レトロな電子小説『はざまたそがれ』 消えた友人と不気味な世界。そして、謎の怪奇現象。

技術の進歩と同時に、昨今のアドベンチャー及びノベルゲームではより豊かな表現が可能になった。美麗な一枚絵(スチル)の表示を始め、声優によるフルボイスの採用、アニメーション動画の挿入などなど。特に1980年代、表現面の制約が多かった時代に誕生した同ジャンルの作品群を思えば、進化の差は歴然だ。

だが、制約の存在があの時代の作品に唯一無二の魅力を与えていた。
場面ごとの詳細を自然に頭で考え、補完してしまう”想像力の怖さ”である。
特に音響、エフェクト系の演出が効果的なほどその力が発揮され、なんの変哲もないドット絵の集まりが得体の知れない恐怖に満ちた存在へと化す。実際、それを見事に仕掛けた作品によって、生涯残り続けるトラウマを負った人も少なくないはずだ。

そんな制約多き時代の作品を意識し、作られた現代の作品がここにひとつ。
その名も『はざまたそがれ』だ。

1980年代を強く意識した作りの数々が光るノベルゲーム

本作『はざまたそがれ』は、シナリオライター兼プログラマーの高橋直樹氏が開発・公開しているスクリプトエンジン「NScripter」を用いて作られたノベルゲームである。公称を用いると「電子小説」。2019年に体験版の形で「ふりーむ!」及び「フリーゲーム夢現」で公開。何度かのアップデート(エピソード追加)を経て、2020年2月16日に完成版がお披露目となった。

電子小説を謳う通り、ストーリーを読み進めていくことに特化した内容だ。選択肢、エンディング分岐などのゲーム的要素は一切なし。1本道、且つエンディングも1種類のみの紛うことなき小説(ノベル)となっている。

ただ、”レトロな電子小説”を謳うなりに、画面レイアウトは1980年代に誕生したアドベンチャーゲームを強く意識。ウィンドウごとに風景、状況解説、登場人物の台詞を表示した、いかにもその当時に作られたものらしい仕上がりになっている。

グラフィック、音楽も同様。前者は色数を制限し、徹底して1980年代らしさを表現。音楽も直接名前を出してしまうが、『ファミリーコンピュータ ディスクシステム』(ディスクシステム)を意識した作風でまとめられている。

それもあって、プレイ中の雰囲気はあの頃そのもの。一部、アニメーションが挿入される演出もあるが、それも少ない枚数で表現すると言った、当時っぽさを徹底したこだわり溢れるものになっている。

状況説明、台詞のテキストフォントに関してはスクリプトエンジンの関係か、ドット感皆無の高解像度仕様なのだが。難読漢字も多々出てくる。徹底した再現を求める人からすると、「そこもやろうぜ!」と申したくなるかもしれない。

ただ、ゲーム全体の雰囲気は紛うことなき1980年代。あの当時のノベルゲーム。
そしてストーリーもまた、その時代を意識した見応え抜群の内容になっている。

失踪した友人と不気味な怪奇現象に迫る、見所満載のストーリー

本作の主人公を務めるのは「狭間陽子(はざま ようこ)」という女子中学生。

ある日、友人で同級生の「野崎華子(のざき はなこ)」が、意味深な言葉を残し、失踪してしまう。陽子は華子の足取りを辿るために情報を集めるも、有力な手掛かりは得られず。次第に彼女の頭から華子の記憶は薄れつつあった。しかし。

陽子は”ある場所”で偶然、失踪した華子を発見する。
それを機に自分以外の周囲の人間、町中、学校、自宅に明らかな”異常”が生じるようになる。いくつかの出来事を経て、世界が現実とは異なるものに変化してしまったことに気づく陽子。なぜ、世界は一変してしまったのか、陽子は様々な策を考えながら真相に迫っていく……というのが大まかなあらすじになる。

実のところ、本編は先述の内容とは若干、展開が異なるのだが、そこはゲーム側をプレイして確認いただきたい。こんな具合に怪奇現象を題材にした、ホラー系のストーリー。1980年代のノベルゲームにも多く見られた、ある種、定番的な内容になっている。

ただ、肝心の中身は予想もつかない展開の連続。そして、ゾクッとするような表現満載。特に作中のキモとなる怪奇現象はその真骨頂で、現実にこんなことが起きたら、正気を保てないと思うこと確実の不気味さ。それを昔ながらの制約の強いグラフィックと共に描くことから想像力も刺激され、どの場面も緊張感と恐怖感が入り混じったものに仕上げられている。

音楽も長らく無音になるのを始め、場面ごとの空気を読む演出が炸裂。しかも、ディスクシステム風の昔懐かしいものであるのが、不気味さを引き立てる。怪奇現象が描かれる場面は最たる一例。人によっては、逃げ出したくなる気持ちになるほどだ。

極め付けにストーリーも二転三転を繰り返す。中でも怪奇現象の真相が暴かれる中盤はインパクト抜群。世界観から抱いていた印象が180度覆る。さらに面白いのが、中盤に発覚する構成。題材的に終盤のネタをなぜ、中盤に?そう疑問に感じるかもしれないが、ちゃんと意味がある。そして、肝心の終盤では……予想だにしない結末が待つのである。

何が待つかは直接、ご覧いただきたいの一言だ。きっといい意味でも悪い意味でも驚かされるだろう。「そんなのアリ?」と。なお、筆者はしばらく困惑状態になった。正直な所、結構賛否分かれるかもしれない。

ただ、無駄な脱線もなく、テンポ良く進む作りも相まって、読み始めれば止まらなくなる。本編はエピソード単位(話数区切り)で進む構成なのだが、どれも10~20分以内に終わる内容にまとまっていて、中だるみしにくくしているのも見事だ。しかも、少し時間間隔が空いてしまった場合でも、エピソード開始前にはあらすじが挿入される設計。読み終えたエピソードも後から読み返せるセレクト機能が備わっているので、プレイヤーそれぞれのペースで進めていけるのも嬉しい。

それに終始、シリアスな訳ではない。時折、ギャグイベントも挟まれる。そこではキャラクターの意外な顔が明らかになったり、印象の崩壊も起きたりするので、色んな意味で戸惑ってしまうかもしれない。

一部情報を伏せはしたが、一貫して言えるのは最初から最後まで見逃せない内容であること。そして、この表現特有の怖さと緊張感がほとばしる仕上がりにまとまっていることだ。特にこの制約ある演出特有の怖さこそ、1980年代のアドベンチャー、ノベルゲームの真骨頂と思う人であれば、納得の味を堪能できるだろう。高解像度のフォントを気にしなければ。

ホラー系のストーリーを好む人も同様。どんな恐ろしい展開が待っているのか、気になれば直にでも突撃いただきたい。そして、意外な真相発覚に着目して欲しい。よくも悪くも圧倒されるかもしれない。

機能周りにも”古さ”へのこだわりが

全体のボリュームも大きい。エピソード総数は30以上、総プレイ時間も8~10時間ほど。さすがに30~40時間ほどの長編ではないが、エピソードごとの密度が濃いので、読み応えは申し分なし。結末が知りたい気持ちが爆発して見入ったりすれば、あっという間に時間を吸われてしまうはずだ。

また、作中では難読漢字も多々使われるのだが、この読みと意味を解説する辞書機能が備わっているのも良心的。世界観を意識してか、横文字(カタカナ用語)も一切使ってなく、それが状況解説、台詞の読みやすさを引き立てている。ただ、怪奇現象の真相に関しては、そのこだわりに若干の”グラつき”が生じているが。人によっては、「横文字使った方が分かりやすくない?」と思ってしまうかもしれない。

さらに1980年代の作品への意識か、本作にはイマドキのスキップ、中断セーブ(クイックセーブ)機能もなし。特にセーブはエピソード終わりにしかできないため、不便に感じるかもしれない。ただ、先の通りに各エピソードは10~20分以内に終わる内容。ストーリーの先が知りたい状態になっていれば、あまり気にならないかもしれない。

なお、操作はマウスに特化。メッセージ送りもテキストアイコンをクリックするだけの簡単設計だ。ただ、デザインがデザインだけに、人によってはタッチ操作でやらせて欲しいとの思いが噴出する可能性も。残念ながら、本作のスマホ版は無いので叶わぬ夢だが、案外、相性は良さそうに思うだけにいずれは……と要望する次第だ。

1980年代を意識した作品ならではの独特の空気感は格別で、ストーリーも面白く、無駄なくまとめられ、起伏も付けた構成から読み応えも申し分ない本作。アドベンチャー、ノベルゲーム好きはもちろん、1980年代のあの空気感を味わいたい往年のプレイヤーにもおすすめの1本だ。黄昏時の中学校とその周辺を駆け、一連の謎を解明しよう。静かな空間で、ヘッドフォンを装着した状態でプレイするのが特におすすめです。丑三つ時なら、なおのこと良し!

黄昏を冠する作品でそれはどうなの、との異論は認めます。

[基本情報]
タイトル:『はざまたそがれ』
制作者:夜行小十具
クリア時間:8~10時間
対応OS:Windows
価格:無料
備考:暴力・出血・セクシャル表現あり(※対象年齢:15歳以上対象)

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/22075

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_7743.html


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