過去を取り戻した果てに待つ、壮絶なる宿命。長編ストーリーRPG『ロストヘヴン -Lost Heaven-』

2020年もロールプレイングゲーム(RPG)制作ソフト『RPGツクール』シリーズを用いて作られた作品が数多く誕生した。当もぐらゲームスでも印象的な作品をいくつか取り上げたが、そのさらなる1本として紹介したいのが『ロストヘヴン -Lost Heaven-』だ。

本作は2020年6月19日、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」にて公開されたWindows PC用フリーゲーム。

制作ツールは『RPGツクールVX Ace』で、約6年もの制作期間を費やして完成に至った経緯を持つ長編RPGである。

過去の記憶を巡る壮絶な旅路を描いた、ストーリー重視型RPG

外界と隔離された、地図に無い記憶喪失者たちが暮らす村「フォーア村」。

主人公の青年「ライゼ」は、満月の夜にその地で目覚めた。過去の記憶を失っていたライゼは、同じ境遇にある村の人たちとの生活を余儀なくされ、いつしか半年の月日が過ぎ去った。

そして再び、満月の夜の日が訪れる。この日、少女「リーン」と共に村の外へと出かけたライゼは、誰も知るはずがない村の存在を知る来訪者「ティサラ」との出会いを果たす。それを機にライゼの運命は再度動き出し、外の世界と己の過去を辿る旅へ出ることになる……。

興味深い事柄が続々飛び出すオープニングと共に始まる本作は、ストーリー主導型のRPG。イベントに沿って目的地を目指したり、ダンジョンを探索したり、果ては強敵との戦闘に挑むなりして進めていく。RPGとしては割と王道寄りの作りだ。

システム周りも町やダンジョンなどのエリア、それらへの移動を中心に行う大陸の2種類のマップ、エリア探索中にランダム発生する戦闘(エンカウント)、敏捷(AGI)のステータスが高いキャラクターから順に行動する戦闘の仕様と言った、ジャンル的に馴染み深いものが採用されている。

いくつか特徴的な要素も。ひとつに「ふれるとスキットシステム」。主にエリアマップにおいて、吹き出しのアイコンが表示されたポイントがあり、触れるとキャラクター同士の掛け合いが展開されるようになっている(※一度見た後の再確認は不可)。掛け合いの内容はキャラクターや世界観の掘り下げ、進行状況の補佐が中心。必ず見る必要は無く、ストーリーを最優先で進めたい時は無視して問題なし。あくまでもストーリーをより深く楽しみたいプレイヤーを対象にした要素になっている。

もうひとつに戦闘における「ボーナスゲージ」。画面右側に設置されたもので、攻撃実施のたびに上昇。満タンに達すると特殊効果が発動し、ゲージが空になるまでの間、その恩恵にあずかれるようになる。特殊効果は攻撃力、防御力などのステータス上昇のほか、勝利後の獲得経験値と資金2倍と言ったボーナスまで様々。ただし、後者は勝利時にゲージが切れた状態だと無効になる。また、ゲージは敵の攻撃を受ける度に減少。確実、かつ早急に特殊効果を発動させたいなら、連続攻撃系の特技(スキル)を積極的に使ったり、パーティメンバーの攻撃が連続するようアクセサリー系の装備を使って敏捷値を調節すると言った工夫が必要だ。

その仕様が象徴するように、戦闘は特技による攻めが推奨される。通常攻撃、防御のたび、特技使用時に消費するMPが回復する(※量は後者の方が多め)仕組みになっているのもそれを物語っている感じだ。

とは言え、全体的な難易度は低め。ある程度、力任せでも難なく進めていけるバランスになっている。ボス戦前の全回復&セーブポイント、エンカウント率を自由に設定可能な救済アクセサリーなど、シビアさを取っ払う試みが多数施されているのもその象徴だ。

まさにストーリー重視型らしいRPG。どこがキモなのかがハッキリとした内容に完成されている。そして、本作の売りもまた明瞭。ストーリーだ。見事なまでに止め時が分からなくなるものになっている。

絶妙な”引き”とストーリーのための意義ある低難易度

だが、具体的な見所の紹介、言及は避ける。本作は特に事前情報がないほど、イベントごとに起きる怒涛の展開の数々に衝撃を受けては翻弄され、ゲームを止められなくなるスパイラルに陥る極上(?)の体験を味わえるからだ。なので、これからプレイする方は極力、最低限の情報を集めることに留めていただければと思う。

しかし、なぜそうも止め時が分からなくなるほどなのかと言えば、本作のストーリーは全体的に”引き”が絶妙過ぎるのである。気になる情報、設定を断片的に明かしつつ、後のイベントで丁寧に回収した後、重要なものに触れた際には一気に畳みかける手法で構成しているため、関心が途切れることなく維持され、続き知りたさに進めていきたくなる面白さに秀でているのだ。

中でも主人公のライゼ、ヒロインのリーンの過去に迫っていくイベントはその魅力が最も凝縮されたものになっている。例によって、詳細は見てのお楽しみだが、一連の展開を体験するたび、このストーリーのキモは二人にありと思い知らされること間違いなしだ。もちろん、脇を固めるキャラクターたちにも相応の見せ場を用意。彼らがどのようにしてライゼとリーンを支えていくのか、そう言った関係性が事細かに描写されている。

しかも、ストーリーに限らず、ゲームバランス面でもそう言った関係性を表現しているのが見事。具体的には戦闘難易度なのだが、前述の通り、本作は低めに設定されている。どれほど低いかは、雑魚敵との戦闘は「オートバトル」機能使用で概ね安定して勝てる程度(被害も極少)と言えば想像が付きやすいだろう。ボス戦ではさすがに通用しないが、それでも大半は余裕で初見撃破が可能。一部、強敵もいるが、本作は状態異常技がほぼ全てのボスに通用する仕組みになっているので、これと戦闘中のステータスアップ系のスキルを活用すれば、それほど苦戦せず撃破可能。それもあって、戦術的な面白さ、手応えを求める人には物足りなく感じやすいバランスになっている。

だが、本作が見事なのは誰かひとりの単騎プレイには陥りにくいこと。確かにそれぞれ、強力なスキルを持っているが、相応に弱点(目を負傷している関係で命中率が非常に低い、物理攻撃力が皆無など)も明確に設定されているため、そこを補う行動を個々が決めることで、有利な流れが作り出されるよう調整されているのである。

それがキャラクター同士の関係性、個性を見事に表現していて、戦闘もストーリーの一幕だと表現した作りになっているのが凄い。本編の進展に応じ、一部のキャラクターは「奥義」を習得したり、時に内に秘められた特殊能力が開花される強化が行われることもあるが、それも過度に強くし過ぎて単騎プレイに繋がらないよう、気を配って調整されている。中でもライゼは終盤、序盤とは比べ物にならないほど強くなるのだが、それでも行きすぎない程度のバランスに落ち着かせている。むしろ、ここぞという時に大爆発するようストーリー側で設定されていて、それがまた大変理に適ったものになっているのだ。

低難易度なのはストーリー重視ゆえ、と事前情報からは想像するかもしれない。実際、それを意図して設定されているきらいはある。エンカウント率を制御する機能(装備品)、ボス戦直前の全回復ポイント、戦闘の高速モードの存在もまた、それを物語っている感じだ。かと言って、決して雑に調整されたゲームではない。キャラクターの個性、関係性を表現する意図で低難易度が作り出されており、作品全体の根幹に組み込んだものへと昇華させているのだ。

普通にプレイすれば遊びやすく、テンポ抜群のRPG。しかし、単騎プレイが起きにくい所に本作の真髄あり。ストーリーの流れと併せれば、より一層、その調整の妙を味わえるので、プレイの際は注目いただきたいところだ。もちろん、ストーリーの中身も必見。止め時が分からなくなると表するほどの凄味は、実際に体験すれば嫌になるほど思い知らされるはずだ。

確たる信念と圧倒的な訴求力を持ち合わせた、傑作ストーリーRPG

ただ、低難易度にしたなりの難点も。最も目立つのは消費アイテム類の空気ぶり。全回復ポイントのほか、本作は通常攻撃実施のたびスキル使用時に消費するMPが回復する仕様になっているので、イマイチ活躍の機会に恵まれない。(強敵との戦闘ではまあまあ使う)

また、ダンジョンマップもやたら長い通路や広いフロアが多く、全体的に整理されていない印象が否めない。一部、それが演出的に活かされた場面もあるのだが、それ以外はもう少し全体を圧縮するなりして、密度を高める方向にして欲しかったように思う。1つひとつのボリュームは適切、かつエンカウント率制御の装備の存在もあり、ストーリーの先を見たい欲求を邪魔しない塩梅に収まってこそいる。だが、筆者としては広々とした構成にする意図が掴めず、終始違和感が付きまとった。それ以外に洞窟系マップの薄暗さも少々やり過ぎだった印象だ。いずれも調整の一考があったように思う。

他にメニュー画面に「QUEST」の項目があるのだが、これが終始空っぽなのも気になる。

実は本作、今後のアップデートでメインストーリーとは別のサブクエスト追加が予定されていて、そのためにこの機能が用意されているらしい。ただ、メインストーリーの進捗確認機能として使っても良かったのでは?スキットが代わりとはいえ、一度見ると再確認できなくなる仕様のため、長期間経過後の再プレイで、目的が分からなくなる恐れもある。折角用意した以上は、もっと積極的に活かして欲しかったところだ。

色々書き殴りはしたが、いずれもゲームプレイに支障を与える程度の難点ではないのがせめてもの救いだ。現にストレス要因を取り除く徹底ぶりは凄い。エンカウント率制御装備以外にも、敵の体力は常時表示、取り返しのつかない場面では事前セーブを促すなど、不便に感じさせまいとする明確な意志が貫かれている。

メインストーリーのボリュームも13~15時間ほどと中規模ながら、密度の濃さもあって結構な満腹感が得られる。演出面もスキル発動、奥義発動時にキャラクター別のカットインが挿入されたり、ボイスが流れるなど、派手さを突き詰めているのが印象的だ。キャラクターの顔グラフィックなども全てオリジナル。表情差分も多彩なので、それらの変化を楽しむ魅力が詰まっているのも見逃せない部分だ。

総じて、正しく”ストーリー重視型”の特色を貫き通している本作。その手のRPGをお求めのプレイヤーにはこれ以上なく、その欲求に応えてくれる傑作に完成されている。特に繰り返しになるが、ストーリーは本当に止め時が分からなくなるほどの高い訴求力と中毒性を併せ持つ。酷いと徹夜になりかねないほどだ。筆者はそうなり、翌日に地獄を見ました。(※よい子は真似しちゃダメ!)

とにもかくにも、見た目やストーリー設定などに少しでも惹かれたのなら、ぜひプレイいただきたい。2020年を象徴するRPGツクール製タイトルの1本に相応しい内容の濃さに身を委ねてみよう。そして、今後の大型アップデートにも注目だ。

[基本情報]
タイトル:『ロストヘヴン -Lost Heaven-』
作者:なみだ
クリア時間:15~20時間
対応OS:Windows
価格:無料
備考:流血表現有り

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/23154


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