ゲーム制作者の熱意と葛藤を描く、涙と悶絶の短編RPG『すずみちゃんはらちゃんのゲーム制作修行の森』

RPG,フリーゲーム

なにを今さらという感はあるが、世は個人に小規模チームなど、多様なゲームクリエイターが相次いで誕生し続ける熱狂の時代である。特にインディーゲームの台頭と隆盛、配信プラットフォームの拡大以降、その傾向は現在進行形にある。

しかし、それと同時に「生みの苦しみ」を知る人も続出中と思われる。一度でもゲーム作りの体験がある人ならばよく分かるが、ゲームを作り上げる(完成させる)ことは難しい。それなりの根気と時間、体力を必要とする。

ゆえにその現実に直面して心折れてしまう人、凝り過ぎて何年も作り続けて完成させられない人というのも、続出していると言えるのかもしれない。

そしてここにも、オリジナルのゲームを作るためにデビューするどころか、修行の旅へと出てしまった者が2人。「すずみちゃん」と「はらちゃん」である。

伝説の森「ツクールの森」で、2人のゲーム制作者が修行に挑むRPG

そんな2人のゲーム制作修行の模様を描いたのが本作、『すずみちゃんはらちゃんのゲーム制作修行の森』だ。「なるほど、森にこもるストーリーか」と、タイトルからなんとなく想像できるが……まあ、だいたいそんな感じである。

オープニングを紹介すると、主人公のすずみちゃん、はらちゃんの2人は謎の敵との壮絶な戦いを繰り広げていた。だが、敵対する何者かの圧倒的な強さの前に成すすべもなく力尽きてしまう……

……かと思いきや、それは夢(悪夢)だった。

元々、2人は一緒にオリジナルのゲームを作りたい思いから、ゲーム制作修行のための旅をしていた。旅の目的はただひとつ、ゲームクリエイターの間で噂される伝説の森、その名も「ツクールの森」を見つけることである。そして2人は過酷な旅の末、ついに森を見つけ、足を踏み入れたのである。

しかし、なぜか2人ともそこから先の記憶がなかった。どうやら旅の疲れからか、入る直前に気絶(寝落ち)してしまっていたらしい。実際、修業を始めていれば手元にあるはずのゲームが影も形もないことがその事実を物語っている。

かくして、色んな意味で目覚めた2人は修行のため、今度こそ「ツクールの森」へと足を踏み入れるのであった。

ツッコミどころしかない始まりと設定だが、その辺について語ることも思考することも放棄し、ゲーム内容紹介に入ろう。ジャンルはRPG。すずみちゃん、はらちゃんのコンビを操作し、「ツクールの森」に設けられた扉の先にある、ゲーム制作が具現化した土地……別の言い方で修行場を攻略していくというものである。

本編は修行場を順番に攻略しながら、最後の修行場を目指すというステージクリア型の流れに沿って進行。各修行場のクリア条件も分かりやすく、各地を守護するゲームの化身……要は「ボス」を倒すこととなっている。

ただ、ボスの元まで辿り着くには、行く手を阻む敵との戦闘のほか、特殊な仕掛けを乗り越えていくことも求められてくる。その辺はステージクリア型の流れを採用しているなりの、変化と捻りを加えた構成といった所だ。

戦闘システムに関しては、RPG王道のターン制のコマンド選択型。行動順序も敏捷性の高さに応じて決められるなど、ドが付くほど定番のものになっている。無論、経験値、レベル、武器防具の装備なども網羅されている。

ただ、ボス戦限定で2人が新しい技を習得する「ひらめき」の要素がある。翠の波動を追っていく最新作の発売が記憶に新しい、某RPGを思わせるシステムだ。

しかし、本作は発生ポイントがボス戦に限定されているのが特徴。発動条件も一定の行動を取れば必ず発動するフラグ形式で、ランダム形式ではない。また、基本的にその技が無いと、ボスに決定的な一撃を与えられない制約もある。

そのため、本作のボス戦はある程度、決まった流れに従って進めていくものにされている。真正面からぶつかり合う、戦術と戦略が試される展開はほとんどなし。それもあってか、どこかアドベンチャーゲームのイベントを強く感じさせる独特な作りである。

とは言え、決められた流れに従えば絶対勝てる保証はなく、ある程度は戦況を見極めることも試される。そのような最低限のスリルは担保されており、戦っているとの手応えはちゃんと感じ取れる設計だ。

他に前述の通り、本作は修行場を攻略するたび技が増えていくことから、先に進むほど戦術の幅が広がっていくという構成面での特徴もある。

ただ、RPGとしての基礎部分は正統派も正統派。先鋭的な要素は控えめで、安心感を重視したゲームデザインでまとめられている。

ゲーム制作経験者なら悶絶必至!?ゲーム作りの現実と衝撃の展開が押し寄せる!

そんな本作最大の魅力にして見所は、「ゲーム制作」をテーマにしていることである。

そりゃまあ……ゲーム制作をテーマにしたRPGな時点で珍しいのは確か。その時点で既に傑出した個性がある。だが、本作が面白いのは、ゲーム制作の現実を終始、これでもかと見せつけては、制作経験者を悶えさせまくることである!

具体的には修行場ごとのマップ、行く手を阻む雑魚敵と最後に待つボス、技、そしてストーリー展開の4つにおいて、ありとあらゆる悶えまくりなネタが炸裂し続ける。

マップに関しては、そもそもロケーションからして強烈だ。あえてネタバレする形で紹介させていただくが、最初の修行場として挑むマップからしてコレ。

▲注:れっきとしたマップです。動けます。

背景から地形まで、すべてが手書きのラフ画!

こんなあからさまに未完成マップを歩き、守護者たるボスの所を目指す展開になる。絵面からして、強烈極まりないのは言うまでもない。道中で行く手を阻む敵たちもそんな場に相応しい名称がつけられているのに加え、乗り越えた先に待つボスは……

企画書である!「そんなのありか」と「いや、そりゃそうかもしれん」とのツッコミと納得感が混在する、カオスな相手が立ちはだかるのだ。相手がカオスなだけに倒すための手段(ひらめく必要のある技)もカオス。そこは実際にゲームを遊んで確かめていただきたいが、確かに企画書にとっては致命的一撃だと大いに納得するだろう。

最初の修行場とボスからしてこれなので、以降もゲーム制作の”過程”を具現化させた舞台が相次ぐ。これ以降、どんなマップとボスが待つかの言及は控えるが、どの過程も経験したことのある人ならば「ヤ、ヤメロォ……」とのか弱き一声が出てしまうかもしれない。

特にゲーム制作者以外も悶えさせるのは、3番目の修行場だろう。制作者以外と言っても、特定の職業の人たちに限られるのだが、色んな意味でトラウマが引き起こされる。そして、その末に待つボスも、容姿を見るだけで心臓がチクチクしてしまうはずだ。

筆者は逆に「これをボスにしてしまうとか、そういうやり方もあるのか……」と、色んな意味で呆気にとられたとか、とられなかったとか。

マップ、敵、技などからしてこれなので、当然(?)ストーリーも悶えさせまくる言動の雨あられの星つぶてである。場合によっては変な涙も出る。

▲果たして最凶最悪のラスボスとは!?その正体は君の目で確かめてくれ!!

そして、終盤にはゲーム制作者に甚大な精神的ダメージを与える鮮烈な展開と、最凶最悪のラスボスが待つ!誇張表現がすぎるかもしれないが、ガチで最凶最悪のラスボスである。見れば嫌でも納得する!納得するしかなくなる!(力説)

ついでに、その直前にはゲームの批評や紹介をする人を悶え苦しませる展開まで待っていたりする。……すみません、ごめんなさい、お許しください……。

そうも色んな感情が呼び起こされるであろう展開の数々は、嫌でも唯一無二の記憶を脳裏に焼きつけさせられる。同時に「まさしくこれはゲーム制作を題材にしたRPGだ!」との高い説得力を実感させられるだろう。

そんな訳で、本作はゲーム制作経験者なら、ぜひ遊んでいただきたい。一通りプレイし終えれば、色んな意味で覚悟が備わる。経験者でなくても、ゲームを完成させるとはどういうことなのか、生みの苦しみとは何かといったことを面白おかしな展開と共に考えさせられると同時に、古今東西の様々なゲームに優しくなれる……かもしれない。

究極的には本作を皮切りにゲーム制作を始めてみるのもありだろう。その意味では、心構えを学ぶのにも適した作品である。ゲームを作るのって……大変なのだ!

ゲーム制作とは、情熱と葛藤と苦悩の連続であるという”真理”がここに

なお、本作は短編ということで、エンディングまでは大体1~2時間程度。ただ、ひらめきにちなんだイベントなど、会話劇が豊富で、修行場も見た目に限らず、構成周りでも変化を加えているので、物足りなさはほとんど感じさせない。

特に修行場は中盤以降、特殊な仕掛けが登場するなど、捻った展開を見せることもあって、攻略の手応えを存分に実感できるだろう。

グラフィックも歩行キャラクター、顔グラフィック、技発動時のカットイン、ボスたちはオリジナル。一部、修行場のマップも演出面で特徴的なアレンジを施していたりと、見た目でも楽しませてくれる仕上がりだ。

ただ、マップに関しては一部、視認性に難があるところも。本作はシンボルエンカウント方式が採用されているのだが、終盤の修行場において、敵シンボルが背景に溶け込んで見えにくくなることが何度かあった。

敵シンボルのグラフィックが全修行場で固定であることも起因している感じで、可能であれば、修行場ごとに視認性に適したシンボルを設定して欲しかったところだ。

また、これはそういう仕組みゆえに仕方がないのだが、ひらめき無しではほとんど勝つ見込みがないボス戦は、自由な戦いを求める人ほど賛否が分かれやすい。実際、そのような戦い方を許さない部分も見られたりと、人によっては手を縛られている感覚に陥るかもしれない。

他に些細な部分だが、敵の多くが装備アイテムのコピー用紙(防具)、えんぴつ(武器)を頻繁にドロップし、溜まりまくるといった気になる点もある。溜まる分、売り払うことで金策にはなるのだが、終盤の敵までこれが変わらないのは正直、しつこさが否めない。できれば、ドロップするアイテムを変えるといった変化を加えて欲しかったと思うところだ。

一部、RPGとしては自由が感じにくい部分もあるが、総じて「ゲーム制作」をテーマにした節々の見所は非常に面白く、独自の個性が滲み出た作品に完成されている。同時に、ゲーム制作の経験者を色んな意味で悶えさせるRPGである。

▲ゲーム制作にとって恐怖そのものな名が付けられた敵にも注目

制作経験がある人もない人も、この色んな方向から突き刺してくる修行を体験し、ゲーム制作の何たるかを学んでみよう。そうすればきっと、今日誕生し続けるゲームに対する見方が変わる。人によっては悶え苦しむ。また別の人によっては現実を知る。まさに修行だ。

さあ、なぜか森に設けられた門を潜ろう。ついでにツクールシリーズのいずれかも用意しておくと、より幸せになれちゃうかもしれない。

[基本情報]
タイトル:『すずみちゃんはらちゃんのゲーム制作修行の森』
作者:涼原(suzumiharagames)
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
・BOOTH
https://booth.pm/ja/items/5202167

◇プレイはこちら
・PLiCy
https://plicy.net/GamePlay/166506

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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