日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム『怖い人形が出る kowai』それは怖くないです。

アドベンチャー,フリーゲーム

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とある古びた日本家屋。「ハナ」、「アン」、「シュウ」、「カゲ」の四人が肝臓検査に訪れた。すると間もなく玄関が閉まり、外に出られなくなってしまった。脱出するため、四人は中を探索するが、ハナ以外の三人が姿を消してしまう。消えた仲間達を見つけ、真相を突き止めるべく、ハナはただ一人、家屋内を奔走する。
果たして、その先に何が待つのか。

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『怖い人形が出る kowai』は、アメリカはカリフォルニア州在住の女性で個人ゲーム作者「ナンシー」氏がたった一人で作った和風探索ホラーアドベンチャーゲーム。PC(Windows)用フリーゲームとして、20XX年は○月×日に公開された。海外で作られたゲームだが、言語は日本語のみで英語非対応。ダウンロードも日本国内のフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」より行えるが、「itch.io」や「Steam」ではできないし、ページも存在しない。

正しくは『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』

……というのは全部、本作の内部設定である。
「ふりーむ!」よりダウンロードできるのを除いて。

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正式名称は『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』。2019年6月28日にPC(Windows)用フリーゲームとして公開された作品だ。その名が現す通り、「ナンシー」という架空のアメリカ人女性が『RPGツクールMV』で作ったゲームを遊ぶという内容である。いわゆる、ゲーム内ゲームというヤツだ。略して「知らナンシー」。サムいとか言うんじゃない!zipファイルにそう書かれているんだよ!

とにもかくにも、基本的な内容の紹介である。
古びた日本家屋を探索して脱出するゲームである。以上。

「それだけかよ!」と言われても、本当にそうなんだから仕方がないっつーの!
「ハナ」と呼ばれるセーラー服を着た女性を操作し、閉じ込められた日本家屋から脱出するための手がかりを探っていく。だが、ストーリーが進むと同時に、彼女と共に家屋内へ肝臓検査にやってきた三人がいなくなってしまう。

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そして現れる、謎の怖い人形。以降は彼の者の妨害を潜り抜けながら、いなくなった三人を探し出す目標も加わり、入り組んだ展開を見せていく。このような構成で本編は進む。

ご覧の通りの”単純明快”の一言に尽きる探索アドベンチャーゲームだ。

そんな本作の真髄にして魅力は、日本をよく知らないナンシーが作ったこと。
つまるところ、KANCHIGAI JAPANのオンパレードである。

THIS IS NOT HORROR.

冒頭のストーリー紹介、ハナ達の目的からして、こうツッコミたくなったと思われる。
「なんで日本家屋へ肝臓検査にやってきたんだ。それやるのは病院だろう。」

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大体ご推察の通り、正しくは”肝試し”である。ナンシーは「肝試し=肝臓検査」と認識してしまっているため、作中ではその言葉で表現されてしまっているのだ。”肝”しかヒットしておらんがな!

さらに途中からハナ達を襲う敵として現れる「怖い人形」。
彼の者は次の一言を発しながら襲いかかってくる。

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「祝ってやる。」

「何かプレゼントしてくれるの?お金くれるの?うれぴー!」とか思うかもしれないが、正しくは”呪ってやる”である。部首が違うやんけ!というか、怖さが消えとるがな!だけど、ナンシーにはそんなの分かるはずがない!日本をよく知らないんだ!漢字が分からないんだ!仕方がないんだ!というか、そもそも怖い人形が祝ったりせんだろ!彼の者がいかに危険な存在かは『デイドリームリバー』でも証明済みだろう!

勢いで別ゲームの微妙すぎるネタバレをしてしまったが、それはさておき。そのような具合に突っ込まざるを得ない部分が多々あり、ホラーゲームを謳っているのに、実の所はコメディーゲームも同然な(いい意味で)大変残念なことになってしまっている。

そして言うまでもなく、これで序の口である。
本編ではさらなる勘違いと異様な表現が連続し、プレイヤーをタカアンドトシのトシにする。
その一例を紹介するならば、

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主要キャラクター四人の一人「カゲ」が紛うことなき忍者!

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クソみたいなドア!

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謎めいた鍵!

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無造作に置かれた寿司!

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こちらは本物の寿司!

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そして昨今、ナウなヤングにバカ受けのタピオカ!
怒涛のKANCHIGAIフィーバー、なんやねんこの家屋である!

台詞もナンシーが書いている関係で日本語の体を成していない。翻訳ツールに通してそのままコピー&ペーストしたも同然のものばかりだ。ゲーム翻訳の最前線で活動されているプロの方々なら、思わずビックリ仰天お口あんぐり目が点々。場合によっては頭痛が痛い!

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恐るべきことに、このおかしな日本語を元に謎を解かなければならない場面も多数。当然ながら難易度は”不必要に”高い。プレイヤーの読解力どころか、翻訳力も試される。それどころか、本編はストーリーの展開に応じて探索範囲が拡大。さらなる意味不明で関連性もサッパリな謎がプレイヤーの目前に現れる。そして、おかしな日本語と格闘し、時に首を45度ほど、場合によっては180度傾けたりしながら行方をくらました仲間達の捜索に当たっていくことになるのだ。

それもあって、多くのプレイヤーが「助けて、翻訳家の皆さん!」と悲鳴をあげたくなるだろう。裏を返せば、文章が意味するものを見出して謎を解明するのもあって、やり遂げた後の達成感は抜群。
「俺は読み解いてやったぞ、ナンシー!」という優越感にも浸れる。

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まさに”文章の読み解き”を”間違った日本観”と合わせ、独自の遊びを表現した形。全編に渡って勘違いフィーバーで、それだけでも十分すぎるほど魅力なのだが、謎解きゲームとしての面白さもちゃんと込められていて、意外に考え抜かれた内容にまとめられているのだ。何よりゲームプレイにおいて全く支障がないのが素晴らしい。確かにナンシー執筆の日本語は意味不明だが、何を言いたいかの意図はハッキリ示されていて、よく考えれば答えを発見できる、絶妙な破綻具合なのである。

謎解きも解法が理に適っていて、全くモヤッとしない。スッキリ爽快だ。続々と襲い来るKANCHIGAIの嵐もプレイヤーを飽きさせないネタとしての役割を果たしているのに加え、時々、怖い人形を避けるイベントが挟まれるなど、起伏の付け方もバッチリ。意外に広い日本家屋のマップもインパクト十分だ。いや、そもそもこれ家屋か?屋敷では?……となるかもしれないが。

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とにもかくにも、このように謎解きゲームとしての真面目さもあって、一筋縄ではいかない仕上がりになっているのだ。それら全てがナンシーの勘違いあってのものと表現されているのも巧みで、『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』という題名のこれ以上ない適切さを実感させられる。
もし、どんな具合に手ごわいのか気になるなら、今すぐにもダウンロードして遊んでみていただきたい。単に勘違いネタを見せることに徹したのではない、本作の凄味と面白さを思い知るだろう。

念のためだが、配信されているのは「ふりーむ!」だけだぞ。

「ニホンゴ、ムズカシイデス。」

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このほか、ストーリーも意外に(失礼)面白い。詳細は伏せるが、実は起承転結を見事に押さえた内容にまとめられている。特にラストの伏線回収には「なるほど!」と、思わず手を叩いてしまうこと請け合いだ。並行して繰り広げられる「KANCHIGAI JAPAN」っぷりもまた然り。人によっては、脳内に「革新的!」と叫ぶビーバーがニョキっと出現するかもしれない。そこから先のエンディングにも衝撃的な会話イベント(?)が待っているので要注目である。

ボリュームもエンディングまで速ければ1時間程度と、短編なのでそれほど長くはない。ただ、謎解きが手ごわいため、やり応えと密度は十分。プレイスタイルによっては2時間以上費やすこともあり得るので、見た目以上の満足感を得られるはずだ。

大体、察する通りだが、ホラーゲームとしての怖さは皆無。むしろ、落第点レベルである。その手の演出には期待しちゃいけない。また中盤以降、急に探索範囲が広くなる展開は唐突さが否めず、どこに向かえばいいのか右往左往しやすいのは地味にストレス。欲を言えば、もう少し時間をかけて探索範囲を広げる構成を心がけて欲しかったように思う。

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ただ、そんな詰めの甘さも日本をよく知らないナンシーが作っているのだからしょうがないか、で許せてしまうのは強み……と言っていいのかどうか。細かい所でグラフィック、音楽も全てオリジナルで、特にカートゥーンと日本のアニメを混ぜ合わせたかのような登場人物達のデザインは謎の胡散臭さに溢れていて、嫌でも印象に残る。

ネタゲーに見せかけて、実は遊び応えもしっかりした本作。ホラーゲームとしては豪快にツボを外していて、幽霊の面子丸潰れの地獄絵図だが、コメディー探索アドベンチャーゲームとしては盤石の出来。その名とは裏腹に良作以上と胸を張って言える出来を誇る一本だ。ホラーゲームが苦手な人も好きな人も、このKANCHIGAIの嵐を全身で受けてみよう。

それは安心してください。これは怖くありません。私は寿司が好きです。

[基本情報]
タイトル:『日本をよく知らないナンシーが作った和風ホラーゲーム』
制作者: べるず
クリア時間: 1~2時間
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料
備考:出血、ホラー描写”生ぬるい程度に”あり

※ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/20494

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