部活の帰り道、巻き込まれました。ロックに生きて逃げよう。短編ADV『ココの闘書録』

これより紹介する『ココの闘書録』は、その名の通りに「ココ」と呼ばれる女子高生が主人公のゲームである。キャッチコピーは「ロックに生きろ」

つまりはエレクトリックギターを持ち、熱狂的な人生を送れ、ということかと想像したかもしれないが……まあ、大体正しかったりする。詳しくは後述する。

その前に本作の概略諸々。PC(Windows)向けフリーゲームで、2020年7月26日に「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」にて公開された。同じく2つのサイトで公開中の謎解き探索アドベンチャー『クロの棺桶』を手掛けたフリーゲーム制作チーム「一比古氷菓店(いちびこひょうかてん)」の新作でもある。

奇妙な世界にやってきた女子高生のロックな脱出劇

いつもの部活の帰り道、ココは落とし物をしたという白髪の青年に出会う。
ココは困っている彼を助けるため、落とし物を探し、無事見つけることに成功。
そのまま返却し、帰路につこうとしたところ。

”何か”が起き……

見覚えのない所へと来てしまった。
傍には先ほど、落とし物を返した青年の姿も。
彼によれば、この場所には見覚えがあるようで、ココを家に帰してくれるらしい。
かくして、青年と共に謎めいた場所を進み始めるココ。無事、家に帰れるのだろうか?

いや、どう考えてもこの雰囲気は無事では済まされないだろう、青年胡散臭すぎるだろうと物申したくなったかもしれないが、まあ概ねその通りなので、よろしくお願いいたします。
ただ、件の青年は悪い人じゃないですよ。ホントだよ。詳しくは後程。

ゲームは探索型のアドベンチャーとなっている。主人公のココを操作してマップを進み、要所ごとに発生するイベントをこなし、謎めいた世界から脱出するための手がかりを探っていくのが主な流れ。

特徴は画面構成。スクリーンショットの通り、探索型アドベンチャーとしてはやや珍しい横スクロール形式なのだが、上半分がフィールドで、下半分は登場人物たちの立ち絵と台詞が表示されるスペースと、個性的な分け方をしている。

スクロール形式の関係でフィールドのスケールも小さい。ストーリー展開の都合で行動制限が入ることも多々あるため、マップを探索する楽しさに関しては薄めの設計になっている。その分、イベント周りは多彩。脅威からの逃走、トラップの回避、果ては戦闘まで用意されている。

特に戦闘はジャンル的にも異質な存在感を醸し出している。しかも、武器はエレクトリックギター。音楽を奏でることもなく、直接ぶん殴るスタイルである。
まさにロック(物理)で生き延びねばならぬのだ。

あれこれ物申したくなる設定だが、細かいことは置いておこう。念のため、あくまでも探索型アドベンチャーゲーム内のイベントのひとつなので、RPG的な戦略・戦術性はほぼない。ただ、そう言ったものも用意されているだけに、単純にストーリーを追いかけることに留まらぬ、起伏のある内容に仕上がっている。

ゆるくて起伏のある探索パート、愉快で謎めいたストーリー

魅力はそんな起伏のある内容。主人公のココに襲い来る脅威から逃げ延びたり、戦ったり、そして謎を解いたりと、色々なイベントが用意されては仕向けられるので退屈しない。先の通り、ストーリーの都合による行動制限が入ることが多く、探索の楽しさはジャンルとしては薄めだが、それを逆手に取るかのように内容面の充実化へと振り切ったものにまとめられている。

難易度も低め。逃走、回避のイベントはプレイヤーそれぞれのタイミング力が試されるほか、一部進め方を考えなければならない場面もあるが、大体1~2回ほどやり直せば難なく攻略可能。仮にミスしてもイベント直前から瞬時に再開できるため、やり直しによるストレスも皆無で、気軽に楽しめるバランスになっている。

イベント周りが多彩と聞いて、手ごわそうな印象を抱くかもしれないが、その実は驚くほど軽い気持ちで挑める設計。ストーリーを楽しみたいプレイヤーに配慮しつつ、かと言って空気になり過ぎないようにと、適度な塩梅に調整された仕上がりになっている。横スクロール形式のフィールドが醸し出す、アクションゲームのようでそうでない雰囲気も独特。さながら、”ゆるふわ”アクションゲーム(+若干のRPG)とも言える取っ付きやすさと手触りは、様々な意味で印象に残ること請け合いだ。

また、行動制限をかけるなりにストーリーも相応の見所にして魅力のひとつ。
ハッキリ言って”ゆるい”。怪しい青年と共に奇妙な世界からの脱出を目指す、若干、不穏に感じる設定と内容だが”ゆるい”。緊張感は形だけの存在になってしまっている。
そのような雰囲気を作り出しているのは、主人公のココその人にある。
(だいぶ失礼だが)アホの子なのである。

突如、見覚えのない場所に来ても微動だにしないどころか、一緒にいた怪しい青年を疑いもせず頼りにしたりと、人を疑いもしなければとことん前向き。そのノリに件の青年も戸惑うこと多々で、置かれた状況とは裏腹の明るくゆるい展開が最初から最後まで続くのだ。それもあって、シリアス成分はほぼ無し。肩の力を抜いて見られるストーリーになっている。

もちろん、興味を惹き付ける要素も。そもそもこの世界はなんなのか、白髪の青年こと「エトマ」は何者なのかと言った謎が付きまとう。

フィールドにも街があるのだが、そこには人っ子ひとりおらず、遊園地のアトラクションか何かと思ってしまいそうな中世風の城があるなど、不可解な部分が多数。一連の謎は進めるにつれ、少しずつ明らかになっていくのだが、どれもこれも困惑すると同時に、ココのメンタル強すぎだろ……とツッコミたくなるものになっている。

特に「エトマ」の正体は、意外性のあるものになっているので必見だ。

また、あるタイミングで彼の関係者が数人、ストーリーに参加するのだが、彼らもまた愉快。ココとの掛け合いも楽しく、微笑ましい気持ちになること請け合いだ。

タイトルにある「闘書録」の意味についても最後にきちんと回収される。これが一体、何を意味するのかは例によって本編を最後までプレイして確かめてみていただきたい。少々ネタバレに触れるなら、タイトル画面を再確認して欲しい。

きっと「いや、それ困るんですけど……」となるかもしれない。
(合わせて独特なデザインをしている意味にも納得するはず)

ロック(物理)に生きれば怖いものなし……?

本編のボリュームはエンディングまで大体2~3時間ぐらい。エンディングも分岐はなく、1つだけ。そのため、全部終わればそこまでなのだが、多彩なイベントと愉快なキャラクターたちが織り成すストーリーも相まって、それほど物足りなさは感じさせない。

また、全体の構成にひと捻り加えているのも面白いところ。具体的にはエンディングなのだが、これが結構長め。どう長いかは見てのお楽しみだ。きっと、エトマを始めとするキャラクターたちへの愛着が増すと同時に、彼らの活躍する続編、もしくはサブストーリーを見たくなるかもしれない。(念の為だが、ストーリーそのものはきちんと完結します

このほか、グラフィックもドット絵、背景、立ち絵全てが自作。特に背景は世界観の設定を踏まえると、かなりおぞましかったりするのだが、あまりそこは強調しすぎないよう配慮されたデザインが徹底されているのが絶妙。フィールドも特に無人の街が醸し出す不穏な空気が印象的。ここが終盤、どんな顛末を迎えるのかも色んな意味で見逃せない。

合わせてゲームが進むたび、右側にあるイラストとコメントが増えていくメニュー画面も要チェックだ。いかにもココが書いた(描いた)もの、と納得させる仕上がりに唸ってはニッコリしちゃう……かもしれない。

分岐要素がないため、リプレイ性は低め。また、行動制限がやや多い関係で探索の面白さを期待すると肩透かしを食らうかもしれない。

ただ、それらを補う工夫の数々がどれも秀逸。キャラクターのイラストが象徴する通り、見た目通りの”ゆるさ”と”楽しさ”で事前の期待に応えてくれる内容になっているので、少しでも惹かれたならプレイしてみていただきたい1本だ。気軽に遊べて、ゲーム的な手応えも得られる探索型アドベンチャーをお求めの人にも推せる。アホの子だけど可愛い女子高生と、謎めいた脇役たちが織り成す闘いの軌跡を追いかけてみよう。

そして、ロック(物理)に生きろ。

[基本情報]
タイトル:『ココの闘書録』
作者:一比古氷菓店
クリア時間:2~3時間
対応OS:PC(Windows)
価格:無料

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/23467

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_8926.html


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