後ろを振り向けない死にゲー『Don’t Look Back』のラストに込められた本当の意味

インディーゲーム好きに「Steamで買えるアクションゲームでオススメを教えてくれ」と尋ねると、挙げられる作品群の中に必ずと言っていいほど含まれる作品がある。『Super Hexagon』、それと『VVVVVV(シックスブイズ)』だ。

『Super Hexagon』は迫ってくる壁を避け続けるシンプルゲーム。『VVVVVV』は重力を反転させながら進む死にゲーアクションだ。この優れた2本の名作は、実は両方とも、ゲーム開発者Terry Cavanagh氏によって作られた作品なのだ。

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『Super Hexagon』

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『VVVVVV』

今回は、そんな名作を世に出してきたTerry Cavanagh氏が、この2作よりも以前に発表していたフリーのインディゲーム『Don’t Look Back』を紹介させて頂きたい。前述の2作と比べてグラフィックは地味めではあるが、こちらも間違いなく名作である、と筆者は断言したい。その理由をこれから語らせて頂きたい。

シンプルでミニマム、そして優れたアクションゲーム

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タイトル画面

左を向いてたたずむ1人の男。その目線の先には1つのお墓。雨が降っており、時刻はおそらく夜だろう。「START NEW GAME」を選択すればロゴが消え、この画面のままゲームスタートとなる。

この男(=プレイヤー)の目的は、洞窟の最深部にいる「なにか」を持ち帰ってくることだ。

ゲーム自体はシンプルな横スクロールアクション。プレイヤーのアクションは「ジャンプ」と「ショット」のみ。敵配置や仕掛けがいやらしい、いわゆる「死にゲー」タイプのゲームではあるが、チェックポイントが多くリトライも早いのでそこまで苦にはならないはずだ。

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クリアまでの時間が非常に短いのも特徴だ。アクションゲームが得意な人なら30分もあればクリアできるだろう。

グラフィック面では少し魅力に欠けると感じるかもしれないが、実際にプレイすれば特徴的なカラーリングと物悲しげなBGMにより、雰囲気は十分だ。また、絶妙な難易度と優れたレベルデザインにより、アクションゲームとしての面白さも非常に高い。

※以下、作品のネタバレになる内容を含みます。未プレイの方はご注意ください。

「振り向いてはいけない」という秀逸な追加ルール

ゲーム展開に関して軽いネタバレになるが、男の目的は、洞窟最深部にいる「女性の魂」を見つけ、墓の前まで連れ帰ってくることだ

ゲーム前半は最深部を目指してひたすら右へ右へと進むことになる。幾多の困難をかいくぐり最深部にたどり着いたら、今度は女性の魂を連れて元来た道を引き返すことになるのだが、ここでゲーム性が大きく変化する。

「振り向いてはいけない」という制約が付加されるのだ。

具体的には、左へ左へ引き返している最中、男が右を向いてしまうと女性の魂が消滅してしまうのだ。

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後ろをついてくる女性の魂。

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一瞬でも振り向くと煙となって消滅してしまう。

そう、このゲームシステムこそが、タイトル『Don’t Look Back』の由来なのだ。

実質的には「右キーを押したらチェックポイントからやり直し」となるだけの単純なルールではある。が、行きの部分はずっと左右キーを存分に活用しながらプレイしていたせいで、「頭では分かっているのに、つい振り向いてしまう」ということを筆者は何度もやってしまった。シンプルではあるが、なかなか不思議な感覚を味わえる面白い仕掛けだ。

不可思議だが、解ると目から鱗が落ちる秀逸なラストシーン

ちなみに、「振り返ってはいけない」というルールを含め、このゲームの世界設定はギリシャ神話のオルフェウスの物語が元となっているそうだ。(制作者のインタビューより) 「死んだ妻を蘇らせるために黄泉の国に入ったオルフェウスは、ハデスから『冥界から出るまで決して後ろを振り返るな』という条件を付けられた」というあらすじだ。

神話では、けっきょく途中で振り向いてしまい全て水の泡となってしまうのだが、このゲームではなんとか墓の前まで帰ってくることができる。が、その際に不思議な出来事が起こる。

筆者はそのラストシーンこそが、『Don’t Look Back』最大の魅力だと感じている。「このラストは何を意味しているのか?」「このゲームはどういう物語だったのか?」「このゲームが伝えたかったテーマとは?」など考えを巡らせ、その真相に気付いた際に、思わずうなってしまった

この次の節からはそのラストシーンについて語らせて頂きたいのだが、その前に。

最初に説明したとおり、このゲームは30分程度でクリアできるくらいに短く、そして完全無料だ。そしてiOS、Androidでダウンロードできるほか、PCがあればブラウザで今すぐ遊ぶこともできる。

ここまでの説明で興味を持って頂けたのなら、ぜひともご自身の手でプレイし、そして可能ならばゲームをクリアした後に、この続きを読み進めて頂きたい。

PC版
http://terrycavanaghgames.com/dontlookback/

iOS版

Android版
Android app on Google Play

ラストシーンの解説と解釈

ここからが筆者が本当に語りたかった話だ。ラストシーンの解説とこのゲームが伝えたかった本当のテーマについて、ネタバレを多分に含めて解説する。可能であるならば、ご自身で結末を見てから読むことを強くオススメする。

では始めよう。

ラストシーンを見てどう感じただろうか。おそらく大半の人が困惑するのではないだろうか。

女性の魂を連れて墓まで戻ってきた、さあこれで女性が生き返るのか? それともやっぱり無理なんだろうか? と胸を膨らませるが、墓の前にはなぜか、同じ姿をした(プレイヤーとは別の)男が立っている。

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直後、プレイヤーと女性の魂が一緒に消滅してしまう。
 

この不可思議な出来事に様々な疑問がわき上がる。「墓の前にいたもう一人の男は誰なのか? 自分自身なのか?」「今まで操作していた男は何者だったのか?」「なぜ消えたのか?」 しかし、ゲーム内には一切説明がない。

筆者も最初に見たときはあっけにとられたが、考えれば考えるほどその結末の面白さに目から鱗が落ちた。

ではまず、世界設定の解釈から。

スタート地点にある墓は、女性の墓だ。その女性は、男にとって最愛の存在だったのだろう。その彼女を生き返らせるために男は黄泉の国へ行き、魂を取り返してきた。ここまでは容易に想像できる。

ラストシーンに何が起こったのか。筆者が最初に思いついたのは「あの世に向かったことで男自身もすでに死んでいた」という解釈。墓にいる男は抜け殻のようなものだったのだ、と。

しかしその解釈は違う。プレイヤーと女性が消滅したあと、そのまま画面推移することなく再びタイトルロゴが出現。ゲーム起動直後とまったく同じ構図となるからだ。

そのまま「START NEW GAME」を選べば、残った男を操作して再び黄泉の国へと潜ることができてしまう。つまり、この物語はループしており、終わりが存在しないのだ

ではそろそろネタばらしといこう。何が起こったのか。

ちょっとズルいかもしれないが、制作者のインタビューで「彼は墓を一度も離れていない」と言っている。

つまり「何も起こっていない」というのがこの物語の真相なのだ。

銃を拾ったことも、その銃で数々のバケモノと戦ったことも、数えきれないほどの死も、彼女の魂を持ち帰ったことも、墓の前から振り向いて歩き出したことすらも、全て男が頭の中で考えていた幻想に過ぎなかったということなのだ。そして、「現実を直視した」ときに幻想が解けるわけだ。

そこでいっとき現実に戻ってくるのだが、すぐにまた幻想の世界に逃げてしまう。結局、男は墓の前に立ったままひたすら現実逃避していただけだ。つまりこの彼女を失った男の苦しみを表現したゲームだ、ということなのだ。

テキストも、キャラクターの演技も一切なく、ストーリーを語る要素がほとんどないのに、とても奥深い物語になっている。それだけではく、「プレイヤーが実際にプレイしてきた事を全てなかったことにされる」「それなのに再びプレイできてしまう」という、プレイヤーの体験があるからこそ無慈悲さが良く伝わる、ゲームならではの語り方だ。

タイトルに込められた本当のテーマ

幻想の中では「彼女を生き返らせたい」という願望を持っている一方、自分を何度も何度も殺し痛めつけ続けている。また彼女の魂も何度も何度も消滅させている。それは、彼女の死を強く悔やむあまりの自傷行為にほかならない。

一般的なゲームの世界では「何度も死ぬ」というのがもはや当たり前のこととされてきたが、このゲームで改めて「自傷行為である」「そして全てが単なる想像の中での出来事だった」と突きつけられてしまったら悪夢にも等しく感じられてしまうのが非常に面白い。

もしこのゲームが爽快に敵を蹴散らせるバランスだったり、豊富な成長要素があったりしたら、この独特な重苦しい感覚は生まれることはなかったであろう。「死にゲー」であることに必然性がある、システムと物語が見事に調和した作品なのだ

男は幻想のループに囚われ、墓の前からずっと動くことができない。彼女が死んだという過去を悔やみ続けているということだ。このままでは、自責の念に押し潰されてしまうだろう。

「Don’t Look Back」という言葉には、「過去にとらわれるな」という意味も含まれている。タイトルに込められた本当の意味は、過去を悔やみ続けている男に向けてのメッセージなのだ

彼女が死んでしまった。その事実は覆ることはない。過去を振り返っても仕方がない。彼女を追ってあの世へ行ってしまうなんてそれこそ最悪だ。過去を悔やまず、前を向いて生きてくれよ。彼女だってそれを望んでいるのだから。

え? 彼女の気持ちを勝手に代弁するなって? いや、彼女はそう明確に望んでいるよ。

このゲームにおいて「右」とは、後ろであり、現実逃避であり、あの世であり、死んだはずの彼女がいる過去でもある。つまり右へ行くということは男にとってこの上なくネガティブな行為だ。

そして彼女の魂も、右を向くと悲鳴を上げて消える。彼女は魂になっているわけだから、話しかけたり身振りで意思を伝えることはできないのだろう。唯一できることは消えることだけ。そんな状況で彼女が「右を向いたら悲鳴を上げて消える」を必死に繰り返していたのはなぜだろうか?

彼女は、男に何かを伝えたかったのではないだろうか。
彼女は、男に何を伝えようとしていたのだろうか。

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[基本情報]
タイトル
Don’t Look Back
制作者 Terry Cavanagh
クリア時間 30分前後(腕次第)
対応機種 PC(ブラウザ)/ iOS / Android
価格 無料

ダウンロードはこちらから
PC版
http://terrycavanaghgames.com/dontlookback/

iOS版

Android版
Android app on Google Play


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  • 20140605161552

    ニカイドウレンジ(@R_Nikaido

    Twitterでゲームのこと語ってたら人生が変わった人。Twitterやってただけで文章力と思考力が身について、Twitterやってただけでライターやゲーム制作の仕事を頂きました。個人でゲームも作ってます。詳しいプロフィールや活動内容はプロフィールサイト