フリーゲームとシューティングの蜜月ふたたび…… フリゲで始めるSTG:第0回

シューティング,フリーゲーム,連載

こんにちは、ビデオゲームや音楽について日夜、研究・執筆している死に舞と申します。ライターとしてはインディーゲームやビジネス関係の記事を書くことが多い私ですが、実はシューティングゲームが大好きです。ええ、シューティング。

え、FPS? いやいやいや。あれですよ、弾撃って弾避けるやつ。「STG」って書いた方が分かりやすいかな。海外の方には「Shoot 'em up, アーユーオッケェイ?アハ」。要するに『インベーダー』、『ゼビウス』とか、超有名シリーズの『グラディウス』や『ダライアス』、弾幕系では怒首領蜂シリーズ、東方Projectとか。そういうの知りません?知らないわけではない?え、難しい。いやいやいや、難しくても面白いゲームはいくらでもあるじゃん。『ダークソウル』とか『LA-MULANA』とか『Flappy Bird』とか。

はい、何が言いたいかというと、もぐらゲームスの「連休中に遊んでおきたい、おすすめフリーゲーム 10 選」にひとつもSTGが入ってないことを嘆いているんですよ! (そもそもアクションゲームも入ってないんですが……)。確かに昨今のニコニコ動画を中心として盛り上がるフリーゲームの多くは、ツクールやウディタ製のRPGとAVGが中心です。実際にニコニコ自作ゲームフェスの中でも、STGは非常に少ないようです。(網羅的なリストがないため、調べるの苦労します。この辺はニコニコ自作ゲームフェスの改善すべきところでしょう。)

しかしながら、その作りやすさと人気の高さから過去のフリーゲームの世界では、STGは花形ジャンルのひとつであったと思います。Windows以前では、伝説的フリーソフト制作集団のBio_100%がPC-9801などで多くのSTGを制作しています。他にもMSXなどのホビーパソコンや高価なX68000といったマシンでも、STGは常に制作されてきました。

Windows機以降は、DXライブラリHSPといった国産のゲーム開発ツールが登場。ツクールによるRPG同様、多くの人々がSTGを制作してきました。アーケードやコンシューマ機では、既に下火になっていたSTGですが、2000年代にはフリーゲームや同人ゲームで賑わっていたと思います。言うまでもなく、東方Projectの存在は大きいですが、フリーゲーム出身のマルチクリエーターの先駆けとも言えるアンディー・メンテこと泉和良氏もSTGを作っています。

フリーゲームによるSTG再興!

このようにかつてはフリーゲームの世界でも人気があったSTG。しかしながら、書籍化や映画化といった華やかな話題がついてまわる昨今のRPGに比べると、影が薄くなっていると言わざるを得ません。もちろん、フリーゲーム以外では、個人や同人で制作されたSTGは円熟期に至っています。アーケード化された『Crimson Clover』、圧倒的なビジュアルの『Astebreed』、斬新なシステムの『REVOLVER360 RE:ACTOR』など。これらは間違いなく、日本のインディーゲームのトップランナーです。

しかしながら、気軽に遊べる無料の世界におけるSTGの減少は、結果としてプレイヤー数の低下につながります。ただでさえSTGを遊べる環境は、2014年現在においても刻々と少なくなっています。アーケードでもコンシューマ機においても、STGの新作がリリースされるのは非常に稀。海外のゲームが中心のSteamでも、当然ながらSTGは超希少種です。同人STGには素晴らしい作品は多いのですが、いかんせん手に入れるハードルが高いのです。

そこで、フリーゲームなのです。始めるのが容易、かつ何度でも遊べる。STGの楽しみに触れるためには理想の環境です。多くの人が直感的に悟ってしまう通り、STGは確かに簡単ではありません。しかしながら、楽しみ方のコツさえ掴めば、末永く付き合って行けます。

プレイヤーが増えれば、タイトルも増える。かつて一部の人の拠り所となっていた 《楽園》が再びその姿を現す。フリーゲームによるSTGの再興。それは過ぎし日の残光(オールド・デイズ・フラクション)に惹かれるものにとって、 心を縛るには充分過ぎる程に魅惑的な色彩……おっと頭があらぬ方向に行ってしまいました。要するにフリーゲームを通して、STG盛り上がると私が嬉しいということです(笑)。

手軽かつ濃厚なSTGの魅力

とはいえ、これでは単なる回顧厨の妄想に過ぎません。読者に向かって、STGの魅力を伝えてこそ、フリーゲームによるSTGの再興が実現するのです。そのため、0回目の今回は、独断と偏見によるSTGの面白さをざっくり説明したいと思います。

1.手軽さ:短時間で濃い経験を
2.濃厚さ:作者のワガママが遺憾なく発揮
3.応用可能なスキルとプレイヤーの成長

1から順に説明しましょう。STGのプレイヤーにとっての一番のメリットは、その手軽さです。いや、手軽さというと語弊が生じるかもしれません。どちらかと言えば、その濃厚さに比して手軽にプレイできると言ったほうが良いかもしれません。

時間に追われる我々現代人にとって、いかにゲームをプレイする時間を捻出するかは永遠の課題と言えるでしょう。そんな中、STGの短さは非凡です。どんなに長いゲームでも、クリアに1時間以上かかるのは稀でしょう。RPGやAVGでも最近はコンパクトな作品が人気だが、STGの短さはその比ではない!

えっ!? そもそもクリアできない!? クリアするまで何十時間かかるの!? いやー、だったらクリアできるまで頑張って攻略しましょうよ。大丈夫大丈夫!思ったよりも時間はかからないから。1日1時間もやれば、すぐクリアできますから!!!

いや、冗談抜きにSTGは手軽に遊べます。クリアを目指す通しプレイで数十分、パターンを練習するのに数分、忙しい毎日の隙間に気軽に遊べるゲームがSTGなのです!いつぞやのソーシャルゲームのキャッチコピーみたいに聞こえますが、実際にその通りです。

しかも、一日一時間、プレイするだけで確実にお腹いっぱいになります!まさに手軽かつ濃厚。カルボナーラのような存在がSTGなのです!

この濃厚さは、次の2に深く関係します。というのも、STGは音楽、ビジュアル、演出をすべて作者の意のままにコントロールできる特権的なゲームジャンルだからです。これは多くのSTGがスクロールして進むということにも関係しています。作者は背景の描画に合わせてBGMを流し、敵の編隊や弾幕を自由にデザインしていきます。

特定の状況で特定の音楽と特定の演出を同期させること。これがここまで可能なジャンルは、筆者の知る限り、STG以外、存在しません。

しかしながら、これは逆にいうと、STGにおいては、プレイヤーは作者のワガママに付き合わされるということを意味します。同じ状況で同じ敵の出現、同じ音楽で同じ弾幕。さらに場合によっては、弾幕の避け方や敵の倒し方までパターン化する必要さえあります。そのため、STGはある意味では、作者によって描かれた絵をなぞる、作者によって作曲された楽譜を演奏するといったプレイスタイルが強くなります。(しばしば、STGと音ゲーの類似性について言及されるのは、そのためかもしれません。)

とはいえ、それゆえの濃厚さです。オープンワールドゲームのような自由度、RPGのような成長要素やカスタマイズ性などはSTGにはありません。作者が描いた世界にどれだけ近づけるかが重要となってくるため、プレイヤーが自分の欲求をありのまま満たすということは少ないでしょう。結果、STGを息抜きや手慰みでプレイするという行為はこの世には(ほとんど)存在しないのです!

多少、強調した嫌いはありますが、根本的な部分では私はそう信じてます。STGをプレイするということは、楽器の奏者になったり、バレエの踊り手になったりすることに似ています。優れた演奏家が感じる隷属的な恍惚感、束縛された行為の中にこそ潜む真の自由、そういったものにSTGの真髄があると考えています。

そうなると、最後の3は自然と出てくると思われます。STGが楽器の演奏やダンスに似ているならば、そのスキルは他のゲームにも受け継がれるものです。一つの楽曲をマスターしたら、他の楽曲を演奏するのは容易になります。それと同様、一つのSTGをクリアすると、他のSTGもクリアしやすくなるのです。

さらにSTGには張り付き、切り返しといったメソッドがあります(これらは今後の記事で紹介します)。それらをマスターすることは、特定のタイトルのスキルを獲得するのではなく、応用可能な基礎能力を習得することです。プレイヤーキャラクターの成長という要素がほとんどない分、STGは常にプレイヤー自身が成長するジャンルとも言えます。そして、プレイヤーが獲得した腕は、特定のゲームタイトルに依存することなく、存在します。

まとめると、STGは極めて短時間で濃厚な経験が得られるジャンルです。1日30分程度でも十分遊んだ気分になり、自分自身の腕が向上するのも感じられます。さらにゲームプレイ全般において、作者の押し付けが強いジャンルになりがちであるため、インディーゲームらしいとも言えます。それに対し、プレイヤーはプレイを通して強烈なサウンドとビジュアルを読み解くのです。STGはそういうアートなのです。

では、次回からそんな魅力に溢れるSTGの世界を体感していただくため、フリーゲームや同人ゲームを紹介していこうと思います。この連載を通して少しでも多くの人がSTGに触れていただければ幸いです。

  • 死に舞(@shinimai

    非常勤講師をつとめるかたわら、音楽やゲームなどの様々なコンテンツに関して執筆しているフリーライター。Hotline Tokyoというゲームファンによるイベント主催しています。最近プレイしているSTGは『ダライアス外伝』。ラスタースクロール最高だよ!!!東方ノーマルをクリアできる程度の能力。