フリーゲーム『魔女の家』 ガチホラーとkawaiiの奇跡的融合

フリーゲーム

自分でプレイするゲームはもっぱらFFやドラクエなどのヒット作品のみ。
スマホのゲームアプリはたまにやる程度。もっと好きな趣味は他にある。
動画共有サイトでは、商業ゲーム以外のフリーゲームの実況も盛り上がってるのは知りつつも、自分でやる機会はなかなかない…。
そんなライトゲーマーにとって、フリーゲームはちょっとっつきにくいかもしれません。
私もそんなライトゲーマーの1人。フリーゲームって実際にどんなゲームなんだろう、ということで人気ホラーゲーム『魔女の家』をプレイしてみました。

実際、プレイしてみて、そのホラー要素の卓越性はもちろん、「かわいい」と「怖い」の相性の良さに驚かされました。

筆者の言う「かわいい」は、いわゆる男性的な「萌え」の感覚で言う「かわいい」とは少し違います。敢えて直感的に言うならば、ガーリッシュな「かわいい」――すなわち、身に付けるとその人の可憐さが引き立つような、「女の子の装飾」としての意味合いを持った「かわいい」なのです。

「萌え」やファンシーキャラクターに見られるようなかわいさは愛玩的で、それ自体が単独で完結しています。これに対して、ガーリッシュな「かわいい」の要素は女の子と同化したときに、はじめてその性質をあらわにします。たとえば、お花、レース、リボン、パステルカラー……これらはすべて、「同化して、そのかわいさの要素を自分のものにしたい」と女の子に強く思わせるようなモチーフとして機能するのです。

そんな「かわいい」からのラブコールに対して、「怖い」は好感をもって答えてきました。

たとえば、2010年代の「かわいい」文化を体現するきゃりーぱみゅぱみゅは、ドリーミーな原宿文化とグロテスクな世界観が、互いの魅力を引き立て合うことを証明しました。



また、若い女性に人気のアーティストTommy heavenly6は、憂鬱な女の子の脳内に、退廃的世界観がうつくしい影を落とすことを証明しました。



けれども、逆に、「怖い」から「かわいい」へのアプローチを試みた娯楽はなかなか現れなかった気がします。

がしかし!
ここに満を持して、本気で怖くて、なおかつかわいいゲームと出会えました。
それが『魔女の家』なのです。

『魔女の家』は何が怖いのか

まず、本作の怖さについて。

失礼を承知で正直に告白すると、プレイ前、わたしは、本作をナメていました。
いくらこのゲームがホラーゲームのくくりに入るとしても、プレイ動画のサムネイルが、牧歌的に見えたからです。
恐怖の森』の、トラウマ必至のあいつ。
THE HOUSE』の、一見して嫌になるあのおぞましい舞台。

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それらに比べてこの、牧歌的なプレイ画面!余裕余裕!
いざプレイ!

大変申し訳ございませんでした。

作者様のおわします方向に向かって土下座!
そこまでしないと、「本作の怖さをナメた」という罪を贖えない。
それくらい怖いゲームだったのです。

またしてもなめきった感想で大変恐縮ですが、プレイ当初のホラーギミックについては、「ちょっとぞっとするけど、これくらいなら、まあ、平気。ジャブだな」と思ったのです。
でも、本作における怖さは、ステージを進めるたびに精神的グロテスクの度合いを増し、じわじわとダメージを与えてくることに気づきました。
気づいた次の瞬間には、もはやジャブではない本攻撃をみぞおちに食らってしまうのです。

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中盤、ただそこにあるだけの入口すら怖い。

後半のあるステージでは、「ただ歩いているだけでゾッとする…。何も仕掛けはないだろうが、早くここから出たい!」とすら感じてしまいました。
舞台が嫌、ドッキリ的な仕掛けが嫌なだけではなく、ゲームをすることプレイすることそれ自体が恐怖となっていくのです。

さらに、本作を名作たらしめているのは、後味悪いラストでしょう。
エンディングは複数用意されているのですが、ひとつのエンディングに辿り着いただけでは、ストーリーの全貌は見えてきません。
プレーヤーは自ずと、他のエンディングも気になってしまう作りになっています。

そこで他のパターンのエンディングを知ると、ようやく話の流れがつかめてきます。
しかし、そこで見えてくる話の全容で、プレーヤーは呆然とすることになります。
単に嫌な感じを残すというものではなく、プレイ中に感じた違和感や魔女の家の仕掛けが、すべて違う意味をもって起ち現れてくるからです。
作者がラストで用意した鮮やかな手法が、今までのプレイすべての意味すら変えてしまうのです。

ちなみに、本作のストーリーに魅了された方は、小説版『魔女の家』を読むことをおすすめします。
ゲーム版に登場するふたりの少女の来歴と心理描写を知ることで、ゲーム本篇の世界観をより深く知ることができます。

では、2Dゲームにおける怖さをとことん追求しきった本作は、どのように「かわいい」を取り込んでいるのでしょうか。

かわいいポイントその1 主人公が金髪碧眼少女

ロリータからネオギャルまで。
自分なりのかわいいを突き詰めた女性は、いちどは白に近い金髪を目指します。
本作の主人公は、紛れもない金髪。
カラコンがなくとも、碧眼。
そして名前はヴィオラ。本名です!(当然)
あとなんか、メイド服っぽいワンピを着てます。

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ヴィオラたん。翳のある目元が( ´∀`)bグッ!Pixivに投稿されているかわいいイラストの例はこちら

少女が主人公のホラーゲームは散見されますが、ヴィオラは「別にそこまでいらなくない?」とツッコミが入るくらい、かわいい要素で身を固めています。

かわいいポイントその2 不思議のアリス的世界観

『魔女の家』というタイトルの時点で童話感ムンムンですが、いざ舞台に入り込むと、牧歌的な雰囲気はみじんもありません。
本作の舞台は、耽美的ワンダーランドなのです。

まともな人間は幼い少女だけ。
少女に話しかけてくれるのは、黒猫や蛙やお花たちのみ。

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お茶会をするお花さん。セリフも怖kawaii。

魔女の家には、お茶とケーキセットがたくさん。お茶会の形跡もたくさん。
そこかしこに石膏像やお人形が並び、ロウソクの仄かな明かりがお顔を照らす。

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ギミックがお人形なのよ。

ロリータのお茶会的、もしくは、アリス・イン・ワンダーランド的世界観が展開されます。
「かわいい」を愛する者たちの心のツボを押しまくってツボがめり込んで痛いほど、徹底的に耽美がつらぬかれているのです。

かわいいポイントその3 動物たちがしゃべりかけてくる

動物がしゃべると、かわいい。
白戸家のお父さん、とっとこハム太郎、しろくまカフェのみなさん…。
人間でないものがちょっとだけ人間ぽいと、なぜか愛玩したくなります。

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セーブポイントが黒猫なのよ。

先ほども少し触れましたが、このゲームでは、しゃべる動物たちがアクセント的に登場します。
悪夢のような展開が続く中で、唯一心がなごむ瞬間が、動物たちとのふれあいなのです。

以上、本作が取り込んできた「かわいいポイント」を紹介してきました。
しかし本作がすごいのは、以上のようなかわいいポイントが、ただの目の保養としてそこに存在するわけではないということです。
いたいけな少女が、世にも壮麗な館で、愛くるしい動物たちに囲まれているからこそ、彼女を襲うおぞましいシチュエーションの異様さがいっそう際立つのです。
「かわいい」が単なる「怖い」の引き立て役を超えて、「怖い」をいっそう増幅させる強力なフックとなっている。
だからこそ、本作は「かわいい」を好むライトゲーマーも、「怖い」を求めるホラーゲーマーも虜にするのです。

[基本情報]
タイトル 魔女の家
制作者 ふみー
クリア時間 2~3時間
対応OS Win 2000/XP/VISTA 32bit/7 32bit/7 64bit
価格 無料
エンディング数 複数

ダウンロードはこちらから
http://majonoie.karou.jp/

  • ちらさん(@kenokick2

    『バイオハザード』『SIREN』『零』と、清く正しいホラーゲーム道を歩んできたと言いつつ実は見る専。そんな超ライトゲーマー。普段は読書とそのレビュー作成を好む。本のレビューブログ:http://yaplog.jp/tap_tap/