押し寄せる”大正ゾンビ”!独特要素が光る俯瞰視点ACT『大正ゾンビろまん ~地獄のプロレタリアン式バックブリーカー~』

1912年から1926年の僅か15年で幕を引いた時代「大正」。
近代都市の発達、経済の拡大に伴って大衆文化が花開き、後に「大正モダン」と呼ばれる時代を迎え、社会全体の洋風化が進むに至ったとされる。

洋風化……すなわち、海の向こうで生まれた”あれやこれや”が日本国内に浸透したことを意味する。それすなわち、生ける屍こと「ゾンビ」、またの名で「リビングデッド」もそのひとつとして、歴史の裏で日本人の血肉を求めてうごめいていたのである!

……という、”そんなこたぁないでしょう”な歴史を舞台にした作品が今回紹介する『大正ゾンビろまん ~地獄のプロレタリアン式バックブリーカー~』である。

2020年5月11日、同人誌・同人ゲームなどを販売するDLsiteにてリリース。以前、もぐらゲームスでも紹介したアクションパズル『HASANDE PON! -はさんでポン!-』(紹介記事)の作者mdk氏(mdkGAMES)の新作でもある。キャラクターイラストも同作に引き続き、漫画家兼イラストレーターの七条メルル氏が担当。シナリオはるりこうじ氏が執筆している。

カギを集め、ゾンビを避け、目指すは出口!

時は大正時代、人里離れた山奥に建つ洋館。とある名家の御曹司(坊ちゃま)は、使用人と女中たちと共に優雅な暮らしを送っていた。

だがある日、謎の黒い霧が屋敷を覆い、使用人と女中たちが生ける屍(ゾンビ)と化してしまった。

難を逃れた坊ちゃまは、執事・六天の助言を受けながら、黒い霧を治めるカギがあるとされる屋敷最深部を目指す。果たして、坊ちゃまは無事、奥へと辿り着けるのか。そもそも、黒い霧が発生した原因とは……?

こんなオープニングと共に始まる本作の内容は、見下ろし視点(俯瞰視点)のステージクリア型アクションゲーム。主人公の坊ちゃまを動かし、生ける屍の襲撃を回避しながら「カギ」を集め、出口への到達を目指す。いわゆる「ドットイート」と呼ばれるスタイルのゲームだ。

システム・プレイスタイルも攻撃手段を持たない主人公、敵との接触を避けながら進める点など、ドットイートの王道に則ったものになっている。
ただ、独自の試みも。それが「霊石」と「霊力」の2つ。

「霊石」は坊ちゃまに不思議な能力を授ける石。赤、青、黄色の3色があり、それぞれ拾うことで色に応じた能力を使えるようになる。赤は「壁抜け」、青は敵(主にゾンビ)の追撃を防ぐ「石」の設置、黄色はステージ全体図の見渡しと、いずれもステージ攻略に大きな影響を及ぼすものばかり。どれを手にしたかで難易度も一変するなど、ゲームプレイに大きな変化を及ぼす特徴的な要素になっている。

ちなみに「霊石」はステージの攻略を始めた時点から、3色いずれかの1つを持った状態になる。攻略に挑む直前、どの石を持った上で始めるかを選択するのだ。なので、もし他の色にしたい時はステージ内の石を拾って切り替える形となる。また、色は序盤から3種類全てが選択可能。プレイヤー好みの石を選んで始められる設計だ。

そして、この「霊石」の能力を使う際に消費するのが「霊力」。最大値は100で、空(0)になると能力が使えなくなってしまう。さらに霊力は坊ちゃまを守る「バリア」の役割も兼任。なので、空の時に敵に接触したりすれば大体ご想像通りの結果に。それもあって、過度に使いすぎないように心掛けることが求められる。

さらにもうひとつ、「霊力」を消費するアクションとして「走る(ダッシュ体当たり)」がある。(Xbox 360コントローラーの場合)Aボタンを押すと坊ちゃまが霊力をチャージ。離すと全速力で駆け出すのだ。この状態で敵に接触すれば、相手はマヒ状態になって一定時間停止。主に四方を囲まれた際の緊急脱出策として重宝するアクションになっている。

だが、ダッシュ中には霊力が消費されるため、長く使い続けると霊石の能力が使いにくくなる上、坊ちゃまを守るバリアも危険域に。また、この状態で壁に激突してしまうと坊ちゃまが一定時間気絶して動けなくなる。そのため、使い所によっては返ってピンチを招きかねない。まさに便利ゆえのリスクが伴う設定。

また、本作は坊ちゃまにズームイン(クローズアップ)した状態で各ステージが展開。

具体的にはステージ開始時、全体図がズームアウト(ロングショット)して表示。しばらくすると、坊ちゃま周辺に視点が寄って行き、現在地周辺しか見られなくなるのだ。見られるようにするにはステージ内に置かれた「霊石」を取るか、もしくは先の通り、黄色の霊石の見渡能力を使うしかない。こんな風に瞬間的な記憶力が試されるのも特徴のひとつ。

このようにシステム、プレイスタイルこそドットイートの王道を則りつつ、独自の制約とアクションで独自のスリルと遊び応えを表現したゲームに完成されている。

独自要素が演出する”ぐぬぬ”なゲームバランス

本作の魅力は「霊石」と「霊力」、2つの要素が演出する独特なジレンマ。

便利なアクションが複数ありながら、どれも「霊力」という名の制約があり、それ自体が坊ちゃまを守る「バリア」を兼任しているので、下手な乱用が許されない。だが、使わねばゾンビに食い殺される。脱出のためのカギ集めもままならない。「霊力」を回復させるアイテムも複数設置されているとは言え、きちんと道筋を立てねば余計な消耗を招く。

こんな制約下で最善を尽くすことが常に試されるので、油断も隙もない展開の連続。良くも悪くもプレイヤーを悩ませ苦しませ、無事打開した時に圧倒的な達成感を提供する、(いい意味で)憎たらしいゲームバランス調整が徹底されているのだ。

噛み砕いて表現すれば、”簡単なのに手ごわい”。やることはカギを集めるだけなのに、思い通りにいかぬ絶妙、かつ高度な遊び心地が表現されている。

ズームイン・ズームアウト演出の活用法も面白い。全体像をしばらく見せた後、坊ちゃま周辺に焦点を移し、以降はその限られた視界の中でカギを集めていく過程には、プレイヤー側の焦りと恐怖を煽り立てる(いい意味での)嫌らしさに満ちている。

視界が狭いなりの怖さも秀逸。スクリーンショットの通り、敵のゾンビたちは可愛らしいデザインで、見た目はおぞましさもなにもない。だが、思いもしない方向から現れたり、袋小路に追い詰められた時の絶望感は一般的(?)なゾンビと大差なし。

何より、視界の狭さがゾンビらしさを際立たせている。ゾンビと言えば、その不気味な外見もさることながら、やはり死体かと思って近づいてみたら突如起き上がり、噛みついてくると言った不意打ちが一種の代名詞だろう。

本作はそれを視界の狭さを用いて表現。さらにドットイート特有の攻撃手段を持たないプレイヤーの設定も活用して、怖い存在として確立させているのだ。
そんな風に見えないどころか、むしろ可愛いのに……と思うかもしれないが、ゾンビはゾンビだ。その本性は人間の血肉を求めてうごめく生ける屍そのもの。紛うことなき脅威なのだ。ある意味、ゾンビの本質を追求したとも言える仕上がり。可愛いとお思いながら、ぜひゲーム本編をプレイして直接お会いいただきたい。「ゾンビだ……」となるだろう。

このほか、ステージの作りも秀逸。徹頭徹尾「カギを集めて出口に到達する」のクリア条件で固定されているが、新たな敵、仕掛けが進める度に登場するのもあって、単純さとは裏腹に起伏のある内容にまとめられている。

本編もフロアごとに用意された5つのステージを順に攻略しながら展開するのだが、その5つ目がボス戦的なステージと位置付けられているのもユニーク。しかも、ここもクリア条件はカギを集めての出口到達である。ボス戦でカギ集めって、となる奇妙さだが、これがなかなかアイディアを凝らした構成になっている。ぜひ、実際に見て体験いただきたい。きっと「そういうのもあるのか……」と呟いてしまうだろう。

作者の前作『HASANDE PON! -はさんでポン!-』もユニークなアイディアと工夫がキラリと光るゲームだったが、本作でもその魅力は健在であり、大きなパワーアップを遂げた仕上がりになっている。中でも「霊石」と「霊力」は、ありそうでなかった面白さとスリルがあるので、ドットイート系のゲームに慣れ親しんだ方こそ体験してみていただきたいところだ。

お姉さんと坊ちゃまが織り成す物語も必見の意欲作

ただ、惜しい所も。全体のボリュームは5フロア25ステージと申し分ないのだが、1ステージ辺りに要する時間が短いため、意外に早く終わってしまう。

さらにクリアタイム、スコアの概念がなく、エンディングを迎えたらそれで完全終了。やり込み周りは希薄である。システム、プレイスタイルとの相性を踏まえて除外したのかもしれないが、タイムの概念はあっても良かったのでは?霊力、ズームイン・ズームアウトで記憶力が試される部分は、タイムアタックとの相性もよいと考えられるだけに、可能であれば実装してくれればと感じてしまった。ちょっと勿体ない。(全25ステージのノーミス攻略を目指す「アーケードモード」のようなものもあるとよかったかもしれない)

難易度も終盤がやや難あり。多少ネタバレすると、ズームアウト時の視界が狭い(暗い)中、進めていくのだが、敵の不意打ちを喰らいやすくなるなどの弊害が出てしまっている。この特徴の所為で霊石も全体像を見渡せる黄色が優遇され気味。赤と青でも戦えなくはないが、他の所はどの色でも概ね攻略可能なだけに、最後の最後で限定化させるようにしてしまっているのは残念に感じた。一時的に視界が明るくなる仕掛けでもあれば、多少は緩和されたように思うのだが……。同様に終盤、シューティングゲームの慣れ具合で難易度が上下する場面があったのも気になった次第だ。

その他は文句の付けどころがなく、独自の遊び応えを持ったドットイートゲームに完成されている。ストーリーも状況設定とは裏腹に愉快。坊ちゃまと六天、幼い少年とお姉さん同士の突っ込み所満載の駆け引きで楽しませてくれる。その種の組み合わせに惹かれる御方たちにも大変申し分のない”成分”を摂取(?)できるはずである。

最近、ドットイート系のゲームがご無沙汰な方から、キャラクターの組み合わせに惹かれる方までおすすめできる1本。ありそうでなかったゾンビ蔓延る大正時代で可愛い御曹司となり、生き延びよう。

[基本情報]
タイトル:『大正ゾンビろまん ~地獄のプロレタリアン式バックブリーカー~』
作者:mdk(mdkgames)
クリア時間:2~3時間
対応OS:PC(Windows)
価格:¥990

※購入はこちら
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ268634.html


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