小説化を成し遂げた『ファタモルガーナの館』の今後とはーNovectacle代表 縹氏インタビュー

『ファタモルガーナの館』は、2012年末にリリースされて以来、プレイヤー間で大きな話題となった作品。2013年に行われた同人ゲームイベント「同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー for Novel and ADV2012」では、なんと10部門もの受賞を達成している。そして現在もノベライズ・コミカライズなど怒涛のメディアミックス展開が行われているという、話題沸騰のインディーゲームだ。今回は、そんな話題作を生み出したサークル『Novectacle』の代表 縹けいか 氏にお話を伺った。

同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー for Novel and ADV2012:
http://southerncross.sakura.ne.jp/of_the_Year/2012.htm

『ダンガンロンパ』に影響を受けたデザイン

―さっそくですが『ファタモルガーナの館』の製作に関してお話を伺いたいと思います。縹さんご自身は、ゲーム会社のお仕事を経験されて、いまは独立された形ですよね。

『ファタモルガーナの館』が出るくらいの時に独立してフリーランスになりました。『ファタモルガーナの館』を製作していた時はゲーム会社におりましたので、仕事と並行して作れる範囲で考えたところ、シナリオは書けるけど、プログラミング技術の壁があったんです。なのでシナリオ要素がメインとなるノベルゲームを選びました。『ポートピア殺人事件』から始まり、『逆転裁判』『ダンガンロンパ』などアドベンチャーゲームが凄く好きだったことも理由としてありますね。

ーそこで選んだノベルゲームという形式に関して、NYDGamerさんのインタビューでも触れられていましたが、ある場面においてテキストのバックログを見たとき、実際に表示されたテキストと食い違っている、という演出はノベルゲームのシステムの逆手を取った演出だと思いました。

みんなが常識だと思ってることを逆手に取る演出をやりたかったんです。ノベルゲームは、枠がはっきりしているジャンルだと思うんですよね。枠を破った例として最近の作品を考えると、『君と彼女と彼女の恋』や『ノベルゲームの枠組みを変えるノベルゲーム。』が思いつきます。

『君と彼女と彼女の恋』
http://www.nitroplus.co.jp/game/totono/

『ノベルゲームの枠組みを変えるノベルゲーム。』
http://www.anos.jp/anos7/anos7.htm

インタビューでお話しするのはたぶん初めてになるのですが、『ファタモルガーナの館』のシナリオ構成は『ダンガンロンパ』を少し参考にしています。具体的には、章立てで、章ごとに山場があって、物語の謎が解けて、しかしまた新しい謎が出てきて…という。それと作中に出てくる選択肢の連打演出などですかね。『ダンガンロンパ』は個人的にも好きな作品で、色々なことを逆手に取った作品だと思います。

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とあるシーンで、ひとつの選択肢を連打する場面

ーPC系のノベルゲームというよりは、コンシューマのアドベンチャーゲームの作り方に近いのですね。

もともと、PCノベルゲームや同人ゲームをしらなかったんですよね。作ろうと思ったときに、敵情視察のような感じで初めてコミケに行って現状を知りました(笑)そこで、同人作品のレベルが高かったことに驚きましたね。

ーなるほど。

PCノベルゲームは、本当に申し訳ないぐらいプレイできてなくて…(笑) 最近色々と勉強しているところです。コンシューマーのアドベンチャーゲームだと、謎解きの面白さがメインだと思うんですよ。『逆転裁判』にしても、ヒロインのマヨイちゃんとの掛け合いはあるけど、メインは謎解きですよね。そしてそれが連続して続いていく。なので、ミステリー要素がメインの『ファタモルガーナの館』は、日常描写の強いPCノベル派の人に受け入れられるのかなと不安に思っていたんですけど、意外とみんな受け入れてくれたようでよかったです。
あと制作で気になったのは、制作リソースの問題ですよね。キャラクターの立ち絵も、たとえば寝起きで衣装を変えたかったというのもあったんですが、あのように緻密な絵が売りでもありますので、やっぱり一枚一枚に時間がかかるんです。なので出来るリソース内で考えつつも、プレイヤーに「足りない」と思わせないように必死でした。理想を言えば背景も絵にしたかったんですが、200パターンくらいあってさすがに無理でした。逆に言えば、そこまでパターンを増やせるのが写真加工の強みかもしれません。

BGMにこだわりぬいた「歌うノベルゲーム」

ー『ファタモルガーナの館』の製作に関しては、基本的にNovectacleの内部で全て製作されているんですか?

音楽の一部と、着色の一部は外注にお願いして、他は内部でつくってます。音楽は全部で65曲あるんですが、それをノベクタクルメンバーの二人(Mellok’nとがお)で作るのはさすがに無理ゲーだったので!(笑) ただ、音楽に関しては章で雰囲気が変わるので、別の作曲家にあえてお任せしたかったというのもあります。それが一番強く出たのが3章かもしれませんね。image01
音楽の印象がガラッと変わる、3章のワンシーン

ー印象的なキャラクターであるヤコポの初登場する3章は、たしかに曲の雰囲気がガラッと変わりますよね。『ファタモルガーナの館』は、そういった音楽の部分を含め、各メンバーの強いこだわりや思いが詰まった作品という印象を受けました。

そこは最初からディレクションしようと思っていました。音楽にこだわったゲームといえば、たとえば『NieR Replicant』は歌を聴きながら闘う印象的なシーンがあるのですが、音楽を強みにしたノベルゲームはなかなか無いと思うんですよ。ノベルゲームの中で使われている曲に関しては、インストの楽曲や、フリー使用が可能な楽曲もありますよね。ただ、フリー楽曲は、同じ曲が他のゲームで使われていたりすると、先にプレイした他のゲームの印象がどうしても強くなってしまうんです。だからオリジナル楽曲は必須でした。更に曲の印象を深めるために、『ファタモルガーナの館』については、楽曲の多くを歌にしています。ただ、歌詞が日本語や英語だと言葉の意味を聞こうとして気が散ってしまうので、文章を読みながら進めるノベルゲームには向いてないと思って…で、だいたいの人が分からない言葉ってなにかなと考えたときに、ポルトガル語にすることにしました(笑)。

ーそんな経緯が(笑) シナリオの面では、5章以降から、主人公であるミシェルとジゼルを中心とした話になり、最後には敵だと思われていたある人物を救済する流れになる、という急転する展開ですが、この構成は最初から決まっていたんでしょうか?

開発当初は、4章まで決まっていました。『ファタモルガーナの館』は、Novectacleでのゲーム制作第一作目という事もあって、もっと短い練習作の予定だったんです。最初は完成版を1000円くらいで頒布しようかなと思ってました。だけど、体験版を出したときに意外と良い反応があったので、もっと長編にしようと本腰を入れましたね。

幼少期のゲーム体験と、ゲーム会社への入社

―いまお話いただいた『ファタモルガーナの館』の他にも、Novectacleの代表として様々なゲームを製作されている縹さんですが、ゲーム製作にはいつごろから関わっていたのでしょうか?

就職するならゲーム会社だと思っていて、オンラインゲームの運営と開発を行っている会社に入社しました。ゲーム製作はそこからですね。ただ、ライティングの仕事は大学にいた頃から始めていました。ゲームとは無関係の媒体でショートストーリーを書いたりしていましたね。

―ゲーム会社に入社したのは、やはりゲームが好きだったからなのでしょうか?

そうですね。子供の頃からゲームが大好きでした。小学生になる前の頃に『女神転生』をプレイして、これはしぶいゲームだなと思って印象に残って(笑)。子供視点から見て、キャラクターもかわいくないし、ダンジョンから上手く抜け出せない、でも、なぜかプレイする気になってしまうという…。ダイダロスの塔をぐるぐる回り続ける未就学児でした(笑)。小学校に入ったらSFCも手に入って、ゲームギア、セガサターン、DC、ニンテンドウ64、バーチャルボーイ・・・と、ハードはほとんど揃っていました。そういう意味では、ゲームの英才教育を受けることが出来ましたね(笑)

ーバーチャルボーイまで!ゲーム機の性能アップとともに人生を過ごされたのですね。それと平行して、シナリオの執筆などを幅広く行っていたんですよね。

元々、ゲーム業界に入りたかったんですけど、作家にもなりたかったんですよ。ゲーム業界でも、作家を兼業している人もいますし、一本のことをやりたいというわけではなかったんですね。それで、最初は文芸寄りにいこうかなと思っていたんですが、あまり面白くなかったのでエンタメ寄りにシフトしていきました。それと中学生の頃からTRPGなどもやってました。ほかにもネット上でPBW(play by web:オンラインで行うRPGの一種)をやっていて、自分たちでルールを作って世界観を構築していました。

―ゲーム会社への入社後は、どういった仕事をなさっていたのでしょう?

人数が少なかったので、何でもやりましたね!最初はゲームの運営で、そのほかユーザーさんへのメールサポート、チームの取りまとめ、そして実装物のプランニング…などをしました。それと、イベントGMもやってましたね。イベントGMを出来る人というのが意外と貴重だったんです。今決められた仕様の中でどれだけ面白いイベントが出来るか…というのは、簡単なようで中々難しい。

―たしかに、TRPGのマスタリングは、オンラインゲームのイベント運営技術に近いですよね

ルールが決まってる中で、この世界観の中でなんとか面白いことしよう、という感じですよね。

次々と展開されるメディアミックスと、今後の活動について

ー『ファタモルガーナの館』は、さいきんメディアミックスの機会が多いですよね。そういった多面展開や、プロモーション活動についてはどういったことを考えられているのでしょうか?

プロモーションについてですが、『ファタモルガーナの館』発表当時は厳しい状況だったと思います。大手レビューサイトがどんどんなくなっていった時期でもありました。正直、当初の頒布数はかなり厳しくて、作品の存在をユーザーさんに広く伝える、という意味ではお葬式ムードだったんです(笑)。でも、そこでくじけずにサイトでの活動などを止めなかった。大変ありがたいことに作曲家の守屋さんが全面的に協力してくださって、『ファタモルガーナの館』の楽曲をオーケストラにアレンジするイベントも出来ましたし、『ファタモルガーナの館』のキャラクターで構成したパラレル作品『セブンスコート』を出して、キャラクターの人気投票イベントも…そうしてたら口コミで地道にじわじわ広がってきました。そこで有名なブロガーさんが書いてくれたり、しまいにはまとめブログさんに掲載されたり。最近ではなぜか暇速(暇人速報:人気2chまとめブログ)の人が広告を貼ってくれてるんですよね。ミシェルがすごく浮いているけど、大丈夫なんでしょうか…(笑)もちろん、とてもありがたく思っています!

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『ファタモルガーナの館』登場人物の一人「ミシェル」が実に目立つ暇速の広告欄

そうしていくうちに、2013年の夏ぐらいから声をかけて頂く機会が増えてきました。今回、ノベライズ作品を2冊刊行することになっていますが、内容はそれぞれ違います。一冊のノベライズは、エンディングが違うんですよ。どちらかと言えば導入本みたいな位置付けになります。イラストレーターさんも、原作とは違う方です。せっかく違う形式で出すのだから、原作とは方向性を変えたかったんですよね。それで担当さんとも色々話し合いつつ、茨乃様にお願いさせていただくことになりました。私自身すごく好きなイラストレーターさんでしたので、とても嬉しかったです。一方で、2冊目のノベライズは、最終章まで連載する予定です。イラストは原作と同じく靄太郎さんが書いてます。

『ファタモルガーナの館』メディアミックスポータル
http://novect.net/mediamix/

―なるほど、作品ごとに別々の展開を楽しめるのですね。

現在配信しているアプリについては、元々言語社の方と『ファタモルガーナの館』のブラウザ展開についてお話を頂戴していたのですが、iOS向けのアプリの開発も出来ますよ、ということでしたので、お願いしました。iOSについては自分たちで開発する時間的余裕がなかったのと、macで開発はしたこともなかったので少し敷居が高くて…。なので、やっていただけるところがあるのならお任せしようと。ただ、現在提供されているiOS版に関しては、さまざまな環境での不具合確認などが、十分に行きわたらなかったのかなと思います。そちらに関しては、移植をお願いしている会社と調整中で、徐々に改善させていただいております。ご購入いただいた方には大変申し訳なく思っています。もう少しお待ちください!

ーサークルとして、作品を頒布するにあたってはどちらに出した形でしょうか?

とらのあなやメロンブックスなど、サークルとして出せるところは登録しましたという感じですね。ただAmazonさんをはじめ、Magino Driveさんや一部DL販売サイトについては、個人では出せないところも多く、パブリッシャーさんに仲介をお願いしています。あと、窓の杜の編集長をしていた中村さんが「ファタモル、海外でも絶対人気が出ますよ!」とプッシュしてくれて、それでPlayismさんにも審査に出してみた形です。遊んでくれそうな方がいそうな場所には、どこにでも出していく思いですね!

ーさいきん「同人とインディーの違い」についてたびたび話題が上りますが、制作者として、その違いなどは認識するものなのでしょうか?

どうなんですかね?同人はいわゆるオタクコンテンツ傾向があって、インディはコア系なゲーム好きが多い…というような大変ざっくりした印象です。インディーには会社が多いという印象はありますが、どっちも属している人が違うだけで、やっていることは同じなんじゃないかなと思います。さらに言うと、『ファタモルガーナの館』はジャンルとしては静的なノベルゲームなので、同人にもインディともさらに違う場所にある気がします。ノベルゲームもまた独自なコミュニティがあるように見えますので。だからどっちも入れるし、入れてないのかなあ。ゲームを頒布する場所という意味だと、自分は最初は同人しか知らなかったのですが、今は最初からインディーで出そうってなったかもしれない。けれど、やっぱり頒布の場所としては、同人メインのコミケが強い印象です。ただ、同人にしてもインディーにしても、みんな好きでゲームを作っているというのは変わらないですよね

ーNovectacleの皆さんとしては、今後ゲーム制作者を職業としていきたい思いはやはり強いのでしょうか?

私自身は、ゲーム制作者の肩書も捨てずに生きていきたいと思っています。ただ、文章を書いたりとか小説も書きながら…といった考えで、やることをしぼりたくはないんですよね。出来ることがあるならどんどんやっていきたい。他のメンバーについては、イラストの靄太郎さんはゲーム制作者というよりイラストレーターとしてやっていきたい思いがあるみたいです。音楽のがおさんは、既にジャズバーで歌っていたりするのですが、歌だけを仕事にするという考えはないのかもしれません。いや、もしかしたら腹の内ではすごいことを考えているのかも(笑)。まあ、みんなそれぞれの方向で動いていますね。

ーいまは『ファタモルガーナの館』のメディアミックスなどでお忙しいと思いますが、次回作などの展望はありますか?

個人的な願望としては、すぐに次回作に着手したいですね。実は忙しくなる前は着手を始めていたのですが…。 ただ『ファタモルガーナの館』は多くのファンの方に恵まれた作品なので、ファンディスクは出していきたいと思っています。英語版も、近いうちに出せるといいなと考えています。メディアミックスについても、お話を頂けるかぎりは、まだまだやっていきたいです!

ー多くのファンに親しまれた『ファタモルガーナの館』の世界観をさらに広げていきたいという思いが強いのですね。仮に、次にゲームを作るとしたら、作品のジャンルは決まっていたりしますか?

ノベルゲームも続けていくつもりですが、シミュレーションRPGも作りたいなと!日本のゲームではシミュレーションRPGも好きで、『ファイナルファンタジータクティクス』や『タクティクスオウガ』とか好きなんですよね。戦争での二つの正義とか、プレイヤーの選択によって善悪の陣営が変わったり…、ストーリーがガチっとあるゲームが好きなんですよ。でも、戦争というテーマに取り組んだ作品は規模がとても大きくなってしまうので、インディーでやるには悩みどころですね…。

ーなるほど。それでは最後に、これからゲームを作ろうと思っている人に一言お願いします!

偉そうなことを言える立場ではないんですけども(笑)。とりあえず一歩を踏み出してみることですかね? いまだと個人制作のゲームがネットでわんさかあって、もしも失敗しても恥ずかしいことじゃないですし、あまり気にせずやればいいと思いますよ!

ー本日はどうもありがとうございました!

 

タイトル ファタモルガーナの館
制作者 Novectacle
クリア時間 20〜25時間
対応OS Win / iOS
価格 Win版 2000円(体験版は無料) iOS版 1000円

購入はこちらから
Win版(Playism 8月18日までセール中につき50%OFFの1000円)
http://www.playism.jp/games/fatamorgana/

iOS版


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    poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。