”いい所取り”を極めた、王道横スクロールアクション『Kaze and the Wild Masks』

アクション,インディーゲーム

今もなお根強い人気を誇る横スクロールタイプのアクションゲーム。その人気に火を付け、爆発させたのは1985年、ファミリーコンピュータで発売された『スーパーマリオブラザーズ』だった。
以降、同系統の新作アクションゲームが発売され、特に1980年代終わりから1995年頃に発売された関連作の数々は2021年現在もなお、インディーゲーム界隈で誕生する同ジャンル作品に圧倒的な影響を及ぼし続けている。

そして、ここにもまた、その時代に生まれたアクションゲームの影響を受けた作品がひとつ。その名も『Kaze and the Wild Masks』。ブラジルのインディーゲームスタジオ「PixelHive」開発の横スクロールアクションゲームだ。

2021年3月26日にPC(Steam)、Google Stadiaのほか、PlayStation 4、Xbox One、Nintendo Switch向けに発売。日本ではPC(Steam)、Xbox One版が同日より各ストアで販売中となっている。(※後者はXbox Series X|Sでもプレイ可)

90年代誕生の名作に強く影響された、伝統的横スクロールアクション

様々な動物たちが暮らす天空の地「クリスタルアイランド」。ある日、ウサギの「ケイズ(Kaze)」と「ホーゴ(Hogo)」の2匹は、この地深くにある遺跡へと足を踏み入れ、不思議な腕輪を発見する。

だが、そこから放たれた電撃によってケイズは気絶。ホーゴは腕輪の呪いで肉体を失い、精神体へと姿を変えられてしまう。さらに邪悪な呪術師が蘇り、クリスタルアイランド全土に呪いがかけられる。呪いの影響で、各地では畑で育てられていた野菜が一斉に意志を持って凶暴化。住民たちを襲い始め、大混乱を引き起こしてしまう。

精神体になったホーゴの助力もあり、無事遺跡から逃れたケイズは、凶暴化した野菜たちを鎮め、復活した呪術師を倒してクリスタルアイランドとホーゴを救うため、過酷な冒険へと出る。大まかなストーリーはこんな具合である。

ゲーム本編はワールドごとに用意されたレベル(コース)を順番に攻略しながら進めていく、伝統的なステージクリア方式で進行。レベルごとの攻略条件もゴールへ辿り着くだけと、見事なまでに伝統的。ワールド全体の攻略条件も終盤に登場するボス戦のレベルを攻略すればよいという、いかにもなものになっている。

主人公ケイズのアクションも、ジャンルの代名詞にちなんだ伝統的なものが中心。移動、ジャンプ、敵などを踏みつけるなど、これぞアクションゲームなものが主軸になっている。

また、地上にいる時に(※Xbox 360、Xbox Oneコントローラ使用時)Xボタンを押すと、向いている方向に「ローリングアタック」を繰り出す。さらにジャンプ後、Xボタンを押しっぱなしにすれば、耳をプロペラのように回転させ、落下速度を落として滑空する「ホバリング」が可能。他にXボタン押しっぱなしで地上に置かれた「ポッド(壺)」に触れると耳でそれを持ち上げ、離すと向いている側に投げ飛ばすアクションも可能になっている。

なんだかポニーテールを自在に操るメスのゴリラが脳裏を過ぎる性能だが、実際ほぼ一緒である。そのため、件のゴリラを知る人なら、強烈な既視感を抱くキャラクターになっている。
これにちなんでか、システム面にも彼のキャラクター出演作を連想させる要素が多い。各レベルの進行ルート上から外れた場所に隠された「ボーナスステージ」、道中に設置された4枚の「KAZEパネル」がそれだ。

そして、タイトルに冠している「マスク」。ワシ、ライオン、サメ、ドラゴンの4種類のマスクがあり、一部のレベルに置かれた祭壇を通過すると強制的に装着。それぞれのマスクにちなんだ特殊アクションが可能になる。これもまた、例のゴリラのキャラクターの出演作にちなんだものが多く、特に空を飛べるようになるワシ、水中を自在に泳げて敵への突進攻撃も可能になるサメには、アクション同様のデジャヴを感じてしまうはずだ。

ただ、マスク獲得が強制(無視できない)、ライオンとドラゴンの2種類は件の出演作にはないアクションが可能になるなど、差異もある。
同じことはシステム面にも。近年の横スクロールアクションを意識してか、残機の概念がない。そして、ケイズに同行するホーゴはバリアの役割で、彼に交代して直接操作することができないのも差異のひとつだ。(この関係で2人協力プレイもない)

本作を簡潔に言うなら、まさに今風の90年代横スクロールアクション。それもメスのゴリラが出演している作品を基に、様々な「いいもの」を取りに取ってまとめた、制作陣の好みと敬意が炸裂した内容に仕上げられている。

”いい所取り”なりに”いいもの”を目指す作り込みが光る

本作の魅力は、その極みに極めた「いい所取り」だ。90年代に誕生した横スクロールアクションの影響を受けているだけに、本当に色んな名作から象徴的な要素の数々が引用され、本作の世界観に合わせてアレンジされている。

これだけなら、インディーゲームではありがちのオマージュ作なのは否定できない。実際、そんな内容だ。ひとつのアクションゲームとしてみると、本作ならではの独自性には欠ける。そのため、元を知る人ならばプレイ中、「これならオリジナルを遊んだ方がいいような……」と思ってしまうかもしれない。

ただ、本作はその「いい所取り」を愚直に敢行しているのが面白い所だ。特に主人公ケイズの性能は、紛うことなき「いい所取り」。アクションゲームにおいて理想的な性能を持ち合わせており、動かしていて全くストレスを感じさせない。こちらの望み通り動き回ってくれる、素敵なプレイヤーキャラクターに仕上がっているのだ。

そもそも、件のメスのゴリラが元の時点で「いい所取り」の極みである。彼のキャラクターは出演作において、頭ひとつ抜けた使いやすさを誇っていた。他にもプレイヤーキャラクターは複数いて、個性的な性能を持っていたのになぜ、本作はそちらに白羽の矢を立てなかったのか?それは並外れて「いいもの」だったからだろう。実際、どのような経緯で元にするに至ったかは開発チームのみぞ知る範疇だが、抜群に使いやすいキャラクターを選出するあたり、その意志の強さが察せる。

単にそのままなぞるだけで終わらせていないのも見事。元の出演作では、「ローリングアタック」発動ボタンとの同時押しだった走るアクションを方向キー(およびコントロールスティック)単体で出来るようにしていたり、速度も遅すぎず早すぎずの適度な塩梅にするなど、動かしやすいキャラクターにする細かな調整が施されている。さらに「急降下アタック(方向キー下+ジャンプボタン)」も用意し、着地の位置ズレをフォローする手段も用意。「マスク」のアクションも強制装着のため、それぞれ固有のアクションだけに集中することになるので、他の操作を意識することによる困惑も防止している。

普通にプレイしているとほぼ気付かないが、改めて掘り下げてみると細かい面で元以上に「いいもの」にするこだわりが炸裂していて、それが動かす際のストレス軽減にも繋がっている。取り分け新鮮味もなければ地味な箇所ではあるが、確固たる信念を持ってやっていることが見える仕上がりになっているのだ。

ケイズだけに留まらない。レベルごとの構成もアクションゲームらしい山あり谷ありな展開、元ネタの作品で印象的だった部分をピックアップし、プレイヤーに挑戦を促す(時に知る人をニヤリとさせる)ものに完成されていて攻略し甲斐十分。

そして、こちらでも「いいもの」にする姿勢は徹底されている。一例として、本作ではワシのマスクで可能になる飛行アクションを駆使し、茨だらけの”とげとげ”な地形を進んでいく場面があるのだが、その最中に待ち受けている敵による不意打ちを無くす意図で、ある地点でカメラ(視点)を引かせ、敵が待ち受けているか否かを自然に教えてくれる。カメラが引いていない場面でも、その途上に”伏線”を張って予測しやすくするなど、プレイヤーに察しやすくする配慮を凝らしている。こういう細かいこだわりもあって、仮にミスしたとしても納得できるものにしているのが素晴らしい。

さすがに終盤になるとこの辺の配慮は薄まり、プレイヤーに牙を向くようにもなるが、流れとしては自然で、違和感を抱かせなくしているのが見事だ。まさに「いいもの」にする姿勢による賜物。作り込んでいることを実感させられる出来具合である。

新鮮味の無さは否定しきれず、本作独自の体験を求めると期待外れに終わる内容なのは事実ではある。しかしながら、そのようにしたなりに本作は「いい所取り」を極め、それが節々で安定した面白さと遊び応えを表現している。その細かいこだわりによって実現されたバランスの良さは、まさに90年代の名作アクションゲーム。

少々誇張気味に語った点はあるが、本当にとてもよいオマージュ作品になっている。主にアクションゲーム好きならば、この清く正しく伝統的(もしくは王道)なアクションゲームを貫き通し、徹底して「いいもの」にするこだわりの数々に、開発チームの並々ならぬ同ジャンルへの愛を感じさせられるはずだ。

王道ならではの安心感。素直に気負わず楽しめる良作アクション

とは言え、気になる所も。ひとつにボリュームだが、ワールドとレベルの総数は少なめ。全4ワールド30+αレベルである。近年の80~120を裕に超える同ジャンルの作品を経験している人なら、物足りなく感じるかもしれない。

ただ、相応にレベルひとつは程よく長めの構成。ボーナスステージの発見、「KAZEパネル」の全回収などの収集・やり込み要素も豊富で、フォローはきちんと成されている。さらに実は本作、エンディング分岐の要素があり、真のエンディングを見るには全レベルを完全攻略しなければならないので、それを目指すとなれば申し分ない充実感とやり応えを得られるはずだ。

他にボスも少ないのだが、いずれも工夫を凝らした戦闘になっていて攻略し甲斐は十分。グラフィックも全編ドット絵で、主に色使いに懐かしさが滲み出ているのも印象的だ。逆に音楽はややインパクトに欠ける。この点はケイズの元になったキャラクターの出演作を知る人なら、「そこも頑張ろうよ!」と言いたくなるかも

傑出した個性と新鮮味はないものの、伝統的なスタイルのアクションゲームとしての完成度は総じて盤石。十分に良作と明言できるものに仕上がっている。

ローグライクに探索型など、インディー界隈の横スクロールアクションのトレンドに食傷気味の方にも癒しを与えてくれる本作。たまには普通のアクションゲームを遊びたいとの思いが強ければぜひ、遊んでみて欲しい。野菜が嫌いで仕方がない人も、本作では彼ら(?)が憎たらしい見た目で大挙して登場するため、日頃の鬱憤を晴らせる……かも。

上記のスローガンに何かを感じたのなら、いざクリスタルアイランドへ!

[基本情報]
タイトル:『Kaze and the Wild Masks』
作者:PixelHive(※販売:SOEDESCO)
クリア時間:5~6時間
対応プラットフォーム:PC(Windows)、Xbox One、Xbox Series X|S、Google Stadia(海外)、PlayStation 4(海外)、Nintendo Switch(海外)
価格(税込):¥2,050(Steam)、¥2,950(Xbox)

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※Steam:PC(Windows)

※Xbox One、Xbox Series X|S
https://www.microsoft.com/ja-jp/p/kaze-and-the-wild-masks/9p7tk3gjvh57

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