ひとつのゲームの中に2つのゲーム。そして、2つで1つのストーリー。ユニークな試みが光る探索ADV『HOPEND』

アドベンチャー,フリーゲーム

ひとつのゲームに対し、仕様の違いを持たせた2つのパッケージを用意する。俗に「バージョン商法」とも称されるこの試みの先駆者と言えば、今なお国内外で絶大な人気を集める育成ロールプレイングゲーム(RPG)『ポケットモンスター』(ポケモン)だ。

そんな仕様の違いに留まらず、ストーリーやマップにも違いを持たせたもので、2001年にゲームボーイカラー専用ソフトとして発売されたアクションアドベンチャーゲーム『ゼルダの伝説 ふしぎの木の実(大地の章 / 時空の章)』があった。
ただ、似たようなゲームが後に続いた例はごく僅かだった。無理もない。1本20~30時間強のボリュームのゲームを2本作って一緒に発売するのだ。さらにそこに2つを連動させるシステムや機能を持たせれば、相応の時間とエネルギーを費やす必要が生じる。真似しようにも規模の大きなチームでないと難しいだろう。
ただ、裏を返せばボリュームを制限し、連動要素も最小限にすれば不可能とは言い難い。

今回紹介する『HOPEND』は、ほぼそれに近いことをやってみせたWindows PC用フリーゲームである。1つのゲームの中に2つのゲームが収録されているのである。

海底の謎を追う少年と、さらわれた兄を救うため奮闘する少女の物語

『HOPEND』はフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開されている。その特徴が現す通り、本作のゲームデータを解凍すると、以下のような中身が表示される。


▲解凍後の中身。

この2つのゲームごとに用意されたストーリーを追うのが主な内容である。

ゲームジャンルとシステムはいずれも共通。若干の謎解きとアクション要素を含む、探索型アドベンチャーゲームである。ストーリーに沿ってマップを行き来し、様々なイベントを攻略しながら進めていく。

2つのストーリー及び設定は以下、個別に紹介する。

『SIDE:HOPE』

西暦2048年、人類史上最大規模の地震「セリオン大地震」によって地球上の大陸の多くは海底に沈んだ。現在は震災を逃れた「メリーディーン」、「ノル」、「インディナ」の3国が残り、独自の発展を遂げていた。

そんな大地震から100年以上が経過した西暦2159年。ノル領「エルピス海」の沖で、小型旅客船「レーラ号」が暴風雨の直撃を受け、転覆する事故が起きる。レーラ号に母親と一緒に搭乗していた少年「ユリア=イリス」(ユリア)はこの事故に巻き込まれ、その衝撃で海へと放り出されてしまう。

だが、ユリアはなぜか生き延び、海の底へと辿り着いていた。

さらにそこから先に進むと、謎の少女がひとり佇んでいた。少女は「シエル」と名乗り、海の底で暮らしていた人たちの墓の守りをしているとユリアに語った。そして、ユリアはシエルの助力を得て、海の底から地上へと帰還。メリーディーンの浜へと流れ着くのだった。

ところが、そこで彼の身には異常なことが起きていた。

後に諸事情から、メリーディーンのマグダウェル家に仕える使用人「ユーンライナ=スミス」として生活することになったユリアは、件の事故で体験した出来事の秘密を追い求め、やがて驚くべき陰謀に巻き込まれていくことになるのである。

『SIDE:END』

世界のどこか、星の海に浮かぶ小さな世界「エランク」。太陽が毎日キラキラ輝き、心地よい風がそよぐこの島に「コト」と「ヒィナ」の兄妹、その家族である青年「キヅキ」が暮らしていた。

今日も兄のコトに挨拶し、ドウブツ達に餌をあげに行こうとするヒィナ。

だが、そこに仮面を被り、背中に黒い翼を生やした謎の男が現れ、コトを連れ去ってしまう。
ヒィナとキヅキはコトを救出するため、男の後を追いかける。

このようなストーリーがそれぞれで描かれるようになっている。いずれもその始まりどころか、世界観まで別物となっているが、これでひとつの作品である。

また、2つの内、最初に遊べるのは「SIDE:HOPE」だけ。もうひとつの「SIDE:END」は「SIDE:HOPE」を終えた時に表示される「クリアコード」の入力が必須となる。なので、プレイヤーが興味を抱いたものから始めるということはできない。
ただ、あえてそのようにした理由はきちんと付けられている。

具体的にどんな理由かは例によってプレイしてのお楽しみということでご容赦を。

練られたマップ構成とイベントと共に紡がれる、意表を突くストーリー

本作の魅力はそのストーリーである。前述の通り、一見は2つとも別作品のようである。片や近未来が舞台のSF、片やウサギのような耳の生えたキャラクターが登場するハートフルな雰囲気のファンタジー。どこを見ても共通点と思しきものがない。しかし、この2つは紛うことなき同じ作品。そのことを思い知らされる要素が仕込まれているのである。

そのような見所もあって、衝撃の度合いについては「SIDE:END」が勝る。そもそも、「SIDE:END」はどのような場面が用意されているか、スクリーンショットも僅かしか掲載できない。
よって、この記事では「SIDE:END」のスクリーンショットはごく一部に限った次第だ。

では、「SIDE:HOPE」は衝撃が弱いのかと言われれば断じて違う。こちらも見所満載で、侮り難い内容に仕上げられている。

特にオープニングの海難事故から主人公のユリアが「ユーンライナ=スミス」として生活するようになるまでは、その後の展開への興味を嫌でも刺激する流れにまとめられている。そこから先も個性的な登場人物が続々と登場しては、かの事故との思わぬ繋がりが明らかになるなど、興味を抱かせるイベントが続いていく。そして、ユリアは大きな陰謀に直面することになるのだが……その先がどうなるかは大よそ察せると思われるので、何も言わないことにしよう。

一個人の感想になるが、「SIDE:HOPE」は全体的に意表を突く内容になっていたところに唸らされた。いい意味で最初に抱いた先入観が崩される場面が盛り沢山で、強烈な印象を残すのである。

そしてこれは「SIDE:END」にも共通することで、ネタバレには当たらないので明かしてしまう。全体的にイベントのテンポが良くてダレない構成にまとまっているのが素晴らしい。キャラクターを直接動かしたり、特定のコマンドを入力するといった直接参加型のものが都度挿入されるのもあって、起伏を感じながら一連の展開を楽しめるのだ。

特に参加型のイベント、謎解きやアクション要素は難易度が絶妙。ストーリーの進行を邪魔しすぎず、それでいてゲームとしての手応えも演出する調整が施されている。

これらのイベントが仕込まれたマップも洗練された作りで、探索していて苦にならない。実のところ、本作は移動速度が遅めに設定されている(※一部イベントに限り、早く移動可能になる)。そのため、全体としてはややスローテンポなのだが、相応に広さを制限しているため、不思議とストレスを感じさせない。行き先が分からなくなることも滅多になく、気持ちよく行き来できるのである。

探索要素のあるアドベンチャーゲームの場合、このようなイベントが盛り込まれると、何かとストーリーを見たいという思いの妨げになりがちだ。本作はそこに過度な負担がかからないよう全体が調整されているので、気分を害すことはない。それでいて、無意味な存在にならない程度に手応えも残しているので、ゲームを遊んだ気持ちにもさせてくれる。

そんなアクセントの付け方が見事で、驚くべきバランスでまとめられているのだ。これもまた、実際にプレイしないと良さが分からないのがもどかしいが、きっとまとめ方の上手さと違和感のなさに驚かされるはずである。ストーリーも驚き満載だが、こういったゲーム部分にも遊びを通した驚きがある。強烈な印象を残してくれるのだ。

なので、エンディングまで駆け抜けた後の充実感も申し分ない。取り分け「SIDE:END」は締め括りも素敵なので、きっとプレイして良かったと思えるはずだ。例によって詳細は語れないが、いいものを見せてもらったと一言言いたくなるかもしれない。

2つで1つの作品という作りも驚き十分だが、それぞれのストーリーもゲーム部分も負けず劣らず。この一連の特徴に少しでも興味を抱いたのならぜひ、ゲームをダウンロードして始めていただきたい。きっと素敵なひと時を過ごせるはずだ。

一部の描写不足などが惜しくも、唯一無二の魅力が光る意欲作

……が、引っ掛かりを覚える点も割とある。ストーリーに関しては掘り下げが甘かったり、ぽっと出に終わる登場人物の多さがそのひとつ。

「SIDE:HOPE」の陰謀の首謀者たる人物と、「SIDE:END」のキーパーソンであるヒィナの兄・コトは最たる象徴で、まだ少し描けるところがあったのではと筆者は感じてしまった。

また、駆け足気味の展開も目立つ。「SIDE:HOPE」のラストは、もう一段、二段階ぐらい引き延ばしたり、特殊イベントを挿入した方が締め括りとしては申し分なかったように思える。そのためか、あまりにも唐突な流れになってしまっている。これはテンポ重視の姿勢によるものか、様々な場所に世界観の説明を始めとする情報を仕込んだ結果かは分からないが、筆者としてはそこがあまりにも惜しいと感じてしまった。

イベントもステルスアクション、マインスイーパー風の罠が仕掛けられたマップなど、若干難易度が高かったり、初見殺し気味なものがあるのも気になった部分だ。一応、セーブとロードを繰り返すことで緩和できるほか、後者は即ゲームオーバーになるようなシビアさはないが、もう一段階下げる必要があったように感じた。

最後に難点、気になった箇所を列挙してしまったが、それでも独特の個性と驚きを持ち合わせたアドベンチャーゲームであることに揺らぎはない。言及が遅れたが、グラフィックもマップからキャラクターの立ち絵まで手の込んだ仕上がり。マップのデザインにも独自のセンスが炸裂していて、中でも「SIDE:HOPE」の中盤以降の舞台となる「インディナ」のカオスな光景は注目だ。

なぜ、1つの作品の中に2つのゲームが入っているのか?明らかに別物な内容のストーリーが1つの作品であるのか?若干、粗もあるが、様々な興味深い要素と探索型アドベンチャーとしての優れた仕上がりが光る本作。どこに興味を抱いたかは構わない。少しでも気になったらすぐにでもプレイしよう。そして、2つのストーリーに隠されし真相を探し出すのだ。

その先にアナタは希望が終わる瞬間を目撃する……!?

[基本情報]
タイトル:『HOPEND』
作者:トウヤイユキ
クリア時間:5~8時間(全体)
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料
備考:軽微な自傷表現あり

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/26012

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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