汝は名探偵?迷探偵?調査力とやる気が全てを決するミステリーホラーアドベンチャー『マダム・ポプスキンの憂鬱』

アドベンチャー,フリーゲーム

山に囲まれた鉄鋼の街「ローレル」。
この小さな街は元貴族「ポプスキン家」を中心に発展してきた。

特に当代当主「オディール・ポプスキン」は街の飛躍的な発展に貢献し、大きな富と名声を得たことから、人々からは敬愛と畏怖を込めて「マダム・ポプスキン」と呼称されている。

そんな彼女がある日、ローレルともポプスキン家とも縁もゆかりもない名ばかり探偵「ミシェル・ヴィドック」に依頼を求めてきた。その依頼内容とは40年前、ローレルの街にある古城でマダムの身に起きた出来事を可能な限り詳細に調べて欲しい、というもの。

御年70歳の彼女は、当主の座を従甥に譲るべく人生の整理を始めており、そのために未だ判然としていない40年前の出来事を明らかにしておきたいのだという。

かくしてミシェルは顧問弁護士「ジョルジュ・メルシエ」から提供された資料をもとに、40年前の出来事に関する調査を開始する。
この調査が成功するか失敗に終わるか。すべてはあなたの調査力とやる気次第だ。

ほのかにイギリス文学的な雰囲気漂う本作『マダム・ポプスキンの憂鬱』は、「マダム」「探偵」「古城」の3つを題材にしたミステリー・ホラーアドベンチャーゲーム。

2022年5月より「ふりーむ!」と「ノベルゲームコレクション」にてWindows PCおよびブラウザ向けフリーゲームとして公開中の作品である。

名ばかり探偵が挑む、マダムからの奇妙な依頼

内容としては調査と情報収集に焦点を当てたアドベンチャーゲーム。プレイヤーは名ばかり探偵のミシェル(※名前は自由に変更可能)に扮し、マダムより依頼された40年前の出来事の真相を究明するため、ローレルの街での調査に挑む。

具体的なゲームの流れを紹介すると、本編は1日を過ごしながら依頼に関係する調査を行っていく形となる。1日は「午前・午後・夕方・夜・深夜」の5つの時間帯で構成。そのうちプレイヤーが行動可能な時間帯が「午前・午後・夕方・夜」の4つ。

この時間帯にローレルの街中にある全8エリアのひとつへと移動・訪問し、現地での調査に取り組んでいくことになる。各エリアへの移動はローレルの街全体を表した選択画面から、行きたい場所を選んで決定するだけと単純。
そして、移動と共に調査が実施されると時間が進む。

最終的に深夜を迎え、イベントを進めるとその日の調査の成果が出て1日が終了。その後、次の日が始まって再度、「午前・午後・夕方・夜」の時間帯での調査に取り組んでいくという感じだ。
基本的にはこれらを繰り返し、プレイヤーは本編を進めていく形となっている。

なお、日数の概念が物語る通りだが、本作には期日が設定されている。

本編は10月20日午後から始まり、2日後の10月22日の夜にマダムとの面会が組まれる。この面会において、プレイヤーはマダムに調査の進捗を報告しなければならない。要するに、10月22日の夜までに40年前の出来事にまつわる、十分な情報を集めなければならないのである。仮に情報不足のまま、面会の日を迎えてしまうとどうなるのか?

概ね想像できるかもしれないが、マダムからクビを宣告されて調査打ち切りである。
別の言い方でバッドエンドとも言う。(ちなみに本作には行動に応じてエンディングが複数分岐する仕組みになっている)

なので、プレイヤーは適切な行動を取って情報を集めていかなければならない。また、無事に乗り越えたとしても、今度は10月29日に次なる面会日が組まれる。しかも、その日というのは最終報告を実施する日になる。

紹介が遅れたが、プレイヤーことミシェルが街に滞在できるのは10月いっぱい。それ以降は街から去らなければならないのだ。よって、仮に10月29日までに真相の究明ができなければそれに相応しいエンディングが確定する。まさに時間との戦いなのである。

以上の本編の流れが物語る通り、本作は制約の中で適切な行動を取っていくことがカギを握る、攻略性高めのアドベンチャーゲームになっている。しかも、基本的にどんな行動を取るかはプレイヤーの自由。どのエリアから調べるかなど、決められた流れがないので、気分の赴くがまま調査を展開していけるのである。

逆を言えば、サボることも自由自在ということだ。
拠点のホテルの自室でダラダラ過ごしたり、Barで飲んだくれたりなど。
もちろん、そんなことをすれば然るべき結末が待っているが。

そんなプレイヤーの好みをよくも悪くも反映できる作りも大きな特徴。グータラでポンコツな探偵もどきになるか、仕事をきっちりこなす探偵になれるかは、冗談抜きにプレイヤーのやる気と判断次第。冒頭のストーリー紹介にて結んだ一文は決して誇張でもなんでもない。本当にその通りの体験が詰め込まれたゲームに仕上げられているのだ。

この依頼に真面目に応じるか否かは”マジで”プレイヤー次第

その魅力も明瞭。名探偵になるか、迷探偵になるかは己次第の自由度の高さである。

そもそも、サボり続ける行動を取った時のそれは、もはや探偵ですらないが。ただ、そんな行動ができる程度に自由が許された作りは大変面白く、探偵を主人公に据えたアドベンチャーゲームならではの個性として確立されている。

情報収集が依頼遂行のカギゆえ、計画性が求められる設計も独特の面白さと手ごわさがある。特に期日の設定、「古城」の存在がそれらを際立たせている感じだ。

期日に関してはほぼ言葉通り、限りある時間の内に十分な情報を集めなければならないので、どのエリアに訪れ、どんな情報を集めるかをあらかじめ考え、調査を実施していくのが重要となる。

どんな情報を集めればいいかは「行動指針」と称されたガイド機能が教えてくれるため、行き詰まる心配はないが、あくまでも指針。具体的な順序は示されない。

また、最初から広範囲に動ける上、時間が進むと訪問できなくなったり、情報を得たい人が居なくなる変化も生じるので、無計画に行動すると最小限の情報しか集まらずに終わってしまうこともある。しかも、時間が進めば自動的にセーブが行われる仕様。一応、進む直前に手動セーブする手も使えるので、取り返しの付かない事態の回避は容易だが、その特徴が物語る通りにそれなりの試行錯誤と計画を考えることは避けられない。

こうした様々な仕掛けも設けられているので、調査するのは結構大変。同時に探偵という仕事の難しさとやる気が必要とされる実態も思い知らされたりと、特有の体験を演出することも抜かりない設計になっている。
期日という制限が設定されているからこそ光っている部分でもあり、探偵が主人公のアドベンチャーゲームとしての醍醐味を実感させられること請け合いだ。

「古城」もそんな計画を練る面白さと手ごわさを引き立てる。紹介が前後したが、ローレルの8つあるエリアのうちのひとつ「古城」は他と決定的に異なる特徴がある。それは調査に丸1日を必要とすること。

すなわち「古城」を選べば残る7つのエリアは調査できなくなるのだ。だったら「古城」は無視すれば……と思いきや、そうはいかない。40年前の出来事が起きた現場であるからだ。そのため、ここを調査するのは依頼遂行を目指すならほぼ必須になる。だが、調査すれば他のエリアはその日の内の調査はできなくなる。仮に満足な情報収集ができていなければ、「古城」の調査自体が致命的なタイムロスになりかねないのである。それゆえに調査する場合は、適切なタイミングを見計らうことが大事。

ストーリー上、重要地点とされているがゆえのリスクを含んだ設定になっているのだ。同時にこの他とは違う特徴があるからこそ、計画を練る重要性も際立っている。

時間帯ごとに変化するエリアも相応に注意だが、「古城」はそれ以上に調査することのデメリットを想定しなければならない。こうした個性付けを図っているのもあって、他のエリアとは一味異なる存在感がある。実際、ここで展開されるストーリーも街中とは一風変わっており、そちらも要注目である。

こうした依頼遂行に関わる部分にも、本作は探偵が主人公のゲームとしての確かな手応えを出す工夫が入念に図られている。

それもあって、期日通りに見事、情報を集めることに成功し、最終的に依頼の遂行を果たせた時の達成感も格別。単にひとつのストーリーを追いかけるのではなく、自分から積極的にストーリーに関与して、解明させる独特の面白さが詰まっているのだ。それもあって本作はその昔、探偵という職業に憧れた人の琴線を大いに刺激する。情報収集が基本ゆえの地味さもあるが、少しずつストーリーの真実を紐解いく過程はワクワクさせられるものがあると同時に、最後の真実を突き止められた時の快感もひとしおだ。

前述の通りグータラを決め込むのも一興だが、真面目に取り組んだ際の面白さ、手ごわさも侮りがたい。この調査力と計画性が試される作りに僅かでも挑戦意欲を刺激させられたのなら、ぜひ真実の究明に挑んでみていただきたい。
そして、探偵になり切ってみて欲しいところだ。主人公の名前も自由に変更できるため、自分の名前にして遊んでみるとより面白くなるだろう。

その特徴から見ると本作、ある意味配信に適したタイトルと言えるかもしれない。

ぶっ飛んだストーリー展開もよくも悪くも印象に残る力作

このようなシステムを背景に展開されるストーリーも登場人物、舞台などの設定が丹念に練られていて、非常に見応えがある。

資料アイテムも豊富に用意されているほか、そこに費やされたテキストも膨大かつ詳細なので、読み物としても楽しめるはずだ。また、テキスト量が多いなりに情報が集まってきた時には独特の充実感も味わえる。やり込み要素のひとつで、この資料を全て集めきるものも用意されているので、余すことなくストーリーを解明したい思いを抱いたのなら挑戦いただきたいところである。

ただ、肝心のストーリーはかなり賛否が分かれるかもしれない。
特に真相部分が大変ぶっ飛んでいる。詳しくは言えないのだが、本作にミステリー作品としての面白さを求めた人ほど「……は?」となるだろう。
一応、設定周りが緻密に組まれていることから、展開的には見応えがあるのだが、結構ぶっ飛んでいる。筆者自身も大困惑したほどである。なので、これから本作を遊ぶ際には柔軟な心を持って挑んでいただきたいと告げておく。念のためだが、探偵になりきる体験はそのような要素があろうと損なわれないのでご安心を。

ただ、登場人物などのデザイン周りから漂うイギリス文学的な香りに期待しすぎると危険……かもしれない。なお、演出周りは楽曲も含め、全体的な雰囲気に見合ったオシャレなものになっている。登場人物たちも総じて特有の渋さがにじみ出ているほか、年齢層も高めだが、おかげでルネに代表される若年層が際立っているところもある。

実際、ルネは真相全般をよくも悪くも象徴する登場人物でもあるので、一通りプレイし終えれば最も強い印象が残ること請け合いだ。ただ、彼女と会う時は「古城」に出向くことが必須になるのでご注意のほどを。

他にボリュームも真相究明を目指すだけでも4~5時間、複数のエンディング到達のやり込みも含めればそれ以上と結構な量。
ストーリーだけを楽しみたい、スムーズに攻略したいプレイヤーに向けた、各エンディングの進行手順を記した攻略情報が収録されているのも思い切っている。ただ正直、未クリアの状態でも閲覧可能なのはやりすぎなのでは、と思いもするが……。

そう言ったフォロー面も含め、力作に仕上がっている本作。ストーリー周りで強烈に好みを分ける箇所はあるものの、名探偵にも迷探偵にもなれる自由度の高さと計画を練る楽しさが詰まった調査周り、そして練られた設定と膨大なテキストの数々で存分に楽しませてくれる内容だ。先ほども言及したが、探偵に過去、憧れを抱いた人から攻略性の高いアドベンチャーゲームをお探しの人には強くお薦めできる1本である。
あなたの思うがままに探偵の仕事に従事しよう。

ただ、グータラするのはホドホドに。

[基本情報]
タイトル:『マダム・ポプスキンの憂鬱』
作者:とてちけ
クリア時間:3~5時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

ダウンロードはこちら
◇ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/28248

◇ノベルゲームコレクション(※ブラウザ版あり)
https://novelgame.jp/games/show/6563

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