少女と信号機の不思議な旅をあらゆる要素を駆使して描く、キオクを読み取るADV『アンリアルライフ』

ある不思議な夜の街。
その交差点で「ハル」と呼ばれる少女が目を覚ます。
彼女は何らかの出来事が原因で記憶を失ってしまっていた。
そして、触った物の記憶を読み取る不思議な能力を持っていた。

ハルは交差点で出会った喋る信号機「195」と共に、自らの記憶に直接関係すると思われる「先生」を探し出すため、旅に出る。その先に何が待つのか。そして先生に近づくたび、少女の脳裏を過ぎる不穏な映像が意味するものとは。

2018年開催の「TOKYO SANDBOX」2019年開催の「東京電脳特区 v1.0」に出展され、当もぐらゲームスにもプレイレポートを掲載した個人開発者のhako 生活氏制作の横スクロール型アドベンチャーゲーム『アンリアルライフ』。その製品版が5月14日、満を持してリリースとなった。

2018年時点ではPC、スマートフォン・タブレット(iOS、Android)でのリリースが報じられていた本作だが、翌年開催の「東京電脳特区 v1.0」にて、Nintendo Switch版が新たに発表。そちらが先んじて登場する形になった。また、Nintendo Switch版発表当時はソニー・ミュージックエンタテインメントのゲームレーベル「UNTIES(アンティーズ)」がパブリッシャーとなっていたが、製品版は『ARITFACT ADVENTURE外伝DX』、スマートフォン版『薔薇と椿』の販売を手掛けた株式会社room6とhako 生活氏が新たに立ち上げたインディーゲームレーベル「ヨカゼ」のデビュー作としてリリースされるに至った。

なおPC、iOS、Android版は後発リリース予定とのこと。

過去と現在を重ね、道を切り開く横スクロール型ADV

改めて本作の内容を紹介すると、横スクロール構成のフィールドを進んで物を調べたり、そこに隠された過去の記憶を掘り起こしながらストーリーを進めていく謎解き&探索系アドベンチャーゲームだ。

最大の特徴は主人公ハルが持つ、触った物の記憶を読み取る能力。フィールド上で気になる対象(物)を調べた際に表示される「さわる」のコマンドを選ぶことで、周辺の過去が映し出される。この過去と現在の風景との間でどこが変化したかを発見し、それを元に解決策を探り出すなりして進めていくのが基本となる。

また、探索の過程でアイテムが手に入ることも。これらはハルが持つ「カバン」に保管され、取り出す操作を行えば持った状態になる。謎解きにはこれらのアイテムを持った状態で調べると、新たな選択肢が出現するものも。また、ZRボタンを押せば直接アイテムを使う動作を行うものもあり、時にはそれを活用し、謎を解くことも試される。

これらの事柄をこなしつつ進める本編はチャプター形式で進行。基本的には都度、示される目的地を目指していく感じだ。また、進行に応じて舞台となるフィールドも増加。それと合わせるように「転送ドア」なるワープポイントも解禁され、探索要素も濃くなっていく。

他にシステム周りでも機能追加が発生することも。これまでに触った物の記憶を再確認する「さわったモノ」、過去の会話を振り返るバックログこと「おはなししたコト」、そして今までの出来事を振り返る「わたしの考え」など、全ての要素がゲームの進行とハル当人の記憶の変化に使えるようになっていく、ストーリーと強く関連付けしたゲームデザインが凝らされている。

そのため、物を調べる基本操作や記憶を辿る能力に加え、全体を構成する各種機能全てにゲームとしての”御都合”がなく、存在して当たり前のようにまとめた作り。全体を通し、ストーリー性に対するこだわりが炸裂したアドベンチャーゲームになっている。

ストーリーのための無駄のなさが光る珠玉のゲームデザイン

その隅々まで心血を注いだゲームデザインが本作屈指の魅力となっている。シンプルにひとつひとつの要素に確固たる存在理由があり、本作の世界観、設定特有の工夫が凝らされている。セーブ機能ですら。

この自然な作りを実現させるに一役買っているのが、ハルをサポートする信号機「195」。彼がハルの脳内神経に干渉し、サポートを行う設定だからこそ成し得た違和感のなさが各種機能に現れている。そんな部分に干渉し続けているため、できることが増えていくのも流れとしてとても自然で、ストーリー的にも無理のない展開を作りだしている。

何より195のキャラクターがいい。ハルを懸命にサポートする一方、信号機……AIであるがため人間社会の文化に対して疎く、初めて見た物などに子供みたいに無邪気な反応を見せるので、微笑ましい気持ちになる。

数あるイベントの中でも注目なのは、”ゲーム”に関する反応、そして詳しく知って以降の変化だろう。ちなみに件のゲーム、実際に彼と対戦する形で遊べるようにもなっている。ストーリーの進行には僅かに関連する程度なので、一度遊んだ後は無視しても構わないのだが、できれば少し時間を割いて遊んでみていただきたい。より195に対する愛着が増すに加えて、こう言った寄り道にも気合を入れている本作の凄味を感じ取れるはずだ。

195以外のキャラクターについても魅力的な面々が揃っている。基本的にハルと先生以外の大半は動物なのだが、いずれも役割に対しての起用に意外性があって、強烈な印象を残す。彼らと出会うことになる、各種フィールドのロケーションもインパクト抜群。不思議な夜の街という設定がこれ以上なくマッチした、奇想天外の極みな地形が続々と登場する。

また、終盤に差し掛かると登場キャラクターにさらなる人間の存在も見えてくるのだが、これ以上は実際にその目で確かめていただければと思う。タイミング的にも適切で、その姿がクッキリ映し出されるシーンも”ここぞ”なものになっている。

そう言った登場人物の設定、性格付けに留まらず、展開に応じた登場の瞬間、役割の与え方も絶妙で、ゲームデザイン周りとも絡めた緻密な設計が光る。全体を構成する要素、システムからキャラクター、細かな機能まで本作『アンリアルライフ』に存在不可欠な物として位置付ける。本筋たるストーリーに無関係なものにせず、浮かせもしない。

この隙がない出来には、プレイすればするほど魂を揺さぶられるような気持ちにさせられるはずだ。

また、ひとつのアドベンチャーゲームとしての出来も見事。特に謎解きやイベントのバリエーションが多彩で、プレイヤーを飽きさせない。難易度も程よく、中には若干の思案が試されるものもあるが、間延びしないための気配りが光るバランス。画面構成に沿って、アクションゲームっぽいイベントが用意されているのもいいアクセントになっている。

ストーリーも多くは語らないが、優しく暖かい雰囲気を漂わせつつ、その影にどす黒い闇が描かれる見応え抜群の内容になっている。特に終盤、先生に接近しかける展開は演出的にも圧巻。

ここまでのスクリーンショットの通り、本作は全編ドット絵で表現されているのだが、決して懐かしさ目的での起用ではない。現代なりの見せ方、新たな方向性を見せるための意図を感じられる起用になっている。それを象徴するのが件の演出である。

どんな映像が炸裂するのかはその目と耳で確かめていただきたい。
一種の”極致”を見るだろう。

HD振動の心地よい手応えも絶品の傑作アドベンチャー現る

Nintendo Switch特有のHD振動を効果的に活用した操作感も大きな見所。中でもフィールドの移動中、地面の性質に合わせて異なる震え方をし、プレイヤーの手に直接体験させてくる作りは、これぞNintendo SwitchのJoy-con、PROコントローラの真価と言わんばかりの感動がある。先の通り、本作は今後、PC、スマートフォン・タブレット向けにも展開される予定だが、このHD振動による素晴らしい手応えが味わえるのはNintendo Switch版の特権であり、唯一無二の強みだ。他機種版でのリリースを待つ人が中にいらっしゃるかもしれないが、あえて言おう。だとしても、この手応えは一度でもいいから体験するんだ、と。後になっても構わないので、ぜひともこの素晴らしい震え堪能いただきたい。人によっては癖になっちゃうかもしれない。

総じて突き抜けた完成度を誇る本作だが、気になる箇所も。特に「エビ」のアイテムを用いた誘導系のイベントは若干、間延び感があるため、入れるにしても1箇所に留めて欲しかったように思う。そのことが示す通り、2箇所目以降が存在する訳だが……詳細は本編で。また移動周り、主に階段はコマンド選択型ではなく、直接移動式が望ましかった印象。これはPC、スマートフォン・タブレット版との兼ね合いなのかもしれないが、いちいちコマンドを出して選択するのは煩わしいので、可能ならその仕組みにして欲しかったところである。

他にセーブはオート、マニュアルだが、細かいパートでの記録は不可。本作はマルチエンディング制になっているのだが、分岐パートからの再開は可能でも直前からの再開は不可能で、ある程度のイベントを見通す必要が生じるのも厳しい。ゲームデザイン上の弊害なのかもしれないが、もう少し端折れなかったのかと惜しまれるところだ。(幸いにして、ボタン連打+コントロールスティックを交互にはじくことによる早送りは可能)

色々細かい不備を指摘してしまったが、それでも本作が屈指の完成度を誇るアドベンチャーゲームである事実は変わらない。もし、ビジュアルや魅力の数々にビビッと来るものがあったのなら言わずもがな。そのまま突撃いただきたい。素晴らしく、記憶にぶっ刺さる夜の旅がアナタを待つ。そして、見た目からは想像もつかない刺激的な仕掛け、演出の数々も満載だ。

じゃあ、お話の続きをはじめよっか。

……
と、締め括って最後にひとつ、筆者の個人的すぎる事柄を綴りたい。

2019年の「東京電脳特区 v1.0」の時のことだ。
レポートにも書いたが、当時のバージョンではテキストのフォントが2018年のドット調とは異なる、スタンダードな高解像度のものになっていた。その理由は作者のhako 生活氏いわく、ローカライズによる多言語対応の都合とのことだった。

あれを見た時、2018年時点のドットフォント……スーパーファミコン時代の名作『スーパーメトロイド』、『タクティクスオウガ』、そしてリメイク版『ファミコン探偵倶楽部PARTII』を思い起こすデザインに強い印象を抱いた身としては若干、ガックリと来た。そして、多言語対応となれば止む無しだなと、受け入れる気持ちでいた。

そしたら、なんということか。ドットフォントは製品版にも引き継がれた。
オプションでスタンダードな高解像度との選択式になっていたのだ。

そんな訳で、この記事では残ってくれた嬉しさと感謝の気持ちを込め、ドットフォント設定でのスクリーンショット中心とさせていただいた次第である。当時、取材とレポートを担当した身としては本当、嬉しくて仕方がなかったのです。このフォントで遊べればと願って止まなかったのです。改めて、この判断を下したhako 生活氏に一言を送りたい。

圧倒的感謝!!

[基本情報]
タイトル:『アンリアルライフ』
作者:hako 生活(※販売:room6)
クリア時間:5~8時間(※エンディング分岐あり)
対応OS:Nintendo Switch
価格:¥2400
備考:対象年齢12歳以上(※犯罪、言語表現あり)

※購入はこちら
https://ec.nintendo.com/JP/ja/titles/70010000029736

※作品公式サイト
http://www.unreal-life.net/


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