「kero blaster」・「洞窟物語」の伝説化という過大評価と桜庭和志の悲劇問題―『ケロブラスター』レビュー(EAbase887)

 ケロブラスターレビュー祭り、第3弾はHotline Tokyoのメンバー、EAbase887さんのレビューです!

はじめましてビデオゲーム狂乱の会合Hot line tokyo(以下HLT)に参加させていただいてる電子遊戯殺戮魔道暗殺クリティーク「GAME・SCOPE・SIZE」総帥EAbase887です。他にも世界興行格闘技茫漠書き残し「オウシュウ・ベイコク・ベース」や深夜アニメゴミクズ嫌がらせ「14-21歳のセックスか戦争を知ったガキのモード」を運営しております。今回『Kero Blaster』もすでにおおよそのレビューは各所にて上がっているので異物をぶち込むような気持ちのレビューを書かせていただきました。○○○に○○○○ぶち込んでやる!そうして新たな○○○を開発してやる!

 『いかちゃん』から『洞窟物語』を製作してきた開発室Pixelの最新作『Kero Blaster』。日本にてPC版を提供しているPLAYLISMのサーバーが5月11日になった午前0時のリリース直後より間もなくダウンするほどまでに殺到し、類のない注目度を持っていることには違いありません。しかし自分が提示したいのは開発室Pixel、そして『洞窟物語』はどうあれ過大評価され過ぎているということです。

 勘違いしてほしくないのはそのゲームデザイン能力に関して過大評価されているということではありません。元々持ちうる作風というのが、時代の趨勢とぴったりと一致してしまう中で必要以上に神格化され、伝説化されることで本来のキャパシティを遥かに超えた評価を為されてしまっていることです。

 僕がHLTでフリーゲームに本当に詳しい方々とお話をさせていただいて痛感したのは、ジャンルは異なりますがツクール界隈のRPGなどなどで『洞窟物語』リリース前後の2001ー2004年までに傑作とされる作品が数多くあるにも関わらず、それがオーバーグラウンドの評価には繋がらず『洞窟物語』が伝説化・神格化されていく歴史の一方で忘却されかねない歴史もある、という音楽から美術などなどに至る文化史につきものの歴史がここにもあるということでした。世界には伝聞される伝説や神格による過大評価と本当に素晴らしいが歴史の影に消える過小評価の二択しか存在しない。真に適切な評価をしようものなら膨大な時間と知性が問われる。そんなことを思わされます。

 なぜ、『洞窟物語』が特にインディーズゲームの歴史的にも伝説化・神格化されることとなったのかについてブログの方である程度の情報を集めて考察を行ったのですが、簡単にまとめれば『洞窟物語』がリリースされた2004年ー2005年の間にこれまで個人や少数で制作されていたゲーム界隈で、ばらばらになっていた情報やコミュニティを統合する流れや、デベロッパーが自身の手で作品を販売していくという流れが生まれ、それを総称して”インディーズゲーム”と現在に連なる新たなジャンルが定義されていく時代の趨勢に一致していたゆえではないか、と現在のところは考察しています。「TIME」がオールタイム100に選出した理由もそうしたコンテクストによるものが大きいと思っています。

 『洞窟物語』は紛れもなく時代の寵児として選ばれ、それゆえに本来持っているその内容以上の神格化と伝説化がこの10年に重なっていきました。それが本来のキャパシティを大きく超えてしまう。僕にはそれはプロレスから総合格闘技(MMA)に映っていった桜庭和志とダブります。

『洞窟物語』の時代の寵児になり方のPRIDEの桜庭和志感

 桜庭和志はもともと、いまやタレントや俳優として有名な高田延彦が代表を務めていた、「プロレスこそ最強の格闘技」を標榜していたプロレス団体「Uインター」にてレスリングの高い技術を持った地味な若手選手という扱いで、ゲームファン的に90年代スクウェアに例えればトップの高田延彦を「FF8」とするなら「デュープリズム」的な立ち位置の選手でした。

 やがてアメリカでグレイシー一族による世界最強を表現する「UFC」が登場。全てがリアルファイトの恐るべき興行を展開し、中でも様々な格闘家たちを前田光世がブラジルにて伝えた柔術を駆使して撃破していくホイス・グレイシーの神秘性に注目が集まりました。FF・ドラクエの価値観に「GTA」がぶちこまれたような衝撃だったのです。ホイスは「自分よりずっと強い」という兄・ヒクソン・グレイシーの名を出し、当時のプロレス・格闘技界は彼と闘うことを興行のテーマとしていくようになりました。

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 そして「プロレス最強」を標榜していた高田とヒクソンの闘い「PRIDE.1」が実現。「FF8」vs「GTA」が東京ドームに何万人も観客を集め、真正面から正面衝突での対戦が実現したと言え、そして「FF8」高田はヒクソンに完敗し、「強さ」を興行の売り物にしていた日本のプロレス全体に観客は不信感を抱くようになりました。この状況に対しアントニオ猪木は「プロレス界で一番弱いやつが闘った」といい、ジャイアント馬場は「俳優になりたい人が闘った」といいました。この辛辣さは例えるならFF8を故・任天堂の山内会長が「ゲーム界で一番のクソゲーが闘った」といい、宮本茂が「映画を作りたい人が闘った」と評価しているくらい厳しいものです。

 時代の趨勢の中でグレイシー一族との戦いを目標としながら新たなジャンルである総合格闘技(MMA)が台頭していく過程の中で、「最強」を標榜していたプロレスラーも総合格闘技の大会に参戦。実質違うジャンルであるためプロレスラーは無理やり現代洋ゲートレンドを追おうとして討死にした日本のゲームのように無残な敗北を重ねていた中、地味な若手という印象だったはずの桜庭和志はそのレスリング能力をベースにしたテイクダウン能力と関節技によって総合格闘技で勝利を挙げていき、「UFC JAPAN」にて優勝するほどでした。

 90年代末から2000年代にかけて時代はプロレス人気からK-1・PRIDEといった興行格闘技ビッグイベント人気へとシフト。「最強」「強さ」をより明確に表現する興行としてプロレスから興行格闘技イベントへと時代が変貌していく中、桜庭和志は当時の代表であった高田の弟子という背景や、プロレス界から総合格闘技界へとシフトすることをに大きく成功したために時代の中でクローズアップされていくことになります。

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 そして桜庭和志の名前が本人のキャパシティを遥かに超えた評価を得ることになるのは、PRIDEにてグレイシー一族を破っていったことです。中でも時間無制限でおよそ90分に及ぶホイス・グレイシーとの一戦は総合格闘技史上特異であり伝説的な試合となりました。

 以降の桜庭には明らかに本来の中量級の選手としてのキャパシティを超えた展開が数多く為されされたがために、大きな敗北と疲弊を抱え込むケースが頻発します。伝説的な仕事を成し遂げたゆえにPRIDEの顔となるスターにのし上げられ、興行のメインを背負い、周りからの期待に加えて、ヴァンダレイ・シウバやミルコ・クロコップのような、10キロ以上もの体重差のある相手との対戦を行わなければなりませんでした。同程度の体重での試合だったグレイシー一族の時よりも肉体的に遥かにハードな試合を強いられることになったのです。

 これは例えるなら『洞窟物語』の成功以降に開発室Pixel氏がソニーやら任天堂やらの大手パブリッシャーにいきなりAAAクラスのビッグバジェットを任されるくらいなハードな要求であり、しかもそのプロジェクトが完成度的にも批評的にも不発しそのたびに伝説となった頃との比較を続けられるという極めてハードな状況であったといえます。

 …とようやく格闘技とビデオゲームの例え合いで話が戻ってきたところで、話を戻しますと『洞窟物語』というのは2000年代中期より明確化し始めるインディーズゲームの定義やシーンの盛り上がりの中で時代の寵児に祭り上げられていった感があります。時代の潮流と一致してしまったがゆえの過剰なまでの伝説化・神格化は生まれてしまうわけで、評価は極限して「インディーズだったからあの完成度は可能だった」だとかのように、ゲームはゲームなのにプロだから・インディーだからのような立場ゆえというところまで突き抜けるケースもあります。グレイシー一族撃破当時の桜庭の評価というのも突き抜けすぎて何やらしても天才みたいな評価が格闘技メディアによって為されてもいました(ハイキック打っても「キックボクシングの選手よりも上に見える」だとか)。

 『洞窟物語』はインディーズゲームシーンが盛り上がり、メジャーグラウンドシーンにまで影響のある現在までの拡大の過程をともにしたことで、現行のゲームシーンの中で純粋な2Dジャンプ&ショット・マップ探索のアクションの面白さというものを超えた評価を為されてしまっているかに映ります。

そして新作『Kero Blaster』は適正階級になっているか?

 さて『Kero Blaster』ですが、まず間違いなくこの10年で拡大したインディーズゲームシーンの中と、ともに伝説化・神格化が進んだ『洞窟物語』を想起させる基本的な2Dジャンプ&ショットのゲームメカニクス。これは早い段階で2Dアクションそのもののキャパシティ超える期待を寄せられました。僕にしても「出来る限り客観的でありたい」と振る舞ってはいますが、そうしたバイアスがかかっていることは否定できません。

 そうしたインディーズシーンの伝説・神格バイアスの中で『Kero Blaster』に触れると少々驚きます。変な話ですが、ほとんど全くといっていいほど嫌味がない・いやひねりが無い8ビット風味で、無理に掘り下げてもおおよそ1983~84年のファミコン的というほかありません。

 インディーズゲームシーンでは様々なクリエイティビティがありますが、その中のひとつには「かつての8ビット~16ビットのゲームの記憶を現在の技術と環境によって再構築する」という所作があります。現在ではコンソールに限ってもニンテンドーオンラインからXbox Live、PSNによって膨大な過去作品のアーカイヴが揃った環境であるように、作り手から受け手のサイドでも一定のビデオゲーム史のコンテクストに基づいている時代になっています。桜庭がホイス戦で昭和新日本のストロングマシン増殖のパロディって形で当時に過去の日本のプロレスから総合格闘技(MMA)時代に繋げるみたいなもんですね。

インディペンデント界隈で現代最強のデベロッパーのひとつ、カピバラゲームスの新作「super time force」

そのグラフィックからゲームメカニクスに至るデザインは過去8bit16bitゲームを懐かしむと言うことを超え、現在の技術や視座によって批評、そして再構築されている

 現在のひとつのの最先端としてそうした過去のアーカイヴに基づき、現代の視点でジャンルの構造を書き換える・別のものに見せることや、より製作者自身の当時のゲーム体験と感覚を込めるように
作るなど様々です。たとえばカピバラゲームスの「スキタイのムスメ」などは確実にその面でぶっちぎりのトップ戦線を走っているといえますし、新作の「Super TIME Force」などはトータルで異次元のレベルでそうした掘り下げが行われています。去年までUFCのトップだった南米の天才格闘家アンデウソン・シウバが過去と現在のあらゆる格闘技を繋げるような恐るべきクリエイティビティを誇っています。

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「Kero Blaster」 1983~84年のファミコンの記憶+スマホ・PCの現在というコンテクスト 

アクションゲーム構造の再構築や批評的な視点はほぼ無い、ステージ制ショットアクション

 『Kero Blaster』は現行のカピバラゲームスなどが推し進めているような8ビット16ビットゲームのグラフィックからゲームメカニクスのコンテクストの全面的な書き換え・アレンジはまったく意識してないと見えます。ジャンル全体の歴史的な・脱構築的なといった美学的アプローチからの製作もおそらく興味は無いでしょう。ですが、無意識的にか「現在の環境」でのゲームデザインを実現しているかに見えます。

『洞窟物語』の時点で「現在の技術で過去リバイバル」が無意識的だったように、本作もまた無意識的に「現在の技術と環境による2Dアクション」のデザインとなっているとなっていると見えます。僕はiOS版のみで本作を一通り終えたのですが、とりあえず本作はスマートフォンに主眼をおいたものと見ております。

 ショットアクションに関して、現行のスマートフォンでのシューティングゲームが弾をオートで撃ち続ける形に最適化されているように、基本フリックでオートでショットというデザイン採用などの工学面・インターフェース面において現在で過去の書き換えが行われていると見ます。スマホではもう懐かしむのもうんざりしてしまうほど8bitグラフィックに2Dアクションのアプリが存在していますが、こうしたアプローチを行えていることはまれです。

 未だスマホ2Dアクションにおいて最適なインターフェースというのが探し切れてない中、多くが「テンプルラン」のように基本オートでタッチ&フリックでアクションを起こす形になっている中では、「Kero Blaster」はバーチャルパッドでの操作系で一つの形を出そうとしていると見ます。そのあたりに、伝説や神格バイアスを(できるかぎり取り払った)開発室pixelのクリエイトの意識を見ています。

 桜庭和志がホイスを倒して10数年。時代の要求を受け入れるままに身体を壊し、適正階級に移行したのはほんの2、3年前でした。 しかし日本の総合格闘技の団体は活動を停止していき、桜庭は現在、新日本プロレスにてプロレスラーとして復帰しましたが、そこでも往年の伝説という評価を元にした苦闘を強いられています。

開発室Pixelとその周辺のパブリッシングの関係が今後どうなるかはわかりません。インディーズゲーム全体もこの記事を読むに、音楽におけるニルヴァーナ「Nevermind」のドル札を餌に追いかける赤ちゃんというジャケットが暗示する皮肉な現実に近づいているのかもわかりません。だけど「Kero Blaster」は現在のところ、適性の規模にて時代環境に適性に対応している幸福があると見ています。

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「洞窟物語」によって俯瞰されるインディーズゲーム史10年の変貌のメモ

[タイトル]
Kero Blaster

[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア
windows 720円
iOS版 500円

[対応OS等]
Windows,iOS

日本語版、英語版

[ダウンロード]
PC版

Playism

iOS版

[制作者」
開発室Pixel

[プレイ時間]
2~3時間

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