サイコロが全てを決する、お手軽ゲームブック風アドベンチャーRPG『鉛の魔女』

読者の選択次第で物語、結末が変化する仕掛けを施した遊べる本こと「ゲームブック」。ロールプレイングゲーム(RPG)とアドベンチャーゲーム(ADV)双方の要素を持ち合わせたそれは、1980年代に大きなブームを呼んだ。だが、家庭用ゲーム機の隆盛と共に1990年代以降、下火に。近年は過去作の散発的な復刊が行われているものの、当時ほどの勢いはない。

しかし、読者に語り掛ける2人称を用いた文体などの特徴から、一部では作中のネタとして使われるなど、ブームが与えた影響は今なお残り続けている。コンピュータゲームの形で再現を試みた作品も少なくない。以前、当もぐらゲームスで紹介した『ゴブガリ』はその一例だ。

今回はそれに続く1本、『鉛の魔女』を紹介する。

見習い魔女、卒業を賭けた危険な冒険へ

『鉛の魔女』は2020年5月6日、「ノベルゲームコレクション」、「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」にて公開された作品。制作は無人島探索アドベンチャーゲーム『箱庭のフォークロア』を代表作とするゲームサークル「BadDog」。「ティラノスクリプト」製タイトルで、「ノベルゲームコレクション」ではPC(Windows)版のほか、ブラウザ版も公開されている。

8魔導士のひとり”鉛の魔女”こと「ナマリ」に弟子入りしている魔女見習いの「リラ」。彼女は長いこと見習いから卒業できず、師匠であるナマリにコキ使われる日々を送っていた。

そんなある日、彼女はナマリから”異常な魔”の元を見つけてこいとの命令を受ける。さらに無事、解決できれば1人前の魔女として認めるとも告げられた。かくして見習い卒業のため、リラは単身、異常な魔を巡る冒険に出る。その先に待ち受けるは森、地下道、そして不思議の館。果たして、異常な魔の正体とは。そして、リラの悲願は達成されるのか?

このようなオープニングと共にゲームは始まる。
なお、作中でリラのことはプレイヤーの分身こと「君」と呼称。
いかにもゲームブックらしい、2人称文体になっている。

肝心の内容もゲームブックをコマンド選択型アドベンチャーゲームに落とし込んだような作り。基本的に文章を読み進め、その都度現れる選択肢を選んで行き先を決め、舞台となるエリア(マップ)を探索していく。

もちろん、その過程で敵との戦闘も発生する。戦闘システムとルールは単純明快。プレイヤーと敵の順を交互に繰り返すターン制で、どちらかの体力がゼロになった方が勝ちとなるRPG伝統のものだ。ただ、行動全般はサイコロ(ダイス)によって決める仕組み。

数字(目)によって攻撃の成功、失敗がジャッジされる。基本的にプレイヤーターン時に行うのは、このサイコロを止めて目を出すだけ。他に行動を決定させるようなコマンドは何もなく、ただ結果に一喜一憂するシンプルかつ、ゲームブックらしい設計になっている。ちなみに「1~2」が出ると攻撃失敗、「3~5」なら攻撃成功。「6」なら強力なクリティカル攻撃だ。

戦闘に勝利すれば、RPGよろしく経験値もゲット。基本、10溜まる度にレベルが1つ上がる仕組みで、以降もそれで固定される。また、レベルアップ時には3つのステータス(筋力、知性、敏捷性)の中から強化したいものを選択する形になる。

逆に言えば、3つ以外のステータスは上げられない。体力、精神力の最大値は終始固定となる。特に回復手段はどちらも探索中のアイテム発見と休憩イベント発生、レベルアップなどに限られているので、数値の揺れ動きには目を配る必要がある。

他にもサイコロは探索中に振ることもあり、それによって探索範囲が広がることも(※この場面で魔法が使われ、精神力が減る)。このように全編に渡ってゲームブックの再現に注力した作りで、往年の読者には懐かしさを、読んだ経験のない人には新しさを感じさせる内容に完成されている。

シンプルゆえの取っ付きやすさと秀逸なバランス

本作の魅力にして、秀逸な点を挙げるならば徹底したシンプルさ。
とにかく、選択肢を選びながらマップを進み、時にサイコロを振って敵を撃退したり、新たな道を見つけていくだけ。ゲームブックってそもそもどんなもの……と、全く知識がないプレイヤーにも取っ付きやすい作りになっている。

特にサイコロの目が全ての結果を左右する、運(確率)の醍醐味が詰まった戦闘が楽しい。どんなにレベルを高くしても、サイコロ次第で全てが覆される危険が付きまとうため、雑魚敵との戦いでもヒヤヒヤする緊張感が味わえる。レベルアップ時に強化できるステータスを3つに限定し、体力を対象外にしているのが効果的に機能している感じだ。おかげで力押し可能なぐらい強くなっても油断できない。場合によっては、サイコロの目で全てが台無し。全く退屈させないバランスになっている。

戦闘も基本、遭遇しての勝負に限らず。時には圧倒的な体力と攻撃力を兼ね備えた強敵と対峙することもある。もちろん、正面からぶつかれば返り討ち確定だ。そういう敵は選択肢を選びながら逃げたり、時には現在居る場所にある”物”を動かす行動を取るなりして、その変化を確かめたりする。そう言った試行錯誤が求められる場面も都度、用意されていて、一筋縄ではいかない展開を描き出すのだ。

選択肢を選ぶ、サイコロを止める以外の操作は無いので、ゲームとしての作りは驚くほど簡素。ゲームブックを知らない人なら戸惑うかもしれない。だが、相応に危険と隣り合わせだったり、考えることが試される難易度。そして、サイコロならではの運の面白さと怖さを存分に味わえる、ゲームブックとRPGのキモが輝く内容に完成されているのである。

またの言い方で「シンプル・イズ・ザ・ベスト」の強さを再認識させられるゲーム。中でもレベルアップの仕様に合わせて表現された難易度の絶妙さは舌を巻くものがあるので、RPG好きならばぜひ、体験してみて欲しいところである。

ちなみにレベルに関しては稼ぎポイントもちゃんとあり、プレイヤー側で難しさをほぼコントロールできる。むしろ、探索中にレベルを上げなければループ状態に陥る局面も用意されているので、ある程度の稼ぎは試される構成だ。こう言った真っ直ぐ進めばいいだけじゃないと気付かせ、工夫できる余地を残した作りも秀逸だ。

マップのスケール、構造も広すぎず、複雑にしすぎずの配慮を凝らしていて、これと言って探索中、行き先が分からず右往左往することもない。終盤になると、件のレベルに関係した仕掛けで分からなくなることもあるが、行動範囲は限定されるので、その最中で何かやればいいと考えさせてくれる設計。先のレベル上げが必要な点もそうだが、この辺りの導線の引き方の上手さにもRPG好きならば唸るかもしれない。

気軽に遊べるRPGをお求めの方におすすめの良作

ボリュームも程よい。大体、2~5時間ほどで攻略可能。また、エンディングは2つ用意されていて、行動と結果次第で異なる結末を迎える。例によって、そこに影響を及ぼすのもサイコロの目。どのように扱えばいいのかは、実際にその場面に直面してあれこれ試してみていただきたい。ひとつ言うなら、レベルを上げ過ぎると苦労するかもしれない。

ストーリーも2人称の文体で語られるゲームブックらしい構成。ただ、キャラクターの会話周りは愉快なノリ。特に主人公ミラは明るく前向きなキャラクターで、コロコロ表情が変わる様子が楽しい。表情は左側のステータス画面においても、ダメージに応じて変化する仕掛けが凝らされているので必見だ。

脇を固めるキャラクターも、特に終盤に出会う”重要人物”は色んな意味で必見。思わず「可愛い」と感じたのなら、クリア後に解禁される”とあるモード”をご覧いただきたい。多分、ズッコケる。

細かい部分だが、選択肢を選ぶ際に効果音が鳴るなど、操作感(触り心地)を大事にしているのも見事。サイコロを振る場面でディフォルメされたミラが結果に応じて様々なリアクションを見せてくれたり、派手なカットインが挿入されるなど、演出周りも隅々まで手が込んだ仕上がりになっているので必見だ。

だが、戦闘に切り替わる度、画面全体が真っ赤に染まるのは目に負担がかかやすく、気になる点だ。また、シンプルなりに戦闘、育成には相応の浅さもあるのでリプレイ性は弱い。救済措置の意図もあるかもしれないが、経験値を”ガッポリ”獲得できる敵を用意しているのも若干、やり過ぎのきらいがある。体力を始め、各種ステータスの詳細に関する説明がほとんどないのも気になるところである。(体力、筋力は分かりやすいが……)

ただ、純粋に遊んでいて楽しく、ハラハラできる内容。たまには軽い気持ちでRPGを遊びたい、という思いの方の欲求にも応えてくれる綺麗にまとまった良作だ。かつてゲームブックに夢中になった人にも懐かしい気持ちを喚起させてくれる仕上がり。魔女の見習いになって、サイコロに翻弄される(?)冒険に旅立とう。

[基本情報]
タイトル:『鉛の魔女』
作者:BadDog
クリア時間:2~5時間
対応OS:Windows
価格:無料
備考:出血表現あり

ダウンロードはこちら
※ノベルゲームコレクション
https://novelgame.jp/games/show/3263

※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/22793

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_8739.html


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