日本のインディゲーム開発者の連携で。NIGORO楢村氏インタビュー【後編】

インタビュー,インディーゲーム

前編に引き続き、NIGOROの顔、楢村氏のインタビューをお送りしよう。
アマチュア時代とプロ時代でゲームづくりがどう変わってきたのか、変わらなかったものは何だったのか。そして日本のインディゲームへの展望を熱く語っていただいた。

前編はこちら
KickStarterで2000万円超を集めたNIGOROが挑む本気のゲーム作り。NIGORO楢村氏インタビュー【前編】

プロになってから考え始めたゲームデザイン

ー代表作『La-Mulana』も仕掛けがかなり丁寧にそして複雑にデザインされていると思いました。ゲームデザインをどの程度考えていらっしゃたのでしょうか。

楢村
実は、一番最初のオリジナル版の『La-Mulana』を作っている2000年代前半はそこまで考えられてなかったんですよ。その後、プロとしてNIGOROを結成し、『薔薇と椿』、『めくり番長』などのFlashゲームを数作公開しましたが、かなり考えながら作っていました。

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Flashゲーム『薔薇と椿』(2007年)。ターン制でマウスを相手の顔めがけて動かしビンタをするゲーム。

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Flashゲーム『めくり番長』(2008年)。校内を走り抜ける主人公を操作しタイミングよく女子生徒のスカートをめくっていくゲーム。

ーやはりプロになってからは考え方が変わってきたということでしょうか。

楢村
そうですね。FLASHゲームを数作品作って公開したのは、『La-mulana』を有料で売り出す前にNIGOROの知名度を上げるためです。プロになって戦略的に考えようということで、どういうものがウケるのか、当時のFlashゲームを研究したりもしました。初めてユーザーを見て作り始めましたね

ー知名度を上げるためとはいえ特にプロモーションはしてなかったのでしょうか。

楢村
プレスリリースのやり方も知らないし、売り物でもないから、まずはアマチュア時代から知ってくれてる人たちにやってもらいました。そうしたら徐々にFlashゲームサイトに取り上げるようになったんですよね。そして海外にも。今でもNIGOROも『La-Mulana』も知らないって言う外国人に『薔薇と椿』、『めくり番長』と言えば通じます。

ーこの2作品はとにかくインパクトが強いです。どういう発想でこういうアイデアが出てきたのでしょうか

楢村
その頃はwiiが出た頃で、wiiコントローラーの動きが気になっていたんです。とはいえ、作りたいのはFlashゲームだからマウスで何かできないかと。動かしてみたら、マウスを左右に動かす動きでビンタですよ。ビンタは幼いころから疑問だったんです。ドラマとかアニメとかで女の戦いが不思議だったんですよ。アメリカの映画とかで女の喧嘩になると、ビンタを一発ずつ応酬するじゃないですか、「なんで蹴りとか出さないのかな、ひょっとしてルールあるのかな」って思ってたんですよ。僕はアイデアがつながってきて面白くなってきたら、調子に乗っていく。悪ノリですね

「プレイヤー殺し」の極意

ー『La-Mulana』の中にも悪ノリっぽいものが色々と出てきますが、『La-Mulana』の長老のメールも悪ノリですか?

楢村
あれはオリジナル版にはなくて、プロになってWii ware版でリメイクするときに追加しました。

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『La-Mulaha』ではことある度に、遺跡を探検していると拠点のある村の長老からアドバイスが書かれたおちゃめなメールが届く

オリジナル版は、長老の部屋でしかセーブできなかったんですよ。さすがに有料版ということで改善しました。そうすると村に戻らなくなるので、長老の役割がなくなってしまったんですよね。そこで初心者も誘導する目的でメールを出すことにしたんです。そして、一番嫌がられた、ボスを倒したあと「至急もどれ」っていうあのメール。

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ボス撃破後、長老からメールが届く…

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急いで戻ってみるとこんな仕打ち

あれには「ボスを倒したら戻れ」っていう意味があります。村に戻ったらみんなセーブします。そうすることでボスを倒したらセーブするって癖を身につけて欲しかった。ただメタ的に「戻ってセーブをしろ」って言ったらつまらないじゃないですか。有料でリメイクするにはユーザーのことを考えて設計しようということで仕掛けたんです。

ー『La-Mulana』は即死トラップも非常に多く、とにかく難易度が高いです。

楢村
僕なんて「プレイヤー殺し」とか、殺人鬼みたいな言われ方ですよ。うちらの面白いと思うゲームバランスだと総じて難しくなるんです。緊張感がないと面白くない。それが上手くニーズに合ったといういうわけです。

ーかといって嫌にもならない絶妙なバランスですよね。

楢村
僕はゲームセンターCXを見て、有野の反応を参考にしました。特にボンバーマン。リモコンとか手に入れたりしちゃって、だんだん無敵になってくるじゃないですか。あの絶頂になってるときに凡ミスで死ぬ、あのバランスです。調子に乗ってる時に死ぬとプレイヤーは自分自身のせいって思ってくれるんだってのはあれで理解しました。

ーシステムを恨まないんですね。

楢村
リメイク版ではかなり即死トラップがありますが、オリジナル版は実はそこまで即死トラップがないんです。リメイクのときに足したものがほとんどですね。宝箱をとった直後に、上から天井が降ってきてペシャンと潰れる仕掛けです。これもゲームセンターCXからヒントを得たものですね。緊張が緩みきったところでドンと(笑)

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宝箱を取った直後の即死トラップ(落ちてくる天井)

2ではもっとひどいことをやろうかと思ってますよ。プレイヤー側も『La-Mulana』で僕の罠を経験しているので、次は罠がこんな風に仕掛けられているだろうと予想しているわけです。だから逆に、引っかかるわけないだろと思ってるところで殺す。2の企画書もいつか公開できればと思いますけど、結構ひどいですよ。「連続で神罰(即死トラップ)を食らうシステム」とか平気で書いてあります。

ーさらにパワーアップしたトラップ。今から楽しみです。

なぜ日本のインディゲーム開発者のつながりを作るのか

ー本業のゲーム制作もさることながら、日本のインディゲームシーンを精力的に盛り上げようとしてらっしゃいます。昨年立ち上げたIndie Streamもその一環ですよね。

楢村
きっかけは、『Tengami』を作ったNyamyamの東江さんと、日本でインディとしてやっていくためにはそもそも認知度をあげてかなければいけないというところで意見が一致したから立ち上げました。完全にギブアンドテイクです。そして、自分たちが主導で色々と意見なりを出せるインディ開発者の団体を作ることも目的だったりします。これから自分たちで作ったゲームを売りたい人がアピールする場にしたらいいんじゃないかと思ってますよ。IndieStreamに参加したらパブリッシャーが決まったとか、売りたい人が集まれる場にしたいですね。

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Indie Stream(2013年9月)

ーIndie Streamはそういったインディ開発者のつながりを作るという試みかと思います。昨年のGDC、今年のPAXなど海外のイベントへ行かれた時も海外の開発者とのつながりができたという話でしたね。

楢村
GDCでは、La-Mulanaのチラシをカバンから出しながら歩いてたらインディ制作者が声をかけてきてくれた。それが前回挙げた3つのチームだったんですよ。『CRYAMORE』の人は「もっと難しいの出してくれよ」とか。同時期にKickStarterもGreenlightもやってということで境遇が似てるんですよね。

ー仲間意識を持つという意味でも、開発者の交流は大きいんですね。

楢村
KickStarterをするにしろ、告知をするにしろ、とにかく同じ境遇の仲間、有名な人の宣伝協力があると大きいですね。2014年にGDCで講演していたあるインディ作家が、「一番最初は展示会のIGFに出展して仲間をつくるところから始めた」、という話を聴いて、「みんな同じなんだ」と思いましたね。PAXでインディなのに大行列ができていたチームも、数年前は小さいブースからスタートしたらしいです。インディ開発者は単体だと弱いので、本気で売りたい人たちがセットで認知されていくといいですね。

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PAX(2014年5月)

ー仲間を見つけるという意味では、今の日本の状況は、BitSummitなどを見ても、誰が本気で売ろうと考えているかは見えにくいと思います。

楢村
最近感じることですが、ゲームを本気で売ろうとしている人は意外とまだ少ないです。より本気で売るっていうのを考えているのは元々同人ゲームを作っている開発チームだったりします。同人とインディは、開発者同士の交流がありませんでした。でも、話をしてみると目指していることは同じなんですよ。作りたいものを作ってる。NIGOROが商業的に上手くいってると言われますけど、同人のチームのほうがシビアにやっています。コミケの度にバージョンをアップデートして成果を出さなきゃっていう意識が強いので、売り方を考え出したら強いと思いますよ。メディアミックス展開をしているNovectacleとかすごいですよね。

ー元々ゲームを作っていた方々でインディに入ってくる方も多くなってきました。

楢村
ゲーム会社に勤めたことがある人間が誰もいない中、日本のインディゲームの先駆者になっているのは、コンプレックスです。稲船さんや木村さんといった、ゲーム業界でキャリアを持ってる人がインディでやりだして、やっと頼っていい先輩ができたと思っています。いくら盛り上がってるとはいえ日本のインディゲームはまだまだ認知度が低い状況です。彼らはその状況をひっくり返せる人たちかもしれない。

ーインディ全体で盛り上がっていくということですね。

楢村
そうですね。2013年はとにかく急成長でした。1回目のBitSummitが引き金だったと思うんですよね。日本で「インディーゲームを作るぞ」と気勢を挙げても、メディアも世間も注目してくれないものだと思っていましたが、その流れはBitSummit前後でだいぶ変わってきていると思っています。TGSにもインディコーナーがありました。一月ごとに日本のインディがリリースされてるみたいな感じになったらいいですね。CDもインディコーナーに一つのアーティストだけだったらしょうがないじゃないですか。色々なアーティストがいるからお客さんが来るわけです。

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第1回BitSummit(2013年4月)

ーそうなると競争も激しくなってきますね。

楢村
元々、デザインという競争が主の現場にいたこともあって、競争がないと張り合いがないんです。他のチームが何かリリースを打って、Twitterのタイムラインが賑わってると「おのれ」とか思いますよ。

「ブームと言われても浮かれたくない」

ー切磋琢磨していくイメージですが、できつつあるインディゲーム開発者のつながりは今後どういう方向に向かっていくのでしょうか。

楢村
集まったから良かったねで終わらせるのも危険です。海外の例も見ているので、日本のインディゲームの成長が数年遅れているのもわかっています。最近ハードウェアメーカーもインディに注目していますけど、肝心のコンテンツが揃ってないといけない。本気で作るチームが集まって徒党を組んでおかないと、主導権をとられます。

ー主導権ですか

楢村
宣伝も売り方も全部お任せというようにはしたくないわけです。ハードメーカーがインディに注目してくれるのは、すごいありがたいことだし今までなかったことです。かといって何でもいいってわけではないぞ、と。ブームと言われても浮かれたくないという意識があります。

ー他にも、開発者が連携できる部分はありますか?

楢村
移植や海外展開で一度話題になる作品を作ると、そのチームは数年一つのゲームに付き合うことになるんですよね。『La-Mulana』のwii版からPC版へのリメイクの時がそうでした。自分たちで全ての移植作業をやったんです。完全に自分たちの手が埋まっちゃたんですよ。制作しているときはリリースのことしか考えてないから、移植や言語を増やそうとすると大変なことになるんですよ。

ー現在、移植作業中の『La-Mulana』vita版も大変なことになっているのでしょうか

楢村
懲りたのでvita版はある程度お任せです。もちろん内容の調整で会議出たりはします。La-Mulanaはボリュームがあるので、やっぱりこだわって口出しちゃうんですけどね。

ー一方の海外展開の際は、どのように大変だったのでしょうか。

楢村
最初は日本語と英語しか考えていなかったんです。PC版の話のときにスペイン語とロシア語を出そうという話になって破綻しましたね。文字の形を考えてもらうと、日本語は正方形におさまります。英語も何とか揃いますが、スペイン語は文字の上に点がつくんですよね。こうなってしまうと、文字データの作り方から変えることになって、1言語に対応するだけで苦労しました。最初からいろんな言語で表示できる仕組みをゲームに持たせておかないと大変なんです。新作を作りたいのに3年位移植ばっかりやってるとか。こうした手間になりかねない移植や海外展開のノウハウを開発者間でシェアするのは大事ですよね。

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『La-Mulana』の日本語版(左)とスペイン語版(右)

ーさて、そんな盛り上がる中、今NIGOROはvita版と2に専念されています。

楢村
2014年は作るしかないので……。とはいえ、目立ちたがりなので我慢できずになにかやるかもしれません。他のチームがメディアミックス展開だ、PS4版だとやっている状況で、1年間我慢していられません!

ー最後は期待させる言葉をありがとうございました。

※インタビューの時点では、明らかにされていませんでしたが、『ファタモルガーナの館』を制作しているNovectacleとのコラボ作品『薔薇と椿とファタモルガーナ』が夏のコミケにて頒布されるとのこと。

『薔薇と椿とファタモルガーナ』
http://novect.net/c86/index.html

NIGORO公式サイト(※Flashゲームはこちらで遊べます)
http://nigoro.jp/ja/

『La-Mulana』Playism販売ページ
http://www.playism.jp/games/lamulana/

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか