おJoy-Conのおビンタは唯一無二の一体感でしてよ。おビンタバトルゲームの究極完成形『薔薇と椿 〜お豪華絢爛版〜』

アクション,インディーゲーム

巨大な遺跡の最深部に眠る秘宝を求め、冒険を繰り広げていく遺跡探検考古学アクションアドベンチャーゲーム『LA-MULANA(ラ・ムラーナ)』シリーズ(紹介記事。同作を手がけたインディーゲーム開発チームNIGORO(ニゴロ)は、WEBブラウザ上で遊べるFLASHゲームを多数手がけたことでも知られる。

そんなNIGOROが手がけたFLASHゲームの中で、全世界累計プレイ回数が2000万回に迫るほどの一大的な記録を残したのが、2007年に公開された『薔薇と椿』だった。

▲FLASH版『薔薇と椿』チュートリアル動画

華族の女性たちによる権力争いをテーマとしながら、平手打ち(おビンタ)の応酬を繰り広げるシュールなストーリー設定と世界観、単純ながらも手に汗握る駆け引きが展開される戦闘(その名も「おビンタバトル」)など、際立った個性を持ち合わせていた本作は、後に続編や他のインディーゲームとコラボレーションした番外編も誕生するなりしてシリーズ化を遂げる。
だが2017年、FLASHを開発したAdobeがそのサポートを2020年末をもって終了することを発表。将来的に『薔薇と椿』を始めとする、NIGOROの開発したFLASHゲームが遊べなくなることが決定してしまった。

他のプラットフォームへの移植は考えていないのか?2018年7月29日、東京・秋葉原で開催された『LA-MULANA』の続編、『LA-MULANA 2』の完成を祝うトークイベントにてその話題が上がったが、NIGOROのボスである楢村匠氏は現時点で考えていないとコメント。しかし、誰かが手伝ってくれれば歓迎する、『薔薇と椿』に関しては何らかの形で残すことを模索している……とも発言していた。(トークイベントの取材記事


▲「東京ゲームショウ2019」で出展されたスマートフォン版『薔薇と椿』(レポート記事より)

そして1年後の2019年9月12日、千葉・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2019」でスマートフォン版『薔薇と椿』が発表。『ARTIFACT ADVENTURE 外伝DX』や『アンリアルライフ』の販売を手がけたことで知られる株式会社room6の協力を経て、装いも新たに蘇る形になった。ちなみに当もぐらゲームスでは、当時の東京ゲームショウ現地で取材したレポート記事を掲載中である。

このスマートフォン版は『薔薇と椿 〜伝説の薔薇の嫁〜』の名で2020年3月にiOS、Android向けに基本無料のゲームアプリとして配信。後に『LA-MULANA』とコラボレーションした『薔薇と椿 〜LA-MULANA編〜』もスマートフォン向けに配信された。

これで『薔薇と椿』はFLASH終了後も形を変えて残った……と、復活にまつわる展開が一段落したかと思いきや。2022年9月14日、なんとNintendo Switch版の発売が決定。翌日開催の「東京ゲームショウ2022」にて出展されるという驚きの展開を見せたのである。

後に『薔薇と椿 ~お豪華絢爛版~』と名付けられたNintendo Switch版は、発表から1年ちょっと過ぎた後の2023年9月19日に発売。今回は買い切り型のダウンロード専用タイトルとなっている。

販売は『LA-MULANA』シリーズでもNIGOROとタッグを組んでいるPLAYISMが担当。スマートフォン版の開発に関わったroom6も協力という形で参加している。

おJoy-Conによる直感操作で、おビンタは究極進化を遂げる

華族「椿小路(つばきこうじ)家」の長男、俊介の嫁として嫁いだ玲子。
だがそれから間もなく、夫の俊介は息を引き取ってしまう。

そして椿小路家の人々の高貴ないびりが続く中、玲子の中に秘めた庶民の血が燃え上がる。
俊介にもらった薔薇の花を胸に、玲子は椿小路家の人々に宣戦布告を行ったのだ。

「椿小路家は長男の嫁である私が頂く」。これは女たちの華麗なる戦いである。

改めてストーリーを紹介しつつ、ゲーム内容としては1対1形式の戦闘を繰り広げていくおビンタバトルゲームという名の対戦型アクションゲームとなる。プレイヤーは主人公の椿小路玲子に扮し、敵対する椿小路家の次女、長女、家政婦といった関係者たちとの戦闘(おビンタバトル)を順番にこなしていく。勝敗は画面下に表示された薔薇と椿で表された体力ゲージによって判定。つまるところ、全部失った方が負け(体力ゲージが残った方が勝ち)である。

おビンタバトルはターン(タアン)制で展開。基本的にビンタ(攻め)と回避(守り)を交互に行っていく。ただし、1ターンの内に放てるビンタは1回だけ。命中しても、外れてしまっても、それで1ターン終了になる。そのため、ここぞというタイミングを狙って「バチーン!」とブッ叩くことが勝敗のカギとなる。また、ターン中には画面左上に表示されたゲージが時間経過と共に減っていく。これが空になった時にもターンは強制的に終了となる。ゆえに、じっくり時間をかけることもできないので、素早く行動することが重要だ。まさに手早く、華麗にである。だって、手で戦うゲームなのですから。


▲回避と共に素早くおビンタすれば「おカウンタア」が炸裂!

なお原作のFLASH版、スマートフォン版はターン中、ゲージが無くなるまでは何回もビンタが行えるようになっていた。本作では前述の通り1回行動したらその時点で終了という仕組みに変更されている。結果的にターン制の色が濃いシステムに改まった感じだ。

また、スマートフォン版には新要素として「往復おビンタ」が追加されていたが、本作にも引き続き採用されている。何度かクリティカルヒットを決めると、相手の首元に「つかめ」のアイコンが現れ、指定の操作を行うと相手を連続しておビンタできるようになるというものだ。スマートフォン版が初めてお披露目された「東京ゲームショウ2019」の開催直前に実装されたという伝説(?)があるシステムだが(※当時のレポート記事より)、導入によって戦闘の派手さと操作の面白さが引き立つ様々なメリットがあったことから、本作でも削られることなく続投している。

そして、今回の『豪華絢爛版』最大の違いがJoy-Con……もとい。おJoy-Con操作への変更だ。おJoy-Conを片手に持ち、振ることによっておビンタを行うという、直感的なものに変更された。厳密にはAボタンを押しっぱなしにした状態で、おJoy-Conを振って実施する。同様に回避もおJoy-Conを用い、Rボタンを押しっぱなしにして手前に引く動作で実施する。

このような操作に一新されたことで、これまでにも増して相手を直接引っぱたいている手触りが強化。また、実際に手を動かして行うことから、おビンタの本物感も高まっている。前述の「往復おビンタ」ももちろん、おJoy-Conを振り続けながら実施する感じだ。おかげさまで「オラオラ感」、あるいは「百裂拳感」もパワーアップしております。

地味なところだが、玲子を始めとするプレイヤーキャラクターもこちらのおJoy-Conに応じて動作。おかげで、彼女たちとの一体感もより一層感じられるように。まさに『薔薇と椿』というゲームとの圧倒的な親和性が発揮された操作になっている。

ちなみにスマートフォン版のおスワイプ操作にも対応。Nintendo Switchの携帯モードで遊ぶ時はこちらの操作になる。そのようなことから、スマートフォン版とのハイブリッドとも言える作りになっているのも、本作のセールスポイントである。

他にも新要素として、FLASH版とスマートフォン版にはなかった2つの新シナリオ、それに伴う新しいおビンタ攻撃の追加、オープニングとエンディング(スタッフクレジット)の主題歌付きムービーデモ実装、ローカル限定の対戦モードの収録がある。

また、ストーリーの会話イベントもフルボイスになり、玲子に沙織といったキャラクターたちが喋るようになった。おビンタバトル中も各アクションに応じたボイスが挿入され、より賑やかになっているのも見所だ。

このように『お豪華絢爛版』の副題に相応しいパワーアップの数々が異彩を放つ内容に仕上げられている。しかも、新しいシナリオが2つも収録されているため、FLASH版とスマートフォン版を遊んだプレイヤーも新鮮な気持ちで楽しめる設計だ。

ちなみに『LA-MULANA』シリーズとコラボした『薔薇と椿 〜LA-MULANA編〜』もおまけで収録(※「お設定」から解禁することで遊べるようになる)。もちろん、こちらも本作仕様でアレンジされているので、ムーブルクやネブルといった『LA-MULANA』のキャラクターたちはフルボイスで喋ってくれる。『LA-MULANA』ファンなら必見だ。

おJoy-conが生み出した圧倒的な一体感と、強烈な新シナリオ

本作の魅力、まずその筆頭として挙げられるのはおJoy-conによる操作だ。実際に手を振っておビンタするスタイルになったのもあって、本当に相手を引っぱたいている気持ちになれる、それはもう大変素晴らしい手触りとなっている。

「往復おビンタ」もおJoy-Conのおかげでスカッと爽快な攻撃技に進化した。制限時間の許す限り、闇雲におJoy-Conを振り続けるのだ。そんなの気持ちよくて当たり前でございましょう。スマートフォン版のおスワイプ操作で、画面をひたすらこすり続けるのもそれは面白いものだったが、やっぱり”なりきれる”おJoy-Conは大変にお強い。

ただ、腕の力を振るう分、筋肉に負担がかかりやすくなったというデメリットも生じている。もし、腕の痛みが激しくなってきたら、一旦プレイを中断して小休止することを強くお薦めする。「そんなの知ったことか!パワー!」とおビンタ魂が燃焼中なら、続けてよろしくてよ。それで痛みが猛烈になったとしても責任は取りませぬ。


▲周囲が広いかどうかも重要ですよ。

そして言うまでもなく、この操作で遊ぶ際は必ず”おストラップ”装着の上で。おJoy-Conは大変に繊細なコントローラだ。もし、強い衝撃が加わったらどんなことになるのかは想像に難くないはずでございましょう。お気を付けなさって。

おJoy-Conにスポットライトが当たりがちだが、おスワイプ操作で遊べるのもスマートフォン版経験者には嬉しい見所だ。おJoy-Conとおスワイプ、2種類の操作が気軽に楽しめるのはNintendo Switchの大きな強みであり、当もぐらゲームスでも取り上げている縦横無尽な探索型アクションゲーム『DANDARA』(紹介記事)に並ぶモデルケースにもなっている。

また、おJoy-Conとは操作感も異なるからこそ、2周目として遊ぶという楽しみ方もできる。後述するが、新しいおビンタ攻撃もおスワイプ専用の操作にアレンジされているほか、逆におJoy-Conより出しやすいという特徴がある。もし、おJoy-Conとの違いが気になるなら、チャレンジしてみていただきたい。

操作絡みに次いで挙げられる魅力は、なんといっても2つの新シナリオ。家政婦・三田悦子の娘を主人公にした「ワールドユース編」、椿小路家長女の静香が主人公の「静かなる椿の日常」は、まさに本作だけの”おビンタバトル”が楽しめる内容に仕上げられている。

特に面白いのは「ワールドユース編」で、続々と現れる対戦相手たちの異様な戦法の数々に「おビンタって……何!?」という、哲学的な疑問と腹筋への甚大なダメージに襲われることになるだろう。このシナリオに関しては、事前に情報を集めないほど大きな衝撃(笑撃とも言う)が得られるので、本稿でも新しいおビンタ攻撃のことを除いて紹介は伏せる。存分におビンタの新世界を堪能してみていただきたい。

また、この2つのシナリオでは新しいおビンタ攻撃が登場し、戦術面の広がりによる変化が描かれているのも見所だ。特に面白いのは「ワールドユース編」にて使えるようになる「お掌底」である。え、それはビンタじゃなくて実質おパンチやんけ?だまらっしゃい。しかも、結構使うのにコツが要る技になっているんだぞ。


▲骨に響くぜ!

他にこの2つはシナリオ自体も見所が多い。詳しい内容は伏せるが、元々シュールだった世界観がさらに極まったものになっている。同時に、こんなのNIGOROにしか作れないだろ、と痛感させられる、唯一無二のセンスが炸裂したものにもなっているので必見だ。

とにかく、操作からシナリオに至るまで、面白さが極みに極まってしまっている。元々、原作のFLASH版、スマートフォン版の時点で唯一無二の面白さと個性はあったが、それは本作をもって他を寄せ付けない盤石なものに進化したと言ってもいいだろう。まさしくこれぞ究極完成形というに相応しい。『お豪華絢爛版』と名乗るのにも異議なしである。

おビンタバトルはここに究極的な完成を迎えたのです

とは言え、惜しい部分もある。
ひとつにボリューム。シナリオは増えているものの、すべてを終えるのに2時間程度と短め。FLASH版に存在した5段階の難易度変更機能もなく、やり込み周りが薄まってしまっている。これ自体はシナリオを増やすことでカバーしたと思われるが、さらに遊びこんでみたいプレイヤーを想定して設けてみるのも一興だったように思える。

また、先ほどエンディングにも主題歌付きムービーデモが用意されていると紹介したが、これが任意で見る形になっているのがちょっと勿体ない。事実上の最終シナリオである「静かなる椿の日常」が終わった後に挿入される仕組みにしても良かったように思う。ムービーデモと主題歌がとてもよく出来ているからこその惜しい部分である。

▲オープニングの主題歌とムービーも素晴らしい出来。

他に操作に関しては、クリティカルを出す際に若干、強めに振る必要があるのが気になるところ。ただ、これ自体はAボタンを押さずにおJoy-Conを構え、そこでAボタンを押しながら振り下ろすと上手く出やすいので、なかなか上手く出ない場合は試してみていただきたい。そして、おスワイプは反応が遅れたり、反応しなかったりなど不安定な時が生じるのが少し気がかりだ。ちなみにタッチスクリーンの本体設定が「タッチペン用」だと判定が厳密になり過ぎる弊害も起こり得るので、プレイ時は「標準」にしておくことを強く推奨する。


▲筆者は『脳を鍛える大人のNintendo Switchトレーニング』を継続プレイしている関係で「タッチペン用」に設定しており、そのまま本作を遊んだところ、妙に判定が厳しくなる違和感を抱いた。

そして最後に惜しまれるのが、コラボレーションシナリオのひとつ、薔薇と椿とファタモルガーナ』が未収録なことだが……これ自体は致し方なしとする。

▲『薔薇と椿とファタモルガーナ』

仮に本作『豪華絢爛版』の仕様でリメイクするとなれば、大変なことになるのが容易に想像されるのだ。特に声優陣!もし、実現したら業界震撼の大事件やで!けど、見てみたいという気持ちがあるのも正直なところ……。(もし、クラファンやるなら支援します)

長々と綴ってしまったが、いずれも惜しいと感じた部分であって、ゲームとしての完成度は盤石だ。ゲーム以外の箇所にも光るものは多く、前述したムービーデモと主題歌はそのひとつだ。また、アニメパターンが豊富なキャラクターたちのグラフィック、世界観にマッチした厳かな音楽、おビンタの手ごたえを引き立てる質感抜群の効果音も素晴らしい仕上がり。それぞれのキャラクターたちを演じる声優陣の演技もハマっているほか、兼役では同じ人とは分からないほどの演じ分けをしているという見所もある。特に沙織と家政婦の三田を演じる浅井晴美氏が要注目だ。

総じて『お豪華絢爛版』の副題に相応しい完成度と、FLASHからスマートフォンへと展開された『薔薇と椿』の究極的な完成形と言わんばかりの仕上がり。原作を知るプレイヤーはもちろん、今まで本作のことを知らず、その異様な世界観に魅力を感じた人もぜひとも遊んでみていただきたい屈指の怪作にして傑作だ。Nintendo SwitchのおJoy-Conをフルスロットルで活かしきったインディーゲームを探している人もぜひ。

さあ、極みに極まったおビンタをしませう!

[お基本情報]
おタイトル:『薔薇と椿 〜お豪華絢爛版〜』
お開発:NIGORO(お販売:PLAYISM、お協力:room6)
おクリア時間:2~3時間
お対応プラットフォーム:おNintendo おSwitch
お価格:1,650円

◇お購入はこちら(My Nintendo Store)
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