さまざまなゲームの”インタラクション”を巡る旅をしよう。PS5向け短編無料TPS&実験作『Interaction Isn’t Explicit。』

インディーゲーム

2023年11月10日より、本体サイズの小型化や内蔵SSDストレージの増加などが行われた新型PlayStation 5(PS5)本体が販売。以降はかつての旧型と入れ替わる形で、市場で流通する主要なモデルとなっている。
また、年が明けた2024年には(一部、マルチプラットフォームタイトルを含め)複数の話題作の発売が予定されており、一定の盛り上がりを見せようとしている。

そんなPS5向けに1月17日、ひとつの無料タイトルが配信された。

それが今回紹介するInteraction Isn’t Explicit。。アメリカ・カリフォルニア州で活動中の個人クリエイター、Frank L. Silva氏が開発したゲームにおける「インタラクション(Interaction)」に焦点を当てた実験作である。

インタラクションというのは、簡単に言うと行動・操作といったなんらかのアクションを起こした際、システムや機器がそれに適した反応(リアクション)をすることである。本作は、サードパーソンシューティング(TPS)を基盤としつつ、ゲームにおける様々なインタラクションのモデルケースを追体験していくことを主な内容としている。

TPS仕立てのインタラクション追体験ゲーム

本編の流れは単純明快だ。3人称視点の3Dフィールドを前進しながら、その先々で待ち受けるインタラクションのモデルケースを体験していく。

本編は複数の「CHAPTER」(章)で構成されており、全てのモデルケースを体験し終えると次の章に移行。最終的に本編に設けられたモデルケースすべてを体験し終えるとエンディングを迎え、ゲーム終了となる。

基本的には1本道構成で、作中ではストーリー主導型の遊びに近いことから「ストーリードリブン」とも称されている。念のためだが、本作にストーリーは存在しない。メッセージ、台詞などのテキストは存在するものの、これと言って何かの大きな目的を果たすために行動していく感じではない。あくまでも雰囲気作りのための添え物にすぎないので、過度な期待はしないように。

遊び方はTPSということで、銃を構えて狙いを付け、敵や仕掛けを撃っていく形になっている。具体的には方向キーの右を押すと拳銃(ピストル)を装備。そのままL2ボタンを押すと狙いを付けるモード(エイムモード)へと移行し、R2ボタンを押せば射撃だ。TPSとしては王道中の王道とも言える操作系とプレイスタイルとなっている。

ただし、ピストル以外の武器はない。ピストル自体も最大7発しか撃てず、弾が切れると1発も撃てなくなってしまう。ストックした銃弾を装填(リロード)する動作もなし。また、敵に銃弾を当てたとしても、彼らはその場にうずくまるだけで、倒すことができない。しばらくすると立ち直ってしまうのだ。

トドメを刺すなら、○ボタンで繰り出せるメレーアタックを決めるしかない。こうすることで、ようやく敵が倒せると同時に銃弾1発が手に入るのである。
ちなみに銃弾は単純に敵へとメレーアタックを決めた際にも手に入る。なので、弾切れになってしまった際は敵にメレーアタックを当てにいけばいい。だがピストル同様、メレーアタック単独でも敵を倒すことは不可能。必ず銃撃してうずくまらせた上でメレーアタックを決めなくてはならないのである。

このように操作系などはTPSの王道を踏襲しつつも、敵の倒し方と銃弾の管理周りにひと捻り加えた作りになっている。なお、言うまでもないが、敵の攻撃を数回受ければプレイヤーの操作する主人公は倒れてしまう。ただ、ゲームオーバーはなく、直前のチェックポイントから即座に復帰するイマドキの設計だ。

加えて、敵が放つ銃弾の速度はハッキリ視認できる程度に遅い。ゆえに開けた場所に飛び込んでもハチの巣にされる心配もなし。この辺もTPSとしてはやや特殊で、どちらかというと2D、3Dを問わないアクションゲームの遠距離攻撃に近い表現になっている。

さらにプレイヤーができる動作はまだあるのだが、詳しくは後述する。

著名なゲームたちが実名で紹介!見所の多いモデルケース

本作の魅力は、インタラクションのモデルケースを追体験していくその内容と構成だ。

前述の通り、本編は基本的に1本道で、決められた流れに沿って進行。その途上でインタラクションのモデルケースを体験するイベント、その応用(実体験)も兼ねたイベントとして敵との戦闘、ジャンプアクションなどに挑むというものになっている。

注目はそのモデルケース。実は多くが著名なゲームから引用したものになっているのだ。全部を紹介するとネタバレになるため、一部に留めるが、まずひとつにL2、R2ボタンによる選択イベント。どちらか片方を押せば、残る片方は選択不能になるというものだ。

ファーストパーソンシューター(FPS)作品に慣れ親しんでいるプレイヤーなら、おそらくピンと来ただろう。日本では2013年4月25日に発売されたBioShock Infinite(バイオショックインフィニット)』に備わっていたシステムだ。

もうひとつとして、グラップリングアクション。右スティックでカメラを動かすと、高い壁の先端部分にボタンのアイコンが表示。対応するボタンを押すと、プレイヤーキャラクターがそこに向けてフックを射出し、その場へと飛びつくというものだ。

戦国時代末期を舞台にしたアクションアドベンチャーゲームSEKIRO SHADOWS DIE TWICE』の「鉤縄」である。ちなみにグラップリングアクションにはもうひとつ、別出典のものが用意されているのだが、そちらは割愛する。

そして、最後に紹介するひとつがNPCに話しかけたり、そのテキストを読み進めるというもの。これ自体は3Dのアクションゲーム、アクションアドベンチャーゲーム、ロールプレイングゲーム(RPG)などで定番のものだ。

本作はファイナルファンタジー XVIを一部、元にしたものを採り入れている。(さらにその会話相手は……)

このように著名なゲームを元にしたモデルケースが道中に多数登場するのだ。いずれも作品名を明示して紹介したが、実はゲーム本編でも引用元として前述した作品の名がメッセージテキストに表示される。そして、前述したようにこれはあくまでも一部。他にも著名なゲームから引用されたモデルケースが登場するのである。どんなゲームが登場するかは例によって見てのお楽しみだ。(ちなみに本作はPS5専用タイトルということで、そちらで発売されたタイトルに絞られている。なので、別プラットフォームのゲームは引用元で登場しない

そのような構成になっていることもあり、ネタを知っている人ほど「次はどのゲームのモデルケースが?」と、ワクワクしながら進めていける。

中には一部、ひねりを効かせたものとして、PS5のDualSense ワイヤレスコントローラーの機能を使ったものも。DualSense自体はフィールド移動中におけるリズム感のある振動や、戦闘時にピストルのトリガーを押す際の鈍い手応えなどでも活用されていて、このコントローラーだからこそ堪能できる手触りが表現されているのもちょっとした見所だ。

元ネタを知らずとも全体的な構成は起伏に富んでおり、時にアッと驚く演出を挟んでプレイヤーを驚かせてくる。実験作という触れ込みとは裏腹に、アクションゲーム的な遊び応えバッチリなイベント、プレイヤーの推測力を問う場面も用意されているので、十分な充実感を得られるはずだ。並行して「完全なゲームではないことに注意してください。」と、PlayStation Storeの本作のページに記載されていることへの疑問も抱くかもしれない。(実際、流れとしてはちゃんとゲームとして確立されている)

また、いくつかのモデルケースをプレイしていくにつれ、「よいインタラクションとは何か?」「それを表現する際の効果的な手法とは?」と考えさせられることも。特に何度かプレイしていくと、デザインの重要性を強く認識させられるかもしれない。実際に本作はインタラクションを分かりやすく、伝えやすくするためかデザイン面で気を遣っている部分がいくつかある。主人公と敵の頭部、スイッチがテレビモニター(もしくは箱かブロック?)風になっているデザインは最たる一例だ。他にも弾をターゲットに命中させた時の挙動、効果音の出し方などにも考察のきっかけになる部分がある。

単純にさまざまなゲームのインタラクションを次々に体験していく(テーマパークの)アトラクションとしても楽しめる内容だが、元々の実験作の認識で遊んでみるのも結構面白い。多数のモデルケースを内包しているなりに、ゲーム制作におけるマニュアルとしても使える余地があるので、特に個人や小規模でゲームを作られている人ほどプレイしてみる意義があるかもしれない。

雰囲気ゲーとしても楽しめる、短くも侮れない実験作

本編は初見なら1時間以内。慣れれば30分ほどでエンディングに到達できる感じで、規模的には短編となっている。やり込み要素もなく、トロフィーも1回クリアするだけですべて獲得できてしまうほど取得難易度は低い(ついでに「プラチナトロフィー」はない)。その辺の遊び応えへの期待はしない方が吉だ。

グラフィックはスクリーンショットからも察せるように、全編モノクロでありながら独自のセンスが発揮された仕上がり。演出的にも凝っている部分があるほか、一部、意表を付く表現もあったりして、見ているだけでも楽しいものになっている。

音楽も楽曲数は少ないが、特定のシーンではボーカル曲が流れるなど、雰囲気を盛り立てる工夫は万全。グラフィックの作風とも絶妙にマッチして独特な雰囲気を生み出しており、人によってはじっくり浸りたくなってしまうかもしれない。

惜しまれるのは日本語未対応なこと。これといってストーリー性はないため、英語が読めずとも支障はないのだが、インタラクションのモデルケースにまつわるメッセージテキストを楽しめないのがもどかしい。メッセージ内に著名なゲームの名が出てくることも、そんなもどかしさを引き立てている。実現するかは不透明だが、いつの日か日本語に対応することを心待ちにしたいところだ。

それ以外にもグラフィックの関係で建物が並ぶエリアでは視認性に難が出ること、次に進む場所を指示するメッセージが独特な筆記体で描かれている関係で分かりにくい、終盤にアクションゲームが苦手な人には辛い難所が待ち受けているといった部分もある。

とはいえ、全体的には最後まで楽しく遊べる出来だ。(本稿執筆時点で)PS5独占タイトルであるというハードルの高さはあれど、PS5本体をお持ちなら1回でも体験してみる価値がある。実験作との触れ込みだが、雰囲気ゲーとしても、著名なゲームのインタラクションを追体験するアトラクション的なゲームとしても楽しめる風変わりな本作。TPSというジャンルの中で繰り広げられる、不思議な旅に出てみよう。

なお、本作を手がけたFrank L. Silva氏は『TUESDAY MORNING。』という剣戟アクションアドベンチャーゲームを開発中。PlayStation Storeでは無料の体験版も配信されているので、興味があればこちらもお試しを。

[基本情報]
タイトル:『Interaction Isn’t Explicit。』
作者:Frank L. Silva
クリア時間:30分~1時間
対応プラットフォーム:PlayStation 5
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
https://store.playstation.com/ja-jp/concept/10009360

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