「TorqueL」の制作者が語るインディーゲーム事情―FullPowerSideAttack .comなんも氏インタビュー

インタビュー,インディーゲーム

PS4、PSvita、PC向けゲーム「TorqueL」は2013年にプロトタイプが発表されて以来、国内外で数々の賞を受けてきた。

制作者のFullPowersideAttack.comのなんもさん(@nanimosa)は一人でゲーム開発を行っている。
もぐらゲームスでも取り上げた前作「BREAKS LP」で音楽とゲームの融合を目指すなど、独特なゲームを世に送り出してきた。

音楽ゲームとリミックス作成ツールのあいだで―「BREAKS LP」レビュー – もぐらゲームス

今回は、彼にゲーム制作にかける想いとインディーゲーム制作者としての考えを伺った。

社内で仕事の傍らゲーム作り

――なんもさんはそもそもどんなきっかけでゲーム業界に関わるようになられたんですか?

なんも
大学のサークルがPCを使って絵を描いたりプログラムを書いたりする「情報処理技術研究会」というところだったんです。LINUXでルータを構築してネットワークを組んだり、Flashでミニゲームを作ったりしていましたね。その流れで、2009年からセガにネットワークエンジニアとして就職しました。インディをやってる開発者とは違って、クリエイターではなかったので、少し異色の経歴なんですよ。最初はネットワークのお仕事をやっていたのですが、ひょんなことから社内のゲームタイトルのプロジェクトのお手伝いもするようになりました。

――ご自身で企画してゲームを作るようになったのはいつ頃からですか?

なんも
入社直後の研修でゲームの企画書を書くことがあって、その時からネットワークエンジニアで働く傍ら合間にゲームを作ってたんですよ。任された仕事を済ませて空いた時間に社内で自分で勝手にゲームを作ってても何も言われない文化だったんですよね。
 そして作ったのが「Taplib」という未公開のゲームです。
 ただし問題があって、作っても社内で企画以外の人がゲームのアイデアを発表する場がなかったんですよね。そこで、入社3年目の2011年に発表の場を無理矢理でも作ろうということで、CEDEC(Computer Entertainment Developers Conference)センス・オブ・ワンダーナイトに応募して、運の良いことに両方とも通過して発表したんです。

f:id:moguragames:20140506082833p:plain

――ゲーム会社らしい自由な雰囲気ですが、やはり外に発表されたかったと。その「Taplib」はどんなゲームだったのでしょうか?

なんも
GUNPEYっぽい見た目のiPhone向けゲームですね。正方形が並んでいてその斜辺がつながっているところを消していくパズルゲームです。一番最初はPSP向けの落ちゲーで考えていたんですが、テンポを良くしたかったので、実際にタッチパネルに触れるiPhoneにシフトしました。2011年頃になるとちょうどスマホ向けのゲームが増えてきたんですよね。当時のスマホゲームはバーチャルパッド(画面上のコントローラー)を操作するものばかりだったので、スマホらしさを活かしてタッチしてすべらせるだけで遊べるゲームができないか考えていたんです。

評価される土俵に上がるため、個人でのゲームづくりへ

――この「Taplib」は世にでることはなかったんですよね。

なんも
センス・オブ・ワンダーナイトで発表して以来、一般公開はしませんでしたね。ゲーム性としても少し問題もありましたし、発表以降製品化の話もなかったですし、本当に何も起きなかったんですよね。
 この頃、ゲーム制作に関して気づいたことがありました。個人で制作しても、評価してもらうラインに立ててないんですよね。それが嫌だったんです。会社では、公開できるゲームを作れなかったんですね。セガにいた頃は社内の仕組みでも、ゲームのプランナー以外がゲームの企画書を書いても実現はできない状態でした。そして、僕が作りたいゲームの場合、全く新しいゲームジャンルだと予測もつかないので、何万本売れるから予算をいくら使って作る、みたいな話もできなかったんですよね…。

――そして個人でゲームをつくろうということになっていったわけですね。

なんも
はい。自分が作りたいゲームを作るなら、会社の外でやるのがいい、と思うようになったんです。勝手にやりますということで「BREAKS」のプロジェクトを始めたんです。社内ではなく全て自宅作業に切り替えました。
 そして、FullPowerSideAttack.comとして2012年のセンスオブワンダーナイトで「BREAKS」を発表しました。その後、2013年にセガを辞めたわけですが、退職自体は自分でゲームが作りたかったからという流れとは別の理由だったので、ゲームの制作は事業としてやっていません。結局、ゲーム制作は会社とは別でやっているんですよ。会社に行く以外は自宅で好きにしています。週3日ぐらいはゲーム制作に充てられてますね。

キーワードは「自律演奏」

――なんもさんは「BREAKS LP」で音楽とゲーム性を絡めることに挑戦されましたが、Taplibも同じような挑戦をした作品だったのでしょうか?

なんも
Taplibはパズルを解いていくとメロディーが鳴り、楽曲のパートが増えてBGMが豪華になっていく仕組みになっています。ブロックを触るごとにリフがかかったりということを試行錯誤していました。
 いわゆるBeatmaniaなどの音ゲーって譜面をなぞるだけじゃないですか。そうではなくて、ゲームを進行させる操作からBGM、SEを工夫して、ユーザーがパズルを解きながら演奏しているようなゲームができないかと思っていました。
 これまでにない考え方だったので、「自律演奏」という言葉まで作っちゃいました。自律演奏は、「ユーザーが能動的に行う演奏」のことです。これまでの音ゲーを表す「他律演奏」という反意語まで作って定義してみました(笑)パズルが得意な人がパズルを解いたら音楽が演奏できるような仕組みができたら、面白いんじゃないか?という問題意識です。
 2012年というと、「ゲームをやるのって無駄じゃないか」という風潮に対して、シリアスゲームやゲーミフィケーションといった考え方が出てきた頃ですね。ゲームにも意味があるんですと。でも、この2つの考え方は、ゲームを利用しているだけで、ゲームそのもののパラダイムシフトにはつながらないのではないか、ゲーム自体も進化して両立していくようなことができないかと思っていました。

――それがBREAK LPのリミックスとゲーム性につながった流れということでしょうか。

なんも
 Taplibの場合は先にゲームがあって、演奏の話は後付だったんですが、うまくできなかった。その後に作ったBREAKSの場合は逆で、今度は先に演奏システムから考えてみたんですよね。そして後からスコアとかゲーム要素をつけていったんです。
 演奏システムの参考にしたのはHarmonixのRyan Challinorが制作した、Kinectを使って演奏する「Kinect BeatWheel」ですね。

Kinect BeatWheelはサンプルを4つ組み合わせてループさせていくだけなので、一回のプレイをもっと長くして、長い一曲を丸々演奏してみたらいいんじゃないか、というところから始まりました。
「演奏してください!」ではなくて、まずは「遊んでください!」そうしたらリミックスができているっていうゲームを目指したんですよね。説明するときはぼかしています。今は、「遊ぶと、佐野さんの曲がリミックスできますよ」と言ってますね。

f:id:moguragames:20140319213904j:plain

――ユーザーは面白さしか見ないので、ゲームへの想いを伝えるというのは難しい側面があります。

なんも
2重苦ですよね。クリエイター側でも理解されにくいし、ユーザー側に説明してもなかなかわかってもらえないということでしたね。ユーザーが求めているものなのかどうかという問題意識はありましたね。「発想は面白いんだけどさ」っていう。

――この自律演奏の考えはTorqueLにも引き継がれているのでしょうか?

なんも
TorqueLはまたゲーム性優先に戻っています。2013年に入ったぐらいから次のゲームを作ろうと決めて、色々試行錯誤してたんですよ。どういうゲームが面白いだろうかという中で、没にしたプロトタイプがたくさんあります(笑)エアコンの羽の角度を調整して部屋にいる人を冷やしていく「Air Conditioner Conductor」というゲームとか。部屋にいる人達がちょうどバランスよく冷えるような最適の角度を探るゲームですね。当てすぎると風邪を引くのでゲームオーバー。

f:id:moguragames:20140506084757p:plain

久々にプレイしたなんもさんの口からは、「このゲームむずかしいな・・・。」先ほどのゲーム遊んでも無駄じゃないっていう発想から離れてみたんです。とにかくゲームを作ってみようという方針転換。まずはこれやって次は何をやるっていうレベルデザインをしっかり作りたかった。結局誰もがなじんでるし、横スクロールのゲームを作ろうと思ったんです。2Dアクションゲームはみんなマリオとかロックマンを知っているので受け入れられやすいんですよね。そして後付で移動に合わせてBGMが流れるようにしたんですよね。ただ普通に音を鳴らすのでは面白く無いので、BGMは右に転がると正方向に、左に転がると反対方法に流れます。

ー―演奏システムから作ったというわけではなくとも、自律演奏という哲学は脈々と流れていますね。

とにかく作ったゲームをプレイしてもらいたくて

 TorqueLはちょっと不思議な2D回転アクションゲームだ。実際には回転と変形(Rolling and Extending transformer)を繰り返しながら箱の中にいる紳士をゴールまで届けていく。PS4とPSvita、PCで今年中をめどに発売予定。

――TorqueLはPS4とPSVitaという2つのプラットフォームで発売予定です。PS4向けで出すことになったきっかけは何だったのでしょうか。

なんも
TorqueLは4辺がそれぞれコントローラーのボタンに対応しています。やっぱりゲームのコントローラーで遊んでいただきたいんですよね。とはいえSCEとは法人契約しかできないで、Playismに手伝ってもらって実現しました。

――「TorqueL」は色々なところで賞を受賞されています。かなり期待も高まっているということですが、なんもさんは「気づいたらここまできてしまった」というようなことをおっしゃっていますよね。 

なんも
自分でゲームを出せるようになったのはいいけど、個人でゲームを作っても触ってプレイしてもらう機会がなかなかないんですよ。次は触ってもらわなきゃいけない。イベント出るのは良いいけど、プレイするのは来た人だけだし。そこで、同人ゲームと同じようなノリで色々な賞に出してみることにしたんです。少なくとも審査員の人たちは見て、触ってくれますからね(笑)
 2013年のBitSummitで初めて公の場に出してから、ニコニコ自作ゲームフェス、IndiCade(E3)、IGF China、Intel Level Up、メディア芸術祭(エンターテイメント部門)と色々と出展をして、いくつか賞もいただくことができました。ちなみにSteamでの配信はIntel Level Upでの副賞です。

――確かにゲームを作ってもプレイしてもらえなければ意味がないですよね。

なんも
そもそも日本国内では、開発中のゲームを出せるイベントが本当に少ないです。出せても結構力技だったりして(笑)某コンテストなんて製品としてリリースしたものしか対象にならない部門か、一銭も稼いではならない部門しかないんですよ。

個人でゲームをつくることの難しさ

――自分が作ったゲームのマネタイズもなかなか難しいですよね。

なんも
お金に関しては、作ったゲームに対してはお金をいただきたいと思っていますが、稼ぎたい・それが最優先というわけではないです。インディーゲームの流れって、海外では価格が安いけど、市場が広がっているので成立しています。一方で、日本国内だとただ安いだけで市場は縮小しているからダンピングにしかならないんですよね。将来的にはビジネスモデル自体が変わらなければならないですし、それを考えていかなきゃいけないと思っています。

――なんもさんのFullPowerSidAttack.comはお一人でやられているんですよね。ゲームを作って、宣伝もしてとなるとかなり大変そうです。

なんも
去年まではYoutubeアップロード、Twitterなど宣伝は全部一人でやっていました。プレスへのリリースも効果が分からないし、ユーザーの皆さんと直接繋がれないので意図的にやってなかったんですよね。TorqueLはPS4やVitaで出すということもあり、ゲームメディアの力はやはり大きいということでPLAYISMさんに協力いただいてプレスリリースなども打ち始めました。同じように開発段階のソフトですが、『La-Mulana2』のNIGOROさんはなんだかんだで4人いるじゃないですか。僕は1人なので宣伝に割く余裕がないんですよね。今後は、PlayismやSCEとも協力してやっていくことになるとは思っています。

――ビジネスモデルを変えなければならなかったり宣伝も協力していくなどインディーゲームは既存のやり方とは違うやり方でやっていくというお話ですが、インディーゲームの現状に対してはどうお考えでしょういか。

なんも
今年のBitSummitでは、人がかなり集まってきていましたが、ちゃんとしたイベントになってきたという感想を聞いて危機感を覚えています。TGS(東京ゲームショウ)に近づいてきているんですよね。ちゃんとしたイベントになってきていて、やり方が今までと同じ。そればっかりやってたら国内外問わず、作る側は安く売らなきゃいけないというビジネスモデル・広がり方が変わらないと思っています。遊び手にも意識してもらいたいと思ってプレスを打ったりしています。インディーゲームならではの新しい広げ方があるのではないかと考えています。模索していきたいですね。

――確かに最近国内でもインディーゲーム盛り上がっていると言っても、出し手が多くな状況になってしまって、ユーザーが新たに入ってこないようになってしまうと本末転倒ですね。

なんも
日本のメディアやユーザーの視点だと、海外の成功したゲームの英語記事の翻訳ばかりなので、日本が遅れているように見えちゃうんですよね。海外の開発者の適当なツイートがニュースになったりするので、自分のツイートも拾ってもらいたいなとか(笑)TorqueLはプレイしているとき日本語が一切出てこないので、海外のゲームとして実はフランスからとか言って出したほうがいいんじゃないかということも考えたりしますよね(笑)
 TorqueLって有名だよねと言われることもありますけど、そこまでの実感はないんです。数字的にもプロトタイプをSteamでも配信してDL数は15000件位ですが、お金を払いたければ払う(Pay What Your Want)という仕組みで、入ってくる金額は非常に少ないんです。
 そもそもSteamのレビューも英語ばかりですし、TorqueLの知名度は海外のほうが高いんじゃないでしょうか。市場は海外のほうが大きいのでチャンスはありますが、自分は日本にいるし、どうにかして日本でも売りたいなあと思っています。

――こうした問題意識はPS4やPSVita、また海外で出展したりSteamで配信してるからこそ直面されていることではないでしょうか。TorqueLの製品版が楽しみですね。ゲーム制作の話からインディーゲーム市場のこれからまで、幅広いお話を本日はありがとうございました。