽しめる仕上がりである。もしも、ここまでの解説で「カンタンそう」と思ったのなら、すぐにでも挑んでみるがよし。「カンタンではない」の意味を思い知らされるだろう。

ホラーゲームデビューしたい、味わうのは雰囲気だけにしたい欲求があれば、これ以上なく最適の1本

ちなみに本編の難易度は3種類の中から選択可能。

最もやさしい「三日月」であれば、基地内の部屋の一部が省略され、脱出法を探す手間が軽減されてより遊びやすくなる。逆にその都合、一部の脱出法が選択不能になる制約もある。だがもし、「いくらフレンドリーとは言え、最初は手加減してほしい……」との思いがあるなら、こちらから始めることを強くオススメする。

そこから気持ちに余裕が出てきたら「満月」以降の難易度に挑んで、ほかの脱出法を探してみよう。さすれば、より一層、脱出方法ごとに変わるゲームの展開とその面白さを堪能できるはずだ。なお、最もやさしい難易度であっても、怪物に捕まったらそこまでのルールは変わらないので念のため。あと、怪物は1匹と思うなかれ。

ほかにここまでのスクリーンショットの通り、グラフィックも昔のPCゲームを思わせる緑と黒を基調にしたビジュアルが異彩を放つ。ただ、グラフィックそのものは2Dではなく3Dで、光の表現もふんだんに盛り込まれていたりと、現代風に仕上げられている。

そして、このグラフィックの関係で若干、目に負担がかかりやすい側面もある。そのため、個人差はあるかもしれないが、長時間プレイしていて負担を感じた場合は迷わず休憩を入れることをオススメする。

また、操作はキーボード+マウス、ゲームパッドをそれぞれサポート。いわゆるファーストパーソンシューター(FPS)のような精密な照準操作は求められてないため、ゲームパッドでも違和感なく楽しめるものになっている。

ただ、レバースイッチやハンドルを動かす(インタラクトする)に当たっては右スティックで上下に動かしたり、グルグル回す必要があるなど、ややぎこちなさを感じるところも。さらに初期設定だとカメラ感度が結構強めになっているため、もし「これじゃ早すぎ!」と感じたら一気に下げることを推奨する。

なお視点の都合、どうしても人によっては3D酔いを併発する恐れがあることはあらかじめ留意いただきたい。それと、ストーリー性については薄め。ホラーゲームと言えば、バックストーリーのおどろどしさとの認識があると、肩透かしを喰らう恐れがあるのでご注意いただきたい。

そんなやや粗っぽさを感じる部分もあるが、フレンドリーな怪物の仕様と1発勝負ならではのスリル、脱出法ごとに異なる展開などの特徴が異彩を放つ内容で、手軽ながらも遊び応え十分なサバイバルホラーに仕上げられている。

前述したように心臓がドキッとするような要素が少ないので、怖い雰囲気だけを限定的に楽しみたいとか、ホラーゲームにデビューしたいという人にはオススメ。ホラーゲーム好きにも興味深い試みと、宇宙を舞台にした作品なりの小ネタが光る仕上がりとなっているのでオススメだ。

怪物はフレンドリーだが、脱出は甘くないぞ。しっかり逃げ切って生き延びましょう。

[基本情報]
タイトル:『Moonbase Lambda』
開発:Thunderfox Studio
クリア時間:15分~1時間(1周)
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):550円

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