消耗し続けるステータスに抗い、森を脱しろ!緊迫のノベル型脱出ゲーム『精霊の森 Forest of Fate』

アドベンチャー,フリーゲーム

「今後のアップデートと完成が期待される、注目の制作途中フリーゲーム3選」の2020年11月号にてピックアップした、ノベル型脱出ゲーム『精霊の森 Forest of Fate』。
このたび、2021年2月23日に「完全版」として正式公開されるに至った。

そんな完全版のレビューを今回、単独記事として執筆したく思う。

読み進めるだけでも危機が迫る、スリル抜群のノベルゲーム

改めて本作、『精霊の森 Forest of Fate』の基本的な内容紹介から入ろう。本作は同人サークル「星屑ポート」が制作した、ノベル型の脱出ゲーム。フリーゲーム配信サイトの「ふりーむ!」、「unityroom」でブラウザ版が公開されている。

プレイヤーは獣人、竜人などの様々な種族が通う魔法学園の生徒。ある日、呼び出しを受けて学園長室へと向かうが、そこに突如魔法陣が出現。学園長のエスタルフィアを含む、室内にいた生徒全員が奇妙な森へと転移させられてしまう。

目を覚ました主人公はエスタルフィアを含め、竜人族(ドラグーン)のガルガド、学園菜園の管理人アンセリッジ、歴史学の教師ローレン、そして同じクラスメイトのサヤ・エルクートの5人と合流。そしてエスタルフィアより、この場に居続けてはいずれ皆、死んでしまうという戦慄の事実を突きつけられる。しかもエスタルフィアは、大陸議会からの通達により、学園外での魔法の使用を禁止されており、唯一の切り札たる転移魔法が使えない。だが、散策を続ければいずれは外に出られるだろう、とエスタルフィアは話す。

かくして主人公たち5人は、森の中を死なないように歩き、脱出の方法を見つけるために行動を開始する。以上がオープニングのあらましとなる。
脱出ゲームらしい、いかにもな展開と言ったところだ。

ゲームの流れも単純明快。テキストを読み進め、ランダムで発生するイベントを通して選択肢を選び、行動を決定しながら森からの脱出手段を探っていく。基本的にノベルゲームらしい構成だが、システム周りに大きな特徴がある。ステータスだ。

具体的には「体力」、「水分」、「魔力(マナ)」の3つがあり、この内のどれかがゼロになるとゲームオーバー。強制バッドエンドになり、ストーリーの最初からやり直しになってしまうのである。
各ステータスの内、「体力」は主人公に危害が及ぶ出来事が発生した際に減少。罠に引っかかったり、相手から攻撃された時が一例となる。いずれの減少も選択肢が引き金となるが、ごく一部に「即死」もある。(もちろん、その場合も強制バッドエンド)

「水分」は移動の度に減少。厳密にはテキストを読み進めるたびに1減る。また、何かしら力を使う行動を取った際にも減るようになっている。3つのステータスの中で最も減りやすく、残量には神経を尖らせなければならない。

「魔力(マナ)」は魔法を使う行動を取った時に減少。これも体力同様、選択肢が減少の引き金となっている。3つのステータスの中では「水」の次に減りやすいため、主に行動を取るに当たって意識する必要がある。

これら3つのステータスに目を配りながら、テキストを読み進め、ストーリー上の目的達成に挑む形になる。いわばノベルゲームのテキストを読み進めるプレイスタイルに制約を課したシステムで、独特の緊張感を持ち合わせたものになっている。

もちろん、ステータスは常に減り続ける訳ではなく、要所ごとに挿入される選択肢で取った行動によって回復を図れる。だが、本作のストーリーには決まった法則性がない。完全なランダム進行なのである。そのため、こちらが意図した回復の実施は不可能。また、同じ選択肢でも前は回復だったのに対し、今度はダメージになってしまうパターンもある。ステータスにそれなりの余裕がある場合は、そんな目に遭ったとしても軽微な被害に終わるかもしれないが、もしピンチの場合はお察しいただければと思う。

ならば危険な選択肢の直前でセーブし、失敗したらロードし直す策を取ればいいと思いきや、それも不可能。本作のセーブは1箇所しかできず、バッドエンドも含む結末を迎えれば
リセットされてしまうのだ。さらに保存したセーブのロード後にも、同じセーブを再びロードするのはできなくなる。一回限りなのである。

こんなシステムと制約の下、ストーリーを進め、脱出の手段を探し出さなければならない。まさにノベルゲームとしても脱出ゲームとしても異端のシビアさ。相応の集中力とステータス管理が試される、やり応え十分な内容になっている。

ノベルゲームでローグライクな独特な遊び応えと巧みな工夫が光る

このシビアなシステムの面白さは、体験版の時点でも際立つものがあった。改めて完全版をプレイして思うのは、本作はノベルゲームの枠組みで「ローグライク」の遊びを表現するのを目指した作品になっている、ということだ。

足を踏み入れる度にダンジョン内部の構造が変わり、拾えるアイテムや敵の出現傾向も変わる。そして基本、1発勝負で、力尽きてしまえば入口(スタート地点)からやり直し。それが「ローグライク」というダンジョン探索をキモとするゲームの特色として挙げられるものだが、本作はそれらの特徴をノベルゲームの要素へと翻案している。法則性なく展開されるストーリーと選択肢、セーブとロードの仕様は最たる箇所。そのため、何度かプレイを重ねるにつれ、徐々にノベルゲームでも脱出ゲームでもなく、ローグライクを遊んでいるかのような錯覚に陥る。それと共にゲームオーバー兼バッドエンドの頻度も低下するプレイヤーの上達も現れるようになり、みるみると攻略スタイルが洗練されていくのだ。

この繰り返しプレイを重ねるたび、失敗しにくくなる変化は紛れもなくローグライク。それを選択肢ごとに導かれる結果の経験、知識の蓄積によって表現しているのが大変面白く、本作の大きな魅力になっている。何より、セーブとロードの仕様をシビアにしたことで、そう言った遊び心地を実現しているのが興味深い。前述のように、ノベルゲームでその後の結果を左右しそうな選択肢を目前にした場合は、セーブとロードを駆使した回避策を取りがちだ。筆者もよくやる。だが、それを封じられているとなったら、頭に叩き込むしかない。もしくは、メモを取って覚えておくしかない。

そう言った様々な選択肢を経験しては知識を増やし、被害を減らしていく。そんな分かりやすい失敗の経験と対処のしやすさによって、本作はプレイヤーの上達を感じやすくさせている。ジャンルを問わず、ゲームの醍醐味たるプレイヤーの腕前が上達する楽しさをこれ以上なく分かりやすく描き、体験しやすくしているのである。

体験版は一定の歩数に達すると自動的にゲームが終了したり、要素が限られていたので、あまりその辺を感じられなかった。だが、改めて出来上がった完全版をプレイすると、なるほどと思わせるものがある。同時にノベルゲームはゲームにおける上達の快感と醍醐味を最も味わいやすく、表現しやすいジャンルなのではと考えさせられたのだ。

決まった法則性がないストーリー進行もバランスが取れている。選択肢自体、完全ランダム生成ではなく、既存のものが順番に沿わず現れるシャッフル形式なので、経験次第では極端な被害を防止できるのだ。しかしダメージになったり、回復になるパターンもあるので、完全に被害を防ぐことはできず、攻略が安定化、パターン化することもない。この調整が絶妙で、経験を十分に積んだ再プレイでも一定の緊張感を持って取り組める。

もちろん、法則性がないことによる弊害もある。特にストーリーの流れが掴みにくいのはマイナス点。本作は全部で7つの結末が用意されているのだが、どのルートに突入したかを現す情報がないほか、演出も地味で、構成的にぶつ切り状態になってしまっている。各種結末に至るまでの展開も短め、かつ素っ気ないので、達成感に乏しいのも気になるところだ。この辺はシステムとの兼ね合いもあったのかもしれないが、できればルートごとのストーリーは濃い目に描いてくれていれば、と感じてしまった。一応、7つ全ての結末を迎えた後の”何か”はあるので、完全に不足している訳ではないのだが、あと一押しあれば、より魅力的になっていたかもしれない。個人差もあるが、もう少し補強してくれればと思った次第だ。

他にメッセージ送りの速度設定が無いなど、オプション周りの不足も惜しい。


だが、それでもノベルゲームでローグライクの遊びを違和感なく実現しているのは見事で、バランスの取り方も興味深い。このシステムは本作限りにするには勿体ないようにも筆者は感じたので、願うことなら将来、より進歩させた新作、あるいは続編を見ることができればと思う。制作の「星屑ポート」の活動には今後とも注目していきたいところだ。

脱出に必要なのは失敗の経験と知識。繰り返しプレイが楽しい意欲作

そのほか、ボリュームも1周に要する時間は最短で5分、長くて20~25分程度と周回がしやすい加減に落ち着かせているのが良心的。全エンディングを見終えるのを目的にした場合のボリュームも大体2~3時間(早ければ1時間半)ぐらいで、やり込みをするに当たっての負担が軽いのも嬉しいところだ。

ストーリーも流れが掴みにくい点はあれど、登場キャラクターの個性付けはきちんとしており、探索の過程で交流を深めたい気持ちにさせてくれる存在感がある。演出面も背景が森で固定されているため、変化に乏しいが、罠に引っかかった時には血飛沫が画面に飛び散るなど、それ以外の部分で補う工夫が凝らされていて、それほど気にならない。また、落ち着かせているなりにゾッとする場面もある。特にアンセリッジ絡みのイベントには、そのようなものが混じっているので要注目だ。

総じてノベルゲームとしては珍しい、システムと遊び応え重視な作りの本作。その影響で快適性、ストーリー周りで犠牲になっている箇所もあるが、唯一無二の遊び応えがあり、ノベルゲームの枠組みを駆使したローグライクを堪能できる意欲作に仕上がっている。

どちらかというと、あまりノベルゲームをプレイしない人に強くおすすめできる作品。ストーリー重視のノベルゲームをよくプレイする人の場合、賛否が分かれるかもしれない。だが、珍しい遊び心地を持つ作品である事実は揺るぎない。興味があればぜひ、お試しのほどを。様々な出来事に遭遇し、知識を溜めながら森からの脱出と隠された秘密に迫ろう。

[基本情報]
タイトル:『精霊の眠る森 Forest Of Fate』
作者:星屑ポート
クリア時間:5~20分(1周)
対応プラットフォーム:ブラウザ
価格:無料
備考:軽度の出血表現あり

プレイはこちら(ブラウザ版)
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/25068

※unityroom
https://unityroom.com/games/forest_of_fate

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence