イレギュラーな異世界英雄譚を描くSRPG……の姿をした異色の一作『NAROUファンタジー』

現実世界から別世界に送り込まれた少年少女、時々中年の男性が持ちうる力を発揮して悪と戦ったり、新たな人生を歩み始める様子などを描く、定番題材の「異世界転生」。もしくは「異世界転移」。

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今回紹介するフリーゲーム『NAROUファンタジー』もまた、それを題材としたシミュレーションRPG(以下、SRPG)である。そもそも「NAROU」……異世界を舞台にした作品が多く投稿され、賑わいを見せているユーザー参加型の小説投稿サイト「小説家になろう!」を連想させる名を冠している時点で、大体、そんな作品であるのが察せる。

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実際に本編も期待を裏切らない始まり方をする。
勇者大好きな巫女「ミーコ」によって、16歳の少年「篝矢 錬(かがりや れん)」が異世界へと召喚。何故か手にした不思議な剣を片手に魔物の軍勢と戦闘してこれを退け、その圧倒的な力を駆使して、人間を蹂躙する「魔神」から世界を救う冒険に出る。
これぞ異世界、そしてヒーローモノのお約束を踏まえたあらすじだ。

……と、大ウソ甚だしいことを書き殴らせていただいた。

何故かと言えば、本作は”イレギュラー”な作品であるからだ。
そもそも、ゲームジャンルにしたってSRPGではない。

戦わずに逃げろ!?戦術・戦略性皆無、初見殺し満載のSRPG?

いや、しかし、どう見てもスクリーンショットの一枚は……と、言いたくなるのも当然だ。
本作はSRPG専門のゲーム制作ツール「SRPG Studio」で作られている。

ゲームプレイもSRPGのそれだ。カーソルでユニットを掴んで動かし、敵に戦闘を仕掛けるなりして目標達成を目指す。敵と味方の順に行動する「ターン制」、敵を倒す度に手に入る経験値が100に達すればユニットが強くなる「レベルアップ」など、システム周りも同ジャンルの基本を踏襲している。

それでも本作はSRPGではない。
基本の枠組み以外のあらゆる部分が”イレギュラー”なのだ。

一つにユニット周り。SRPGは総勢30~50人以上に及ぶ個性豊かなキャラクターが仲間ユニットとして加入し、それぞれを戦況に応じて使い分けながら困難を潜り抜けたり、その成長に一喜一憂するのが醍醐味の一つだ。

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本作の場合、登場ユニットは30人にも満たない。10人いるかいないかの最少人数となっている。さらに、主力は主人公ほぼ一人。仲間もいるが、大抵は操作不能なゲストだったり、使えても活躍の場が僅かしかない。ゆえに、己の力に頼るしかない。

だが、それを困難なものとする第二のイレギュラー要素がある。武器だ。SRPGよろしく、回数制限が設けられているのだが、ほとんど一ケタ台。僅か数回しか使えないのだ。一応、回数を超えても武器が壊れることはないが、威力が大幅に低下し、それぞれの武器に備わった専用の特殊攻撃が使えなくなる。当然、回復する手段は、マップのクリアと一つの例外を除いてなし。

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主人公の武器に至っては特に低い。たったの三回だ。その回数の戦闘、あるいは二回攻撃発生のケースも踏まえれば二回で使用不能になる。あとは袋たたきの運命を辿るだけ。

本記事冒頭のあらすじにおける”大ウソ”というのは、このことを指している。主人公、ものすごく弱いのだ。魔物の軍勢を退ける力など無いのである。
よって、そこから導き出される、マップ攻略の最適解は……

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逃げる!
戦闘しない!

まさしくイレギュラー……SRPGちゃうやん、脱出ゲームやんけな戦術が基本になるのだ。この関係で一つのマップに要する時間も短め。テンポ良く行けば、2~3分でクリアできる。そして、正気を疑う初見殺しがてんこ盛り。

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この悪意に満ちたマップの構成が第三のイレギュラー要素だ。そのため、特に初回プレイ時は問答無用でボコボコにされては、無慈悲な形勢逆転が起きる。戦闘を仕掛けても、挽回などできる訳がない事案多数。気付いた時には手遅れ、もうどうとでもなれ。まさにプレイヤーを地獄に叩き落すに等しい構成にされているのだ。

主に象徴的な部分に特化したが、この他にも多くのイレギュラーな要素がある。それもあって、SRPGのお約束に則った戦術など取れば地獄まっしぐら。SRPGらしさは薄め、むしろ、脱出アドベンチャーに近いゲームデザインになっている。特に見つければほぼ一瞬でクリアが確約される「答え」が各マップに隠されているのがそれを裏付ける。

よって、答えを徹底して突けば、あっという間にエンディングに到達できる……と思いきや。本作をクリアするなら、主人公を成長させるSRPG伝統の攻略法を実施せねばならない。矛盾も甚だしいが、そうするしかないのだ。

それを課すのが、最大の売りたるストーリーだ。

「NAROU」の名を冠する意義が込められた珠玉のストーリー

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先のあらすじの通り、基本の設定は異世界ファンタジー作品の王道を踏襲している。ただ、召喚された主人公はひ弱で逃げるしかないなど、始まり方はとても”イレギュラー”。もしくは、現実的。普通の人間が魔物の暴れる世界に送り込まれれば、そりゃそうなるわと、納得してしまうものになっている。

けど、逃げ延びた末に大逆転があるのだろう……と、想像するかもしれない。「NAROU」の名を冠しているのだから、と。だが、現実は非情なり。ちょっとしたネタバレになるが、逆転はない。逃げ延びた末に待ち受けるは文字通りの地獄。自称勇者のまま全てが終わってしまうのである。途中、頼もしい仲間が加入しても、困難を潜り抜けても報われることなどなし。

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特に初回プレイで苦難を乗り越え、最終マップに辿り着いた時、そのどうしようもない現実に打ちのめされるだろう。本作を悪い意味で常軌を逸した作品と印象付けるかもしれない。SRPGに慣れ親しんだ人ほど、怒りを抱くこと確実だ。

だが、その無慈悲な展開こそが本作のキモ。さらにプレイスタイルによるが、その出来事を通してストーリーの”仕掛け”が判明する。そして以降、主人公を徹底的に強化させ、”答え”への到達に奔走していくことになる。あらゆる前提がひっくり返るのだ。

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これ以降は実際にプレイして確かめていただきたいが、ひ弱な主人公、初見殺しだらけのマップ、逃げに徹する構成が必然的なものであることを痛感させられる、見事な理由付けになっている。ゲームシステム、バランスの面にも違和感なく反映されていて、本作のSRPGとしての革新性、そのようなジャンルで呼称するのが難しい実態が明らかになる。
同時に「NAROU」の名を冠した意味も知ることになるのだ。

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ちなみにその名に相応しく、本編の台詞を始めとするテキストも軽妙なノリになっている。登場キャラクター達も個性が強く、特に主人公こと勇者に妄信的な愛情を注ぐパートナーにしてヒロインの「ミーコ」は、本当に「小説家になろう!」生まれの作品に出てきそうな性格。プレイヤーによっては、あまりの濃さに不快感すら覚えるかねないほどだ。脇を固めるキャラクターも女性が多く登場するのだが……いずれも分かりやすいほど”チョロい”。概ねご想像通りな展開も用意されている。

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だが、何気ない雑談に重要なヒントが隠されていたり、ある深刻な状況に繋がる伏線にもなっているなど、ノリとは裏腹に練り込み具合は深い。個性の強すぎるミーコにも重い設定が背後に隠されており、それが表に出て以降はヒロインとしての存在感が増す。他の脇を固めるキャラクターに対しても、最良の結果を求めた行動を取りたくなってしまうはずだ。

「小説家になろう!」出身のいわゆる”なろう系”と謳われる小説には、人気を博して商業化を遂げた作品が多数あるが、世界観や登場人物などの設定が練られてない例も少なくなく、厳しい目を向けられやすい。本作もその御約束を踏まえた所があったり、「NAROU」と名乗っているがゆえに警戒心も抱きやすいだろう。

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しかし、本作の「NAROU」はこれ以上ないほどストーリーとゲームシステムに適したものになっている。確かにこれは「なろう」のファンタジー、ストーリーであり、ゲームだと納得できる仕上がりなのだ。

作品の核心に触れかねないため、ボカしながらの紹介になったが、少しでも興味があれば直にでもプレイし、まずは逃げるしかない展開に身を委ねていただきたい。間違いなく「なろう」の真髄を体験するはずだ。

様々な苦難を潜り抜け、”答え”に辿り着け!

ボリュームも普通にプレイした場合、最速で10~15分程度と短め……と思わせて、20~25時間以上費やすことが要求される意表を突く物量。特に”仕掛け”に気付いて以降は、止め時が分からないほど時間が吸い取られていく。また、エンディングの分岐も用意されていて、プレイヤーの行動によっては思わぬ幕引きを迎えることになる。もちろん、中にはベストなエンディングもあるのだが……恐らく、容易ならざる試行錯誤を体験することになるだろう。プレイヤーによっては、「普通にSRPGじゃんかこれ!」と言いたくなってしまう可能性も。ぜひ、その目でご覧いただきたい。

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他に演出も「SRPG Studio」の仕組みを巧みに活用したものばかりなのが印象的。戦闘シーンも必殺技の度にキャラクターが大胆なアクションを披露するので必見。インフレ全開のダメージ数値にも、さすが「NAROU」と唸ってしまうかもしれない。

詳細は伏せるが、本編の構成が構成だけにゲームが進展しているのかが分かりにくかったり、沢山の同盟ユニットが登場するマップではテンポが悪化する(※早送り可能)、主人公の成長はやや作業気味などの難点もそこそこにある。何より、ミーコの性格と台詞は、人によっては初見時なら読むのが辛く感じるかもしれない。なろう系の作品に苦手意識があるのなら尚更だ。

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だが、それを乗り越えて体験するだけの価値が本作にはある。戦術・戦略性はほぼ皆無、ゲームバランスも無茶苦茶、マップの構成も色々非常識で、もはやSRPGとは呼べない。しかし、その醍醐味はちゃんとあり、手応えもある大変不思議な出来。SRPG好きから嫌いな人のほか、アドベンチャーゲーム好きならぜひ、プレイいただきたい逸品だ。文字通り、異世界に召喚された主人公と共に、勇者に”なろう”。そして、このストーリーに隠された”答え”を見つけ出そう。

なお、作者のウスバー氏は実際に「小説家になろう!」で作品を投稿している。
本作を通して氏に興味を抱いたら、こちらもチェックしてみて欲しい。特に、VRゲームの世界に入り込んでしまった主人公が、ゲーム仕様を逆手に取った「奇妙な攻略法」で窮地を乗り越えていく「この世界がゲームだと俺だけが知っている」は、氏の代表作といっても良い出来となっている。いい意味で意表を突かれること間違いなし!

[基本情報]
タイトル:『NAROUファンタジー』
制作者: ウスバー
クリア時間: 20~25時間
対応OS: PC(Windows)
価格: 無料

※ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/16510

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