アドレナリン大放出な全方位バトルが心を熱くする、”エレベーター”シューティングアクション『Savant – Ascent REMIX』

アクション,インディーゲーム

開発に9年もの歳月を費やし、発売に至ったアクションアドベンチャーゲーム『Owlboy』(紹介記事)。今や日本語に対応し、PC版に限らず、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox Oneの家庭用ゲーム機版も展開されている同作は、ノルウェーのインディーディベロッパー「D-Pad Studio」の記念すべきデビュー作……ではない。

『Owlboy』発売の3年前、2013年12月5日にひとつの短編タイトルを発売していたのである。それこそが真のデビュー作……『Savant – Ascent』だ。

▲オリジナル版『Savant – Ascent』

2023年はそんな『Savant – Ascent』の発売から10年を迎える年だったのだが、それを記念したタイトルが9月15日にSteamにて発売された。

それが今回取り上げる『Savant – Ascent REMIX』である。

ノルウェーのミュージシャンとのコラボ作品『Savant – Ascent』

『Savant – Ascent REMIX』の前に、オリジナル版『Savant – Ascent』のことを紹介しておこう。

『Savant – Ascent』は前述した通り、2013年12月5日、Steamで発売されたPC(Windows、Mac、Linux)向けタイトルだ。本作はD-Pad Studioと同じくノルウェーにて活動中のダンスエレクトロミュージシャン「Savant」とのコラボレーション作品で、その世界観をゲーム化したものとなっている。基本的にD-Pad Studioがグラフィックとシステムなど全般を担当、音楽はSavantが全曲を手がけている。

▲オリジナル版『Savant – Ascent』

ジャンルはエレベーター状のステージをクリアしていく全方位シューティングアクションゲーム。プレイヤーは錬金術師の主人公に扮し、四方八方から現れる敵をショット攻撃で撃退しながら、塔の最上階を目指す。(Xboxコントローラ使用時)操作は右スティックで射撃、左スティックの左右で立ち位置(プラットフォーム)変更、Xボタンでアイテム回収、左スティック上でジャンプ、RTボタンで強力な「バーストアタック」。基本的に2本のコントロールスティックと最小限のボタンを用いる、ツインスティックシュータースタイルになっている。

また、プレイヤーは立ち位置として決められた2ヵ所以外へは移動不可。ショット攻撃を展開している最中もまた然りで、敵の攻撃や動きを見計らって立ち位置を変え、時にジャンプで攻撃を回避しながら立ち回っていく形となる。

仮に敵の攻撃を受けてしまうとダメージになってライフ(ハート)が減る。最終的に全部、ハートを失ってしまうとゲームオーバーだ。

さらに本作には永続型のアップグレードシステムを搭載。一部の敵を倒すと「CDの破片」を落とすのだが、これを回収して4つ集めるとCDが完成。敵の出現予測が可能になったり、ショット攻撃の一撃目が5連ミサイルに変化、2段ジャンプが可能になるなど、便利機能やアクションが解禁されて、より多彩な立ち回りが可能になっていくのだ。

▲オリジナル版『Savant – Ascent』

もちろん、CDゆえにゲーム中の音楽変更もできるようになり、それまでとは違った楽曲をバックにした戦いも楽しめる。こういった探索型アクションゲームやアクションアドベンチャーゲームを思わせるシステムが備わっており、同じステージでも繰り返し遊べるユニークな作りになっている。

他にゲームモードはステージ攻略に挑む「ストーリーモード」、全ステージを何分でクリアできるかを競う「タイムアタックモード」、そして何分生き残れるかに挑む「エンドレスモード」の3種類を収録。すべてのCDを完成させると解禁となる”おまけ要素”もある。

▲オリジナル版『Savant – Ascent』

2024年現在も税込235円という低価格で販売されており、ボリューム的にも「ストーリーモード」を終えるだけなら数十分程度と短め。だが、全要素をコンプリートするとなると4~5時間は要するという、意外な手ごたえを秘めた作品に仕上げられている。相応に中毒性も高く、とりわけ「エンドレスモード」で己の限界を極めようとすれば、ズルズル時間を吸い取られてしまうほどだ。難易度は高めだが、相応にシューティングゲーム、アクションゲーム好きをハマらせる魅力があり、興味があればプレイいただきたい小粒な良作だ。

なお、2013年の発売当初は日本語未対応だったのだが、2017年の『Owlboy』日本語対応アップデートと合わせる形で、本作にも同様のアップデートが実施された。ローカライズは『Owlboy』と同じく架け橋ゲームズ。翻訳も『Owlboy』に引き続き小川公貴氏が担当している。(参考リンク

10周年記念のパワーアップが光る『Savant – Ascent REMIX』

そんなオリジナル版から10年を経て発売されたのが、『Savant – Ascent REMIX』だ。ちなみにオリジナル版『Savant – Ascent』を9月15日以前に購入済みのプレイヤーには無料で配布された。9月15日以降に購入したプレイヤーは対象外である。あしからず。

基本的なゲームの内容はオリジナル版と変わらない。
ただ、収録ゲームモードとシステム周り、ボリューム面に大きな変更がある。

ゲームモードは「ストーリー」と「サバイバル」の2種類になった。オリジナル版にあった「タイムアタックモード」、「エンドレスモード」は削られている。

システム周りでは「ストーリー」限定で、「イージー」「ノーマル」「ハードコア」の難易度選択が可能に。並行してステージ内にも中間地点に当たる「チェックポイント」が設けられ、ゲームオーバーになってもそこから再開できるようになった。

ゲームオーバーに関係するところでは、主人公のライフ最大値も3から5に拡張。「バーストアタック」も使用時に消費するゲージの最大値は5から3に減少したが、ゲージの数だけ撃てる仕組みに変更されている。(※オリジナル版ではゲージの量に応じて威力が変わるという仕様で、最大値の5まで溜めても撃てるのは1発だけだった)

そして、CDの破片を集めてプレイヤーの能力を拡張させていくアップグレードシステムは廃止。このため、オリジナル版ではCDを完成させなければ使えなかったアクションの一部が最初から解禁されている。

そのアクションにも新規のもので「連続ジャンプ」と「ジャンプキャンセル」が追加。より高くジャンプできるようになったほか、その途中で軌道を調整するといった複雑な立ち回りが可能になっている。細かいところだが、ジャンプ自体も左スティックのみならず、Aボタンでもできるようになった。このため、使い勝手もオリジナル版よりも向上している。

残るボリューム面に関しては、「ストーリー」に新ステージが複数追加。合わせて雑魚敵、ボスにも新たな個体が追加されたほか、特定ステージ限定の仕掛けも登場するなりして、全体的な密度と起伏が増している。さらにオリジナル版では厳しい条件を達成しなければ挑戦できなかった隠しステージが正規のステージとして収録。オリジナル版で挑めずに終わったプレイヤーにも嬉しい仕様になっている。

このほか、もうひとつの「サバイバル」も周囲から現れる雑魚敵を倒しつつ、30秒経過後に発生するボス戦を始めとするイベントを乗り越え、生き残れるかに挑む独自の内容に設計されている。仕組みとしてはオリジナル版の「エンドレスモード」に近いが、30秒ごとにイベントが発生するという、いわゆる”ウェーブ形式”を採用しているのが大きな違いとなっている。(また、ウェーブの数にも限りがあるので、延々続くわけではない)

また「サバイバル」は「デイリーラン」「ウィークリーラン」の2種類があり、日替わりあるいは週替わりで発生するイベントが変化する仕掛けが凝らされている。「ランダマイズド」なる、毎回違ったイベントが発生する選択肢もある。さらに「ストーリー」も含め、オンラインリーダーボードにも対応。世界中のプレイヤーとスコアを競い合う遊びも楽しめる設計だ。

よりスピーディに、よりカッコよく遊べるように

前述の通り、ゲームとしてはオリジナル版とは若干、異なる作りの内容に進歩している。
同時にゲームプレイ全般も大きく進化している。

とりわけ大きな進化にして、本作『Savant – Ascent REMIX』の大きな魅力と言えるのが”派手になった”ことだ。

具体的にはグラフィック、音楽、演出周りに”躍動的なアレンジ”が施され、プレイ中の爽快感と没入感が高められている。

グラフィックは見た目、オリジナル版から変わりないように見えるが、実は細かいところで動きが増えていたり、エフェクトを仰々しくするアレンジが凝らされている。演出周りも強敵が出現した際には一時的にスローモーションになったり、その強敵を倒した際にはヒットストップが挟まるなど、グラフィック面のアレンジを映えさせるための改良を実施。また、オリジナル版では一枚絵(スチル)で描かれていたイベントも、キャラクターがアニメーションする作りに一新されて大きく進化している。

そして、これらのアレンジを大きく引き立てているのが音楽だ。

オリジナル版もミュージシャン作曲ならではのゲームプレイの盛り上げと単体の楽曲としての完成度を両立させた仕上がりが異彩を放っていた。本作は前者の特徴をより押し上げる方向で収録楽曲をすべて一新。派手さの増した作りにマッチした、テンション高めな楽曲を中心としたラインナップになっている。

このおかげもあって、どのステージの戦闘もアドレナリン大放出なレベルで盛り上がる。特に象徴的なのは、オリジナル版にもあった最序盤のステージ「エレベーター」。オリジナルのプレイ経験があれば、そのやたらテンションの高い楽曲にはビックリすると同時に、心がどんどん沸騰していく驚きの体験を得られるだろう。

他のステージの楽曲もやたらとテンションが高く、中でも新ステージのひとつ「工場」はその導入も含め、「盛り上げすぎだろう!」とツッコミたくなってしまうこと請け合いだ。ピックアップした2曲以外にも、本作にはやたらと心を熱くする楽曲が揃っている。その楽曲と共に紡がれるゲームプレイたるや、まさにダンサーのように踊るがごとし!実際に作曲を本職のミュージシャンが手がけているだけのことはある仕上がりとも言える。

一体、どんな楽曲があるのか気になってしまったのなら、もはや言うまでもない。迷わず製品版に突撃を。期待以上の体験が得られるはずだ。その流れでサウンドトラックも買ってしまおう。Savant – Ascent REMIX Bundle」というゲーム本体とサウンドトラックをセットにした25%割引のバンドルパッケージもあるぞ。

派手さの増したゲームプレイに限らず、ステージ数とボスの追加によって密度が濃くなった「ストーリー」モードの作りも素晴らしい。

基本、2つのプラットフォームを行き来しつつ、四方八方から現れる敵を迎え撃つことに終始するのだが、敵それぞれの個性が明確で、固有の対処法が求められてくるのもあって、単調さをまったく感じさせない。ボスにもユニークなアイディアが凝らされていて、その中でも「レーザーシャーク」は登場時の演出と戦闘曲、「トドメを指したと思ったら……?」の展開の数々で、嫌というほど印象に残ってしまうだろう。オリジナル版にも登場した存在である”ラスボス”も色んな意味で脳裏に焼き付き……もとい。斬り付けられるはずだ。

「サバイバル」もオリジナル版の「エンドレスモード」を発展させた作りに加え、極めようとすれば延々とやり込んでしまう魅力がある。このモード専用の音楽もあり、そのひとつ「Castlerock」はあらゆる意味で火傷必至の楽曲になっているので要チェックだ。

実はまだ完成途上?だが、現段階でも十分遊び込める良作

ここまでの通り、本作『Savant – Ascent REMIX』はオリジナル版の『Savant – Ascent』を順当に進化させたパワーアップ版になっている。しかしながら、ひとつ注意事項がある。それは本作が完成途上ということである。

実は「ストーリー」「サバイバル」共にプレイスタイルを選択する機能があるのだが、本稿執筆時点では「REMIX」以外のスタイルがロック状態になっている。そのひとつにはオリジナル版のゲームシステムを再現した「CLASSIC」なるものもあるのだが、D-Pad Studioいわく開発中。さらに『Owlboy』とコラボレーションした独自スタイルもあるのだが、こちらもまた開発中。そのため、これからプレイするに当たっては、今(2024年1月末)の時点ではオリジナル版の仕様で遊ぶことはできないことを念頭に入れておくことをお薦めする。もし、完全な形になってから遊びたいなら待つのも選択肢だが、いつ実装されるかは不明である点に留意いただきたい。

ちなみに本作は今後、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox Oneの家庭用ゲーム機版も発売予定となっている。おそらくは未実装のコンテンツが収録された形での発売になると思われるのだが、これも例によって発売日は未定。待つことになるのは同じなので、すぐにでも遊びたい場合はPC版に行くのが最良の選択肢だ。
念のためだが、本編自体はエンディングも実装されているので、ちゃんと最後まで遊べる。途中までしか遊べない、なんてことは全くない。そこは安心していただきたい。

他に気になる点では、本作もオリジナル版同様、日本語に対応している。しかし、オリジナル版の翻訳を担当された小川氏、ローカライズの架け橋ゲームズは関わっておらず、その影響なのか、全体的に質が低下している。

特に未翻訳のテキストが多々見られることがそれを象徴している。幸いテキスト量は少なく、オリジナル版のアップグレード解説文もシステムが削られた関係で省かれているため、プレイにおける支障はない。とは言え、未翻訳の部分があるのはさすがに雑と言わざるを得ず、最低限、訳してほしかったところだ。今後のアップデートで直されることに期待したい。(究極的には架け橋ゲームズの監修が入って欲しいところだが……)

それ以外でも新規の仕掛けとして追加された「暗闇」は、面白さより嫌らしさが勝っているという難点がある。そして前述したが、音楽に関してはオリジナル版の楽曲がない。なので、そちらが好きだった人には賛否が分かれるだろう。

色々、完成途上だったり、手が行き届いていない部分もあるのだが、根幹たるシューティングアクションゲームとしての面白さは盤石。パワーアップ版ならではの進化と、思わず心が熱くなってしまう戦いが楽しめる良作に仕上がっている。

主にアクションゲーム、シューティングゲーム好きにイチオシの一本。ひたすらに頂上を目指し続ける、白熱必至の戦いに身を投じてみよう。

[基本情報]
タイトル:『Savant – Ascent REMIX』
開発:D-Pad Studio
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):1,200円、1,800円(『SAVANT – ASCENT REMIX BUNDLE』)

◇購入はこちら
・Steam(通常版『SAVANT – ASCENT REMIX』)

・Steam(サウンドトラック同梱版『SAVANT – ASCENT REMIX BUNDLE』)
https://store.steampowered.com/bundle/34236/Savant__Ascent_REMIX_Bundle/

・Steam(オリジナル版『Savant – Ascent』)

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