怪奇幻想ノベルゲーム『クトゥルフの弔詞』。名状しがたい恐怖を味わいつくす混沌の一作。

今回レビューするのは、『クトゥルフの弔詞 ~無声慟哭~』。神話体系「クトゥルフ神話」をベースにしたフリーのコズミック・ホラーノベルゲームだ。

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まずはあらすじから。

探偵業を営む主人公・堀口のもとに、一枚のフロッピーディスクが届く。差出人は不明。依頼内容は「ディスクに入った9つのメモを書いた人物を探してほしい」とのことだ。
まとまった額の手付金が同封されており、悪戯とも思えない。

ただ、9つのメモに書かれていた内容は、「怪物に精神を乗っ取られたサラリーマン」「南極の闇に飲みこまれた観測員」「奇妙な昆虫と出会い記憶喪失で発見された男」など、荒唐無稽としか思えない内容であった。

不思議に思いながらも手がかり探しを始める堀口だったが、言葉では言い表せない――名状しがたい恐怖の世界に徐々に誘われていく。

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時代錯誤な記憶媒体に入っているものに、訝しがる主人公・堀口。

世界観を表現する見事な筆致、そして文字による表現性

本作のもっとも魅力的なところは、その筆致だ。

クトゥルフ神話の世界に触れたことのない方でも、本作の禍々しいタイトル画面を見ればそれが「恐怖に縁取られた何か」であることは直感的に理解ができるところだろう。
そう、クトゥルフ神話の恐怖とは、未知のものに対する「名状しがたい恐怖」で構成されている、とも言える。こうした混沌とした恐怖を描写していくのはなかなか難度が高い。

こうした、言葉にしがたいクトゥルフ神話の世界観の不気味さを、主人公・堀口の視点から余すところなく描写する本作。ノベルとしての実力の高さには唸らせるものがあり、知っている人にとっては「ああ!」と叫びたくなるような要素がこれでもか、というほどに満載。まさにクトゥルフ神話ファンなら必見の出来といえる。もちろん、クトゥルフ神話ビギナーにとっても、世界観に触れることができオススメしたい。

また、ノベルゲームならではの「ビジュアルな文章表現」にも注目したい。
本作に出てくる9つのメモに書かれたエピソードは、それぞれがだいたい1章分程度を構成している。
内容によって、写真を挟んだノートに書いてあるような表現であったり、市役所の市民相談課に寄せられた相談の報告書という形式を取っていたり、それぞれのメモによって文章のフォントや、大きさ、などの表現が異なっている。

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映画の字幕のようなビジュアルでとある男の独白を聞くシーン。

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三郷という男と、「とある虫」の話ではノートに記述したような仕立て。

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どこか不気味な海底の「あの神殿」で祈りを捧げる描写の際は、このように不気味なフォント、曲がりくねった文字の表現が味わい深い。

このように、単に筆致の良いテキストで終わらせない、ノベルゲームとしての恐怖を煽る工夫もふんだんに用いられている。

更には、クトゥルフには欠かせない邪神はオリジナルイラストで形づくられる。公式サイトではこれらのイラストをフリー素材として配布しているようだ。

もちろん、ノベルゲームには欠かせない不気味なサウンドも、非常に世界観とマッチしている。ぜひ夜中にヘッドフォンでトライしてもらいたい。

ついつい読んでしまう脚注

また、文章の中にはところどころ色が変わって、リンクが貼ってある単語がある。

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単語をクリックすると、上のSSのように一風変わった……皮肉たっぷりの脚注を読むことができる。この脚注はゲーム中に本当に無数にあり、なんとなく全部クリックして読みたくなってしまうこと請け合い。ノベルゲームとしてもかなり贅沢な造りになっている。

もちろん、こうした「仕掛け」はノベルゲームにはある種欠かせないとも言える技法ではある。だが、それが非常に豊かな筆致と合わさることにより、クトゥルフ世界の名状しがたい不気味さを最大限表現している。ノベルゲーム広しとはいえ、クトゥルフ世界をモチーフにしたノベルゲームとしてはトップクラスのクオリティを誇っていると言っても間違いではないだろう。

もちろん、肝心のストーリーについても最初から最後までクトゥルフ神話の世界観をなぞっており、しかもテンポが良い。先ほどのあの体験は何だったのだろうか、と不思議がるよりも早く、つぎの恐怖が待っている。思わず「あちらの世界」に引き込まれてしまう。ここまでスクリーンショットを御覧頂いた読者ならば、その一端が幾分伝われば幸いである。

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いつの間にか出現した、「10枚目のメモ」。その中には……

本作にはおまけモードが付いている。そちらの羽目外しっぷりも個人的には非常に楽しめると感じた。是非最後まで楽しんでプレイしてほしい。

なお、本作はニコニコ動画において実況者テラゾー氏が実況を行っている。ひとりでは、クトゥルフの世界に飲み込まれてしまいそうな方はこちらも見てみては如何だろうか?


[基本情報]
タイトル
『クトゥルフの弔詞 ~無声慟哭~』
制作者 猫ノ事ム所(制作者様サイトはこちら
クリア時間 3時間
対応OS Windows 7/Vista/XP/Me/2000/98/NT
価格 無料

ダウンロードはこちらから


  • 20140320163135

    通称のあP。「もぐらゲームス」エグゼクティブプロデューサー&共同編集長。ゲームをする人。「ゲームのちからで世界を変えよう会議」の中の人。経営戦略(ゲーム産業)と金融が一応専門分野。 MMORPG「リネージュ」の元プレイヤー(8年ぐらい、10,000時間ほどプレイ)。長らく一つのゲームをやりこむ派でしたが、最近は雑食気味にいろんなゲームをプレイしています。思い出に残っているゲームはリネージュ、ティアリングサーガ、勇者のくせになまいきだ。or2など