それでも”上”を目指さないと。登山モチーフのホラーADV『色のない詩―ウタ―』

アドベンチャー,フリーゲーム

森の中で目覚めた紅里(あかり)。
だが、傍にいたはずの妹・詩織(しおり)の姿がない。
森の奥へと行ってしまったのだろうか。
紅里は妹を探すため、その後を辿っていく。
例え疲れ果ててでも。

『色のない詩―ウタ―』は「第12回 WOLF RPGエディター コンテスト」(通称、ウディコン)応募作品のひとつで、Windows PC向け探索ホラーアドベンチャーゲーム。同じく探索ホラーアドベンチャーゲームの『オニアソビ』の作者、睦涼(むつみ りょう)氏の新作でもある。ダウンロードはフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」より行える。

上を目指せ。さすれば道は拓かれる。

主な内容は前述のあらすじ通りだ。行方不明の妹を探し出すため、森の奥へと向かう。たったそれだけだ。具体的には見下ろし(俯瞰)視点で構成されたマップ上で主人公の紅里を動かし、前進していく。ひたすら移動を繰り返す。驚くほど直球な作りだ。

ただ、その過程で”敵”が紅里を襲ってきたり、奇怪な謎が行く手を阻んだりするため、一筋縄ではいかない。さらに「スタミナ」の概念及びシステムが、危機を乗り越える際の課題として重くのしかかる。

本作では移動するたび、画面右上に表示された「スタミナ」のゲージが減る。これが最小値に近づくにつれ、紅里の移動速度が低下し、空になればその場から動いていないも同然なほど鈍化してしまうのだ。

逆に立ち止まれば(歩みを止めれば)スタミナは回復。一定値に達すれば本来の速度に戻る。なので、遅くなってきたら立ち止まり、ある程度回復したら再開させるのが基本的な進め方となる。

だが、前述の通り移動中には敵が紅里を襲ってくることが。当然、紅里は対抗手段など持ち合わせていない。よって、取れる選択肢は逃げることただひとつ。その逃げる際にもスタミナは容赦なく減り、速度が低下していく。回復行動を取らず移動し続ければ、どんな顛末を迎えるかは想像に難くないだろう。逆に回復するために立ち止まるのも危険。敵の辞書に「休む」の2文字はないのだ。

このため、敵との距離を常に意識し、余裕を持った行動を取っていくことが大事。まさに間合いを意識した駆け引き、個々の状況に応じた判断が要所ごとに試されるのである。やることはただ移動するだけなのに、乗り越えるのには困難が伴う。「単純だからこそ難しい」を突き詰めたかのような、独特かつ意表を突くゲームデザインが凝らされている。

また、スタミナが減る条件もユニーク。移動のたびと前述したが、厳密には「上を目指している(登っている)時」に限って減る。降りている時には減らず、延々と速度を保った状態で移動し続けられるのだ。

しかし、裏を返せばそれは本筋から脱線していることを意味する。本作は妹を探し出すために上を目指し、登ることが主題。そのことに反する行動は目標を無視することと同義なのだ。変化はスタミナが減る時、登っている時だけと、なんとも示唆に富んだ設定になっている。また、それ自体がゲームの進行、プレイヤーの進むべき道を示す指標にもなっている。メッセージではなく、ゲームシステム側で導く手法を取っているのだ。

そのことから、本作は(森が舞台とは言え)登山ゲームとも称せる。しかしながら、根っ子は探索型ホラーアドベンチャー。恐怖と絶望を描くことに特化した作りだ。そこに登山由来の道を歩く険しさ、辛さを織り交ぜたシステム、ストーリーを見所とする。

疲れ果てる恐怖、謎だらけのストーリー

特に敵から逃れるイベントの緊張感は相当なものだ。主人公に襲い掛かる者を避けながら進むイベントは、探索アドベンチャーではある種、お約束の要素だ。だが、本作は避ける際にも逃げる際にも常に制約が付きまとう。

「スタミナ」の概念だ。これのおかげで歩き続ける訳にもいかず、立ち止まる訳にもいかずという強烈なジレンマをプレイヤーに体験させ、恐怖を煽るイベントに完成されている。しかも、そのバリエーションが豊富。崖を登る、迷路を進む、謎解きと並行するなどの様々なパターンが用意されており、いい意味でプレイヤーに不意討ちを決めてくるのだ。

敵もただ紅里を追いかけてくるだけではない。中には紅里の動き、行動に応じて動き方を変えてきたりもする。特に謎解きと並行するパターンに多く、襲われる恐怖に晒されながら突破口を探っていく緊張感は文字通り手に汗握るものになっている。しかも、解かなければ長々と襲われ続けることにもなるのだ。そこで捕まってしまい、ゲームオーバーになった時の絶望感と精神的ダメージたるや、推して知るべし。

一応、イベント直前にチェックポイントが設定されるので、リトライ時の負担は軽い。だが、途中セーブは乗り越えるまで一切できないので、失敗すればするほど地獄のループへ突入だ。ホラーゲームらしい容赦のなさとなっている。

また、謎解きも総じて手ごわい。別に複雑なパズル、解読が求められる訳ではなく、カラクリを把握すれば難なく解ける難易度である上、全部に敵が出てきては襲われ続けることもない。謎解きだけに集中するイベントも用意されている。だが、かなり入念な観察力が試される。マップもそこそこ広く、目的地や次にやることも示されないので、場合によっては右往左往することも。まさに探索アドベンチャーというジャンルの特徴を活かしきった、手応え重視の設計になっている。しかも、敵に襲われながらのパターンもあるほどだ。一筋縄ではいかない構成なのはお察しの通りである。

「スタミナ」のシステムの使い方も面白い。前述の通り、これがゲームの進行を指すガイドのようになっている。つまり、スタミナの減る方向に向けて登れば、必ず答えがある。その現象自体をヒントと見立て、探索を助けてくれるのだ。それもあって、マップ上を衝動的に動き回りたくなる不思議な楽しさも。探索アドベンチャーとの相性の良さが際立っている。

さらにストーリーでもこのシステムを活用しているのが秀逸。真相を解き明かすに当たっての大きなカギでもあるからだ。また、内容自体も非常に謎めいたものになっている。消えた妹を探し出すために森の奥へと向かうだけなのに、奇妙な敵が現れて襲ってきたり、なぜかスタート地点へと戻ってきてしまうという怪奇現象が相次いで発生する。

しかも、その場には行方不明の妹も現れる。これにて目標達成かと思いきや、妹はまたひとりどこかへと行ってしまい、あとを追いかけることになる。そして、そのまま後を追うにつれ、舞台は森からどこかの一軒家、再び森の中へと移り変わっていく。

そして段々と、物語の着地点が分からなくなっていくのである。まさに謎が謎を呼ぶ内容だ。初見時なら理解が追いつかず、脳内に疑問符の嵐が吹き荒れるだろう。
だが、幾つかのイベントと探索途中に拾う妹のスマートフォンに送信されてくる「メモ帳」の内容を確かめていくことで、少しずつ今起きている現象の正体が見えてくる。同時に上を目指して”前進し続ける”ことの意味も明らかになってくるのだ。

全ての答えは、ネタバレになるが2周目時のエンディングで明かされる。到達には多少の手間を要するが、本作の「スタミナ」システムに隠された意図を知れる興味深い内容になっているので、がんばって辿り着いてみて欲しい。このシーンと結末を描くために「スタミナ」のシステムは存在したと、唸らされるだろう。

だが、これは念のための微ネタバレだが……非常に鬱要素の強い結末になっている。精神的に参っている時に見ると応えるので、御注意いただきたい。

「たかいばしょでまってるね。」

全体的にシステム面でも、ストーリー面でも唯一無二の恐怖を描くこだわりが光る出来だが、好みの分かれる部分も多い。ひとつに移動速度。スタミナが十分ある場合でも速度は遅めである。また、立ち止まることを求められる関係から、ゲームテンポはゆったりとしたものになっている。

この影響で謎解きイベントにやや時間を要しやすいのは、先に進みたい意欲が強いほどストレスを感じるかもしれない。また、序盤の終わりにかけて用意された迷路にちなんだイベントはさすがに長すぎる。しかも、チェックポイントはイベント開始時だけ。もし、攻略直前に失敗すれば結構なやり直しを強いられるのだ。せめて、2~3フロア突破単位でチェックポイントがあればと思ってしまった。

また、ストーリーもオチもさることながら、曖昧なまま終わる事柄が幾つかあるのもスッキリ終わりたい人なら嫌悪感を抱くかもしれない。ただ、作中で手に入る情報を結び付け、整理すれば大体のことは見えてくる。また、はっきりしないからこそ、良くも悪くも余韻が残る。これでこそホラーゲームな潔さもあるので、一概に悪いとは言えない感じだ。

他にうめき声、不意に現れる不気味な一枚絵など、演出面もこれぞホラーゲームだと言わんばかりの仕上がり。ボリュームも1周は1~2時間、真相に迫る2周目を含めれば2~3時間と適度な長さに収まっている。地味ながら、舞台となるマップのバリエーションが多彩なのも見所である。

移動主体とは言え、それに制限を課すシステムがあることから、結構尖ったゲームではある。だが、それを恐怖体験に留まらず、ストーリー的な演出としても活用した作りは唯一無二。一風変わったホラーゲームをお求めの人ならぜひプレイいただきたい1本だ。

やることはただひとつ。
登り続けよう。前進し続けよう。疲れ果ててでも。さすれば”道”は拓かれる。

[基本情報]
タイトル:『色のない詩―ウタ―』
作者:睦涼(青色ラテルネ)
クリア時間:2~3時間
対応OS:Windows
価格:無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/23815

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